ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE 作:虎武士
#1 帰郷
此処はカントー地方西南部にある田舎町、マサラタウン。
有名なポケモン研究の権威、オーキド・ユキナリ博士がこの町で研究所を構えている。
此処には無限に広がる平原と森林、牧場のような場所もある。
そして今、この町に一人の少年が足を踏み入れようとしていた。
鮮やかな黒髪の頭に赤いキャップを着用し、黒いシャツの上に半袖付の青いジャケットを着こなしている。
下は水色のズボンを履き、黒と白のスニーカーを履いている。
そんな少年の隣には黄色い身体にギザギザの尻尾を持ち、赤い頬袋を持ち可愛らしい顔を持つ鼠ポケモン──ピカチュウが一緒に歩いている。
今より三年前──ポケモンワールドチャンピオンシップス……PWCSにてにて新たな王者が誕生した。
彼の名はサトシ、最強王者にしてガラルチャンピオン──ダンデに勝利を収めたポケモンマスターを目指している少年である。
各地のポケモンリーグで好成績を収め、バトルフロンティアのフロンティアブレーン候補、更に各地の様々な事件を通して伝説や幻のポケモンと心を通わせてきた。
「ピカチュウ、マサラタウンが見えてきたぞ」
「ピカピカチュウッ」
ピカチュウもサトシの言葉に頷く、ピカチュウにとってもこの町にも愛着が湧いて今では第二の故郷になっていた。
「早く家に帰ってママに顔を見せてやろうぜ!」
嬉しそうにピカチュウを肩に乗せ、サトシは駆け出した。
早く母・ハナコに顔を見せて安心させようと家へ向かう、楽しげに走り出す一人と一匹は我が家へと向かっていった。
だがサトシは知らなかった、ある物体が空高くから自分の姿を捉えていた事を。
周囲は暗闇で覆われていた。地の底まで続いていそうな洞窟のその最奥、其所には半径40メートルはある開けた空間と祭壇に使われるであろうトーテムポールが十本以上点在していた。
更にそのトーテムポールには十数人の人物がバランスを乱すことなく律して佇んでいて、彼等は静かに静寂な空気を保ち続けている。
「──皆、良く集まってくれた」
その空気を遮って一人、静かに口を開いた。
全身を黒い外套で覆い、顔を仮面で覆い隠している。
仮面から覗く瞳は様々な者を捉えている。
顔に古傷を残す者、マジシャンの様な格好の美少女、時代錯誤のような格好の男、片腕が機械で出来ている者、狙撃銃を携える者……色とりどりの面々が揃っている。
「これより……世界に試練を課す為の計画を実行しようじゃないか」
ふふふ…と不敵に笑い声が反響する。
「方法は君達の自由で構わない。君達が考案した作戦で人々やポケモンに危機感を齎してくれ」
質問、と挙手が上がる。黒髪に黒い瞳の青年が、静かな声音で問う。
「我々に歯向かう者に対して如何なる制裁を下す事は構わんか」
「……それは君達の判断に任せるよ」
「了解した」
それでは、と背を向けてトーテムポールから飛び降りる。華麗に着地し、その場から去っていく。
「一番手は彼か」
「良いのか、何を仕出かすのか見当もつかんぞ」
金髪に古傷の男が訝しんで言う。だが、仮面の男は首を左右に振った。
「何れ彼と対等となる存在が現れる、それを待つしかないさ」
何かを期待した様な眼差しを向け、仮面の男は楽しげに笑みを零す。
「ただいまー!」
一方、漸く実家に帰って来たサトシは扉を開けて家の中に入る。
「お帰りなさいサトシ、ピカちゃんも」
「ピカッ!」
ハナコは息子を出迎えて笑顔を浮かべる、サトシは母の言葉に無邪気な笑顔を見せた。
「お昼御飯まだ食べていないでしょう、直ぐに準備するから待っててね」
「いや良いよママ、俺も手伝うよ」
「長い旅で疲れてるでしょう、ママに任せなさい」
そう言って「はーい」と階段で二階に上がっていく、その後ろ姿にハナコは優しく微笑んだ後──何処か寂しげに笑みを絶やさない。
息子は日々成長していく、ポケモンと一緒に旅をしていく内に面影を感じる。
あの小さな背中が少しずつ伸びて、やがてあの人に似た背中へと大きくなっていくのが楽しみになる。
「あなた、私達の息子はスクスク成長していっているわ」
横顔も旅立った彼を重ね、ハナコはキッチンへと足を運んで行った。
マサラタウンから少し離れた森の中、其処は相変わらず野生のポケモン達がそれぞれの暮らしを謳歌している。
「────うおおおおおお!」
森の中から勇んだ声が響く、声の主らしき人物は森を走り抜けていく。
走り抜けていく先には大きな樹木がある、その人物は樹木を垂直に駆け登り頂上を目指す。
ポケモン達はその人間の奇怪な行動に呆然とする、誰しもが「頭おかしいのか?」と言う疑問が飛び交う。
ツルッと足が滑る、その人物は「ああああああ……」とそのまま落下していった。
「彼奴馬鹿じゃね?」と誰もが思った、男は勢いよく起き上がると服に付いた木葉を振り払う。
「うーむ、ガキの頃と違って天辺までは行けね〜か。いや〜若者の体力は無限大だねぇ」
自分もおっさんだな、としみじみとして納得するその男はぽんぽんと樹木を軽く叩く。
ボサボサの茶髪に黒いジャケットの上に紫色のセーター、下半身には空色のズボンと灰色のスニーカーを身に付けている。
青紫の瞳を宿し、男は振り返る。
「さてと、そろそろマサラタウンに向かうとするかね」
鼻歌交じりに彼は歩き出す、その様子を野生ポケモン達は訝しげに見つめるのだった。
ピンポーンと言う音と共にガチャリ、とオーキド研究所の正面の扉が開かれる。
「オーキド博士、ケンジも! ただいま!」
「おお、サトシ。帰って来たか」
初老の男──ポケモン研究の権威、オーキド・ユキナリ博士が助手であるバンダナを巻いた青年──ポケモンウォッチャーのケンジと共にサトシを出迎える。
「ポケモン達もサトシの帰りを待っているよ」
「ありがとうケンジ、じゃあ行って来る!」
ケンジに促されてサトシは研究所の庭へと足を運ぶ。
草原や湖、森など様々な自然が広がっていた。
「おーい、皆!」
その一声と共に大きな地鳴りが響く、同時に数多くのポケモンが此方に走って来た。
フシギダネにベイリーフ、ヘイガニにゴウカザル、30匹のケンタロスと言ったポケモン達がサトシに群がって来た。
愛情表現として伸し掛かりや冷凍ビーム、自分達の技を放ったりしてもサトシは頑丈なのかケロッとしている。
傍から人外じみた光景だろう、だが彼を知る人間からして見れば見慣れた光景である。
「暫くはマサラタウンにいるつもりかのう」
「はい。偶にはゆっくりしたいです、それに皆と一緒に遊ぼうと思って」
「な?」と顔を向ければポケモン達は一斉に歓喜の声を上げる、オーキドはやれやれと言った感じで苦笑いする。
暫くするとピンポーンと言う音が聞こえてきた、全員首を傾げていた。
「博士、もしかしたら」
「おお、そう言えば取材を受けているんじゃった。サトシ、また後でな。直ぐに良い出会いがあるじゃろうから、ゆっくりしていってくれ」
「…? はーい」
どう言う意味か分からないが取り敢えず返事を返すサトシ、そして直ぐにポケモン達と共に庭へと駆け出して行った。
──少年はまだ知らない、自らの出生を。
──そして自らに課せられた宿命に。
──時に好奇心は、他者の心を無意識に傷つけていく。
To be continued