ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE 作:虎武士
木々の合間からポッポやスバメ、ムックルなどの鳥ポケモン達の囀りが聞こえてくる。
山々から太陽が昇り始め、今日一日の朝を静かに知らせてくれる。
すう、すう、とサトシは静かに寝息を立てており、その隣でピカチュウも寝息を立てる。
ピカチュウは彼が触れなくなっても信頼を失うことはなく、付きっきりに寝ている。
正に信頼の賜物と言うべきだろうか、朝食の準備をしているカスミ達は温かく見守っている。
出来る限り起こさぬ様に、一度は朝食を作っていく。
一方、山々の上空をニャース型の気球が浮遊していた。
「あぁ〜あ、なんか退屈〜」
「まあそうだよな〜」
気球の中でムサシとコジロウの気怠い声が漏れる。
「いつもの様にジャリンコピカチュウGET! ……と言いたいんだけど」
「今のジャリボーイを見ていたら、そんな気全然起きないや」
一般人を装ってここ数日サトシの事を遠くから伺っていたが、ポケモンに触れなくなったあの様子では、そんな意欲が芽生えない。
あんな無抵抗の様子を見ているだけで全く出世欲も、ピカチュウGETする気にもなれず、唯々自堕落な日々を過ごすだけである。
「ニャにを甘い事を言ってるのニャー!!」
ニャースの怒号が二人の耳の鼓膜に響く。あまりに大声だった為に二人は耳を塞ぐも、ニャースはいつになく真剣であった。
「ジャリボーイが腑抜けになっている今がチャンスじゃニャいか!? ピカチュウを除く彼奴等のポケモンを根刮ぎGETし、サカキ様に献上するべきニャ!」
忠誠心と出世欲を燃え激らせてニャースは叫ぶ、野心を募らせて彼は実行する事を進言する。
「確かにピカチュウ以外のポケモンはGETするべきね」
「あんな状態のジャリボーイを襲うのは心苦しいが、今となっては不倶戴天のチャンス!」
それが導火線に点火したかの如く、ムサシとコジロウの瞳に火が灯される。
「早速準備に取り掛かるわよ!」
『異議なし!』
彼等はまだ知らない、
『強いポケモンをGETしていい感──』
バゴォォォォオオオン!!
「ガニィィィィィィイイイイッ!!」
『……じ?』
低空飛行中の気球の真横。
凄まじい勢いで
そして同時に、直ぐに後悔する事になった。
『うぎゃああああああああああっ!!?』
朝食後の試練。
サトシは走る。
地獄とも言える危機的状況──岩・地面ポケモン達の猛攻を振り切る為に。
「うおおおおおおおおおおおッ!!!」
「サトシー! 頑張りなさーい!!」
「ちゃんとポケモンに触れる様になるまでだ! 頑張れ〜〜〜っ!!」
仲間達の声援を受けて走り続け、凶暴な彼等の攻撃を掻い潜っていくサトシ。
石の杭に岩の雪崩、砂地獄や砂嵐、地震などの攻撃手段が彼に襲い掛かってくる。
それでも彼は諦めない、否──挫けるわけにはいかないのだ。
如何なる攻撃に晒されようと、どうにか掻い潜り続ける。
その先に光があると信じて──
「はあっ、はあっ、はあっ……!!」
何とか逃げ切って息を整えようとサトシは息遣いを繰り返す。
「おぶえええ…!!」
急激に吐気が催され、四つん這いになると溜め込んでいた物を出してしまう。
まだ13歳と言う成長途上の身体がこの過酷な特訓に堪えられないのだ。
「まだ……まだだ。俺はまだ何も、出来ていない…!!」
弱音は吐かない。ポケモン達に、相棒に手が届くまでは折れるわけにはいかないのだ。
完全に
「君は本当にそれだけが望みか?」
「は…!?」
いつの間にか石の上に座しているイシオがそう尋ねる。
「君は君自身の価値を見誤っている。世界王者と周りから持て囃され、その重圧と自身の境遇に余裕が無くなっているのだからな」
「俺自身の価値…?」
「そうだ。君は自分自身を無自覚に蔑ろにし、他人と距離を置いている。人とポケモンを優先的に信頼する一方、君は君自身を信じていない。まるで──自分を恐れているかのように」
反論出来なかった。
クチバシティを襲った
恐怖、畏怖、拒絶、憔悴、怒気、悲哀──そして絶望。
様々な単語が脳裏に張り巡らせられて、サトシ自身の心に多大な負荷を蓄積していく。
「………む?」
「イ、イシオさん?」
「あれを見るがいい」
何かに気付いたイシオが指を示した先を見てみる、その先で何やら轟音や土煙が発生している。
「な、何だ…!?」
「あの地域は最近住み着いた野生ポケモンが一匹、縄張りを敷いている場所だ。恐らく……何者かがその縄張りに侵入してしまったのだろう、その所為でそのポケモンが暴れ回っているかも知れん」
研究者や科学者と繋がりがあるのか、冷静に考えて推測するイシオ。
「そして更にそのポケモンは別の地方から密猟者によって逃がされ、我等人間に対して敵意を剥き出しにしている。密猟者に不当な扱いを受けたかは分かりかねるが、この事態を見過ごす事は出来ん」
イシオは静かに走り出す。
「あ、イ、イシオさん!」
その後ろ姿をサトシが追い、ピカチュウもそれに続く。
「ガニィ〜〜!!」
そのポケモンの鳴き声と共に強靭な鋏が振り下ろされると、岩が砕ける。
地面に亀裂が入る、土煙が舞い上がり周囲の視界が塞がる。
『ぎゃああああああああ!!!』
ロケット団の三人は悲鳴を上げながら走り回り、後ろの襲撃者から追い付かれんとばかりに駆け出す。
「め、珍しいポケモンなのニャ〜〜!」
「ゲ、GETしたいけど、分が悪過ぎるじゃない!」
「しかもあの数だぞ! 殆ど自殺行為だ!」
この周囲にカントーの岩・地面タイプの最終進化形がごまんといて、まともに太刀打ちなどとても無理に等しい。
しかもあの蟹ポケモンに気球に穴を開けられて、完全に勝ち目が見つからず。
その現場にカスミ達が到着し、その光景に目を大きく見開き驚く。
「何だ、あの連中は」
「しかもあのニャース、二足歩行な上に人語を話してんぞ」
「あああ〜〜……大丈夫だ」
「いつもピカチュウを狙っては返り討ちにあっている、ある意味可哀想な大人達とニャースよ」
『?』
それだけでは理解が難しいが、兎に角タツキとトウマは事態の鎮静を優先する。
「ウソッキー! 地面にアームハンマーだ!」
木の様に思える姿の物真似ポケモン──ウソッキーは、両手で地面を殴り付けると隆起し、ポケモン達はバランスを崩す。
「ギャラドス、竜巻よ!」
青い巨体の尾鰭から突風が起こり、ポケモン達は空に巻き上げられる。
「相棒、火炎放射で追い立てろや!」
「フシギバナ、花粉を散布するといい」
リザードンの吐く炎でポケモン達は壁際まで追い立てられ、フシギバナの花弁から発される花粉が霧散され、忽ち殺気立つ彼等から戦意を奪っていく。
着々と数を減らしていっているも、それでもまだ足りない。
無用に彼等を傷つけまいと、彼女達は奮闘する。
「ガニィィィィィ!!」
もっと暴れたいと言っているのか、蟹ポケモンが鋏で地面を殴り付ける、隆起した石が押し寄せてカスミ達を襲う。
「きゃあっ!」
「うおっ!?」
「ぐうぅ…!」
「チッ…!」
ストーンエッジによって自分達のトレーナーが危機的状況に晒されるも、ギャラドス達は凶暴なポケモン達を抑えるのが先だと判断する。
「ピカァ…!」
ピカチュウも戦列に加わり、電撃で牽制しながら迫り来る敵の猛攻を避け続ける。
だがいつまでも同じ事を繰り返すわけにもいかない。
まだ本調子ではない
「ピカチュウ…! 皆も…!」
イシオと共にサトシがその現場に到着し、サトシは目の前で起きている光景に目を丸くする。
何故かロケット団がいるも、それは流すとして──見た事もない蟹ポケモンに視線を向ける。
「あ、あのポケモンは…!?」
「ガケガニ……パルデア地方に生息する岩タイプのポケモンで、先程話した件のポケモンだ」
蟹ポケモン──ガケガニは大きく吼え上がり、ピカチュウに向けて鋏を突き出して襲い掛かる。
慌ててピカチュウは躱し、カウンターの要領でアイアンテールを決める。
鋼タイプの技を受けたにも関わらずガケガニは平然とし、決定打に至る様子が見られず、寧ろ苛立ちのあまり怒りを募らせている。
同時に何やら殻を破ったかの様に能力を向上させていき、ガケガニは凄まじいスピードでピカチュウを鋏で殴り飛ばす。
「ピカチュウ!」
「殻を破るだ! 攻撃力とスピードを上げたんだ! ピカチュウに対抗する為に!」
野生でありながら妙に賢いガケガニの技、その身体能力に驚かされる。
だがピカチュウも負けていない。襲い掛かるガケガニの猛攻を電光石火で躱し、スライディングで下に潜り込む。
「ピ〜カ〜チュウゥゥゥゥ!!」
「ガガガッ!?」
真下からの電撃で痺れて悲鳴を上げるガケガニ。だが左右の鋏を伸ばし、真下の標的を捕えた。
「あっ!」
「ピカチュウ!」
「ガニィ!」
してやったとガケガニは勝ち誇り、鋏を振り下ろしてピカチュウを地面に何度も殴り付ける。
「コラァ! ピカチュウをGETするのは私達よ!」
「そうだそうだ!」
「こうにゃったら纏めてGETしてや──」
今気付いた、メカも何も持ち合わせがない事に。
捲し立てるロケット団を「何か言ったか?」とばかりにガケガニが凝視してくる為、一同は思わず後退りしてしまうのだった。
「ピカチュウ…!」
胸を握り締めるサトシは歯痒さを感じ、居た堪れない心境にあった。
共に戦い、共に在りたい
今でも飛び出していきたい。それなのに──身体が震えて動けない。
カスミが、タケシが、タツキが、トウマが、ピカチュウが必死になって戦っているというのに。
「君はどうする気だ」
イシオは彼に問い掛ける。
「暴れるポケモン達を彼等は鎮めようとしている──本来昔から人が恐れたポケモンと言う存在を。君はそれを指を咥えて、唯々傍観するだけか?」
「俺は──俺は──俺自身が怖い……!!」
その場で四つん這いになり、大粒の雫をポタポタと地面に滴っていく。
「街の惨状やカスミ達のその時の眼差しを見て、俺が悪いんだって認めるのが怖かった…! それだけじゃない……自分が得体が知れなくて、ママを悲しませ続ける奴の子供だと思うと…!」
ジンやオーキドから聞かされたまだ見ぬ父の存在、リュウヤの様な卑劣漢との再会、そして此度の一件……自分が自分でなくなるのが今でも恐ろしくもある。
「俺……もう皆の足手纏いになりたくないんだ! このままいなくなった方が──」
ふう、と小さくその人物は息を吐く。そして──静かに言葉を紡ぐ。
「────それでいいじゃない」
「え……?」
カスミの呟きにサトシは呆然とする。
「誰がいつ、迷惑だなんて言ったのよ? ウジウジしているなんてあんたらしくないわよ」
「そうだな。ポケモンが誰よりも大好きで、バトルが三度の飯より好きな仲間。世界王者なんて持て囃されているが、俺達にとっては純粋なポケモン馬鹿」
「カスミ……タケシ……」
無意識に曇り続けた瞳に、小さな光が灯された気がした。
「ポケモンの為ならば自らの犠牲にしがちで、煽てられて少々天狗になってしまう。だがそれも含めて、
「忘れないで。あんたがいなくなったら悲しむ人達がいる事を」
温かな光が伝わってくる、カスミ達だけじゃない。
『サトシ』
母・ハナコが。
オーキドが。
ケンジが。
ハルカが。
マサトが。
ヒカリが。
デントが。
アイリスが。
シトロンが。
ユリーカが。
セレナが。
リーリエが。
スイレンが。
マーマネが。
カキが。
マオが。
コハルが。
ゴウが。
この場にいない筈の仲間達が──家族が、恩人が、数々の旅で出会ったライバル達の声が聞こえた気がした。
澱んでいた光が瞬き、全てを照らす光になっていくのが分かる。
「……ああ、そうだよ。何で忘れてたんだろうな」
分かっていた事の筈なのに、知らず知らずのうちにその絆を否定しようとしてしまった。
家族や仲間達、そして数々の旅の思い出を。
「ピカアアアァ!」
ガケガニは勢いよく腕を振り回し、大きく振りかぶって投擲した。
その先には大きな崖が広がっており、このまま落ちれば崖下へと転落して命に関わる。
「ピカチュウ〜〜〜!!」
サトシは息を切らして駆け抜けていき、道中のポケモン達は思わず呆気に取られる。
周りの事など気にすることなく、崖下に落ちようとするピカチュウへと向かう。
崖の端までスライディングし、両手を伸ばす。
その両手に黄色い小柄な身体が、すっぽりと収まる。
「サトシ……」
「お、おいおい! マジか!」
幼馴染組であるタツキとトウマは驚き、心なしか嬉しそうに声を上げる。
「ピカ……ピカピ!」
「ごめん、ピカチュウ…! 今まで、本当にごめん!!」
何も分かってやれなかった自分を恥じ、謝罪をサトシは吐露する。
だが、皆が着眼すべきはそこではない。
「サトシ、お前……!」
「さ、触れてる…! ピカチュウに触れているわ…!!」
「!! お、俺……!!」
これまで触れる事を拒んできたポケモンへの感触、ほんの数日がまるで長年の様に感じた。
感極まる思いだが、今は状況が状況である。
「………受け取れ」
「え…?」
イシオがベルトを投げ込み、サトシの下へと落ちる。そのベルトには、五個のモンスターボールが付けられていた。
「俺のモンスターボール!」
「恐怖に打ち勝った証だ…思う存分力を振るうがいい!」
「はい…!」
すぐさまズボンにベルトを巻き込み、五個のモンスターボールを拡大させる。
サトシは既に知っている、ボールの中に誰が入っているかを。
「──皆、出て来い!」
イシオの言葉を汲み、両手でモンスターボールを空高く投げた。
ボールが開かれ、五つの光が飛び出し姿形を形成していく。
「グキキ」
最初にオーキド研究所に転送され、初戦で進化を果たした水タイプのキングラー。
「マグッ」
ジョウトで出会った気紛れ屋で、やる気の炎を開花したマグマラシ。
「ジュイッ」
ホウエン時代のエース級で、一匹狼を気取るジュカイン。
「チャブゥ!」
カロスの森の元チャンピオンにして、強さを高めている格闘・飛行タイプのルチャブル。
「ガルッ!」
水・地面タイプで、イッシュ地方のとある池のボスだったガマガル。
クチバシティを発つ前、カスミとタケシから教えられた為、記憶している。
「………皆、ずっと心配させてごめん」
『………』
キングラー達はその謝罪に耳を傾ける。
ボールの中で彼の様子を見ていた為か、ずっと飛び出していきたかった。
だが彼等は待った……サトシが立ち直る時を、それは研究所にいる他の仲間も同じ気持ちだろう。
「皆に触る事が怖くなって……ずっと一緒にいられなくてごめん。今更どの面下げてって思ってるかもしれない、でも……俺はもう大丈夫」
これまで抱えていたものが晴れて、纏っていた雰囲気が明るくなった気がする。
彼等は静かに笑みを浮かべる、サトシはずっと見限られていると思っていた分、安堵感を感じた。
「……よーし、皆、行くぞ!」
今こそ再起の時──そして、
「ピカチュウ! 地面に向けて10万ボルト!」
「ピ〜〜カチュウ〜〜!!」
赤い頬袋から放たれた電撃は地面を砕いて空に舞い上がる。
砂利の雨がポケモン達に振り注ぎ、相手側はそれに戸惑って怯む。
タケシはこれに覚えがある。シンオウリーグで彼の最強のライバルが、エレキブルに指示した戦法だ。
電撃が通らないグライオンに対し、岩が雨の様に振り注いで襲った光景が記憶に蘇る。
「マグマラシ! スピードスターで牽制するんだ! キングラーはバブル光線!」
立て続けにマグマラシが無数の星型の光を放つ。岩・地面タイプの彼等には効果が薄く大した威力を成さない、だがそれが隙を作りキングラーの鋏から無数の泡が放たれる。
「ルチャブルはシザークロス! ジュカインはリーフブレード! ガマガルはハイドロポンプ!」
ルチャブルとジュカインが斬撃系統の技を放ち、肉薄された瞬間を狙って凄まじい水流がポケモン達を吹き飛ばす。
「ルチャブル、フライングプレス!」
崖っぷちに立つルチャブルはポージングを取り、レスリングの如きの動作で必殺の攻撃を決める。
「キングラー、破壊光線! ガマガル、ハイドロポンプ!」
水タイプ二匹は高威力の技を使ってポケモン達を吹き飛ばす、同時に地面が微塵に抉られる。
「ジュカイン、種マシンガン! マグマラシ、噴火!」
種を思わせる光弾、そして背中の炎から発せられた火球が雨の様に降り注ぐ。
「ガガガ……!?」
理不尽にも数の暴力で此方が断然優位に立っている。
だと言うのに、たった一人の人間の少年とポケモン達により戦力差は覆され、ガケガニは絶望的状況に立たされた。
全身から冷や汗が流れ落ち、絶対勝てないと、本能がそう告げてくる。
「アイアンテール!」
「ピッカァ!」
「ガガァ!?」
思考を働かせている内に隙を作ってしまい、鋼鉄の一撃をまともに受けてしまう。
このままでは勝つ事など不可能、ガケガニは恐れを成して撤退しようと試みる。
だが、サトシのポケモンの容赦ない攻撃が次々と繰り出される。
リーフブレード、フライングプレス、火炎放射、ハイドロポンプ、そして破壊光線。
一部分だけでも効果は抜群の草・水技を受けていき、最早ガケガニは虫の息であった。
「……」
「………!?」
それ以上追撃して来ないサトシを警戒しつつ、その場からさっさと逃げ去った。
「……ふう」
張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、近くにあった石の上に座り込むサトシ。
「ピカピ」
「はは……ありがとうなピカチュウ」
お疲れ様とばかりに手を叩き、苦労を労わるピカチュウ。
あの悪夢の様な数日間から解放され、苛まれた心の痞えが取れてサトシは希望に溢れた笑みを零す。
「サトシ!」
「サトシ、大丈夫か!?」
カスミとタケシが慌てて走ってくる。野生ポケモン達がもう痛い目に遭いたくないとばかりにサトシ達に恐れを成して帰っていき、それをタツキとトウマが無言で見届ける。
「ああ……もう大丈夫、ちゃんとピカチュウや皆にも触れる」
ピカチュウのギザギザの尻尾、キングラーの鋏、マグマラシの背中、ジュカインの腕の葉、ガマガルの頭、ルチャブルの翼。
彼等の気に入っている部位に触ると、心温まる様な笑みを見せてくる。
「──良くぞ耐えきり、一皮向けたな」
「イシオさん」
「君の恐怖を克服し、揺るぎないその形を成した
『…???』
イシオの言葉にカスミとタケシは頭に疑問符を浮かべて首を傾げる。あの死ぬ程のスパルタ特訓、偶然だったとはいえ暴れ回るポケモン達の沈静化。
まるで照らし合わせた様な訓練と課題だったが、それを試験と言う名目で片付ける言い回し。
今までずっと訝しんできたが、サトシは漸くその違和感の正体に行き着いた。
「──今この時を持ってマサラタウンのサトシ、君はこの
カスミとタケシは吃驚する。カルナヴァルのルールブックに記載されていた、18人の試験官。トークンを得たトレーナー達の壁となるべく立ち塞がる、実力者達。
その内の一人、岩タイプ専門の試験官が目の前にいる彼だったと言う事実にサトシは漸く納得がいった。
「と言うか、タツキとトウマは気付いていたのか?」
「ま、薄々はな。これ俺らが出しゃ張るのいけねえ事だから、敢えて知らねえフリを徹しようと思ってな」
「……右に同じく」
空気を読んであくまでこれはサトシ自身が臨んだ試験の為、彼が乗り越えるまで堪えている必要があった。
カントー国際警察の捜査官、基、岩の試験官イシオの挑戦権を獲得したサトシ。
彼とのバトルに備え、英気を養う事となった。
因みにロケット団はバトルのどさくさに紛れ、山から逃げ去ったそうだ。
時は少し進み、サトシとポケモン達によって撤退を余儀なくされたガケガニは近くの山道で一人のトレーナーに挑んでいた。
自身はこのカントーでは珍しく、稀少なポケモンなのだろう。
だがそんな人間の価値観など関係なかったが、挑んだ相手が悪かった。
「ガニィ!?」
「呆気ないわね」
サトシ達から受けた傷もあってか、ほんの数分で倒れ伏した。
ガケガニに遭遇したトレーナーの少女──セリカは予想外の勝敗に驚きつつも、表情を変えずにガケガニを観察する。
「モンスターボール……シュート」
そしてモンスターボールを投げ、命中したボールの中にガケガニが吸い込まれる。
ボールはカタカタと震え、やがて振動が収まると赤い点滅が消失する。
「……貴方も共に来てもらうわよ。……私の野望の為に」
ガケガニの入ったモンスターボールを手にし、冷淡に呟くセリカであった。
二人が激突する日は、もう近いだろう。
To be continued