ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE 作:虎武士
トキワシティ。
緑の永遠の色を肖った町、マサラタウンを旅立ったトレーナーが必ずしも通る町である。
カントーの観光地を挙げるとすればゴールデンブリッジがあるハナダシティ、大都会と言えるタマムシシティ、シルフカンパニー本社のあるヤマブキシティが挙げられる。
知名度は低いもののトキワシティも負けていない、この町はポケモンリーグに最も近い町とも言われている。
「トキワシティ、久し振りに訪れたな」
「ピカァ」
「取り敢えず夕方に着けて良かったわ、ポケモンセンターで夕食を取りましょう」
「嗚呼。ピカチュウも疲れているみたいだし、他の皆も回復させないとな」
真っ先にポケモンセンターへ到着、自動ドアを通ってロビーへと向かう。
「すいません、ポケモン達の回復をお願いします」
「俺も同じく」
「分かりました」
『………ん!?』
受付の奥から聞こえたのはジョーイではなく男の声、しかもその声に聞き覚えがあった。
その声の主は桃色の巨躯を持つノーマルタイプ、幸せポケモンのハピナスを伴って姿を見せる。
「ジョーイさんは多忙の為、自分が代わり……にっ!?」
『タケシ!?』
「サトシ!? カスミも!?」
色黒の肌を持つ糸目の青年──タケシは予想外の来客に驚き、サトシ達も同様のリアクションを見せる。
それだけならまだ良かった、ポケモンセンターを利用しているトレーナー達は一斉に受付の方へと視線を向けていた。
「え…サトシって、え?」
「嘘、あの世界王者の!?」
誰かがそう言えばザワザワとロビーが騒がしくなり、野次馬だった彼等はサトシの事を認識して大いに目を見開く。
「せ……せ……世界王者のサトシだぁ!」
「本物のサトシ選手だ!」
「握手して!」
「サイン下さーい!」
黄色い声を上げて彼等はサトシを取り囲む、一方の本人は揉みくちゃにされていっている。
その余波でカスミとタケシも巻き込まれ、暫く膠着状態が続いて解放されたのはその30分後だった。
「そうか。ポケモン・ワールド・カルナヴァルに参加しているのか」
ジョーイから休憩を許可され、タケシを含めた三人は空いている机を囲って席に座っている。
こうして集まるのは何時振りかも分からないが、久々の邂逅に笑顔を咲かせる一同。
「タケシは参加しないのか?」
「俺はポケモンドクターだからな、怪我や病気のポケモンのケアやカウンセリングで手一杯で参加出来る余裕なんてないさ」
それもそうか、とサトシもカスミも苦笑いして適材適所だと心中を察する。
「……マサラタウンの事は開幕宣言を観て知ったよ。サトシ……あまり無茶はするなよ?」
「うん…」
心中を察してか複雑な表情でサトシは頷く。いつも言われている事だが、その心配だけで余計に周りに心配事を増やしてしまうのが傷になってしまう。
「と言うかタケシ、此処のポケモンセンターを手伝っていたんだな」
「嗚呼。此処からならニビシティと近いからな、そしてジョーイさんともお話しが出来る…えへへへへ」
下心が見え見えだがドクターである彼がいればジョーイの負担も軽く出来るだろう、浮かれている彼にモンスターボールからグレッグルが出て来て毒突きで黙らせる。
「はぅあっ!? シビレビレェ…!」
気絶した彼をグレッグルが引きずっていき、サトシとカスミ、ピカチュウは苦笑いを浮かべるのだった。
朝。
ポケモンセンターで一泊して、サトシは敷地内にあるバトルコートに来ていた。
「出て来い皆!」
昨夜の内にピカチュウ以外のポケモンをオーキド研究所で交替させ、五体のポケモンがモンスターボールから飛び出した。
カントー地方を代表する鳥ポケモン、ポッポの最終進化形──ピジョット。
シンオウ地方の水ポケモンにして水中戦で抜群のスピードを持つブイゼル。
ジョウト地方でGETしたタマゴが孵り、バトルフロンティアの旅先で進化を遂げた地面タイプのドンファン。
ホウエン地方の炎タイプで涙脆いコータス。
そしてガラル地方のリサーチフェロー中に出会い、騎士道精神を貫く格闘タイプ・ネギガナイト。
「……って、ピジョット!? え、ええ!?」
「あの旅の後、トキワの森で再会したんだ。ポッポやピジョン達が頼もしくなったから、約束通り戻って来たんだ」
目配せするとピジョットは雄々しく翼を広げて嘶く、動揺していたカスミは経緯を聞いて納得した様子で微笑む。
「よーし皆! 特訓開始だ!」
『おう!!』とポケモン達は力強く嘶き、それぞれの特訓を始める。
ピカチュウとブイゼル、ピジョットとネギガナイト、コータスとドンファンとそれぞれが相手取って組み手を始めて交戦攻防を繰り返す。
「いいぞ、いいぞ! その調子!」
「精が出ているわね……ん?」
特訓に夢中になっているサトシ達を尻目に、カスミは空を仰いでみると──ポケモンセンターの真上に見慣れた気球が接近しているのを確認した。
気球の下には掃除機を模した機械が設置されていて、それが作動されると凄まじい吸引力を引き起こす。
その吸引力によって、ポケモンセンター内で預けられたモンスターボールは次々に吸い込まれていく。
「ああっ! モンスターボールが!」
「一体何なんだ!」
ポケモンセンターからタケシとジョーイ、ポケモンセンターを利用するトレーナー達が飛び出す。
「何なんだ、と聞かれたら」
「以下省略ニャー!」
「ロケット団!」
サトシ達も駆け付け、気球に乗り込む彼等を一睨する。
「あらら、初代ジャリガールとジャリボーイ二号までいるじゃない」
「お前達、本当に相変わらずだな!」
「ついでにピカチュウもGETだぜ!」
掃除機の先端が地上に向けられ、その吸引力でピカチュウが空を舞った。
「ピカチュウ!」
「ピカ〜〜!!」
ピカチュウが吸い込まれようとした時、それは起こった。
「──ラルトス! サイケ光線だ!」
サイコパワーを集束された閃光が掃除機を穿ち、先端が爆ぜる。
『え!?』
「い、今のは…!?」
そして新たに、一人の少年がホウエン地方のエスパー・フェアリータイプのラルトスと共に姿を現す。
黒髪に眼鏡をかけており、緑のジャケットに白い長シャツを身に着けている。
「キモリ、種マシンガンだ!」
更にその少年はモンスターボールを投げ、森蜥蜴ポケモンのキモリを繰り出す。
キモリは口から種の弾丸を放ち、掃除機を攻撃して掃除機は落下する。
「ピジョット! 足で掴んでくれ!」
咄嗟にサトシはピジョットに指示する、飛翔したピジョットは足で掃除機を掴みゆっくりと着地させる。
「俺のモンスターボール!」
「僕のも!」
「私のも!」
トレーナー達は一目散に壊れた掃除機から自身のモンスターボールを取り出す、ロケット団は青褪めた表情で冷や汗を流す。
「こ、これは」
「もしかして…?」
「今だよ、サトシ!」
「あ、ああ!」
何故この少年は自分の事を知っているのかと言う疑問が残るが、今はやるべき事を為すのが優先だ。
「ピカチュウ! 10万ボルト!」
「チュウ〜〜!!」
『ギャアアアアッ!?』
強烈な電撃を浴びて気球は爆発、彼等は空の彼方へと飛んでいった。
『早くもやな感じ〜〜!!』
「ソーナンス!!」
空の彼方へと消えた彼等はいつものように星となった。
「本当にありがとう、貴方達のお陰で皆さんのポケモン達も無事に返ってきたわ」
天使のような笑顔でジョーイはサトシ達に一礼する、後ろには先程の少年もいる。
「いえいえ、自分は大した事はしていません。ジョーイさんの美しい笑顔を守る為ならば、例え火の中や水の中から駆け付けます!」
自分の都合の良いように解釈するタケシ。
「そして自分は彼等の旅に同行します…ジョーイさん! 自分は必ず貴女の下へまた帰って──んぐっ!?」
前置きが長い、とばかりに毒突きを放つグレッグル。タケシを引き摺る彼を追ってサトシ達も一礼してポケモンセンターを去っていく。
「結局タケシも旅に付き合ってくれるんだな」
「ははは……無茶をするお前を放っておけないからな」
引き摺られながら言う彼にサトシは苦笑い、少年が後ろからうんうんと頷く。
「サトシは無茶するだもん、少しは僕達を頼って欲しいなぁ」
『………』
暫く沈黙が過ぎり、三人と一匹の視線は少年に向けられる。
「所で助けてもらってなんだけど、貴方誰?」
「え?」
その問いに彼は目を丸くする。
「言われてみれば確かに……サトシだけじゃなく、俺達も知っているみたいだが」
「あははは……やだなぁ。カスミは一緒にいた時間が短かったけどサトシとタケシ、一緒に旅した僕の事忘れちゃったの?」
確かにこの少年とは初めて会った気がしない、何処か既視感がある。
「あ……」
その一言を聞いて、ある人物の顔が思い浮かぶ。
「も……もしかして────お前、マサト!?」
「そうだよサトシ、久し振り!」
「マサト!?」
「ハルカの弟でトウカジムのセンリさんの息子さんの…!?」
思わぬ人物の名が上がってカスミもタケシも驚いてその少年──マサトを凝視する。
「酷いよ皆! 本当に気付いてなかったの!?」
「ごめんごめん、だって全然見違えたから」
マサトの言葉にカスミは謝罪、だがカスミの言いたい事も分かる。
「大きくなったなマサト、もう10歳になったのか」
「あの頃ポケモンを持てなかったマサトが自分のポケモンを持って俺達を助けるなんて、感慨深いなピカチュウ」
ピカチュウもうんうんと頷く。
「それにさっきのラルトスはもしかして…」
「そうだよ。あの風邪を引いたラルトスだよ、あの時の約束の為に迎えに行って僕のポケモンになってくれた。キモリは旅立ちの日にオダマキ博士から貰ったんだ」
ふふんと笑みを浮かべるマサトは更に続ける。
「そして今、このカントーを訪れたんだ。ポケモン・ワールド・カルナヴァルで色んなトレーナーとバトルする為に!」
「マサトも参加していたのか……ん?」
ポケットに入れていたスマホロトムが何やら振動している、何事だと思って取り出すとスマホロトムに何やら音声が流れる。
『ポケモン・ワールド・カルナヴァルのバトル承認を確認、バトル承認を確認』
「え…?」
「ひょっとしてこれが」
「バトル承認の合図って事?」
一同が困惑の表情を見せる。どうしたものかと思考を巡らせていると、黄緑色の物体が飛んできた。
『Ladies & Gentlemen! これよりポケモン・ワールド・カルナヴァルの公式バトルを行うぜぃ!!』
その物体に一同は見覚えがある。ポケモンWCSでレフェリー用に運用されていたドローンロトム、しかもWCS用と違って随分と流暢なロトムがフォルムチェンジしているようだ。
『本日の対戦カードは! カントー地方・マサラタウンのサトシと、ホウエン地方・トウカシティのマサトのポケモンバトルだぁ! 試合形式はシンプルなポケモンバトル! 使用ポケモンは一体のみ、どちらかのポケモンが戦闘不能となったらバトル終了! バトルに勝利したトレーナーにはトークンが贈られるぜぇ!』
五月蝿い奴だな、と誰もがドローンロトムに心の中でイラッとしたが、それはさておき二人は互いに視線を合わせた。
「ねえサトシ…覚えてる? あの時の約束」
「嗚呼……トネリコタウンで別れる時、お前は言ったよな。トレーナーになったらバトルしようって──あれから三年、今がその時だ!」
サトシとマサトは距離を取って好戦的な笑みを浮かべる。
「頼むぞピカチュウ! 君に決めた!!」
「キモリ、君に決めた!」
マサトはモンスターボールからキモリを繰り出す、キモリは身構えて戦闘態勢を取っている。
「ラルトスじゃないのか」
「決めてたんだ。サトシとバトルする時、最初にGETしたポケモンで行こうって」
「そのキモリがそうなんだな」
問い掛けに対してマサトは首を縦に頷く、そしてドローンロトムは互いに様子を見て判定を下す。
『それではバトル、
たった今、試合の幕が上がった。
「キモリ! 種マシンガンだ!」
キモリは走り出すと口から種の弾丸を発射、弾丸はピカチュウへと真っ直ぐ向かっていく。
「ピカチュウ、電光石火で躱せ!」
種の弾丸の嵐をしなやかなスピードで回避するピカチュウ、その合間にギザギザの尻尾が銀色の光を帯びる。
「アイアンテール!」
「キモリ、受け止めて!」
キモリは真剣白刃取りの要領でアイアンテールを防ごうとする、後一歩と言う所でスピードが急加速、アイアンテールが鳩尾に決まりキモリは転がっていく。
「キモリ! ……流石サトシ、一筋縄じゃいかないや」
苦笑いするマサトは楽しげに笑みを溢す、サトシも満更でもない様子で笑みを見せていた。
「この調子だとマサトも
呆れながらもカスミは苦笑い、だけど悪い事ではないと肯定的だ。
「僕…旅が終わってからもサトシのバトルを見ていたよ。お姉ちゃんも出場したミクリカップ、マスターズエイト、色んなサトシのバトルをTVで見ていた。今は届かないけど、いつかサトシに勝ちたい!」
「その意気だぜマサト! 俺も黙って勝ちを譲る気はない、心が熱いバトルって楽しいよな!」
意気揚々と二人のバトルは白熱していく。
「キモリ、叩く攻撃!」
キモリは叩くを繰り出す、だがピカチュウは尻尾を巧みに使って攻撃を受け流す。
「だったら影分身!」
キモリが分身を10体生成し、11体のキモリはピカチュウの周りを走り出す。やがてそれは緑色の包囲網となり、ピカチュウの行手を阻んでいる。
「種マシンガン!」
無数の弾丸が飛び交い、ピカチュウを襲う。
一体だけならやり過ごせたが、11体もいたら防ぎようがない。
所謂ピカチュウ包囲網、と言ったところだろうか。
「やるなマサト! だけど、勝ちは簡単に譲らないって言った筈だぜ!」
「もう遅いよ! キモリ、エナジーボール!!」
更に緑色の球体が放たれる。万事休すと言う状況の最中、サトシは不敵に微笑んだ。
「──此処だ! ピカチュウ! アイアンテールでエナジーボールを全部打ち返せ!」
「え…!?」
再び尻尾に銀色の膜をコーティングさせるピカチュウ、尻尾を大きく振って緑色の球体を次々と打ち返す。
緑色の球体に当たると分身は次々と霧散、そして本物のキモリに命中するとのたうち回る。
「キモリ!」
「今だピカチュウ! アイアンテール!」
銀色の尻尾は光を帯びてピカチュウはジャンプする。キモリは慌ててアイアンテールを受け止めようと白刃取りの構えを取ろうとするが、もう手遅れだ。
「キャモッ!?」
タイミングが間に合わず脳天に命中、軽い脳震盪を起こしてキモリはその場で倒れ伏す。
「キ、キモリ!」
『キモリバトルOFF! 今回のバトルのWinnerは、マサラタウンのサトシ!』
「やったぜ、ピカチュウ!」
「ピカピカ!」
『ルールに基づき、サトシ選手にはトークンが贈られるぜ! さあ、次のバトルを楽しみにしているぜぃ!』
その言葉を最後にドローンロトムは去っていく、嵐の様な奴だった…と全員が心に思った。
「お疲れ様キモリ、良く頑張ったね」
傷ついたキモリを労り、モンスターボールにマサトは戻す。
「やっぱりポケモンバトルは面白いよ!」
悔し涙を流すどころかマサトは歓喜の声を上げる、そしてサトシに向けて握手を求める。
「僕、もっと強くなる。いつか必ずお姉ちゃんやサトシに追いついてみせるから!」
「嗚呼。待ってるぜ」
二人は握手を交わす、カスミもタケシも黙ってその姿を温かく見つめる。
「それじゃあ、また会おうね!」
「嗚呼、またな!」
マサトは振り返ってポケモンセンターへ向かう、ロビーへと入っていくその姿に一同は微笑んだ。
「暫く見ない内に大きくなったな、マサトの奴」
「ええ。自分の弟が成長して、今頃ハルカも安心しているんじゃないかしら?」
「そうだろうな」
ポケモンセンターに背を向けて、一同は歩き出す。
「サトシ、これからどうするの?」
「行き先はお前が決めてくれ」
「嗚呼。先ずはクチバシティへ行こうと思う、サクラギ研究所へ顔を出そうと思うんだ」
「成る程。先ずはクチバシティか、だとしたら“彼女“に会いに行くんだな」
「さあ、目指すはクチバシティだ!」
『おう!』
かつての仲間は新たなライバルへ、サトシは心を昂らせてクチバシティへと旅立つのだった。
To be continued