ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE 作:虎武士
気が付けば残暑が残る秋、これから執筆を続けていきます。
翌日。
「コハル。もう行っちゃうのか?」
サクラギ研究所の玄関にて、サトシ達はイーブイとカルボウを伴うコハルの見送りの為早起きしていた。
「うん。お母さんやソウタにも挨拶したし、お父さんやキクナさん、レンジさんにも。ワンパチ、行ってくるね」
身を屈めて頭を撫でるとワンパチは可愛らしく鳴く、コハルはその姿に微笑む。
「サトシ達はパルデアのポケモン達に触れ合うって仕事があるんでしょ? それが済んだらどうするの?」
「嗚呼。この町にあるポケモンピンポンのジムを訪ねようと思うんだ、あるポケモンの活躍を見る為に」
詳しくは知らないがカスミとタケシが頷くからには大事な事なんだろう、コハルはその様子を察して腰を上げる。
「それじゃまたねサトシ。ゴウに会ったらよろしく伝えるよ」
「俺もそうするよ、またな!」
コハルはそう言ってイーブイとカルボウを伴って旅立つ、窓からそれを見ていたサクラギも娘の旅立ちを静かに見送って笑みを零した。
「……もう一度言ってみろ。何と言った…?」
カントー地方にて名を轟かせる悪の秘密組織、ロケット団の総本部。
そのボスである壮年の偉丈夫──サカキは顰めた面構えをしてモニターに映る彼等を──ムサシ達を見ている。
『い、いやですから。サカキ様……ロケット団が20数年前、壊滅しかけたと言うのは本当なんですか…?』
「………」
『それからポケモンマスターであるジンと言う男に挑戦出来ると言う、ポケモン・ワールド・カルナヴァルの事は御存知ですよね…? そのポケモンマスターと何か因縁があるので』
自然に拳に力が入る。ムサシ達は『ひぃぃぃぃっ!?』と画面越しで抱き合って悲鳴を上げる、傍らにいる秘書である女性──マトリはゴクリと喉を鳴らす。
きっと恐らく自身はオニゴーリの如く恐ろしい形相を浮かべているだろう。だがサカキにとってそんな事はどうでもいい事だ。
あの男──ジンの名を聞くだけで腑が煮えくり返りそうになる。
先代ロケット団──母が束ねていた頃の組織を完膚なきまでに叩き潰しかけ、自身もまた若かりし頃に心を折られそうになった。
唯の小僧に、それもあんな年端もいかない青二才に屈辱を覚えた。
悪の限りを尽くすロケット団が子供に壊滅されかけたとあっては、此方の面子が持たない。
心を折られた母は闇社会から足を洗って隠居し、自身がこの組織を此処まで大きく拡大させていった。
なのにだ。あの忌々しい男の名を聞き、数十年溜め込んだ怒りが剥き出しになる。
「……その男に関しては放っておけ」
『え、でも…』
「二度の質問は許さん。奴に関われば地獄を見る事になる、暫くはお前達の好きにしろ」
『は、はっ!!』
その敬礼を最後にムサシ達への通信を切る。
「サカキ様……」
「……ロケット
「っ!? ロケット555を、ですか? しかしあの方々は──」
「………」
「りょ、了解しました」
有無を言わさぬ無言の圧力にマトリは怯む、頭を下げて部屋から退室していった。
残された執務室で深い息を吐いてサカキは天井を仰ぎ、ペルシアンは唯々嘶くだけだった。
クチバシティにある中央公園。
時刻は午前10時、軽い御散歩と言う名目でサトシ達は訪れていた。
ニャオハ達3匹はピカチュウと遊んでおり、交代で他のポケモン達も戯れている。
ツタージャやグレッグル、ウデッポウは無愛想ながらも相手をしている。
他にはオンバーンやウソッキーにマリル、ワニノコとサニーゴとフォレトス、チャオブーとルンパッパ、ムクホークにクロバットといったポケモン達も戯れていた。
「まだ一日しか経っていないのに、ニャオハ達すっかり慣れちゃったな」
「案外人懐こいのかもね」
目の前の和やかな光景に一同はついつい笑みを綻ばせる、こんな日も偶には良い物である。
──ダダダダダダダダダダダッ!
「ん?」
「誰か走ってくるわね」
カスミとタケシが歩道から聞こえる走行音みたいな足音に耳を傾ける、その音は段々と大きくなっていき、やがてバンダナを額に巻いた少年とルカリオが急ブレーキを掛けて停止する。
「一番乗り! ルカリオ、俺の勝ちだぜぇ!」
「グァァウ!」
少年とルカリオは走り切ったのか清々しい顔をして笑い合う、突然の事にカスミとタケシは思わず呆然と口を開いていた。
一体何なんだと思っていると、サトシは少年の顔を見て驚きを見せる。
「コ、コテツ? コテツだよな!?」
「へ…? サトシ!? 久し振りだな!」
バンダナの少年──コテツはサトシを見て驚きを見せる、サトシはまさかの再会に笑みを浮かべた。
「サトシ、あんたの知り合い?」
「知り合いって言うか、イッシュリーグでバトルしたライバルだよ」
「イッシュリーグ……思い出したぞ、確かルカリオのトレーナーとバトルしたとデントから聞いた事があったが…彼がそうなのか?」
サトシは「そうそう」と頷く、コテツもルカリオは嬉しいのか頭を撫でる。
「お前等はサトシの仲間なのか? 俺はコテツ、イッシュリーグでベスト4に輝いた男だ!」
ふふんと鼻を高くして笑うコテツ。
「って言うかサトシ、世界チャンピオンになったんだって? 久々にバトルしてくれよ!」
厚顔無恥なのか、それとも唯気付いてないだけなのかコテツは申し出てくる。
「あ〜〜……今手が離せないんだよ、此処にいるニャオハ達と触れ合うって言うのを引き受けちゃってさ」
「サトシ達のポケモンか?」
「違う違う、預けられたポケモン達だよ。かくかくじかじかメブキジカ…って感じで」
「へー……パルデア地方か、俺も知らない地方なら行ってみたいぜ!」
このコンビも興味を持ってくれたようだ、そして改めてクラウチングスタートの姿勢を取る。
「ルカリオ! もっともっと強いトレーナーとポケモンとバトルする為にも、先ずは競争だ! よーい、スタート!!」
「お、おい!」
サトシの呼びかけを聞かずコテツとルカリオは公園を飛び出す、だが同時に歩道の上を一台の自転車が走っていた。
「おわあああっ!? ど、退いてくれえええ!!」
「へ!?」
自転車に乗っていた少年は飛び出してきたコテツに驚いて急ブレーキを掛ける、だが間隔が狭かった為か衝突した。
サトシ達は慌てて駆け付ける。コテツはルカリオに身体を支えられて起き上がり、目の前の相手に怒鳴り出す。
「おい! 危ねえだろ、そんなスピード出しやがって! 怪我したらどうすんだよ!」
「はあ!? 危ねえのは何方だ! 急に飛び出してきたのは其方だろうが!?」
クロワッサンヘアーの金髪の少年はコテツの言い掛かりに憤慨、飛び起きて反論する。
「っつーかぶつかっといて謝らないってどう言う言い分だ! 罰金だ、罰金100万円!」
「罰金とかそんなの関係ないね! ブレーキを掛けらんねえのかよ!」
「掛けたわ! けどその前にお前が飛び出したんだよ!!」
額を擦り合いながら二人の少年は口論を続ける。
『ジュン!?』
今度はサトシだけでなくタケシも反応する。
「え? またサトシの知り合い?」
「嗚呼。シンオウ地方で会ったライバルだよ」
「同時に……シンオウのバトルフロンティアのフロンティアブレーン、クロツグさんの息子さんでもあるんだ」
カスミもまさかの身バレに驚く、取り敢えず一同は口論を続ける二人を引き剥がす。
「落ち着けって二人共!」
「だってよサトシ! 此奴が!」
「え…サトシ!?」
「一先ず落ち着くんだ!」
「タケシもいるのかよ!?」
まさかの再会に少年──ジュンは驚く、サトシに羽交締めされているコテツは納得いかないのかジタバタと暴れる一方だ。
「ああ!? 一体何なんだ此奴!」
「兎に角落ち着いてくれ! 喧嘩してもキリがないじゃん!」
渋々と「……分かったよ」と納得いかずともコテツは了承する。
「はあ!? マサラタウンがそんな事に!?」
コテツはこれまでの経緯を聞かされ、仰天する程に驚く。
一方のジュンは「皆知っている事だぜ、TV見てなかったのかよ?」と普通に突っ込む。
どうやら様子を察するに本当に把握してなかったようだ。
「そ、そんな事よりもサトシ! これからどうすんだよ!?」
「自由気ままに旅するだけさ。一緒に旅をした仲間にも会いたいし、強いトレーナーとバトルもしたい。──でも一番の目的は、デザイアを止める事かな?」
楽観的にとんでもない事を言葉にしている辺り、彼の成長に二人は息を飲む。
「……言うじゃねえか! 流石俺のライバルだ! …シンジ程じゃねえけどな」
一言多いがジュンは笑みを溢す。
「って事でバトルしようぜ、10秒で準備しろよ? 10、9、8、7──」
「おい待てぇぇ!! 俺が先にバトルを申し込んだんだ! 抜け駆けすんなよ!」
「どぉお!?」
コテツはドロップキックを放ち、背中から奇襲を受けたジュンは転倒。
「な、何だってんだよー!? 俺が先だ!」
「いーや俺だ!」
「俺だ! 少し我慢しろ!!」
「俺が先にやるんだよ!」
「俺だ!」
「俺だ!」
不毛な口論を続けている二人を見てサトシ達は頭を抱える、どうしようかと思い頭を悩ませる始末だ。
しかしその時だ、口論する二人のスマホロトムが振動し始めたのは。
「へ?」
「おいおい……まさか」
『ポケモン・ワールド・カルナヴァルのバトル承認を確認、バトル承認を確認』
スマホロトムからその音声が響く、すると空の向こうからドローンロトムが飛来してきた。
『Ladies & Gentlemen! これよりポケモン・ワールド・カルナヴァルの公式バトルを行うぜぃ!! 本日の対戦カードはこの二人! シンオウ地方・フタバタウンのジュンと! イッシュ地方・ヒオウギシティのコテツだぁぁあ!! 使用ポケモンは3on3のシングルバトル! どちらかのポケモンが3体戦闘不能になった時点でバトル終了、バトルに勝利したトレーナーにはトークンが贈られるぜぇ!』
白熱な音声と共にドローンロトムは説明する。
「ええっ!? 何でそうなるんだよ! 俺はサトシとバトルしたいんだよ、サトシと!」
「ぐだぐだ言ってないでバトルだぜ、バトル! 文句言ってたら何言われるか分かんねーぞ!」
「わ、分かったよ…」
ジュンに促され、コテツは渋々モンスターボールを手にする。
『両者、準備はいいかい!? バトル、
「行くぜ! 俺の秘密兵器・サザンドラ!!」
コテツが始めに投擲し、悪・ドラゴンタイプのサザンドラが姿を現す。
「えっ、ちょっと、秘密兵器って」
「そう言うのは最後に取っておくものじゃないか…?」
しかも序盤に出していいポケモンではない、コテツ以外の全員が思わず呆気に取られて呆然とする。
「良し…! なら俺は此奴で行くぜ、頼むぞ!!」
サザンドラに気圧されずにジュンはモンスターボールを投げ、中から飛び出したのはキックの鬼と称される格闘ポケモン──サワムラーだ。
「サワムラーか」
「格闘技を持つサワムラーなら悪タイプのサザンドラに有効ね」
「でもサザンドラはドラゴンタイプを持っている、勝負は分からないよな」
ニャオハ達はサトシ達に抱えられて見守る、腕の中で彼等は不思議そうな様子で見つめている。
「先手必勝だ! サザンドラ、トライアタックだ!」
コテツの声と共にサザンドラは頭部、両手の口から三色のエネルギーを放つ。
炎・雷・氷の三属性のエネルギーを象った大技、突然の攻撃にサワムラーは直撃を受ける。
「サワムラー!」
ジュンが声を掛けるとサワムラーは起き上がる、そしてすぐさまファイティングポーズの体勢を構える。
「続けて龍の波導!」
「やられっぱなしじゃいられないぜ! サワムラー、ジャンプ!」
右足が灼熱の炎を帯びる。
スプリングの足を生かして深く腰を下ろし、一気に跳ぶ。
「な、何ですとぉ!?」
「インファイトだ、サワムラー!」
「サザンドラ! 龍の波導!」
龍の波導を放つも身を捩らせて躱し、サザンドラの近くまで行くとパンチとキックの嵐をお見舞いする。
強烈な連続攻撃に悲鳴を上げるサザンドラに対し、サワムラーの右脚が炎を帯びる。
「ブレイズキック!」
「やらせてたまるかよ! サザンドラ、ハイパーボイス!」
瞬間、サザンドラが口を開口すると同時に凄まじい衝撃波が放出された。
『ぎゃあああああ!!?』
大音量の咆哮にジュンは勿論、観戦するサトシ達も咄嗟に耳を塞いだ。
至近距離でそれを浴びてサワムラーは表情を歪め、右脚に帯びていた炎が消えていった。
「チャンス! トライアタックだ!」
隙を見せたサワムラーに対してトライアタックを放ったサザンドラ、至近距離でそれを浴びて爆風に飲み込まれる。
「サワムラー!!」
吹っ飛ばされたサワムラーは大きく転倒、ふらふらとしながらも立ち上がる。
その表情にジュンは察し、相手の出方を伺う。
「サワムラーはもう限界だ! サザンドラ、伸し掛かりだ!」
勢いに乗ってコテツはサザンドラに指示する、サザンドラはサワムラーに向けて急降下していく。
これでフィニッシュだと確信するコテツ、ジュンとサワムラーの思惑に気付かずに。
「今だ! 起死回生!!」
「へ!?」
サワムラーは攻撃が当たる寸前で避け、サザンドラの伸し掛かりは不発となる。
同時にサワムラーは攻撃を与える、突然の攻撃にサザンドラは悲鳴を上げた。
「そうか、ジュンはこれを狙っていたのか!」
「起死回生って確か、自分の体力が少ない程威力が上がる攻撃技だったわよね」
「嗚呼。一か八かの賭けでこれを待っていた、ジュンも成長したと言う事か」
サトシ達の推測が的中する中、サザンドラは起き上がろうとする。
「サザンドラ!」
「今だサワムラー、跳び膝蹴りだ!」
必殺の跳び膝蹴りが命中してサザンドラの悲鳴が響き渡る、同時にサザンドラは完全に倒れ伏す。
『サザンドラ、バトルOFF! ……お?』
ぐらりとサワムラーが倒れる、今の一撃で糸が切れたように緊張感が解けたのかも知れない。
『両者、バトルOFF!』
ドローンロトムはジャッジを訂正、ジュンとコテツはそれぞれのポケモンをモンスターボールに戻した。
「やるじゃねえか、ジュンだっけ? まさかあんなやり方でサザンドラを倒しちまうなんて」
「其方もなコテツ、何処ぞの誰かさんの影響って奴だ!」
二体目のモンスターボールを構えて二人は好戦的な笑みを浮かべる。
カスミとタケシはその“誰かさん“が何者かを察して笑みを浮かべ、サトシは首を傾げてキョトンとしていた。
「さあ第二ラウンドだ、行けエンペルト!」
「頼んだぜ、エレザード!」
ジュンは水・鋼タイプのエンペルト、コテツは電気タイプのエレザードを繰り出した。
モンスターボールから飛び出した両者は吼え、目の前の相手に対して威嚇する。
「コテツはエレザードをGETしたのか」
「それに対してジュンはエンペルト、相性はコテツが有利だな」
エンペルトに熱い眼差しを送るカスミは置いておいて、両者の第二ラウンドは直ぐに始まった。
「エレザード! エレキボールだ!」
先手必勝とばかりにエレザードは身を屈めて尻尾を天に掲げ、その先端から電気で構築された球体を生成。
勢いよくエンペルトに向けて投げ付ける、だがエンペルトも黙ってやられるつもりはない。
「エンペルト、ドリル嘴で突っ込め!!」
エンペルトは身体を回転させてドリルの如く特攻、エレキボールと衝突する。
だがドリル嘴は回転を増してエレキボールを突き破り、エレザードを跳ね飛ばす。
「な、何ですと!?」
「これぐらいで驚いてもらっちゃ困るぜ! エンペルト、鋼の翼だ!」
両翼が銀色に輝き、エレザードに向けて畳み掛けるエンペルト。
両翼から繰り出される連撃にエレザードは翻弄される。幾ら効果は今一つでも少しずつダメージを与えていき、ペースはジュンとエンペルトが攻勢の状況だ。
だがコテツとエレザードも唯やられるわけじゃない、コテツは額のヘアバンドを引っ張り──そして手放して頭部に痛感を与える。
「閃いた!! ……エレザード! 地鳴らしだ!!」
妙案が思い浮かんだコテツの指示でエレザードは足を振り上げて地面に叩き踏む、エレザードの足元を起点に地面が揺れてエンペルトは勿論、サトシ達の足のバランスが崩れる。
「うお!?」
「ぺル!?」
地鳴らしは直撃を受けたポケモンの素早さが下がる技。同じ地面タイプの技である地震と比べれば威力は劣るが、エンペルトのスピードを殺すには充分過ぎる攻撃だ。
何とかバランスを取ろうとするエンペルトの隙を突き、コテツは攻勢に出る。
「今だエレザード! 放電だ!」
エレザードの全身から電流が流れていき、直撃を受けたエンペルトは悲鳴を上げる。
立て続けに効果抜群のダメージを直に浴び、フラフラになって体力が底をついてもおかしくない。
「行くぞエレザード! 次はエレキボールだ!」
「そう簡単に上手くいくと思うなよ! エンペルト、ハイドロカノン!」
水と雷、二つの球体はすれ違い──それぞれの攻撃が命中した。
「エレザード!」
「エンペルト!」
それぞれが互いの攻撃が命中し、そのまま倒れ伏す。エンペルトは効果抜群の攻撃を受けたから理解出来る、だがエレザードは今のハイドロカノンが急所に入った様だ。
『両者、バトルOFF!』
ドローンロトムが判定を下し、それぞれのポケモンはモンスターボールに戻される。
「これで後はお互い一体ずつだ」
「また引き分けかよ……だけど勝ったら言いっこ無しだ。ルカリオ!」
指名されたルカリオは前に出ると身構える。
「コテツはルカリオか」
「ジュンは誰を出すのかしら?」
「そうだな……俺とサトシが知る限りではヘラクロスにエアームド、ムクホークにロズレイドを持っていた。相性ならヘラクロスが妥当だが」
するとジュンは軽く息を吸い、ふうぅぅと息を吐く。
どうやら覚悟を決めたのか、三体目の入ったモンスターボールを手にする。
「コテツ。お前がサザンドラを秘密兵器と言う名の切り札で出した様に、俺も切り札を出させてもらうぜ!」
「切り札…? 良し、受けて立つからな!」
「出し惜しみは無しだ、出て来い!」
大きく振りかぶってモンスターボールを投げる、ボールが開口されて光と共にそれは姿を現す。
穏やかな両眼に山吹色の体躯、頭部の触角に翼を持つそのポケモンは勇ましく雄叫びを上げる。
「あれって確か……」
『カイリュー!?』
四人とピカチュウは驚き、パルデアの三匹は大空を舞うその勇姿に見惚れて感動を覚えた。
カントーは勿論、一部の地方では稀少なドラゴンポケモン、ミニリュウの最終進化形。
世界を16時間で一周出来ると言う飛行能力を備え持つポケモン。
「ジュンはカイリューをGETしていたのか!?」
流石にこれは予想していなかった為、思わず驚く。
カイリューは地面に降り立つとルカリオとは対照的に自然体でいる。
「ルカリオ、波導弾だ!」
ルカリオは両手を突き出して自らの種族が得意とする技──波導弾を撃ち放つ。
波導弾はカイリューに命中、煙が晴れるとカイリューは平然とした姿で佇んでいる。
「カイリュー! 炎のパンチだ!」
右手の拳に炎を纏い、大きく振り上げながら突っ込んでくるカイリュー。
「ルカリオ、メタルクローで迎え撃て!」
両手に銀色の爪を突き立て、炎のパンチと激突する。
「互角…否、カイリューの方が押している!」
体格や力が物語っているのか、ルカリオが段々と押されていっている。
「ルカリオ、負けんな! まだお前の力はこんなもんじゃねえ筈だ! 俺達はイッシュリーグでベスト4まで勝ち上がったんだ、こんな所で負ける筈ねえだろ!?」
せめてもの激励でコテツはルカリオを鼓舞する。
「カイリュー! 一気にパワーを上げろ!」
ジュンの指示を受けてカイリューは拳に力を込め、勢いよくルカリオを殴り飛ばす。
ルカリオはそのまま殴り飛ばされて地面に倒れる、フラフラとしながらも立ち上がろうとしている姿にコテツは笑みを零す。
「コテツ……お前さっき自分の事イッシュリーグベスト4だって言ってたよな?」
「な……なんだよ急に」
突然の問いに表情を困惑するものに変わる。
「人伝で聞いた話なんだけどさ、お前リーグ出場失格になりかけたらしいじゃん。サトシが居合わせて取り成してくれたそうだけど、それなのに自慢げにベスト4と威張って楽しいか?」
「うっ」
痛い所を突かれてコテツは言葉を詰まらせる、ある意味正論なので反論も出来ない。
「それってつまりサトシの事を自分から要らないと言っているようなもんだ。そんな奴がイッシュリーグベスト4とは、ある意味笑えてくるぜ!」
ジュンの言葉は的を得ている。
寝坊してヒガキ大会での出場を取り消される所をサトシと共に説得して、どうにか特別に許可してくれた。
おまけにフルバトルの事やリーグの開催地も勘違いしたりと、色々と思い当たる所が幾つもある。
良く考えてみれば自身は損している様な事しかしていないのかも知れない、それならば他の人達からしたら世間知らずと思われるのも当然だ。
「はははは……そっか、俺ってとんだ間抜けだな」
浅はかな事実に漸く現実を認めた。渇いた笑みで笑い声を漏らし、自嘲気味に俯いた。
だけど己の弱さを自覚する事で何かが変わると信じ、一歩踏み出す事を選択した。
「ルカリオ、俺……お前や他の皆に恥じないトレーナーになる。だからさ、一緒に強くなろうぜ!」
その言葉をどれだけ待っていたか。ルカリオは傷ついた身体に鞭打ち、ゆっくりと立ち上がる。
「反撃開始だルカリオ! 思いっきり飛ばせぇ!!」
拳を天に掲げると共にルカリオは駆け出す、右の拳が銀色に光り──カイリューの右頬を殴りつける。
「こ、れは……」
「もしかして……新しい技を覚えたのか?」
「しかもあれはコメットパンチだ!」
コテツが覚悟を決めた事でルカリオはそれに応え、新たな力に目覚めたのかも知れない。
「やるじゃねえか! 少しは楽しいバトルになってきたぜ!」
ジュンとカイリューも嬉しそうな表情を見せる。先程の調子で勝っても本人達は嬉しくなかっただろう、だが今の彼等を見てそんなモヤモヤなど霧散している。
「ルカリオ、コメットパンチ!」
「カイリュー、エアスラッシュ!」
カイリューの両翼から刃を彷彿とさせる風が繰り出される、ルカリオはそれを躱したり、コメットパンチで相殺したりして前へ進んでカイリューとの距離を詰めていく。
「波導弾!」
「龍の波動!」
龍を模した閃光と波導弾が相殺される、同時にコテツは賭けに出た。
「ルカリオ、真似っこだ!」
『は!?』
思わぬ技名に一同は面を食らった。真似っこは最後に繰り出した技が対象として扱える技である。
そしてルカリオは目を伏せて両手から閃光──カイリューの龍の波動を放った。
タイプの相性で効果抜群のダメージを真面に浴びるカイリュー、その隙を突いて接近していくルカリオ。
「ルカリオ、神速だ!」
勝利を確信してコテツは指示を出す。だが、今回のバトルは経験を活かした者に勝利の女神が微笑む。
「──ボディプレス!」
「へ?」
白煙から現れたのは、カイリューの腹部だった。
意表を突いたつもりが逆に突かれた、そう理解するよりも早く……ルカリオはその巨体に押し潰された。
「なん……ですと……!?」
白煙が晴れていき、カイリューが起き上がると気を失って昏倒するルカリオの姿がそこにあった。
『ルカリオ、バトルOFF! よってこのバトルのWinnerはシンオウ地方・フタバタウンのジュンだァ! よってこのバトルのWinnerにはトークンが贈られるぜ!』
流暢に判定したドローンロトムが言うも、コテツはショックのあまり真っ白になっていた。
「ほら! 一緒にバトルで汗を流した印だ!」
自動販売機で購入した二本のサイコソーダ、その内の一本をジュンはコテツの側に置いた。
「おおっ! サンキューな、ジュン!」
放心状態から立ち直ったコテツは嬉々としてタブを開けて飲み始める。
「いやーそれにしても良いバトルだったぜ」
「ええ。特に最後のルカリオとカイリューのバトルはね」
サトシ達も先程の公式バトルを評価、そして感想を正直に述べる。
「ったく、してやられたぜ。彼処で逆転されるなんて……ジュン、次は負けねえからな!」
「おう! 此方も同じくだ!」
拳を突き合わせる二人は笑みを綻ぶ、バトル前と違って晴れやかな雰囲気を醸し出す。
「じゃあ俺、カントーにしかいないポケモンをGETしながら旅を続けるぜ!」
「俺も同じくだ!」
笑みを浮かべた後、サトシに視線を向ける。
『サトシ! 次はバトルしようぜ!』
「おう、受けて立つぜ!」
挑戦状として解釈して彼は笑みを浮かべた、そしてジュンとコテツは軽い口論しながら公園を去っていく。
「おい待て、サトシとバトルするのは俺だ!」
「いーや俺だね! 譲りたいってんなら罰金100万円だ、100万円!」
「それ屁理屈だろ!?」
「じゃあ競争だ! 10秒前、9秒前──」
ぐだぐだな口論の声が遠くなっていく。
ライバル同士の珍妙なバトルを目の当たりにし、サトシ達は苦笑いし一路サクラギ研究所へと戻るのだった。
To be continued
次回はパルデア御三家のショートストーリーを投稿する予定です。