ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE 作:虎武士
どうぞ!
「………ん……?」
眠気が冴えてきた。サトシは瞑っていた目を開き、ゆっくりと身体を起こす。
「あれ? 俺、何してたんだっけ?」
記憶が飛んでいるのか、自身の頭を整理して前後の記憶を呼び起こす。
クチバシティがあのロボット──"NDT"に襲撃されて、更にはデザイアに属する女性──リリスが護衛する形で乱入。
自身は彼女のポケモンによって不意を突かれ、凍らされて…。
「そうだ! カスミが──皆が危ない!!」
勢いよく立ち上がり助けに行こうとする、行こうとするのだが…。
「って言うか、此処……何処?」
今更ながら自分のいる場所を見渡し、困惑の表情を浮かべる。
まるで死の世界を思わせるかのような赤黒い空と、雷雲を彷彿とさせる漆黒の雲。
足場も赤い大地で覆われ、所々が砂地となっている。
「何だよ此処……人やポケモンもいない、俺以外誰もいないのか?」
まさか死んだのか?と言う疑問が尽きない。
それにしては現実離れをしている、不気味な空や雲、そしてこの広大な土地──まるで本当に死後の世界に来たかのようである。
《……お前は今、生死の境目とも言うべき……所謂精神の狭間にいる》
「……え?」
いつからそこにあったのか、振り向けば巨大な岩壁が存在していた。
更に目の前には赤い鉄格子があり、鉄格子の先に──“"何か"がいる。
暗くて中の様子が見れないが、その先に眩い輝きを持つ紅がある。
何故だろうか、あの輝きを見ていると既視感を覚えるのは。
それは兎も角。
「誰?」
《……我はお前がこの世に生を受けて間もなく、お前の潜在意識の根底に根付いた者。今語れるのはそれだけよ》
その
「どう言う事だよ」
《お前の事は何でも知っておる。例えば──有頂天になり得る一面を持ち、如何なる状況下において己の力を過信する》
不自然に冷や汗が流れる。新米だったあの頃の苦い思い出の数々が鮮明に過り、言葉を紡げない。
《自身の最強の魔獣を御し切れずに敗北を喫し、相手に対する敬意を払えん》
最初のポケモンリーグでのバトル、オレンジ諸島での一件の事を示している。
《古の王の亡霊に身体を取り憑かれ、魔獣一体だけで勝利を得ようと言う愚行。我が宿主は何とも情けなく、そして哀れだ。更には世界王者などと言う虚無の称号に胡座をかき、欲望という名を持つ者どもに手古摺っておる》
次々と暴露されていく黒歴史。先程の言葉も嘘ではない事を踏まえ、サトシはギリッと歯を軋ませる。
《そして今現在、守るべきものも守れぬのだからな》
「え…?」
《確と見るが良いわ》
足下に何かの光が浮かび上がり、その光は四角方形にまで広がる。
まるで映像みたいだと思っていたら、何かの景色が映り出す。
「──!?」
その映された光景に、サトシは言葉を失う。
ガシャアアンッと封鎖されたガレージに身体を叩き付けられ、それに血をこびりつきながら横たわる。
「かはっ…! はあ、はあ、はあ…!!」
ふらついた身体を起こそうとカスミはアスファルトの床に手を添え、ゆっくりと身体を起こす。
頭から血を流し、身体の所々は擦り傷が目立ち、服も破けてきている。
満身創痍の状態の彼女を嘲笑うかの様に、リリスは高らかに笑う。
「うふふふふ…! まだ立つと言うの? 傑作ねえ、でも──そうでなければ虐めがいがないわ!!」
眉間に青筋をピクピクと浮かび上がり、リリスの平手打ちがカスミの頬を捉えて乾いた音が響く。
「たかが小娘が! 黙って聞いてみればいい気になりやがって! 下らない正義感を持って、デザイアに逆らうんじゃないわよ!!」
うつ伏せに倒れる彼女の背中をリリスは足踏みし、鈍い音を立ててその身体を痛め付ける。
ラプラスにカブトプス、フリージオとセグレイブはまたか、と言った表情で自身の
「カスミ!!」
「Stopだ! Stop!!」
「いい加減にしろ! やり過ぎだ!!」
「このままでは彼女が死んでしまう!」
タケシ達が懇願の声を上げるが、助けにいく事が出来ない。
満身創痍の"NDT"が、氷像となったサトシにライフル銃に変化した右腕に銃口を向けているのだから。
動けば此奴を撃つ──そう語っているかの様にアイカメラがタケシ達を捉える。
ピカチュウ達も何も出来ない歯痒さを覚え、人質状態のサトシと──リリスに虐げられるカスミの姿を見る事しか出来なかった。
「ヒャヒャヒャヒャヒャ!! そうじゃリリス、痛め付けてしまえ! デザイアに刃向かう愚か者には罰を、そして死を与えるのじゃ!!」
研究室にキリングの下卑た嘲笑が響く、端から聞けば聞くに堪えない笑い声だ。
モニターに映るリリスがカスミを足蹴にし、罵詈雑言を繰り返す姿も見るに堪えない光景であり、嫌悪感を募らせるばかりだ。
《………》
画面越しに仮面の男も嫌悪せざるを得ないが、自身が自問自答する立場ではない為、事の成り行きを静観する。
「いや〜儂偉い! 儂天才! これならば儂を馬鹿にした愚か者共に、報復が出来る!!」
嘗ての出来事が脳裏に浮かび上がったのか、キリングは“NDT“に向けて指令を飛ばす。
「"NDT"! その小僧を殺せぇ! 見せしめにドカーンッとなァ!!」
キリングの狂気じみた笑い声が木霊する。
映されている悲惨な光景にサトシは言葉を失い、ギュッと拳を握り締める。
拳から赤い雫がポタポタと落ちるも、それも気にする余裕など今の彼にはない。
「……どうしたらいいんだ」
《む?》
「どうしたらカスミを! 皆を助けられるのかって言ってるんだ! 何かあるんだろ!? 皆を助ける方法が!!」
眉間に青筋を浮かべ、両眼に怒りを宿す彼の表情に
鬼気迫る形相に眼光に帯びる起伏される感情は
「力を貸してくれ! 彼奴等を追い払う程の力を!!」
《──いいだろう》
次の瞬間、鉄格子の隙間から赤黒い触手の様な物が飛び出した。
「うわっ! あああああっ!!?」
触手はサトシの身体に巻き付いていき、振り解こうにも力強くて解けない。
彼の身体から力が抜けていき、琥珀色の瞳から光が失われる。
《望んだのは貴様だ、宿主よ。貴様が望むがままに力を振え。一縷の望みと共に、一切の後悔もなくなァ……》
辺りには自身の血飛沫で出来た赤い水溜り。
横たわるカスミは荒い吐息を吐きながら呼吸し、上から自分を見下ろすリリスを見上げる。
──勝てない。
今の自分では足りない、力も……そして経験も。
目の前の彼女は自分の服の襟を引っ張って持ち上げ、自身のポケモン達に目を向ける。
「カブトプス、この小娘をアクアブレイクで屠ってちょうだい」
我がトレーナーながら面倒な女だ、カブトプスを含めた彼女のポケモン一同は心中にて常々思う。
だが指示には従うしかない──カブトプスは鎌に水を纏い、足を一歩前に踏み出す。
「や、止めてくれえええええ!!」
「ピカチュピィィ!!」
タケシとピカチュウが絶叫するように叫ぶ。今にも飛び出さんとする勢いだが、
どうにもならないのか、と絶望に打ちひしがれようとしていた。
そんな状況下の最中、"NDT"のセンサーがピーッピーッと鳴り響く。
《警告! 警告! 異常ナエネルギー源ヲ感知、異常ナエネルギー源ヲ感知!!》
突然の警告音と機械音声、"NDT"自身何が起こっているのか皆目検討が付かない異常なエネルギーを感知。
直ぐに探知しようとセンサーの範囲を拡大しようとするが、それは直ぐに判明する事となった。
ジュウウウ……と何かが焼き切れる音が聞こえてきて、全員がその方向へと目を向ける。
『ッ!?』
氷像も同然であったサトシの身体に纏わり付く氷が──水となって溶けていき、徐々に氷解していっている。
満身創痍のカスミは勿論、ポケモン達もこの異常な光景に目を見開いていた。
「なっ、何じゃ!? この途轍もないエネルギー量は!?」
研究室ではキリングもそのエネルギー源をモニターで観測していた。
「あの小僧の体内から有り得ん高熱度のエネルギーが感知されておる! 何が起きている!?」
唯の人間から40度……80度を越える高熱度のエネルギーが感知され、先程まで余裕綽々としていたキリングの表情が驚愕に染まっていた。
一体何が起きているのか、キリングは唯々困惑するばかりだ。
《……Dr.。"NDT"を撤退させてくれ》
仮面の男はキリングにそう促す。
「何を言うておる! もしかすると世紀の瞬間を見られるやも知れ──」
驚愕しながらも好奇心が勝るキリングが狂ったように叫ぶが…。
《いいから撤退させろ!! 下らん好奇心を示している場合か!!》
「!?」
恐ろしい程に鬼気迫る怒号がキリングの耳に響き、呆気に取られる。
仮面越しに響くその様子にキリングは息を飲み、すぐさま"NDT"に撤退命令を送ろうとPCを操作し始める。
ジュウウウウ……と氷は完全に溶けていき、足下には多大な水溜りが滴る。
「ピ、ピカピ…!?」
ピカチュウは困惑の表情を浮かべる。
同じだ……マサラタウンを攻撃した彼──ゼノンの時と同様の、あの殺気立った雰囲気が醸し出している。
「サ、サトシ?」
タケシも俯いている親友に困惑の声を漏らす。
するとサトシは顔を上げ、ゆっくりと瞼を開いた。
開かれたその瞳は、血と炎を彷彿とさせる赤黒い色となっていた。
二イィィ……と口角を吊り上げ、悍ましい笑顔を浮かべた。
「アイアンテール」
濁った様な声音と共にピカチュウに異変が再び訪れる。
「ピッ!? ピカァァァァ! ヂュウウウウァァァァッ!!」
またあの不愉快な感覚が自身に降り掛かり、自身の意思と関係なく尻尾が銀色に変わる。
《危険! 危険! 撤退ヲ要請スル! キケ──》
ザンッ!!
『…………は?』
振り下ろされた尻尾はまるで、剣のような切れ味を残した。
縦に振り下ろした斬撃を真剣白刃取りで受け止めようとした"NDT"は、縦に真っ二つとなった。
《ダメージ臨界点突破…! キケケケケケケッ!!》
ドォォォォオン!!
何が起こったのか、全員理解が追い付かなかった。
唯分かっているのは、この世の摂理に外れた光景が起こっていると言う事だけだった。
(な、何なの、この感覚は! あの子から感じる波導……破壊と言う意欲だけしか……!)
リリスが戦々恐々と爆炎の中から現れて佇むサトシに恐怖を抱く中、彼の姿がフッと消えた。
「え?」
逃げたのか?と言う疑問が尽きず、周囲を見渡す。
バギィ!!
「おごぉぉおっ!?」
リリスの口から悶絶する様な声が漏れる。
何が起こったのか分からず、彼女はアスファルトの床へ滑る様に転がり倒れる。
「な……殴った? サトシが女性を?」
タケシの信じられないような呟きが漏れる。
あの心優しい少年が、敵とは言え女性の頬を力強く殴った──それも目に見えぬスピードで。
頬を摩ってみると強烈な激痛が走り、目の前の少年に殴られた事を悟った。
「……この、クソガキィィィッ!! 乙女の顔によくも…!!」
同時に火山が噴火したかのように激昂、頬の痛みを抑えながらリリスは暴挙に出た少年に怒声を上げる。
先程までの澄まし顔が怒りで歪み、歯が軋むまでに歯軋りする。
「10万ボルト」
「ヂュヴヴヴヴヴヴッ!!!」
──赤い頬袋から高熱度の赤黒い電撃が放出された。
周辺のアスファルトの床を抉り、ビルや民家、無人の一般車両や信号機を無差別に破壊していく。
カブトプスを始めとしたリリスのポケモン達、ウデッポウやグレッグル達、マチス達は余波を受けながら何とか耐えていっている。
「What!? 何てDangerousな電撃だ!」
「サトシ君! やり過ぎだ! 攻撃を止めるんだ!!」
「サトシ!!」
「コワセ! コワセ! 全テ破壊シロォォ!!」
歪んだ笑みを浮かべてサトシは叫び、周囲の光景を嘲笑っているかのようだ。
タケシ達の声に耳を傾けることなく、唯欲望のままに破壊行為を繰り返す。
(違う……あれはサトシじゃない……!)
口の端から流れる血を手で拭い取り、カスミは傷だらけの身体に鞭を打って匍匐前進する。
何故そう思えるのか自分でも分からないが、あれが彼自身の意思とはとても思えない。
ポケモンに対して優しくて、自身の夢の為に突き進む少年の行動は今の姿からはその優しさなど、微塵も感じられない。
これはサトシの性格上有り得ない行動であり、"何か"が彼から理性を奪ったのだろう。
自分が虐げられたからこうなったと考え、身体を引き摺っていく。
何よりピカチュウがあんなに苦しそうに電撃を放ち続けていき、相棒の状態を顧みない行動は見過ごせない。
現に電撃は天へと登り、彼方へと消えていくのが稀にある。
「破壊! 破壊ィ! ハハハハハハハ!! 全テヲ破壊シ──」
「──ダメェェェェェ!!」
ガバッと高笑いする彼の腰に両腕を回し、逃がさない様に固定する。
「カスミ!!」
「コ……小娘ガァ!!」
サトシは振り解こうとするが、中々離れようとしない。
「あんたが、誰だかわからないけど…! これ以上サトシの身体で、自然や街を壊さないで!!」
両眼から雫が溢れていき、血反吐を吐く勢いでカスミは語り掛ける。
「サトシ! お願いだから戻って来て! 憎しみに支配される姿なんて見たくない…! あんたは世界一の厄介者で、ポケモンマスターになるんでしょう!? こんな得体の知れない奴に負けないでェ!!」
淡い青い光がカスミの身体から発し、その光は彼女を中心に広がっていった。
「な、何だ! この光は!?」
「分からないです!」
「しかし……何て温かな光なんだ」
「は、はい……」
光はクチバ全体を包容する様に広がっていく。
先程まで血塗れだったカスミの身体から傷が消えていき、血の巡りが引いていった。
「カスミの傷が……!」
「彼女だけではない、ポケモン達の傷も消えていっている…!」
ポケモン達が受けたダメージが段々と癒されている、何が起きたのだろうか。
それは分からないが、
「これは……一体何が」
リリスが忌々しげに呟く中…。
「………カスミ?」
少年の口から優しげな声音が奏でられる。
先程の様な狂気じみた声音ではない、いつもと変わらぬ彼に戻ったと安堵してカスミはサトシを強く抱擁する。
「サトシ……!」
「カスミ……俺、一体何を……」
凍らされてからの記憶が欠如しており、サトシは問おうとする。
「え?」
周囲の被害を見て戸惑いの声を上げる。
ビルや民家、信号機に一般車両、砕けているアスファルトの歩道と車道、それらの被害状況に目を見開く。
意識がない間に何があったのか、周囲の被害に困惑を隠せない。
みるみるとその顔色は青褪めていき、察してしまった。
「………俺が、やったのか?」
「そ、それは……」
カスミは言葉を詰まらせ、タケシも何も言えずにいる。
マチスにビスケス、オウさえもサトシから首を逸らしている。
本当ならば言うべき事だ。だが良心が痛み、告げられぬ勇気が出なかった。
「全部貴方がやった事よ」
ニヤリと冷酷な笑みを浮かべて、リリスは残酷にも事実を告げた。
「傑作だわ、まさか世界王者にあんな裏の顔があったなんてね。世界中の貴方のファンが知ったら最後、凡ゆる方面からアンチが集まるわ。LINEやネットで広まるとどうなるのやら」
嘲笑してリリスは愉悦に浸ってサトシを罵り、妖艶な笑みを崩さない。
「あの姿はまるで
「やめなさい! それ以上サトシの前で言う事は許さない!!」
聞き捨てならないとカスミは怒号を上げるも、特に気にすることなくリリスは嘲笑う。
冷酷で妖麗な美女はラプラス以外のポケモンを戻し、ラプラスの背中に跨った。
「愛されているわね、ハナダのジムリーダーさん。女は大事な局面では美しさを磨き、大切なものの為に強くある。せいぜい強くなりなさい、いつでも相手になるわ」
リリスを乗せてラプラスは海を渡っていき、去っていく後ろ姿をカスミは指を咥えて見ている事しか出来なかった。
「……俺が化け物、か……」
「あんな奴の言葉気にする事じゃないわよ、単なる戯言にすぎな──」
ドサッ。
「……え、サトシ? ちょっと、どうしたのよ!」
糸が切れた人形の様に、彼はうつ伏せに倒れ伏した。
「サトシ! どうしたんだ! しっかりしろ!!」
「サトシ君!」
「ビスケス! Medicだ!! 急いでHospitalに連絡しろ!」
「はい!」
カスミ達は身体を強請っていくが、完全に意識がフェードアウトしていて起きる気配がない。
ピカチュウを始めとしたポケモン達も呼び掛けるも、同様の為に意識が戻らず。
バリッ、バリバリバリッ!
所変わって上空にて、赤黒い稲妻が迸っている。
先程暴走したサトシを介してピカチュウが放った奇妙なその雷は、まるで畝る様に空を駆けている。
稲妻が発生しているのはカントーだけではなかった。
ジョウト、ホウエン、シンオウ。
イッシュ、カロス、アローラ、ガラル。
世界各地の蒼穹の上にて稲妻が迸る。
天変地異を起こすかの如くに稲妻は走り、やがて“穴“が開いた。
これが何を意味するのか、人々はまだ誰も知らない…。
To be continued