ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE 作:虎武士
ヤマブキシティ。
カントー地方の都市の中でも群を抜いている大都会。
因みに此処にはシルフカンパニーが構えられており、捕獲用のモンスターボールを人工的に開発・量産化。
更に傷薬や虫除けスプレーと言った製品の販売にも流通していて、カントー及び世界中の人々からは絶対的な人気を誇っている。
他にもポケモンリーグ公認のヤマブキジムや、格闘道場もあってジムや道場に挑むトレーナーが多い。
そんな街の中で人々が行き来する中、ジョウト地方と繋ぐリニア駅から一人の少年が出て来る。
角刈りの黒髪に無愛想な表情、赤錆色のタンクトップの上に袖無しの黒いベストを纏っている。
懐かしい
「ねえねえ、あの子イケメンじゃない!?」
「あんなクールな感じ、ああいう彼氏が欲しいな〜」
通りすがりの女子達から黄色い声が上がるも、特に気にすることなく彼は黙々と歩く。
煩わしいと思いながらも歩みを止めず、「この先か」と歩道を右に向かって歩き──暫くしてポケモンや街の人々が屯する公園が見えてきた。
「あの公園だったか」
子供達のはしゃぐ声や女子達の黄色い声、動じることなくベンチに腰を下ろす。
まだ時間もあってか本を取り出して開き、そのまま読書を始める。
更にノートを取り出してペンシルで書き込み、一種のメモ帳の様に書き込む。
勉強熱心だな、と一部の大人達が少年の姿を呑気に眺めている。
カリカリッとノートにペンシルを走らせ続け、やがて自分に近付いてくる足音に気付いた。
「よートウマ、待ったか〜?」
「……別に待ってはいないが、そう言う台詞回しは男が女に対して述べるものだ」
確かにな、と男装少女──タツキはニヤッと笑う。
「トウマ、久し振りだな」
「サトシ……それにニビジムのタケシさんか」
「もうジムリーダーじゃないんだが、ジム戦以来だな」
当時のジムリーダーだった男にコクリと少年は頷く。
「初めまして、私はカスミ。ハナダジムのジムリーダーよ」
「ハナダジム…? サクラさん達の妹御か」
「ええ、私はあの時旅に出ていたからね」
カスミは苦笑いして返す。少年は読んでいた本を閉じ、腰をゆっくりと上げる。
「トウマだ。此奴等と同じマサラタウンの出だ……今後とも宜しく頼む」
初対面のカスミに少年──トウマは自己紹介し、カスミも「此方こそ宜しく」と返答する。
「うっ、くっ…!」
公園の片隅でサトシの苦悶の声が上がる。
恐る恐るスローモーションで両手を伸ばし、ピカチュウに触れようとする。
ガタガタと冷気に触れた様に指先が震えるも、後一歩までその黄色い身体に届く──その寸前で手を地面に着いてしまう。
「クソッ! 駄目だ……こんなんじゃ!」
今の自分はあまりにも役立たず、カスミ達のお荷物にもなっている足手纏いだ。
デザイアの企みの阻止、そしてポケモン・ワールド・カルナヴァルの制覇どころではなくなっている、この状況が非常に恨めしい。
ポケモンバトルどころか、ポケモンにすら触れない自分を変えたいというのに。
「なーるほど、それで彼奴はポケモンに触れなくなっちまったわけね」
そんな彼が悪戦苦闘にリハビリを進める中、ベンチでカスミ達がタツキとトウマに事の経緯を説明していた。
「その様な事がクチバシティであったとは……噂のデザイアとやら、そうまでして人々とポケモンに害を齎すか」
読書しながらトウマは耳を澄ませ、デザイアの所業に憤りを覚える。
歴史書や算学に関する知識本、更にポケモンバトルの関する書籍を読み続ける。
カスミはかなりの本の虫だな、と思いつつ軽く咳払いする。
「それとリュウヤの事……同じ町の人間として恥ずいわ」
「……誠に申し訳ない」
深々と頭を下げる二人、同郷の人間としてリュウヤの下衆極まりない愚行に罪悪感を感じてしまう。
「それよりも本当なの? サトシが虐められていたと言うのは」
とても今の姿から想像出来ず、カスミもタケシも、リハビリに付き合うピカチュウも信じ難い様子だ。
「事実だ」
「彼奴が痛め付けられていたのはマジだ、有り得ねえくらいにな」
何処かやり切れない表情でタツキとトウマは答える。
「あの野郎から聞かされたろ? 彼奴に親父がいねーって」
「リュウヤにとってその話は最高の材料であり、奴は日々サトシを辱め──そして過剰な暴行を振るった。歪んだ笑顔と共に」
「何人かの連中もそれを面白がっていびり続け、彼奴等にとってサトシはガス抜きに丁度いい獲物だった」
確かにリュウヤのあの様子は玩具を見つけた様な残酷な笑みだった。自身の行為を犯罪と自覚しても止める事を厭わず、己の欲望を満たさんが為に猛威を振るう傾向が見られた。
あの異常な狂気的精神、自分の逆らう者がいれば必要以上に痛ぶる事を楽しんでいた。
「ママさんはこの事を知っているのか?」
「いや……奴本人はこの事を隠蔽している筈だ。だが、恐らくは薄々気付いているかもしれん」
「多分彼奴自身が話すまで知らねえ振りを通してんだろ。懐の深え御袋さんだよ、全く」
太陽みたいに心の広いハナコの包容力、意地っ張りなのか、強かなのか、彼女の慈悲深さに感服する。
「──それじゃあ、
「………おう」
幸いサトシはピカチュウとリハビリに励んでいる為に聞こえず、話すなら今が良いタイミングだろう。
「オレらも良く知らねえんだ。博士や御袋さん、シゲルの親父さんもあまり良い顔をしねえからさ、
「だが何故そうなったのか、博士とサトシの母君の密談を聞き耳を立てた事がある」
互いに目配せして頷き合い、意を決して口を開く。
「その時博士達は言っていた。奴は赤ん坊の時、
血の気が引いた気がした。
「は……?」
「誘拐…? 赤ちゃんの頃に…?」
本当にそんな事が起きていたならば、恐らくマサラタウンの歴史上の大事件だろう。
「何処の何奴だか知らないけどよ、当時の大人達はきっと血相変えて探していたと思う。んで、御袋さんと博士達が町の外に出て数日後にサトシを見つけたそうだ」
そう言えば、とトウマは呟く。
「リュウヤが
「嗚呼……そういやそうだよな」
「あの時?」
気になる単語が出て来た為、敢えて問い質す。
「十年くらい前だったか……リュウヤ達が過剰に野生のポケモンを痛ぶった事があった。サトシがそれを守ってサンドバッグ扱いされていた」
「けどその虐められていた場所、マサラタウンで最も高い崖っぷちだったんだよ。リュウヤの野郎、面白半分でサトシを崖から突き落とそうとしやがったのさ」
それはやり過ぎだ、と人の道を外れる所業にカスミもタケシも言葉を失う。
そしてその崖から落とそうとした寸前、サトシの雰囲気が急に変貌した。
まるでそれは人を殺し慣れた悪魔の様であり、またはポケモンとは全く異なる獣の様に思えた。
リュウヤを始めとした虐めっ子の少年達を嬲る様に殴り、快楽主義の如く飽く事なく、サトシは悦びに浸って殴打を繰り返した。
「ちょ、ちょっと待って! それってまるでクチバシティの時の──」
「……どうやらもう知ってるみてえだな」
あの時のサトシも破壊衝動を悦び、躊躇なく街を破壊して高笑いしていた。
だが普段の様子からしてそれを覚えている様子もない、完全にその時の記憶が完全に飛んでいると見ていいだろう。
それだけではない。
これまでの旅先で見てきた常人離れした身体能力、異常な回復力、それらが先述された
「それで
「……蔑称でそう蔑まれ続け、リュウヤが旅立つまで奴は都合の良い獲物と見做された。そしてその結果、ポケモンに関する知識が不足し──」
「今の彼奴が形成されちまったってわけ」
本当に信じられない事だった。自分の時間も削られ、その大半は暴力を振るわれ続けた幼少期。
この二人は勿論、シゲルがいなければサトシの心は壊れていただろう。
「だからこそ頼む……サトシを支えて欲しい」
「彼奴を良く知る人間として……何より、彼奴自身が本当の意味でもう一度ポケモンと触れ合えるまで」
深々と頭を下げるタツキとトウマの一礼にカスミとタケシは呆然、同時に改めて決意を固めるのだった。
出来ればこの話は、他の旅仲間やアローラにいるクラスメイト達にも伝えようと胸中に留める。
To be continued