ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE 作:虎武士
そして更にマサラタウンから旅立ったトレーナー(オリキャラ)の一人が登場します。
どうぞ!
「うわああぁぁん! あああああぁぁぁ!」
茜色の空の下、マサラタウンの川の辺りで一人の少年の咽び泣く声が響く。
幾つもの字や傷があり、鼻水と涙を流す痛々しいその姿を三人の同年代の少年がニヤニヤと嘲笑う。
「あはははは! こいつバカだよね〜、そんな弱っちいポケモンなんか守ってさあ!」
「ただイタズラするだけでムキになりやがって、リュウちゃんに勝てるわけないのに!」
「はっ! バカなのに向かってくるこいつが悪いだろーよ!」
ぎゃははははは、と下衆極まりない笑い声を上げて三人の少年は愉快そうにいじめられっ子の少年を見下す。
いじめられっ子の少年は芋虫ポケモンのキャタピーを守る様に抱えており、ぐずりながらも渡さないとばかりに姿勢を崩さない。
「ピーピーピーピーうるせーな! うぜえから帰ってママのおっぱいでも吸ってろよ!」
「リュウちゃん。こいつママはいても、パパはいないんだよ」
「ああ……お前のママ捨てて旅道楽だって話もあるっけ、こんなチンケな上にポケモンを研究してるジジイのとこに出入りするしか取り柄ないもんな!」
「そうそう、しかもポケモンと遊んでばっかりだし! 自分もポケモンになりきってる感じで気味が悪い、
嘲る様な品のない笑い声が響く。いじめられっ子の少年は唯々泣くばかりで反撃する素振りも見せない、唯単にいじめられているポケモンを守るだけ。
自分や母を置いて町から出て行った顔も見た事もない父親、いじめっ子達の言う通りの可能性さえある。
オーキドや幼馴染の所に出入りするのはポケモンが好きだから、こんな風に痛めつけられてもポケモン達が好きで堪らないから。
「はいどーん」
「おぶしゅっ!?」
いつから来ていたのか、別の同年代の子供がいじめっ子のリーダー格──リュウちゃんと呼ばれた少年を殴り飛ばした。
「リュウちゃん!?」
「あっ、お前!」
「ずいぶん見苦しいことしてんじゃねーか」
青みの掛かった髪の中性的な子供はニヤリと手首を鳴らす、好戦的で獰猛な笑みを浮かべていた。
「な……お前にゃ関係ねーだろ! いつもいつも、変なタイミングで首突っ込んで来やがって!」
「確かに関係ねー。関係ねーけど、泣きながらポケモンを守ってる奴見てたら黙ってらんねーだろ」
「ジャイ◯ニズム! ってか殴る事はねーじゃん!」
「──下らん行為を働く貴様等がそれを言うのか?」
青髪の子供の後方からもう一人同年代の子供がやってくる。逆立った黒髪に眼鏡を掛けた知的な雰囲気の少年、静かな声音と共にいじめっ子達に塵の様に蔑む目線を向ける。
「うわ、ガリ勉な面倒臭がりがどう言う風の吹き回し?」
「連中の諍いを偶然目にしただけだ、見てみぬ振りなど後味が悪いからな」
眼鏡の少年の答えに青髪の子供は獰猛な笑みを深くし、指の骨を鳴らす。
この二人が組んだら手が付けられない、リュウちゃんなる子供は起き上がって「覚えてろ!」と三流の捨て台詞の言葉を吐いて取巻き達と共に去っていく。
「……」
いじめられっ子の少年は自分を助けた子供二人を見つめる。
青髪の子供と眼鏡の少年は彼に近付き、彼に手を差し伸べる。
「無事か…?」
「結構ボコボコにされたな〜」
方や暢気に、方や淡々と彼の手を引くのだった。
ザァァァァッと激しい雨がポケモンセンターの客室の窓から見える、窓越しからそれを横から見るサトシの表情は暗い。
(……俺、最低だ)
差し伸べようとした
こんな落魄れた自分を見て、ポケモン達や仲間も皆きっと愛想尽かしてしまうだろう。
自虐気味に薄暗い部屋でサトシが項垂れる姿をピカチュウは勿論、カスミもタケシも心配そうに悲しい表情を扉を小さく開けて覗き込む。
「まさか……サトシがポケモンに触れなくなるなんてね」
あの後、近くにあるポケモンセンターへと駆け込み、雨宿りする形で此処に宿泊する事となった。
居た堪れない様子の彼を気遣ってか、隣の客室から彼一人の客室を覗く。
「……恐らくPTSDの可能性がある」
「P……何?」
「心的外傷後ストレス障害……Post-Traumatic Stress Disorderの略称だ。これは生死に関わる出来事や致命傷になる程の場面を目撃などで発症する病気だ」
カスミはタケシの言葉に言葉を失った、そんな病症にサトシが掛かったと言うのも驚きだが…。
「サトシの場合……この間の一件が原因だろう」
あの暴走状態から意識が戻り、街の周囲の被害で察してしまった。更に付け加え、
「じゃあ……今のサトシがポケモンに触れないと言う点では、以前のリーリエと同じ」
「或いはリーリエより重い状態かも知れない……大好きなポケモンバトルも出来ないとあっては」
彼女──リーリエのポケモン恐怖症の経緯、その発端となったウルトラビースト──ウツロイドの事は伝え聞いていた。
それ以上の症状となると手の打ちようがなく、やり切れないタケシの様子にカスミは「そんな……」と声を震わせる。
耳を澄ませてピカチュウは唯々部屋の中を──壁に背中を預けて塞ぎ込むサトシを悲しげに見つめ、「ピカピ……」と小さく呟く。
何とも無力だろう、何の力になれぬ自分達を恨み言を言いたくなった彼等だった。
その呟きが遮るかの様に、雨は夜まで降り続けた。
雨水で潤った地面を一台の自転車が駆け抜ける。
ペダルを漕いで通れば水飛沫が上がり、その人物の身体に掛かる。
「〜♪」
しかし
「お、見えた見えた」
漕ぐのを止めて一時停止、その目先にはポケモンセンターが見える。
「さーて、相棒達を休めるとするかねえ」
フッと笑みを浮かべて自転車を漕いでいく。
其処で思わぬ出会いが待っていると知らずに。
ポケモンセンター内に設けられたテーブルの一つ、その一角だけは沈んだ空気が流れていた。
「………」
その空気感を放ちながら彼は──サトシは用意された白飯を咀嚼する。
まるで居心地が悪そうに不穏な表情でご飯を食べている様子、ピカチュウは勿論、カスミもタケシも何も言えずにいた。
いつもは和気藹々、意気揚々という言葉が出て似合いそうな明るい雰囲気はなく、静寂な雰囲気が流れる。
「ね、ねえサトシ」
「?」
「大丈夫? ポケモンに触れてみたりとか、リハビリしてみない?」
「……ごめん。今……そんな気になれないや」
何もかも諦めた様な澱んだ眼差し、黄昏れた表情の彼は弱々しい声と共に告げる。
ご馳走様、と食べ切った食器をカウンターへと運ぶ。
「サトシ! カスミはお前の事を考えて──」
だがタケシの言葉に耳を傾けず、サトシは外へ出て行く。
「完全に参っているな……」
追う気にもなれず、自動ドアを見つめるタケシ。これまでの旅で明るい笑顔を振舞ってきた彼が、あの様に意気消沈する姿など希少だった。
自棄を起こすわけでもなく、喧嘩腰になるわけでもない。
唯自分を責めているばかりで、戦意喪失しているだけである。
「……ずっと気になっていた。サトシの彼処までの意気消沈ぶり、単にポケモンと触れ合えなくなっただけじゃない」
あんな風に塞ぎ込む姿は明らかに逸脱しており、一度の失敗だけであの様になる筈がない。
考えられるとしたら──
「もしかして彼奴……小さい頃に何かあったんじゃない…? 例えば──」
有り得ない可能性が脳裏に過り、カスミが疑問を口にしようとした時──轟音が外から響いてきた。
「ピカ…?」
「な、何…?」
「外からみたいだが……近いぞ」
二人と一匹は一斉に立ち上がり、自動ドアを通って外へと飛び出した。
ポケモンセンターから出てサトシは建物外の壁に身を預け、虚しそうに空を仰ぐ。
(俺……
悲しみを帯びた眼差しで嘗てを思い出す。
オーキド研究所でポケモンの事を学んでいた時も、家に帰る途中も、散歩していても暴力を振われていた。
精神的に追い込まれた事もあり、自分は何度も咽び泣き続けた。
色々な場所で指差されたり、一人で雑用させられたり、ポケモンと一緒に虐げられたりと、散々な幼少時代を過ごしてきた。
他には森に置き去りにされるなどの扱いだった、思い出すだけで震えが止まらずにいる。
「どうしたらいいんだよ」
自分のポケモンをも拒絶してしまった自分が許せず、自然に拳に力が入ってしまう。
この問題を解く方法は見つかるのか、それとも未来永劫続くのかも分からない。
「──オラ、さっさと寄越せ」
「いや! この子は私のポケモンよ!」
頭を抱えているとバトルコートから声が聞こえてきた。
何事かと思って覗いてみる、其処には二人の男女が口論を繰り広げていた。
まだ幼い少女が種を模した姿のヒマナッツを抱え、高圧的な下卑た笑みを浮かべて赤錆色の髪の少年が腕を引っ張る。
「……ッ!!」
言葉を失った。何故
あの下劣で浅ましい笑みは成長したからか深いものとなり、舐め回す様な眼差しも健在。
サトシはあの頃の忌わしい記憶が脳裏に過り、気付けば足を踏み出していた。
「うっぜえなァ、何なら俺のやり方で奪ってやるよ」
少年は愉快そうに笑みを浮かべ、幼い少女に向けて拳を振り上げた。
少女が目を瞑った瞬間、振り上げた拳をサトシの掌が防いだ。
「ふぇ?」
「逃げるんだ!」
「あ、ありがとうおにいちゃん」
ペコリと頭を下げて少女は去っていく、サトシは少年の手を振り払い距離を取った。
「おいおい……何処の何奴かと思ったら、懐かしい顔じゃねーか」
歪んだ笑みを浮かべた少年はサトシを見るなり、獲物を見つけたかの様に口端を不気味に吊り上げる。
「まさかお前に会うとは思わなかったよ──リュウヤ」
「ヒャハッ! 久し振りじゃねーか、泣き虫サトシ君よォ」
下衆な笑みを浮かべて赤錆色の髪の少年──リュウヤはサトシを見下し、品定めする様な目線を送る。
「さっきの子のポケモンに何をしようとした?」
「俺様の物にしようとしたんだよ。それなのにてめぇが出しゃばりやがるから、逃しやがって」
「人のポケモンを取るのは泥棒だ。ポケモントレーナーとして当然のルールだろ」
「はァ〜? サトシ風情が俺に説教垂れんのか?」
ピクッと眉間に皺を寄せてリュウヤは笑みを深くする。
「気分悪くなったわ。丁度いいから久々にサンドバッグに、なりやがれ!」
そう言ってモンスターボールを投擲するリュウヤ、ボールから飛び出したのは力士の様な外見のポケモン──格闘タイプのハリテヤマだ。
「其処の雑魚に向けてストーンエッジだ!」
石の杭が次々と隆起していき、サトシは慌てて回避していく。
人間に向けてポケモンの技を使ってくるなど正気の沙汰ではない、だが……
当の本人は「ヒャハハハハハハッ!! マジ楽しーわ、お前を痛め付けんのは!」と高らかに嘲笑する。
理由は兎も角躊躇なく人間をポケモンで攻撃するなど以ての他、サトシは必死に逃げ惑う。
「──ちょっと其処の貴方! 何やっているのよ!?」
「サトシ、無事か!?」
「ピカピ!」
轟音を聞いてポケモンセンターから飛び出したカスミ達はバトルコートで繰り広げられる光景に目を見開く、そしてすぐさまサトシの下へと駆け寄る。
「嗚呼……だ、大丈夫」
一瞬ピカチュウと目線が合うも直ぐに目を逸らし、リュウヤに視線を向ける。
「邪魔すんなよ外野がァ! 其処のサンドバッグで遊ぶのが楽しいんだからよォ!」
「何ですって…!」
この状況で言うサンドバッグとは、十中八九サトシの事を指していると一同は理解すると激情に駆られる。
どう言う事なのか分からないが、この目に余る悪意の所業は放置など出来やしない。
「彼奴は……リュウヤは俺と同じマサラタウンのトレーナーだよ」
『!!?』
「ピカ!?」
サトシの口から予想外の事実が吐露され、カスミ達は信じられない様子で彼とリュウヤを交互に凝視する。
「リュウヤは……昔から弱い者虐めを好き好んで繰り返していて、取り巻き達と一緒に立場の弱い奴等を徹底的に痛め付けたり、辱めていた。周りの人の事なんて顧みず、自分の為なら人を暴力を振るう事に躊躇いがないんだ…!」
「御説明ありがとさん」
褒め言葉だ、とばかりにリュウヤは下衆な笑みを浮かべた。
同じマサラタウンの人間でもサトシやシゲルとは正反対、この男は図々しい姿勢と態度を貫き通しており、自身の横柄な振る舞いを正当化している。
「ちょっと待って……サトシ、まさか」
今の話が本当だとするならばリュウヤは弱い者虐めを徹底していた、だとしたら。
「その通り〜♪ 其奴も俺にとって都合の良いサンドバッグになってくれたぜェ」
「何て事を……!」
当時のサトシは日頃から虐められていた。皮肉にもリュウヤ自らが証言する形となった。
「だってよォ、其奴面白え位に変人なんだぜ? 自分からポケモン共の住処に行ったり、迷子になった時はポケモンに助けられたりしてやがった。それをヒントにしてポケモン一匹を軽く痛ぶってみたらあっさりと餌に引っかかってくれた! それが楽しくて楽しくて、毎日毎日此奴で遊んだぜ」
歪んだ思い出話を吐露してリュウヤは懐かしむ。
だが話を聞けば聞く程、それは非道な行為でしかない。
「それに知っているかよ? 其奴には親父がいねえからさ、爽快な気分だったぜ」
ニヤニヤしてリュウヤは下卑た目線をサトシに向ける。
「サトシのパパ……そう言えば一度も聞いた事もなかったけど」
「マサラタウンに訪れてサトシの家にお邪魔した際、それらしき物は見つからなかったが」
「………!」
オーキド研究所での事は聞いてはいたが、彼の様子からすると相当なものだと言う事は窺える。
「傑作じゃねーか! 勉強は全然ダメ、頭ン中はポケモン一色、ポケモンとばっかり遊び呆けてやがる能天気野郎なんだよ、此奴は! その上家族も母親しかいねえ──だがな」
眉間に青筋を浮かばせていき、リュウヤは捲し立てる様に吼える。
「俺は此奴を世界チャンピオンだなんて認めねェ!!」
「どう言う事…?」
「幾つかのリーグや大会でトントン拍子に好成績を出しやがった上、手持ちポケモンの中にゃコネで簡単に手に入んねえ奴ばっか! こんな弱虫野郎があんなに強えポケモン共を扱えるわけがねえ! どうせ世界チャンピオンも単なるまぐれ当たりで手に入れた奴だろうよ!?」
有り得ないとばかりにサトシを指差すリュウヤは彼を睨み、まるで憎悪の対象として見ているかの様だ。
「フシギダネ達はコネでGETしたんじゃない! サトシのポケモンの大半は皆、トレーナーに捨てられた子達よ! 傷ついた彼等をサトシは必死に向き合って、仲間になって今の信頼関係があるのよ!」
「何も知らないお前がサトシを語るのを止めてもらおうか!」
こんなに自分勝手な人間を放置など出来ず、二人はモンスターボールを構える。
「行くわよ! マイステ──」
「今だ、やれ!」
リュウヤが叫ぶと何処からか糸が飛んできて、カスミ達の手を包み込む。
「これは……糸を吐く?」
「え…? ちょ、ちょっと……まさか」
嘘だと言って欲しい。カスミの顔色が段々と青褪めていき、ギギギギと錆びた機械の様に糸が飛んできた方向を見る。
「きゃああああああっ!? 虫は無視ぃぃぃぃ!!」
黄色の体躯を持つ蜘蛛の様なポケモン、虫・電気タイプのデンチュラは嘶き、カスミは絶叫する。
「うへへへ……良い女じゃねえか。デンチュラ、その女の足にも糸を吐くだ」
不気味に笑うリュウヤはデンチュラに指示を飛ばす。カスミの両足が糸で絡まれていき、その場で転倒する。
「カスミ…!」
「ピカチュピ!」
「お前、自分が何をしているか分かっているのか!? ポケモンはお前の道具じゃない!」
タケシは糸を口で噛み千切ろうとするも、中々千切れずにいる。
「ヒャハハハハハハ! 道具以外に何があんだよ、こんな便利に使えばやりたい放題じゃねェか!」
歪んだ笑みを隠そうとせず、リュウヤはカスミに近付き──そのまま覆い被さろうとする。
「ま、まさか…!」
「リュ、リュウヤ! 止めてくれ!!」
「い、嫌! 嫌ァァァ!! 離れなさいよ、この変態ッ!!」
青褪めた表情でカスミは叫ぶ、だが欲望に飢えているリュウヤは耳を傾けようとさえせず口端から唾液を垂らす。
「ピカチュピ!」
サトシに代わって飛び出すピカチュウだが、その行手をデンチュラとハリテヤマが阻む。
リュウヤは唇をキスの形に形成し、カスミに無理矢理接吻しようとする。
「きゃあああああ!」
「止めろ……止めろォォォォ!」
身体が震えて動けない、悲しげに叫ぶサトシの眼前でリュウヤの顔がカスミの顔に届くまで差し掛かる。
ボゴォン!!
「ぼべらああァ!?」
『!!?』
何者かの拳がリュウヤの右頬に突き刺さり、彼は吹っ飛ばされてフェンスに激突。
「た、助かったァ……」
危うくファーストキスを奪われそうになり、安心と共にカスミの目から雫が滴る。
何が起きたのかと身体を起こすと、一人の人物が立っていた。
「ギリギリセーフだったなァ、大丈夫か?」
黒ずんだ逆立った青髪にバンダナを巻き、紺色が基調のジャージ姿の人物。
顔も整っていて、ニヤッと笑みを浮かべている。
その人物は手で糸を引き千切り、カスミを立たせる。
「ありがとう……助けてくれて」
「いいってことよ」
ニヤッと笑みを絶やさぬその人物、そんな
「え……」
「君は……!」
タケシが目を見開く一方、サトシは信じられない表情でその人物を見て驚いている。
「よー、元気そうじゃねーか」
「お、お前………どうして」
困惑するサトシは声を震わせる中、
「はがっ!?」
「ったく、何情けねーツラしてんだ? 彼女ピンチだったっつーのによ!」
「
「だとしても仲間助けねえと駄目だろうが」
「ふぐっ!? ……相変わらずだな」
抓っていた手が離れ、頬を触りながらサトシが呆れた表情を見せる。
「サトシ……知り合いみたいだけど誰なの? 序でにタケシも知っているっぽいけど」
カスミは困惑しながら尋ねる。
「嗚呼……
「そう言う事。オレはタツキ、この馬鹿とは昔馴染みなんだよ」
「馬鹿って言うな! 馬鹿って!」とサトシが突っ込みを入れれば、その人物──タツキは「何だよ、事実じゃねーか」と諭す様に揶揄う。
「サトシってシゲル以外にも幼馴染がいたのね……ん?」
カスミは和やかな光景を見ていると、違和感を感じてタケシに振り返る。
「ねえタケシ、今何て言った?」
「いやだからサトシと同じマサラタウンのトレーナーって言ったじゃないか。ジムリーダー時代、新人だった彼女とバトルした事があるんだ」
「それは分かっている、それは察したわ。私が言いたいのは其処じゃない……彼女って何? 男じゃないの?」
明らかに外見上男性にしか見えない容姿、カスミはある可能性に気付いて口を震わせる。
「カスミ……
ひくっと、サトシから残酷に告げられた言葉に絶句する。
「嘘ォ!? 本当に女の子!?」
「あァ、気にすんな。良く間違えられっから、細かい事だからな」
確かに良く聞けば男にしては声音が甲高く、睫毛も少し長い。
スレンダーな体格だから、男と誤認してもおかしくない容姿であろう。
その時、吹っ飛ばされたリュウヤがフェンスから起き上がり、怒りの形相を浮かべる。
「この男女ァ! テメェ……俺の楽しみを邪魔しやがってェ!!」
「何言ってんだか。サトシの仲間を襲おうとした上、お前みてえなケダモノの行為を野放しにできっかよ」
呑気に背伸びしてタツキは言う、その眼差しには侮蔑が含まれているのは致し方あるまい。
「いつもいつもいつも! 昔からテメェは俺の楽しみを奪う! オーキドのジジイの孫のシゲルも、頭の良過ぎるトウマも! テメェ等、全員叩きのめせ!」
デンチュラとハリテヤマは戦闘態勢に入る、タツキはふう……と息を吐く。
「しゃーねえ、軽く遊んでやるよ」
と言ってモンスターボールを投げる、同時に飛び出した光は形になっていく。
「リザァァァアアアッ!」
サトシも所持するヒトカゲの最終進化形、リザードンが咆哮と共に顕現する。
「リザードン!? あ……そう言えばシゲルはオーキド博士からカメックス──ゼニガメを貰ったんだっけ?」
「嗚呼……彼女も博士からヒトカゲを貰ったと言っていたよ」
当時を思い出してタケシは説明する。
「よーし相棒、出血サービスだ。好きにやっていいぞ」
リザードンはコクリと縦に首を振る。カスミとタケシはその指示に驚き、リュウヤは吹き出す。
「ヒャハハハッ! 気でも狂ったかよ!? んな適当な指示で俺様に勝てると──」
勝てると思ってんのか、そう肯定しようとしたリュウヤの言葉は、デンチュラが灼熱の炎に飲み込まれた事で途切れた。
「────あァ?」
突然の事にリュウヤは硬直、何が起こったのか理解出来ずにいる。
分かっているのは──彼女の相棒たるリザードンの火炎放射で瞬殺されたと言う事。
「その汚ェ口で人を馬鹿にする前に行動したらどうだよ」
「ッ!! この俺に指図すんなや! ハリテヤマ、突っ張りだ!」
激情に駆られてハリテヤマに攻撃を指示、それと同時に──
ドゴォン!!
「…………は?」
ハリテヤマも瞬殺された、雷を纏った拳一発で。
「か、雷パンチ……しかもたった一撃で」
あんないい加減な指示一つで圧勝する様にカスミは唖然、タケシもまた同じ反応を見せている。
サトシに至っては遠い目をしている。
「ク……クソ! この役立たず共がァ!」
唾棄しながらリュウヤはハリテヤマ達を戻し、怒りに震える。
「おいおい……幾らなんでも弱過ぎだろ、いや……トレーナーのレベルの方が問題か?」
呆気ない結果にタツキは驚き、寧ろリュウヤのトレーナーとしての腕に疑問視する。
「クソ、クソ! こんな見窄らしい男女にバトルにも勝てねえのかよ! いや…シゲルのお坊ちゃんやイケすかねえトウマや此奴ならまだしも、泣き虫サトシなら楽に勝てるかもなァ?」
下衆極まりない笑みを再び浮かべ、リュウヤは後方に退がり始める。
「覚えてやがれ! そんな見窄らしい
小悪党ばりの捨て台詞を吐き捨て、リュウヤは走り去った。
「あの野郎……ちっとも成長してねえな、色々な意味で」
「それよりも……サトシ、大丈夫?」
タツキが呆れる一方、タケシの両手の糸を漸く切り終えてカスミが彼に駆け寄る。
「……うん、大丈夫」
未だに沈んだ表情で頷く、ピカチュウはその様子を悲しげに見つめる。
意気消沈とした重い雰囲気が漂い、タツキは直ぐにその空気を察した。
果たしてどうしたものか、そう考えてスマホロトムを操作する。
そして左耳に触れ、通話の相手の応答を待つ。
《……なんだ?》
聞こえてきたのは、バリトンボイスの低い声だ。
「よう、今暇か〜? 悪いんだけど、ちょっとこの先のヤマブキシティに集まれねーか?」
《……暇でなければ応答せんぞ》
声の主は若干イラッとしながら答える。
カスミとタケシは困惑するが、サトシは少し大きく見開く。
「いいじゃんかよ〜。こんな時だからこそお前の頭脳が必要じゃねーか? それに──直ぐ其処に懐かしい奴がいるんだぜ?」
《ほう…?》
「……まさか、トウマか?」
サトシがタツキの隣に近寄り、声の主──トウマに問う。
《久しいな……世界チャンピオンの祝辞を言う丁度いいタイミングだ、其方の要求を呑むとしよう》
「おっ、マジで? んじゃ、後でな?」
スマホロトムの通話が其処で切れ、サトシに向けて笑みを浮かべるタツキ。
「この際だ、シゲルの野郎にも連絡してやるか」
「お前、本当に相変わらずだな」
「喧しいわ。兎に角色々準備だ、準備!」
先程までの重い空気は何処へやら、タツキは和気藹々とサトシを交えてポケモンセンターへと向かう。
(ねえタケシ……さっきのトウマって言う名前もサトシと同じ?)
(嗚呼、マサラタウンのトレーナーだ。彼はフシギダネを手持ちにしていた)
和気藹々とする男装少女に絡まれつつも、サトシは黙って着いていく。
カスミ達も苦笑いしながら、二人の後を追うのだった。
To be continued
次話はもう一人のトレーナーも登場しますのでお楽しみ下さい。