ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE 作:虎武士
#9
セピア色の情景に映されるのは、澄み渡る川の流れる音と魔獣達の囀り。
周りには新緑が溢れる木々や草原、美しい花達が荒んだ心を癒してくれるかのようだ。
「こうして此処を訪れるのは何年振りだろう」
青いローブを纏う男は傍らに座る、漆黒のローブを纏う男に問う。
漆黒のローブの男は「さあな……」と興味を示さず、唯々目の前の光景を見つめるだけだった。
「この世は醜い。魔獣達は虐げられ、人間共は自分より上の存在に媚び諂うだけの矮小な存在。己の身可愛さに雲隠れしていき、悪戯に命を軽んじていく。あの女王も同じだ」
蔑むように一人語る漆黒のローブの男、青いローブの男は悲しげな瞳を隣にいる彼に視線を向ける。
「そんな事はない、あの方は聡明で素晴らしい御方だ! きっと君達の事を案じて策を講じておられる、だから──」
「敵国の人間を信じるなど有り得ん」
聞き飽きたとばかりに立ち上がると踵を返し、そのまま立ち去る。
青ローブの男は彼を呼び止めるべく、手を伸ばした。
「待て…! 待ってくれ、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!」
決死の声は届く筈もなく、その後姿を呼び掛けるしか出来なかった。
澄み渡る蒼穹の下、赤いトレーナーキャップを被って少年──サトシは黄色い相棒と共に一番道路を歩いている。
マサラタウンとその隣町…トキワシティを繋ぐ道のり、嘗て自身も新米だった頃通った道筋だ。
「懐かしいなぁピカチュウ」
「ピカピカァ」
あの頃は出会ったばかりで信頼の"し"も微塵もなかった。
サトシはポケモンGETの知識も何にもなく、相性さえも知らずにいた未熟過ぎた子供だった。
一方のピカチュウもサトシの事を信用すらしてなかった、幾ら指示を出しても気紛れな所為か人間など馬鹿馬鹿しいと思っていた。
だがもうあの時の彼等ではない、今では世界の最強とまで謳われる程に成長を遂げた。
「よーし、ピカチュウ。彼処まで競争しようぜ!」
指を示した先には一本の大きな木、ピカチュウもサトシの提案に乗ったのか嬉しげに鳴く。
「負けないぞ〜……よーい、ドン!」
一人と一匹は同時に駆け出す、小柄な故かピカチュウがリードしている。
種族だからか更にスピードを上げるピカチュウ、その背後からサトシが「負けるかぁ!」と対抗してスピードを上げて追いつこうとする。
やがて僅差で並び立ち、目標の木が目前まで迫っている。と言う所で、ピカチュウがまたスピードを上げてジャンプ。
ギザギザの尻尾が銀色の光を帯び、木に突き刺した。
「ピ、ピカチュウ……電光石火は反則だろぉ〜」
「ピッカ!」
別に技を使うなと言うルールは言われてない、と言わんばかりにピカチュウは荒く鼻息を立てる。
「まあいいか、此処で休憩しよう。皆出て来い!」
そう言って四個のモンスターボールを両手に持ち、空高く投げるサトシ。
モンスターボールが開かれ、四体のポケモンが姿を見せた。
ジョウト地方の草ポケモン…チコリータの進化形、ベイリーフ。
イッシュ地方の炎ポケモン…ポカブの進化形、炎・格闘タイプのチャオブー。
ホウエン地方の氷ポケモン…ユキワラシの進化形、オニゴーリ。
そしてシンオウ地方のドラゴン・地面タイプのフカマル。
ベイリーフはサトシに戯れつき、オニゴーリは嬉々とした様子で手当たり次第に冷凍ビームを放つ。
チャオブーは技の特訓をし、マイペースなフカマルはジッとして微動だにしない様子である。
「気持ちいいよな〜ピカチュウ」
チャァァ…とピカチュウはサトシと共に草原に背中を預け、日向ぼっこする。
青い空と優しい微風、そして何よりも戯れるポケモン達を眺めて彼等は一時を過ごす。
思えば一度旅から戻って来てから驚きの連続だった。
ポケモン達の命を平然と傷付けるデザイアの出現、あの男によって見せつけられた力の差。
幼き頃から母やオーキドと親しいジンの登場、そしてポケモン・ワールド・カルナヴァルの開催。
一気に頭が破裂してしまいそうな情報量だが、彼等は新たな一歩が必要だった為かすんなりと受け入れた。
すると何処からかマジックハンドが飛んで来てピカチュウを捕らえる。
「な、何だ!?」
マジックハンドは天へと昇っていく。空を見上げてみると、見慣れたニャースの顔を模した気球が上空を飛んでいた。
「な、何だ!? と聞かれたら」
「答えて上げるが世の情け」
「世界の破壊を防ぐ為!」
「世界の平和を守る為!」
「愛と真実の悪を貫く!」
「ラブリーチャーミーな敵役!」
「ムサシ!」
「コジロウ!」
「銀河を駆けるロケット団の二人には」
「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」
「ニャーんてニャ!」
「ソーナンス!」
いつものお決まりの口上を言い、毎度お馴染みのロケット団の三人組はニヤリと笑って決める。
「しつこいぞ! ピカチュウを返せ!!」
「返せと言われて返す奴が何処にいるのよ!」
「ピカチュウは我々ロケット団の最大の目標、それを手放すわけにいかないんでな」
ドヤ顔でムサシとコジロウが笑みを浮かべる傍ら、ピカチュウは10万ボルトを放ってマジックハンドを破壊しようとする、しかしマジックハンドは故障する様子が見受けられない。
「御覧の通り電気対策も万全なのニャ!」
同じくニャースもドヤ顔で勝ち誇っている、勝利を確信してムサシがモンスターボールを手にする。
「メガヤンマ! ソニックブームをお見舞いしなさい!!」
投げられたモンスターボールから虫・飛行タイプのメガヤンマが現れる、羽を大きく羽ばたかせて風の刃を放つ。
「くっ、ベイリーフ、葉っぱカッターだ!」
ベイリーフは頭部の葉っぱを揺らすと葉っぱを飛ばす、それはそれはソニックブームと相殺していっている。
「チャオブー! フカマルを投げるんだ!」
言われるがままにチャオブーはフカマルを抱き上げる、ハンマー投げの要領で回転し始めて風を巻き起こす。
「行けええええ!!」
途轍もない回転を掛けてフカマルは空を飛ぶ、その目先には──マジックハンドのアーム。
フカマルの牙がアームに届くと同時に、瞬く間にアームは食べ尽くされてピカチュウは落下していく。
『んなっ!?』
「ピ、ピカチュウが〜〜!?」
ニャースの悲漢な叫びが響く中、ピカチュウはハンドの拘束から抜け出してサトシの胸に飛び込む。
「ピカチュウ! 大丈夫か?」
「ピカピカ!」
返事を聞いてサトシは安堵の笑みを浮かべる、憔悴感を覚えたムサシ達は一気に攻勢に出ようとする。
「こうなりゃヤケよ! ジャリボーイを叩きのめしてピカチュウを再GETよ!」
「言われなくても! デスマス、シャドーボールだ!」
仮面を携える影の様な存在、イッシュ地方のゴーストタイプ・デスマスをコジロウは繰り出す。
メガヤンマのソニックブーム、デスマスのシャドーボールが次々に放たれてサトシ達は攻撃の嵐に晒される。
草原や木にも命中していき、茂みにソニックブームが着弾する。その時「グエッ!?」と言う悲鳴が響いた。
「え?」
『え?』
その茂みに視線を向けると一体のポケモンが飛び出す、カントー地方を代表する鳥ポケモン・オニスズメだ。
頭部にタンコブが浮き上がり、怒りの形相を露わにするオニスズメ。
「ま…まさか」
サトシが苦笑いを浮かべる中、オニスズメは大きく嘶いた。
そして次の瞬間、大量のオニスズメが此方に向けて飛んでくるではないか。
『ゲッ!?』
「み、皆逃げろ!!」
既視感を感じながらもポケモン達と共に走り出すサトシ、一方ロケット団の方はあっという間にオニスズメの大群に囲まれる。
「いたたたっ! ちょ、ちょっと! 痛いじゃないの!」
「突くのを止めるニャー!?」
「あ、コラ! 気球はダメだ気球は!」
制止を掛けるがオニスズメ達は嘴で気球に穴を空けてしまい、空気が萎むと共に気球はロケット団ごと空へと飛んでいってしまう。
『やな感じ〜〜!!』
「ソ〜ナンス!!」
飛んでいった彼等を尻目に、気が収まらず今度はサトシ達を追いかけ始める。
「うわああああ! 止めてくれ、オニスズメ!!」
オニスズメ達は容赦なくサトシ達に突いていく、まるで旅立ちの日を思い出させるかの様な執拗な猛攻だ。
ポケモン達にも被害が及んでいっており、特にピカチュウには容赦ないリンチ紛いな猛攻に移っている。
「ピカチュウ!」
ベイリーフ達がオニスズメ達の注意を引き付け、その間にサトシがピカチュウを抱き抱える。
傷だらけの身体を抱き寄せ、サトシは走り出す。
もしもあの時と同じならばと言う予感を覚え、サトシは目の前にある崖から飛び出した。
「うおおおおおお!!」
『!!?』
オニスズメ達は勿論、ベイリーフ達が驚きを見せていると彼等は崖下に落下──その下にある川の中に落ちていった。
逃すまいとオニスズメ達は飛び立ち、ベイリーフ達もそれを追い掛ける様にサトシ達の行方を追うのだった。
「ラプラスにのって〜♪ さっがしにゆっこ〜♪」
その場から少し離れた川沿いにて、一人の少女が釣り糸を垂らしていた。
オレンジ色のボブヘアー、白いラッシュガードを羽織った白い競泳水着、足は女性用のサンダルシューズを履いている。
彼女はある目的の為にマサラタウンに向かっていたのだが、息抜き序でに釣り糸を垂らしている。
新しい水ポケモンとの出会いが待っているのではないか、そんな欲求で上機嫌に鼻歌交じりにじっと待っていた。
すると釣り竿がクイっと揺れ動き、少女は手放さんとしっかりと釣り竿を掴む。
「これはもしかして、新しい水ポケモンが来たのかしら!?」
やけに重い物を持った様な重圧に負けじとリールを巻く、同時にある予感を覚えた。
(あら? 何だか既視感を感じるんだけど…も、もしかして?)
流石にないと思って頭を横に振りながらリールを巻き続け、そして勢い良く釣り竿を大きく振り上げた。
ザバァァッと水面からそれは飛び出し、少女はその正体を見て酷く驚いた。
「うう……」
「ピィカ…」
「サ、サトシ!? ピカチュウ!?」
嘗て旅を共にして来た少年とその相棒が釣り上げてしまい、少女──カスミは思わず叫び、青い空に木霊するのだった。
To be continued
サトシ&ピカチュウ、26年間お疲れ様でした。