ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE   作:虎武士

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#19 氷の如く冷徹なる水姫、勃発する女達の激闘

「チッ! あの小僧め、まさか完璧防壁(パーフェクト・シェル)の弱点を突いてくるとは!」

 モニターで観測していたキリングの舌打ちと怨嗟の声が響く。

 サトシ本人も意図的に攻撃したわけではないだろうが、それでもキリングにとっては苛立たせるには充分な材料だった。

《フフフ……どうやら思わぬところで出鼻を挫かれるかも知れないな》

 仮面の男は何処か嬉しそうな声音で語り、キリングに視線を向ける。

「いーやまだじゃ! まだ30%程のダメージしか受け取らん! リリスはまだか!? さっさと加勢に来んか!!」

 今にも沸騰しそうな怒声で捲し立てるキリング、目前のモニターに映る戦闘は向こう側の優勢になりつつあった。

 


 

《戦闘タイプ変更(チェンジ)。モード・(リーフ)

 

 背部から荊の様な鉄の突起物が顕現する、幾つもの鉄の荊は今にも命を刈り取らんとばかりに微動する。

「……もしビスケスさんが言っている事が本当なら、攻撃のチャンスがあるって事か」

「みたいだな。あれだけの質量だ、恐らく多大なエネルギーを消費していてもおかしくないだろう」

 唯与えられる使命だけで動く殺戮兵器の唯一の弱点、其処を突けば目の前の脅威など恐れはしない筈だ。

《殲滅……続行》

 鉄で出来た荊はサトシ達に向かっていく。鋭く尖った突起物、あれが人体を貫けば命に関わる。

 ウネウネと向かってくる鉄の荊に対し、樹木を支える巨体が前に出る。

「ドダイトス! ハードプラントで防御だ!!」

 伝わった指示でドダイトスは実行。地面から巨大な木の根が飛び出し、それは鉄の荊に巻き付く。

 ミシミシと鉄の荊と木の根が悲鳴を上げ、何方かが折れるかの耐久力が問われる状況にある。

 だがむざむざにやられるわけにいかない、"NDT"の左右を二つの影が通り抜ける。

「ブイゼルは冷凍パンチ! ピカチュウはアイアンテール!」

 冷気を纏った拳を左手、銀色に覆った尻尾を右手で防ぐ。

 両手を使われてしまえば幾らでも攻撃のしようがある、其処でサトシは指示を出す。

「グライオン、ストーンエッジだ!」

 グライオンの放った石の杭が隆起し、それは"NDT"の足下を封じる。

「ゴウカザル! フレアドライブ!!」

 炎の塊となったゴウカザルが特攻、距離を縮めて"NDT"に迫っていく。

完璧防壁(パーフェクト・シェル)、展開》

 幾度目かの完璧防壁(パーフェクト・シェル)が発動。

 ピカチュウとブイゼルが弾き飛ばし、迫り来るゴウカザルと衝突する。

 火花を散らして両者のエネルギーが尽きるまでの勝負、カスミ達もその行末を見届ける。

 

《ッ!? 完璧防壁(パーフェクト・シェル)、解除…!》

 その衝突故か、膨大なエネルギーに耐えられず"NDT"は障壁を解いてしまった。

 僅か30秒間──それこそが完璧防壁(パーフェクト・シェル)の持続時間である。

 

「──今だ! ムクホーク! ブレイブバード!!」

「ライチュウ! 雷!」

「ギャラドス、ハイドロポンプ!」

「ウソッキー、物真似でハイドロポンプ!」

 ムクホークの特攻に続いて二本の水流、更に追い討ちを掛けて雷が胴体を撃ち抜く。

 水は電気を通す為、"NDT"の蓄積ダメージ量は計り知れないものである。

《ガガガガガガッ!? 損傷率80%突破、80%突破! 戦略的撤退ヲ要スル! 撤退ヲ要スル!》

 部位の節々が火花を散らして電流が流れる、機械音声も危険を知らせている。

 


 

「よし…! これで決めてやる!」

 予め右腕に取り付けている腕輪──Zパワーリングを突き出す、アローラ地方に伝わる秘技──Zワザを放つのなら絶好の機会。

 黄色のZクリスタル──サトピカZを装填して、Zワザを放とうとする。

「行くぞ、ピカ──!?」

 キャップを取ろうとした瞬間、背筋が凍った気がした。

「サトシ…?」

「どうしたんだ、急に──」

『!?』

 その悪寒はカスミやタケシも感じ取った。

 物理的にではなく、感覚的に。

 マチスとビスケスは突然彼等が強張った事に首を傾げる。エテボースも何かを感じたのか、周囲を警戒する。

 次の瞬間、波止場の方から水飛沫が上がった。大量の塩水は波を作り上げ、波に乗ってある存在が姿を見せる。

『ラ、ラプラス!?』

 その正体は乗り物ポケモンのラプラス、青い体表に背中に甲羅を乗せている心優しいポケモンだ。

 何故その様なポケモンが陸に上がって現れたのか──それはある女性のポケモンであるから。

 ピンク色の長髪に片目が隠れ、黒いゴスロリドレスの美女がラプラスに乗っており、彼女はラプラスに指示を命じた。

「吹雪」

 ラプラスの両目が青白く発光する、同時に猛吹雪が発生する。

 

「きゃあっ!?」

「ううっ!?」

「What!?」

『うわああっ!?』

 

 突然の猛吹雪に一同は驚く暇もなく襲われる。容赦なく放たれた攻撃にポケモン達も耐え忍ぶ、一部の彼等を除いて。

 

「!! ドダイトス! グライオン!」

 方や草・地面、方や地面・飛行と言う氷タイプが弱点と言う共通点を持つ彼等は簡単に耐えられず氷の氷像と化した。

 サトシが直ぐに二体をモンスターボールに戻す中、カスミはラプラスに乗る美女に視線を向ける。

「へえ……貴方が世界王者、マサラタウンのサトシ? うふふ、直接会ってみると可愛いじゃないの」

 モンスターボールを人差し指で回転を掛け、美女は妖艶に微笑んでサトシを見下ろす。

「貴女は一体…」

「うっひょー! 何て美しいお姉さん!!」

 緊張感が高まる中、タケシが歓喜の声を上げる。

「自分はタケシと言います! 貴女のアメジストの様な瞳とその美貌、そして完璧なプロポーション! まさに貴女はビーナスと言っても過言では──」

 お決まりの流れでタケシは彼女を口説こうとする、だが美女からの返答は…。

「喋るな」

「え?」

「喋るなって言ったのよ。どれだけ媚びても貴方みたいな軽率な男に興味はないわ、ましてや疾しい事を考えている男にはね」

「ブフォッ!」

 辛辣にも拒絶されてタケシはショックのあまりに吐血、四つん這いに項垂れる。

「え、えーと、大丈夫?」

「は、初めてだ……美しいお姉さんからあんなキツく振られたのは……」

 落ち込んでいるタケシをサトシが宥める中、カスミが一歩前に出る。

「貴女、一体何者!?」

「あら、威勢の良いお嬢ちゃんね。まあ確かに名乗らないのも失礼に値するわね」

 ラプラスの背中から降り立ち、美女は妖艶に微笑んで腕を組む。

「私の名はリリス、デザイアの一員よ。そして──」

 組んでいた両腕を解いて二個のモンスターボールを両手に持ち、それを天へと高く投擲。

 モンスターボールから二つの光が飛び出し、その姿を顕現させる。

 片方は水・岩タイプを持つ化石ポケモン、カブトの進化形──カブトプス。

 もう片方は氷の結晶の様なポケモン、フリージオ。

「扱うポケモンは水と氷タイプよ」

 その美女──リリスは笑みを深くし、氷の様に冷たい眼差しを向ける。

 

「水と氷…! 組み合わせがWorst過ぎるぜ…!」

「あれが噂に聞くデザイアの人間…! じゃあ、あのロボットも…!?」

 と、ビスケスが佇む"NDT"に視線を向ける。

「ええ、そのロボットはデザイアに属する発明道楽のお爺さんが作った物。本人から護衛を依頼されたけど、個人としては不快にしか思わないわ。こんな狼藉を働いている時点ではね」

 クチバの惨状を見渡して溜息しか出ず、リリスの眉間が皺を寄せている。

 デザイアの中には常識的な人間がいるのか、彼女の眼差しは慈悲深さを感じる。

「だけど私は違う。お爺さんの様に見境なく理不尽な暴力を振り翳す気はない────下らない正義感に夢見がちな連中に制裁を下すだけよ、貴方達みたいにね」

 同時にそれは絶対零度の如くに冷たいものに変わり、その場の全員が背筋が凍った様な感覚に陥る。

 

「Hey! そこまで言うからには、攻撃を受けてもらおうか! ライチュウ、雷で一気にDirectだ!!」

 マチスは膝を叩いて自身を奮い立たせ、ライチュウに攻撃の指示を飛ばす。

 ライチュウは頬袋に電気を増幅させ、その電気をリリスのポケモン達に向けて放つ。

 一直線に向かってくる電撃に対し、フリージオが冷凍光線を放って相殺する。

「What!?」

「アクアブレイク」

 鎌に水を纏ったカブトプスの一撃がライチュウを吹っ飛ばし、ライチュウは仰向けに倒れる。

「ライチュウ!」

 マチスが驚く傍ら、グレッグルが前に出て片手に紫色の光を帯びる。

「ングッ!!」

 得意の技──毒突きを放とうと走り出す、腕を大きく振り上げた瞬間だった。

「リフレクター」

 物理攻撃を軽減する障壁が貼られると毒突きは防がれ、捲し立てる様に冷凍ビームを放つフリージオ。

「ストーンエッジ」

 カブトプスが足を強く踏むと石の杭が隆起、杭はグレッグルのみならずブイゼル達を巻き込んでいく。

「み、皆!」

 次々に倒れていくポケモン達。サトシはすぐさまピカチュウに指示を出した。

「ピカチュウ、エレキネットで動きを封じるんだ!」

 放った電気の球体が網を構築して覆い被さらんとする、だがそれを許すリリスではない。

「ハイドロポンプ」

 ラプラスの口から巨大な水流が発射、撃ち放った水流は電気網をいとも簡単に突き破った。

「ふう……あんまり気が乗らないのだけど。世界王者、少しお姉さんの時間を削がないでくれるかしら」

 申し訳なさそうに新たにモンスターボールを取り出す、そのボールをサトシの頭上を通り越す。

 ボールが開くと光が飛び出し、ポケモンの姿を象っていく。

「なっ!?」

 サトシの真後ろに現れた()()は彼を羽交い締めにする、サトシは抜け出そうとするがその膂力によって思うように抜け出せない。

「無駄よ。その子──セグレイブの拘束からは逃れられない。折角だから念には念を……吹雪」

「うわあああああっ!」

『サトシ!!』

 セグレイブの口から猛吹雪が放たれ、サトシの身体がみるみると凍結していく。

 最後の足掻きか手を伸ばそうとするも、その伸ばした手は凍結──誰の手にも届かなかった。

 


 

「サトシ! ちょっと、起きなさいよ! いつもみたいに根性とか、気合とかで打ち破りなさい!」

 氷像と化した彼に向かってカスミが肩を掴んで呼び掛ける。だがその呼び掛けても声が聞こえず、唯々沈黙が過ぎるだけ。

「ちょっと勿体ないとは思うけど、彼には見届け役になってもらうわ。凍っている間に貴方達を始末し、次に目を覚ました時に彼の目に映るのは仲間とポケモン達の変わり果てた姿──彼にとってこれ以上にない見せ物よ」

 狂っている。見目麗しい女性の口から告げられ、夢想してしまう想像し難い残酷な光景。

 マチスにビスケス、オウ、タケシも躊躇なく口にするリリスに言葉にならない恐怖を感じた。

「勝手に決めんじゃないわよ……サトシの心を壊すつもりなの…?」

「必要とあればよ。彼は我々に楯突く反乱分子──ならばこうまでする必要がある──」

 

「勝手に決めるなって言ってるでしょ! 人の話を聞きなさいよ()()()()!!」

「──あ゛?

 

 その瞬間、リリスの美貌が怒りで歪み始めた。

「………今何て言った」

「オバサンって言ったのよ! 大体貴女、幾つよ!」

「…………何も知らないくせに、人を年増と呼ぶな小娘がァァァァ!!!

「!!?」

 リリスが鬼気迫る形相でカスミに迫り、彼女の首を掴んで身体を持ち上げた。

 バギッと鈍い音を立てて、彼女を近くの建物の窓ガラスに叩き付ける。

「カスミ!!」

(……なんて、力……!)

 突然の攻撃に驚き、自身がガラスの破片で頭部から血を流している事をカスミは自覚する。

「たったの24の乙女に対する侮辱……死を以て償いなさい……!」

 怒りに歪んだ美女の猛威は終わらない。

 

 To be continued

 




第一章は次話で終了です。
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