ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE   作:虎武士

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第二章、開幕です


第二章 Strength & weakness
#21 傷痕


 セピア色の情景が映される。

 

 以前の殺伐とした戦場ではなく、水で囲まれた街──所謂水上都市と言った所だろうか。

 

 都市全体は水路や建造物で出来た遺跡を思わせるものであり、水タイプのポケモン達が平穏に暮らしている。

 

 また鍛錬場と思われる開けた場所もあり、その都市の戦士が切磋琢磨している姿も見られる。

 

「お久しぶりですね、◼️◼️◼️◼️様」

「嗚呼、こうして会うのは三年振りだ」

 

 ()がこの地を来訪するのは久方ぶりだ。青い装いに鮮やかな黒髪、海の様に清めた青い瞳は依然と変わらずにいる。

 

「もうじき、◼️◼️◼️◼️帝国との戦争に入る。恐らく熾烈極まる戦いとなるだろう」

「……そうですか」

 

 橙色の長髪を揺らし、()()()に振り返る。

 白と青を基調としたドレスにスリットスカート、肘から伸びる振袖を纏う()()は儚げな表情を向ける。

 場合によっては命を賭ける程の死戦と成りうる。それは同時に、彼は自らを犠牲に──

 

「私は君を含めた同志達の下へと顔を出そうと国を離れ、挨拶回りに来た。君達と会うのもこれで最期かもしれない──だがもしも生き残れば、また話をしよう」

「ええ……そうですね。この地にて彼の国の無事をお祈りしますね」

「ありがとう」

 

 本当は嘘、優しい嘘だ。

 あの国の王は()に固執しており、もしかすれば相討ち覚悟で()を道連れにするだろう。

 本心で言えば()と彼の国を守る為、戦にこの身を投じる気持ちがある。

 しかしこの戦は彼等の問題……不粋に介入するなど、出来やしない。

 

「本当に何処までも優しい人ね」

 その後姿を見送るしかなく、自然に目頭から雫が流れる。

 ()がもう生きて帰る事はないと察し、()()は祈るのだった。

 この想いが届く事がないと、自負して──

 


 

「ん……」

 瞼を小さく開けて、彼──サトシは小さく呟く。

「此処は……サクラギ研究所?」

 リサーチフェロー時代において"相方"と共に過ごした寝室、この空気も懐かしいと感じる。

「ピカピ……?」

 いつから寝ていたのか、相棒が布団の上で丸まって寝ていた。

「おはよう、ピカチュウ」

「ピカピ!!」

 涙をボロボロと溢れ出し、ピカチュウは身体を起こしたサトシの胸に抱き付く。

 そこまで泣く程だったかと疑問に思っていると、寝室の扉が開く。

「サトシ…!?」

「カスミ……」

 食事をトレイで持って来たカスミは目を見開き、サトシは「おはよう」と返事すると彼女の目から涙が零れる。

「おはよう、じゃないわよ…! 一週間も眠り続けて、もう目を覚さないとばかり」

「あ……」

 また無茶な事をしたんだと理解すると共に、クチバの惨状が脳裏に過ぎる。

 デザイアの一員たるあの女性(リリス)の罵詈雑言を聞いている内に目眩がして、其処から記憶が途絶えている。

「……ごめん。お前やピカチュウ、皆にも迷惑を掛けたよな」

 自責の念を押して頭を下げる、しかしカスミは指で涙を拭う。

「いいわよ……あんたが目を覚ましただけでそれで充分よ」

「……そうか、ありがとう」

 お互いに微笑み合う二人、その光景をピカチュウは腕を組んでコクコクと頷くのであった。

 

 

 

 それから一時間後、クチバシティの北側──ヤマブキ方面へのゲートにサトシとピカチュウ、カスミとタケシは歩く。

 タケシもサトシが目を覚ました事に驚き、噴水の如く大粒の涙を流した。

 目を覚ましたばかりだと言うのに食事に喉を通している事に感心し、若干呆れ返っていた。

「それじゃあ見送りありがとう、サクラギ所長。他の皆も」

 見送りに来てくれたサクラギに礼を言うサトシ。

 見送りに来たのは彼だけではない。キクナとレンジ、マチスとライチュウにビスケス、そしてオウとエテボース。

「もう旅立つのかい? ゆっくりして行けばいいのに」

「そうしたいですけど、ポケモン・ワールド・カルナヴァルの事もある。暢気にしていたらライバル達に笑われちゃいますよ」

 はは、と苦笑いして軽く腕を回す。

 デザイアの行動も気になるが、今はポケモン・ワールド・カルナヴァルにも力を注がねばならない。

 この先いつ横槍が入るか分からないが、優先順位も見誤ったらそこで終わりに繋がる。

 だから旅立つのだ、少しでもバトルに勝って頂に辿り着く為に。

 

「サトシ、それにカスミさんにタケシ君も。君達がいなければ、この町は滅んでいただろう。町の人間として感謝するよ」

「ありがとう御座います、所長。ゴウやコハルに会ったら宜しく伝えておきます!」

「分かった」とサクラギは答える、するとオウから離れてエテボースが近付く。

「エテボース。また会えて嬉しかったぜ、ポケモンピンポンの活躍……応援してるよ。ヒカリにも伝えておくよ」

 ポンポンとサトシは優しくエテボースの頭を撫でる、彼女は嬉しそうに鳴いて飛び跳ねる。

「Hey Champion! 次に会う時はバトルしてくれ! 俺とライチュウは、いつでもVoltageを高めておくぜ!」

 マチスとライチュウは好戦的な笑みを浮かべて宣言する、カルナヴァルに参加している以上はバトルが出来る機会がある筈だろう。

「それじゃあ皆! また!」

『さよなら!!』

「ピカピーカ!」

 サトシ達はクチバシティを旅立った、彼等に見送られて再び果てしない旅へと────

 


 

 デザイアの拠点、暗い殺風景な洞窟内にある自室の扉を開けて彼──ゼノンは通路を歩く。

 人を眼光だけで射殺せそうな漆黒の瞳に映るのは見慣れた洞窟内、ズボンのポケットに手を入れて進む。

 デザイアの構成員で手を加えられたこの場所はそれぞれの移住区スペースが存在し、ゼノンの両足は静かに足を使って踏み入れる。

 

「待ちなさい、ゼノン…!」

 

 後数歩で出口に差し掛かった所で、後方から声を掛けられた。

 ピンク色の長髪に片目が隠れた前髪を持つ美女──リリスの姿があった。

「リリス……何用だ」

「貴方……よくも私達を欺いてくれたわね」

「ふん……随分と良い顔になったじゃないか」

 彼女の頬の包帯を見てニヤリと笑みを浮かべる、そんな皮肉にリリスは怒りを募らせるばかりだ。

「話を逸らさないで頂戴! 貴方……マサラタウンのサトシ、あの坊やの力の事──知っていたんでしょう!? お陰で散々な目にあったわ…!!」

 眉間に青筋を浮かべ、リリスは捲し立てる様にゼノンに詰め寄る。

「あの人が変わった様な雰囲気に残忍な攻撃性、周りを見境なく破壊し尽くす立ち振る舞い……! まさにあれは破壊者そのもの──それを黙っていたとは、どう言うつもりかしら?」

 彼女のモンスターボールから光が飛び出し、セグレイブが飛び出す。

 セグレイブは両手の爪を突き立て、ゼノン目掛けて飛び掛かる。

 同時にゼノンのモンスターボールからハッサムが飛び出すと、それを受け止めようと額を銀色の頭部へと変え、攻撃を防がんと身構える。

 

「血気盛んだなぁ、お前等」

 そんな声が聞こえると互いに攻撃の手を止める。ピタリと止めると二体は周囲を探って辺りを見渡す。

「あら……」

「……ゼクス、何の真似だ?」

 後方へ振り返ると、一人の男が佇んでいた。

 水色の逆立った頭髪に黄緑色のメイクを目元に施し、時代錯誤の着物姿。腰には刀を携えていて、唯ならぬ雰囲気を放っていた。

「どうもなにも、お前等が暴れてやがるから仲裁しに来てんじゃねーか」

 やれやれと言った風に男──ゼクスは呆れ返り、ゼノン達の顔を交互に視線を向ける。

「デザイアきっての戦闘狂がどう言う風の吹き回しか知らないけれど、邪魔しないでもらえる? 此方はゼノン()に問い詰めたい事があるのよ」

「相変わらず気の強え女だなァ、リリスは。琴線に触れられりゃあヒスって喚き、その上で気の済むまで治らねえ。ま、俺ァメリハリの良い女が好みだから、別にいいんだがな」

「……最ッ低ね」

 公然とセクハラ発言をするゼクスに青筋を浮かべるリリス、羞恥もなく言いのける彼にある意味怒りを覚える程だ。

 何だか怒るのも馬鹿馬鹿しくなっていき、気付けば熱りが冷めていくのが分かった。

 

「んで世界チャンピオンとそのお仲間に負けて帰って来たそうだが、面白え話をしていたな? チャンピオンの小僧が暴走したとか何とか──」

「負けたわけじゃないわ。ゼノン、貴方が情報を齎していれば!」

 ワナワナと手を震わせて拳を作るリリス、ゼノンは淡々と無表情を一貫して通している。

「よーし……そんじゃあ、俺が遊びついでに調べて来てやるよ」

 ニヤリと口端を吊り上げて笑みを浮かべる。その表情はまるで、獲物を見つけた狩人(ハンター)の様に思えた。

 二人に背を向けてゼクスは去っていき、草履の足音は闇に消えていく。

 

「……命拾いしたわね、ゼノン」

 忌々しげに言葉を告げた後、リリスもセグレイブと共に去っていく。

 唯一人残されたゼノンはポケットからスマホを取り出し、タップすると耳に傾ける。

「……俺はデザイアの者だ。其方にある依頼を受けてもらいたい」

 淡々と冷徹な声音が響く。

「世界チャンピオンの抹殺──其方にとっても稼ぎの良い話の筈だ」

 口角を上げて不敵な笑みを浮かべるのだった。

 


 

 ヤマブキシティへと続く道の最中、サトシ達は晴れやかな青空の下を歩く。

「え? それじゃあカスミ、ずっと俺の看病に付きっきりだったのか?」

 意識のない間の事を聞かされてサトシは目を丸くする。

 その間にカルナヴァルでのバトルもしっかり承諾して受け続けていて、彼女は「そうよ」と問いに答える。

 世話になっちゃったな、とサトシはほんのり頬を赤くして頭を搔く。

「ヤマブキシティに着いたらどうするんだ?」

「そうだなぁ……ヤマブキジムに顔を出してみようかな? ナツメさんもそうだけど、あのゴーストの事も気掛かりだし」

 タケシからの問いに答え、あの時のバトルが脳裏に過る。

 彼女の父親の助言がなければゴールドバッジも手に入らなかったし、カスミもタケシも一生人形のままで頓挫していただろう。

「あっそう言えば……ヤマブキシティで近々、ポケモンコンテストが開かれるそうよ。しかもそのゲストに──あのルチアが出演するんだって!」

「何っ! ルチアちゃんが!?」

 グルンッとタケシが振り向き、その名を聞いて目を輝かせる。

「あら、タケシ…知っていたんだ。ルチアとパートナーのチルルのコンビって凄いわよね! あのミクリ様の姪っ子で、ポケモンコンテスト界のアイドルだもの」

「コーディネーターとしての実力も高レベル、あの魅力的な容姿やルックスで観客の心を掴んでいるからな」

 スマホのインターネットで検索して二人は姦しく騒ぐ。

「そうだよな、何と言ってもミクリさんの姪だもんな」

 サトシも同意して言葉を紡ぐ。

「あら? サトシも知っていたんだ、会った事あるの?」

「直接は会ってないよ。リサーチフェローでホウエン地方のポケモンコンテストに行った事があって、カロスで一緒に旅をしたセレナと友達なんだ」

「へ〜〜……」

 カスミは白い目を送るが、それを流していると──

「ピカッ!?」

「え…あ! ピカチュウ!!」

 突然飛び出して来たアームクレーンがピカチュウを捕え、そのまま見覚えのあるニャース型の気球へと移動していく。

 

「え…あ! ピカチュウ!! と聞かれたら」

「答えて上げるが世の情け」

 聞こえてくるのは毎度お馴染みの三人組の声。

「世界の破壊を防ぐ為!」

「世界の平和を守る為!」

「愛と真実の悪を貫く!」

「ラブリーチャーミーな敵役!」

「ムサシ!」

「コジロウ!」

「銀河を駆けるロケット団の二人には!」

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」

「ニャーんてニャ!」

「ソーナンス!」

 ビシッとロケット団の三人組は前口上を決める。

 

「なーんだ、ロケット団か」

 緩み切った様子でサトシが呑気に言う。

「ちょっと! 何よその反応!? 何だとは何よ!?」

「馬鹿にしてるのか!?」

「失礼じゃニャいか!」

「いやだって……クチバシティじゃ全然顔を合わせなかったし」

「逆に安心したというか……なあ?」

 デザイアとの戦いが続いていた事もあって、見慣れた腐れ縁の顔を見てホッとしてしまった安心感があり、サトシ達は笑みを綻ばせる。

「此方だってピカチュウGETの為作戦を練っていたのよ!」

「でもな! あんな変なロボットの所為でクチバシティが滅茶滅茶になって、作戦どころじゃなかったんだよ!」

「ニャー達は身を隠すのが精一杯だったのに、仕方なく街の連中を助ける羽目になったのニャ!」

 憤慨する彼等の言葉の端々に優しさを感じ、自分達が"NDT"と戦闘していた裏で彼等も勤しんでいたと察した。

 まあそれは置いておいて──

 

「ピカチュウを返せ!」

「返せと言われて返す奴なんていないわよ!」

「悔しかったら、取り返してみろ〜!」

 こうなったら実力行使、サトシは直ぐに手をモンスターボールのホルダーに伸ばす。

「行くぞ──」

 

 

 

 ドクンッ

 

 

 

「………!?」

『……?』

「……サトシ?」

「どうしたんだ?」

 

 ──ホルダーのモンスターボールに手を伸ばそうとした。

 

 だが……。

 

(震えている……? 何で……?)

 

 まるで寒気がするかの様に手が震え、モンスターボールに手が届かない。

 蕁麻疹を起こしているのか定かではないが、身体が震えている。

「ハァ……ハァ……」

 しかも呼吸が急に荒くなっていき、地面に膝を曲げて着いた。

 脳裏に過ぎるのは、蹂躙されたクチバシティの街並み、傷ついた人々、そして──

(俺が……街を攻撃した)

「サトシ、しっかりして!」

「サトシ!」

 只事ではないと気付いてカスミとタケシが呼び掛ける、だがサトシの胸中は罪悪感で埋め尽くされている。

 

「何だかよく分からないけど、チャンスじゃない!?」

「ジャリボーイには悪いが、今の内にピカチュウを!」

「バイニャラ〜!」

「ピカピー!!」

 ニャース気球は方向を変え、アジトに向けて飛び立とうとする。

 ボスのサカキにこのピカチュウを献上さえすれば、自分達は彼から莫大な報酬と団員から幹部に昇格するに違いない。

 だが、それは直ぐに泡沫に消える事となった。

 

「強く! 美しく! 私のマイスイートハート!」

「強くて硬い! 俺の意志!」

『え?』

 振り返るといつの間にかギャラドスとハガネールを繰り出し、カスミとタケシは独特のポージングを取って前口上を言い放つ。

 二人の腕にはカロス地方由来のメガリングが装着しており、それが何を意味するのかを察して絶句する。

『ギャラドス(ハガネール)! メガシンカ!!』

 お互いのキーストーンとメガストーンが共鳴して結びつき、ギャラドスとハガネールは光に包まれて姿形を変化していく。

 途轍もない咆哮を上げてメガギャラドスとメガハガネールは姿を現し、ロケット団は絶叫した。

「ギャアアアア!?」

「あ、彼奴等メガシンカ使える様になったの!?」

「き…緊急離脱だニャ!」

 身の危険を感じて気球の火を大きくしようするが、もう手遅れである。

「ハガネール、ストーンエッジだ!」

 地面から石の杭が隆起、隆起した杭はゴンドラに命中してバランスを崩す。

 その影響でクレーンアームがピカチュウから離れ、投げ出されたピカチュウはメガハガネールの頭上に着地した。

「ピカチュウ、大丈夫か!?」

「ピカ!」

「よし……ギャラドス! ハイドロポンプをお見舞いして上げなさい!」

 ピカチュウの無事を確認したカスミの指示により、メガギャラドスは巨大な水流を放った。

『け、結局やな感じ〜〜!!』

「ソーナンス〜〜!!」

 ニャース気球は水流で吹っ飛ばされ、空の向こうへと消えていった。

 


 

 速攻でメガシンカでロケット団を撃退し、二人はサトシの下へと駆け寄る。

「サトシ!」

「大丈夫か…!」

「ピカピ…」

 ピカチュウはゆっくりと近付いて手を伸ばす──

 

 パシッ

 

「ッ!?」

「ごめん……ピカチュウ、嬉しい筈なのに……俺」

 弱々しい様子でサトシは小さな手を払い、相棒(パートナー)から目を逸らす。

 握り締めた拳から血が溢れ、地面に滴っていく。

「嘘でしょ……」

「こんな事が……」

 悪い夢でありたい、だが目の前で起こっている事は夢では済まされない現実。

 

 

 

「俺………ポケモンに触る事も、バトルも出来なくなった……!

 

 

 

 

 晴れやかな空は雲に包まれ、其処から滴る雨音が響き渡った。

 

 

 To be continued

 

 




この話から数話、サトシがバトル続行不能状態となります。
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