ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE   作:虎武士

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最新話、試験官バトルをやっと書き上げました!

10000万文字を超える長文ですので、どうぞ閲覧して下さい。


#29 試験官バトル!聳え立つ岩山のメガプテラ!!

 ヤマブキシティの東にある7番道路。

 

 シオンタウンへと結びつく一本道の道路で、自転車を乗り回す暴走族が陣取る事が比較的に多い。

 

 しかし本日はその暴走族達は締め出され、一般的なトレーナーが屯する事が目立つ。

 

 彼等は今、開催中のポケモン・ワールド・カルナヴァルの公式バトルを拝見するべく、この地に集っている。

 

 行列の先には──中世を思わせるコロッセオの様な建造物が建っていて、彼等はその中で行われるバトルを拝見しようと客席に座っていく。

 

 中には屋台で購入したポップコーンや飲料物を口に含んだり、親子連れの観客やカップルなどが集っている。

 

 雰囲気はまさに中世的な世界観があるが、蓋を開けたら公式のバトルを観客が集った催し物そのものである。

 

「まあなんつーか、リーグ運営側もよくこんな凝ったスタジアム作ったよな〜」

 

 客席に座ってタツキが周囲の造形に感嘆の言葉を漏らし、完成するまで相応の時間と費用が掛かったのではないかと当事者たる工事現場の工員達の心中を察する。

 

「多分相当な費用だったと思うわ、まだ子供の私達には想像がつかない程の」

 

「恐らく百万〜億単位はあるだろう」

 

 セレナの呟きにトウマが返し、その場の全員が青褪める。

 

「うええ……」

「そこまでか…!」

「い、言うんじゃなかった……」

「いやお(めえ)は悪かねえよ、KYな此奴の所為だっての」

「………」

 

 まだバトル前なのに気分が削がれた心地になり、無意識に失言を取ったセレナをタツキが宥める。

 

「まあ兎に角、この大舞台でサトシはイシオさんとのバトルに臨む事になる。俺達はしっかりと応援するとしよう」

 

 今は前向きにこのバトルの行く末を最後まで見届けねばなるまい、試験官とのバトルに敗北を喫すれば収集したトークンは全て失い、一からやり直しとなる。

 

「それにしてもタケシって何でも出来るのね。料理も上手だし、サトシから聞いていた通りだわ」

 

「はははは。褒めても何も出ないさ」

 

 セレナからの賞賛にタケシは苦笑い、その対応にカスミは「同じ様にサトシから聞いていたのに、この差は何?」と何故か納得出来ずにいる。

 家事や自炊は時折磨いてきたのに、扱いが違う気がしてならない。

 

 その時、会場内からブザーが鳴り響き渡る。

 

《皆様、本日は御来場頂きありがとう御座います! 只今より、ポケモンワールドカルナヴァル・試験官(バトル)を取り行っていきます! 司会兼実況のジッキョーです!》

 

《解説のカイセーと言います!》

 

《そして毎度お馴染み、ドローンロトムが審判を務めるぜぃ!》

 

 司会兼実況の中年男──ジッキョーと解説担当の若々しい女性──カイセーの言葉にドローンロトムが相槌し、進行していく。

 

《試験官(バトル)はこのコロッセオでの公式バトルがメインとなっていて、試験官とのバトルに勝利すれば与えられるトークンはなんと通常の10倍!》

 

《お得なサービス精神ですかね〜? しかし負けるとそのトレーナーはトークンを全て没収され、一からリトライとの事です!》

 

《何とも言えない鬼畜ルールですね〜! しかし数多くのトレーナーの皆様はチャレンジ精神を持ち、幾度となく強大な壁に挑む事でしょう!》

 

《さてさて、本日のメインイベントへと移行するとしましょうか!》

 

 フィールド内にスモークが噴き出し、フィールドは白煙に包まれる。

 

《先ずは試験官の御登場です! 国際警察のエージェントにして老齢のベテラン捜査官、同時に警察学校の鬼教官とも知られる"風来坊"! 岩タイプの試験官、イシオ〜〜!!」

 

 歓声と共にイシオが姿を現し、トレーナーボックスに立つ。彼の姿を見て男女問わず歓声が上がり、老齢ながらナイスミドルな雰囲気が醸し出している。

 

「あの人が国際警察の…」

 

 西部劇のガンマン風の衣装を纏う男、初めて拝見するセレナは思わず言葉を零す。

 

《続いてこの人物です! 生まれも育ちもカントー地方・マサラタウン、各地方のポケモンリーグで好成績を残し、バトルフロンティアを制覇! 3年前のポケモンワールドチャンピオンシップスを当時僅か10歳で制覇、及び世界王者に君臨する男──サトシ選手〜〜!!》

 

 イシオに引けを取らない程の歓声が響き、スモークの中からサトシ、そしてピカチュウが飛び出してくる。

 

『サトシ〜〜! 頑張って〜〜!!』

「修行の成果をイシオさんに見せる時だぞ!」

「見せてもらおうじゃねーの、成長した姿って奴をよ」

「………」

 

 カスミ達はバトルフィールドに立った彼を見て声援を送り、これから起きるバトルに胸高まる心境にあった。

 

 サトシはストレッチを軽くして身体を解し、ピカチュウも倣って行う。

 

「良い顔をする様になったな」

 

「イシオさんに鍛えられたお陰ですよ」

 

 ほんの数日前まで情けなく不貞腐れ、ポケモンに指一本も触れられなかったのが嘘みたいな本調子。

 

 イシオは不敵に笑みを浮かべ、サトシを品定めするかの様な目線を送る。

 

「これから行うのは修行ではない、正真正銘のポケモンバトル。そして君は私から勝利をもぎ取り、次なるステージ(領域)へと進んでいくのだ」

 

 このバトルに勝利せねば次はない、一からの出直しだとイシオは警告してくる。

 

 この先には途轍もない強敵(ライバル)達、そしてイシオの様な試験官達が待ち受けているのだから。

 

「はい! 俺は絶対勝つ、勝ち続ける! 一緒に旅した仲間だろうと、ライバル達だろうと、ジムリーダーやフロンティアブレーン、四天王だろうと、そしてイシオさん達試験官だろうと!」

 

《サトシ選手、宣言していきます! これはこれで盛り上がっていきますねェ!》

 

 挑発とも取れる宣言に観客の誰もが驚き、やがて時間が迫ってくる。

 

《それではこれより、試験官イシオと挑戦者(チャレンジャー)サトシによるシングルバトルを行うぜェ! 使用ポケモンはお互い三体、何方かのポケモンが三体全てバトルOFFとなれば終了! ポケモンの交代は挑戦者(チャレンジャー)だけ許されるぜ!》

 

 するとバトルフィールドのコートが開かれていき、中から岩山のオブジェが下から迫り上がってきた。

 

《今回のバトルフィールドは岩山のバトルフィールド! 試験官の扱うポケモンに合わせて、試験官に有利なフィールドが現れたぞォ!》

 

 饒舌に語るドローンロトム、彼は更に進行していく。

 

《両者、ポケモンをフィールドに出してくれ!》

 

「よし……ピカチュウ、君に決めた!」

 

「ピカ!」

 

《サトシ選手の最初のポケモンはピカチュウ! まさにベストパートナーと言う言葉がお似合いですね!》

 

《ええ、新人トレーナーの頃からずっと一緒だそうですから! さて、試験官イシオの最初のポケモンは…?》

 

 トレーナーボックスに立つイシオはモンスターボールを取り、それをフィールドに向けて投擲する。

 

 ボールから開口された光は姿形を取って顕現し、その容姿がフィールド上に露見されていく。

 

「ルガァァァァァァアアアアアア!!」

 

 白と薄茶色の体毛を持ち、青色の瞳を宿す四足歩行の犬型ポケモン──そのフォルムはサトシも見知った姿だった。

 

《イシオ選手の最初のポケモンはルガルガン! 真昼の姿のルガルガンです!》

 

 近年、ルガルガン及び進化前のイワンコの生態に僅かな変動が起こった。

 アローラ地方にて茜色の空に浮かび上がる陽が沈む寸前、または陽が昇った直後に"グリーンフラッシュ"という緑色に一瞬輝く現象が発生する。

 それによりイワンコの新たなルガルガンの進化──緑色の瞳に白と橙色の体毛を持つ黄昏の姿が学会で発表された。

 

 その黄昏の姿のルガルガンをこの世に発現させたのはサトシその人である、それを知るのはそれを学会で発表したアローラのポケモン研究者であるククイ博士を含めた一部の人間のみ。

 

《さあそろそろ雑談はこの辺りにして、早速始めましょう!》

 

《観客の皆さんも今か今かと待ち侘びてますからね──そう言う事でドローンロトムちゃん、号令お願いします!》

 

《了解だぜぃ!》

 

 カイセーに催促され、ドローンロトムは号令を行う。

 

《では両者、そろそろいいかい?》

 

「嗚呼」

 

「異存はない」

 

《Let's ポケモンバトル、Start!!》

 

 似非英国風の号令と同時に、客席から大歓声が響く。

 

「行くぞピカチュウ! 先ずは電光石火だ!!」

 

 信頼するサトシからの言葉にピカチュウは駆ける、岩肌の地面を軽やかに走りルガルガンとの距離を詰める。

 

「……岩は何者をも通さぬ絶壁、そしてそれは──小さな芽さえも踏み潰す。ルガルガン、ステルスロック」

 

「ルガッ」

 

 ルガルガンの両眼が青白く輝く、サトシ側のバトルフィールドに尖った岩の棘が顕現する。

 

「そう来たか…!」

 

 ストーンエッジは交代したポケモンに岩の棘が食い込み、ダメージを蓄積する技。

 

 もし自身がポケモンを交代する事があったとして、予め対策を取ったと言う事となる。

 

「だけど今はルガルガンだ。ピカチュウ、10万ボルトだ!」

 

「ピ〜〜カ〜〜チュウ〜〜!!」

 

 頬袋に溜まった電撃が放たれ、迸る電撃はルガルガンに迫る。

 

 そのまま直撃一直線──誰もが思った瞬間、電撃はルガルガンに直撃する──こともなく擦り抜けた。

 

「ピカ!?」

 

 明らかに直撃コースだった、にも関わらず電撃はルガルガンの身体を通り抜けて背後の岩に命中して破砕。

 

《おーっと! これはどう言う事だ!? 10万ボルトがルガルガンの身体を通り抜けたぞ!》

 

 ルガルガンは岩タイプ、10万ボルトは岩タイプのポケモンに攻撃技が通じる筈である。

 

 だが現にルガルガンの身体は電撃を通り抜けた、幽体(ゴースト)でもないのに何故そんな事象が起こり得るのか。

 

 そう思索するピカチュウの思考はサトシの「ピカチュウ、後ろだ!」と言う言葉によって遮断、同時に振り返る。

 

「ピカ…!?」

 

 前方にルガルガン、しかし後方にもルガルガン。

 

《な、なんと! ルガルガンが二体に増えた!? これは影分身を使っているのかァ!?》

 

 観客席から驚きと困惑が入り混じり、ざわめくばかりだ。

 

 ジッキョーの言う通り、本当に影分身を使っているのだろうか?

 

「……違う」

 

 サトシは呟く。確かに影分身で惑わすのならばそれは妥当だろう、相手を惑わせて奇襲を掛けるのであれば本体が攻撃を仕掛ける。

 

 だけど何かがおかしい、本当に影分身であるならば何故影を増やす事をしないのか……妙な違和感を感じて前後のルガルガンを交互に見る。

 

「この程度の芸当を見破らなければ、到底勝利するなど出来ん」

 

「ピカチュウ、もう一度10万ボルト!」

 

「ピ、ピカ?」

 

「両方に向けてだ!」

 

「ルガルガン、岩雪崩」

 

 させまいとルガルガンは上空に巨大な岩を顕現、岩は雪崩の様にピカチュウに目掛けて振り注ぐ。

 

 ピカチュウは電光石火を駆使して躱し、大量の岩が落下の衝撃で破砕、大量の土煙が舞い上がっていく。

 

「ルガルガン、ドリルライナーだ」

 

 隙を見せているピカチュウに対し、後方のルガルガンは駆け出すと全身を回転させ、螺旋状に高速回転してまるでドリルの様に回転してくる。

 

「ピカァ!」

 

 身体を捻って直撃は免れたものの、地面タイプの技は効果抜群。急旋回して再び突撃してくるルガルガン、対してピカチュウは尻尾を銀色に硬化して受け止める。

 

《アイアンテールとドリルライナーの激突! しかし勢いは止まらない、このままではジリ貧だぞピカチュウ!》

 

 防御に徹するピカチュウの状況にサトシは汗を垂らし、観客席のカスミ達も同じ心境であろう。

 

 どうやったら逆転の糸口を見つけられるのか、憔悴に駆られてサトシは指示を飛ばす。

 

「ピカチュウ! ルガルガンから距離を取るんだ!!」

 

 慌ててルガルガンの攻撃を躱し、ピカチュウはフィールドを駆け出す。

 

 しかしルガルガンは技を解除し、そのまま走り抜ける。

 

 その際再び()()()を作り出し、ピカチュウの周囲を囲っていく。

 

 フィールドが全てルガルガンで埋め尽くされるばかりで、最早これまでかと観客の誰もが想像する。

 

(……?)

 

 危機的状況の中、サトシはある一点に目線を向ける。

 

 複数のルガルガンの姿が少しずつだが、段々と霧の様に霧散していっている。

 

(これは……もしかして)

 

 複数のルガルガンを影分身による幻影と誤認していた為、ある技の存在を忘却に追いやっていた。

 

 もしもそうであるならば、そう懸念してサトシはピカチュウに告げる。

 

「ピカチュウ! これは影分身じゃない!! フィールドに向けて10万ボルトだ!!」

 

 その指示に意図を示そうとするサトシにピカチュウは察し、大きな岩に登って跳躍(ジャンプ)

 

「ピカ〜〜チュウ〜〜!!」

 

 頬袋に溜まった電撃をフィールドに向けて放ち、ルガルガンが悲鳴を上げて直撃を受ける。

 

 同時に複数のルガルガン達が霧散していき、後に残ったのは電撃を浴びた本体のみ。

 

「…! まさか、そんな方法で打ち破るとはな…!!」

 

 自らの策が見破られたと言うのに、イシオは何処か歓喜に満ちた表情で驚く。

 

 ずっと感じていた影分身擬きの正体、それは客席にいるタケシの口から語れられる。

 

「そうか……! あれは影分身じゃなくて高速移動、全てルガルガンの残像だったんだ!」

 

「ざ、残像…?」

 

「つまりあれは全て高速移動によって生じたルガルガンの残像、我々全員はあれを影分身によるものだと誤認していた……」

 

「本当は回避によって生じる現象の筈なんだけど、まさかこんな事が出来るなんて」

 

「よく見てみりゃ本体以外微動だにしてなかった……残像が残る程の高速移動とか、マジやべえな……試験官のポケモン」

 

 こんな芸当はジムリーダーや四天王、フロンティアブレーンの様な達人級のトレーナーやポケモンなら出来るかも知れないが、イシオのルガルガンはそれに匹敵するだろう。

 

《影分身と思っていたものは全て高速移動によって生じた残像! 流石、試験官のポケモン! 凄まじい技の練度、磨き上げた成果でしょうか!?》

 

 カイセーの解説で誰もが欺かれ、そして興奮と歓声が収まらない客席。

 

「驚いたな……何故見破る事が出来た?」

 

「足跡ですよ」

 

「ほう…」

 

 それだけで見抜くとは考えにくい、眉を顰めるイシオにサトシは補足する。

 

「最初にルガルガンが現れてバトルが始まった直後、既に高速移動でピカチュウの背後に回り込んでいたんですよね。俺も確認するまで気付けなかった……そしてさっき、見えたんです──ルガルガンの足跡がハッキリと残っているのが」

 

「……!!」

 

 視線の先には何かが抉った様な足跡が残っている。イシオのルガルガンは高速移動を使う際、四本足の指先に力を入れ込み、勢いを強めて走り回っていたのである。

 

 故にその結果──残像が残り、誰もがそれを影分身だと錯覚していた。

 

 何とも言えない、大した推理力だとイシオは恐れ入る。

 

「ならば小細工など必要ない。だが先程体験した通り、我がルガルガンのスピードは並大抵のものではない、それをどうやって打破せんとする…?」

 

「それはもう考えています──ピカチュウ、戻れ!」

 

 促されてピカチュウはトレーナーボックスに戻り、サトシはモンスターボールを手にする。

 

「ガマガル、君に決めた!」

 

 投擲されたモンスターボールから光が飛び出し、ガマガルがフィールドに投入された。

 

「ガッ!?」

 

 ステルスロックの効果で身体が食い込むも、地面タイプには微々たるもので効果は薄い。

 

《サトシ選手、ピカチュウを下がらせ、二番手にガマガルを繰り出しました! 果たしてどう攻略するのだろうか!?》

 

 幾ら相性がガマガルの方が有利と言えど、ルガルガンのスピードは捉えられるものではない。

 

 それはサトシ自身も承知している、どう対処するつもりなのかは状況次第であろう。

 

「ルガルガン、高速移動で翻弄せよ」

 

 腑に落ちないが、イシオは攻撃の手を緩める気など毛頭ない。

 

 ルガルガンは残像を残しながら再びスピードを上げ、最早高速と言うよりも音速に近い。

 

 ガマガルは慌てる事なく堂々としている、心を乱せば隙を作るのを理解しているからだ。

 

 自身のトレーナーを信じ、その判断に委ねる。

 

 ガマガルの周囲はルガルガンで溢れ返り、普通のトレーナーとポケモンならば冷静を失いまともな判断が出来なくなるだろう。

 

「──今だガマガル! フィールド全部にハイドロポンプ!!」

 

 だがこの場に立つのは最強のトレーナーである世界王者、そのポケモンである。

 

 その指示にガマガルは口内から巨大な水流を放ち、ルガルガンではなくフィールドの地面を濡らしていく。

 

《おっと? ガマガル、フィールドの地面をハイドロポンプで濡らしています! これは一体…?》

 

 まるで土を水で潤すかの様に、地面を潤わせていく。これは何を意味するのか、常人には理解が難しいだろう。

 

「まさか…! いかんルガルガン、動きを止め──」

 

 イシオは振り返るが、既に手遅れであった。

 

 走り回るルガルガンの足が水を踏んで滑り、その勢いで転倒する。

 

「ガマガル、マッドショット!」

 

 地面が泥濘んで上手く走れず、ルガルガンは泥の塊を身体中に命中される。

 

 泥の塊は次々に容赦なく命中していき、段々とダメージが蓄積される。

 

「ルガルガン、ドリル……否、これ以上は支障を来すか」

 

 地面が泥濘んでいる以上、これ以上の反撃は難しいと判断したイシオ。

 

「ガマガル、ハイドロポンプだ!」

 

 止めと言わんばかりの水流が発射、直撃を受けたルガルガンはその勢いに押されてフィールドの外の壁に激突。

 

 壁に減り込み、目を回して昏倒するのだった。

 

《ルガルガン、バトルOFF!》

 

《最初に白星を得たのは、サトシ選手だァ!》

 

 ドローンロトムの判定とジッキョーの言葉に歓声が上がり、それはカスミ達も同じである。

 

「やったァ! 先ずはサトシが一勝ね!」

 

「ええ!」

 

「……ほんの数日前の様子が嘘だったかの様に快調だな」

 

「はは……でも本当に良かった」

 

「本当にひやひやさせられる奴だな、全く」

 

 漸く本調子を取り戻し、その勇姿に皆安堵していた。

 

 このままの勢いで全勝を願うばかりだが、相手は試験官……そう易々と勝利を譲る気はないだろう。

 

「良く奮闘した……暫し休め」

 

 ルガルガンをモンスターボールに戻し、その健闘を労うイシオ。

 

 そして次なるポケモンを投入すべく、新たなモンスターボールを手にする。

 

「流石にルガルガンでは御しきれんか……ならば少し力を入れておかなければな」

 

 少し遊び過ぎたと自負して、モンスターボールを投擲。

 

 ボールから光が飛び出し、その姿が露見される。

 

 紺色の鉱石で構成された四足歩行の巨体、イッシュ地方に生息するダンゴロの最終進化形──ギガイアスだ。

 

《試験官イシオの二番手はギガイアス! 圧倒的な鉱石の巨体が、ガマガルの前に立ち塞がります!》

 

「この前のお坊ちゃんの個体と違って、あのギガイアス……かなりのレベルみたいね」

 

 ギガイアスは唸り声を上げてガマガルを見下ろし、その雰囲気で高レベルのポケモンだと察する。

 

「ガマガル、ハイドロポンプ!」

 

「砂嵐」

 

 水流が放たれると同時に砂塵嵐がギガイアスの周囲に発生、そのまま水流が命中するもギガイアスは顔色一つ変えず佇む。

 

「き、効いてねえぞ…!?」

 

「砂嵐の中では岩タイプのポケモンは特殊防御が上がる、それで効果抜群のハイドロポンプにも耐えられるんだ!」

 

 この砂嵐では特殊攻撃の威力は薄く、この場は岩ポケモンの領域(テリトリー)だ。

 

「ガマガル! 一度戻れ──」

 

「砂地獄」

 

 ガマガルの足場が砂地に変わり、砂が纏わりつく上に高度が段々と下がっていく。

 

《おっと、これは砂地獄! サトシ選手、これではガマガルを戻せないぞぉ!?》

 

「パワージェム」

 

 ギガイアスの周囲に煌めきを帯びた岩を顕現、そのままガマガル目掛けて狙い撃ち。

 

 幾ら地面タイプのガマガルに効果が薄いと言えど、無防備な状態が続いては溜まったものではない。

 

「ギガイアス、エネルギーを収束させるのだ」

 

 重々しく口が開き、凄まじいエネルギーが口内に集まっていく。

 

 どう言う技かは分からないが、あれを受けては危険だとサトシは察した。

 

「ガマガル、ハイパーボイスだ! 出来るだけダメージを与えるんだ!」

 

 この距離では回避は難しく、次に繋げる為にも指示を出す。

 

 ガマガルはその指示に意図を察し、口内から巨大な音波を放つ。

 

 凄まじい音波に怯みつつも、ギガイアスの口内は忽ちエネルギーが集まり続け──その必殺技を放つ。

 

「メテオビーム……発射」

 

 流星の名を冠したその閃光が発射され、ガマガル諸共砂場を吹き飛ばした。

 

 大量の砂煙がギガイアスの周囲を包み込む、その技の威力に誰しもが驚く。

 

 幸いガマガルは吹き飛ばされたお陰で自由になれたが、上空に舞い上がっていつ攻撃されるか分からない。

 

「逃がさん……ギガイアス、ボディプレス」

 

「っ! ハイドロポンプで脱出しろ!」

 

 飛び上がって伸し掛かろうとする鉱石の巨体、咄嗟にハイドロポンプの反動を生かしてガマガルは斜線上から離脱。

 

「ガマガル、戻れ!」

 

 咄嗟の事とはいえどうにか危機を脱し、サトシはガマガルをモンスターボールに戻す。

 

《ギリギリの瞬間からガマガル、緊急脱出を果たしましたァ!》

 

 その脱出劇に歓声が上がる中、サトシは次なるモンスターボールを手にする。

 

「ジュカイン、君に決めた!」

 

 草タイプにしてホウエンの旅路のエース、ジュカインがフィールドに顕現される。

 

 口端に枝を咥えていると、フィールドに浮かぶ岩の棘が迫ってくる。

 

 先程は水・地面のガマガルがいたから効果は薄かったが、ジュカインに関してはそうではない。

 

「ジュカイン! 回転しながらリーフブレード!!」

 

 両腕の草の葉が刃の如く鋭く光り、その場で両腕を振り回す。

 

 勢いのあまり回転していき、擬似的とはいえ竜巻を起こしていく。

 

《おぉ!? ジュカイン、回転しながら竜巻を起こしたァ! その勢いでステルスロックが全て真っ二つ、最早これは竜巻と言うよりも旋風(つむじかぜ)だァ!!》

 

 凄まじい竜巻はギガイアスに向かっていき、鉱石で覆った身体に傷を刻み込む。

 

 ギガイアスの表情は怒りで滲み、タイプの相性は最悪と言えど自身の身体に傷を付けた相手を睨み付ける。

 

「回転してリーフブレードを振るい、そして擬似的な旋風を起こしたか」

 

「何つー戦法だよ、ポケモンバトルの常識……いつかぶっ壊れっかもな」

 

 今更感があるが、サトシの常軌を逸脱した戦法や作戦には毎回驚きの声しか出ない。

 

 長い事それを目の当たりにしてきたカスミ達は兎も角、初見のタツキ達からすればそう捉えてもおかしくはない。

 

「ジュカイン、高速移動だ! ギガイアスを翻弄するんだ!」

 

「ギガイアス、砂地獄」

 

 ジュカインが駆け出すと同時にフィールドの地面が陥没していき、その移動後に必ずと地面が陥没して砂地へと変わる。

 

「全方位にパワージェム」

 

 しかし相手は試験官のポケモン、一般のトレーナーのそれとはレベルが違う。

 

 鉱石が雨が降るかの如く全方位に降り注ぎ、土煙が次々と生じていく。

 

 結果的にジュカインは徐々にダメージを蓄積していくも、自身のトレーナーの期待に応えようと身体に鞭を打つ。

 

「ボディプレス」

 

「っ!? ジュカイン、躱せ!」

 

「ジュッ! ジュカカカ!?」

 

 しかしパワージェムの雨に翻弄され、回避出来ずにその重量に押し潰される。

 

《ジュカイン、逃げ場を失ったァ! さてこの状況、どう切り抜くのか、サトシ選手!》

 

 重圧だけで全身の骨が砕けそうにも、その辺りは手心が加わっている。

 

 それでも危機的状況には変わらず、どうにかして脱出せねばなるまい。

 

「ジュ、ジュカインが押し潰されちゃうわ! このままじゃ…!」

 

「いや待って、サトシを信じよう!」

 

 客席で不安がるセレナをカスミが遮る様に叫び、彼女を勇気付ける。

 

「モンスターボールに戻すといい」

 

 イシオがサトシに向かってそう告げてきた。

 

「君も自らのポケモンが苦しむ姿を見たくはあるまい……大人しくジュカインをモンスターボールに戻しなさい」

 

 長年トレーナーと警察官の二足の草鞋を続ける中、サトシの様に足掻く若い芽を見てきたのだろう。

 

 せめてもの慈悲なのか、彼は目の前の若き王者に対して降伏を勧めてくる。

 

「……そんな事を言われて、はいそうですかって言うわけにいかない」

 

 精神的な揺さぶりを掛けてくる老齢の捜査官の言葉を跳ね除け、サトシはそれをあくまで拒否を貫く。

 

 だが実際に策が浮かばず、手の打ちようがなくて歯を軋ませる。

 

 僅かな希望があればいいのに、そのきっかけが全く思いつかない。

 

 せめて地面が砂でなければ脱出の糸口があると言うのに、今のフィールドの状況が何とももどかしくある。

 

(……砂?

 

 あっと呆けた顔を浮かべ、まだ岩場だと言う事を思い出す。

 

 そして未だにジュカインが押し潰されているのが岩場だと言うのを察し、最善の反撃が許されている。

 

「残念だ……ギガイアス、パワージェムだ」

 

 慈悲から無慈悲に変わりいき、止めとばかりに攻撃を指示。

 

「今だ、ジュカイン!」

 

 握り締めた砂利を手に、勢いよく投擲するジュカイン。

 

 その行先は──ギガイアスの(まなこ)

 

 勢いよく命中したギガイアスは悲鳴を上げ、イシオは予想外の反撃に驚くしかない。

 

 そして激昂したギガイアスは容赦なく苦しめようとし──

 

「いかん…! 待て、ギガイアス…!」

 

 イシオからの静止も間に合わず、押し潰されたままのジュカインの下──つまりギガイアスの足下に流砂が顕現。

 

「ギガァ!?」

 

 パワージェムではなく砂地獄を使ってしまい、勢い余ってその巨体は砂に埋もれてしまう。

 

 自らの技で自らを攻撃してしまうと言う初歩的なミスをギガイアスが行う中、ジュカインは重圧から脱出した。

 

 砂地獄が発動した瞬間、高速移動で透かさず範囲外に逃れ、悶え苦しむ隙だらけのギガイアスに向けて一撃を放つ。

 

「ジュカイン、リーフストーム!」

 

 シダ状の尻尾から木葉の嵐が放たれる、その嵐に巻き上げられてギガイアスは岩場に戻ったフィールドに墜落する。

 

《ギガイアス、バトルOFF!》

 

 相手の攻撃とはいえ流砂から脱出したギガイアスは既に昏倒、これ以上のバトルは不可能だった。

 

《サトシ選手、二連勝! このまま完勝するのか!?》

 

 だがまだ()()しただけに過ぎず、安堵するには早過ぎる。

 

「これで二勝か」

 

「嗚呼……だが、あのオッさんはまだ本気じゃねえわ」

 

「恐らくイシオさんの最後の一体は、彼の本気を見せる時にしか出さないポケモンだろう」

 

 このカルナヴァルに参加する以上、彼等試験官の切札に挑むには相応の覚悟を持って立ち向かう必要がある。

 

《さあサトシ選手は三体共健在、それに対して試験官イシオは一体! 試験官の最後のポケモンは何を出すのか…!?》

 

 砂嵐は晴れ、イシオはギガイアスを戻しその健闘を讃える。

 

 そして最後のポケモンが入ったモンスターボールを手にし、イシオはサトシに目線を向ける。

 

「正直な所、君の事を侮っていた」

 

「……?」

 

「ロケット団を始めとした犯罪組織やポケモンハンターに無謀に刃向かう姿、それは時に自らの身を滅ぼす様な蛮勇だったと聞く」

 

 最初に報告を受けた時は唯の子供だと大して期待してなかった、だがその動機は全て──ポケモン達の平和を守る為にある。

 

「だから訂正しよう──君は此奴の相手に相応しい相手だと言う事を!」

 

 そして勢いよくモンスターボールが空へと投擲される、そして飛び出した光はあるポケモンの姿へと形取る。

 

 灰色の体色に両翼、そして恐竜に近い存在。

 

《し、試験官イシオの最後のポケモンは、古代ポケモンのプテラです!》

 

《プテラと言えば最強と名高い大昔に存在したポケモン! これは強敵──おっと、あれは!?》

 

 カイセーは目を凝らす。その視線の先には、プテラの首に装飾品らしい首輪に鉱石の様な物が嵌められていた。

 

《あれはメガストーン! あれを所持していると言う事はもしや…!》

 

《おっとカイセー君、それ以上はネタバレになるのでなるべく控えましょうね〜》

 

 太古の時代に君臨した大空の覇者、それを前にして唾を呑み込むサトシ。

 

 プテラとの遭遇自体初めてではないが、これまで見てきた個体より強い事をサトシは本能的に感じ取った。

 

 その上メガストーンとメガリングを所持していると言う事は即ち、あのプテラがメガシンカを行使する可能性が考慮される。

 

 それ程にイシオとプテラの絆は強く、より岩の様に強固なもの。自分とピカチュウが千切っても途切れる事のない、とても強い絆を持つ様に。

 

「プテラ、鋼の翼」

 

「ジュカイン、リーフブレードで防御だ!」

 

 銀色を帯びた片翼が迫り来る、それに対処するべく木葉の刃を構えるジュカイン。

 

 一撃目は防ぎ切り、二撃目も同じ。三撃目も同じと思った瞬間、口内が大きく開き、其処から灼熱の炎が放たれ──不意を突かれたジュカインは真面に浴びてしまう。

 

「なっ!?」

 

「火炎放射!?」

 

 客席のカスミとセレナが驚き、プテラは両足の爪を突き立てジュカインの両肩を掴んで飛び上がる。

 

 飛翔したプテラから離れようとするジュカインだが、下手に踠けば地面へ向かって真っ逆様──墜落は免れない。

 

「ジュカイン…!」

 

「手離せ」

 

 プテラは両足を離し、ジュカインはそのまま落下していく。案外あっさりと手離した事を疑問に思うが、少しでも衝撃を和らげようとジュカインはリーフストームをフィールドに放とうとするが、甘かった。

 

「暴風!」

 

 途轍もない風が発生、ジュカインはその突風に飲み込まれる。

 

「ジュカイン!」

 

 風が収まると全身切り傷だらけのジュカインが墜落、完全に昏倒していた。

 

《ジュカイン、バトルOFF!》

 

 プテラは岩山のオブジェに降下、そのまま翼を広げている。

 

《プテラ、マウントを取って岩山に降り立つ! 岩山に聳え立ち、佇む姿はまさに脅威そのもの!》

 

「ジュカイン……良く頑張ったな、ゆっくり休んでくれ」

 

 ジュカインをモンスターボールに戻し、その健闘を労うサトシはガマガルのモンスターボールを再び手にする。

 

「もう一度頼むぞ、ガマガル!」

 

 再びフィールドに現れたガマガルは息を切らしながらプテラを睨む、だがプテラはその眼光をものともせずに一瞥するだけ。

 

「プテラ、力を蓄えろ」

 

 口内に凄まじい(エネルギー)が集まっていく、再び飛翔してプテラはガマガルを見据える。

 

「ガマガル、ハイドロポンプだ!」

 

 撃たれる前に攻撃に転ずる、サトシの指示でガマガルはハイドロポンプを発射。

 

 直撃を受けるも効果抜群にも関わらず動じず、プテラは変わらず(エネルギー)を口内へと蓄える。

 

 凄まじいエネルギーが溜まり、その技名をイシオは命じる。

 

「穿て──メテオビーム」

 

 メテオ(流星)の名を冠するその閃光はプテラの口内から発せられ、閃光は地面を抉った。

 

 その破壊力は並大抵の威力ではなく、フィールド全体に巨大なキノコ雲が吹き出す程……とてもポケモン一匹の技とは思えないものだった。

 

 キノコ雲で出来た土煙は徐々に晴れていき、メテオビームの威力に観客が唖然とする中、ジッキョーが叫ぶ。

 

《す……凄まじい威力のメテオビーム! 例え効果が今一つとはいえ、これではガマガル、無事では済まないぞぉ!?》

 

 全員がフィールドの状況を確認しようと目を凝らしていき、やがて土煙は晴れていった。

 

「っ!? ガマガル!」

 

 サトシは声を上げてその方向へと目を向ける……あの閃光の余波を受けた様子であり、ガマガルは横たわっている。

 

 ガマガルはサトシの声でうっすらと目を開け、立ち上がろうと身体を起こそうとする。

 

 しかしその身体は途中で力尽き、ドローンロトムは様子を確認して判定する。

 

《ガマガル、バトルOFF!》

 

「……ガマガル、ゆっくり休んでくれ」

 

 モンスターボールにガマガルを戻すサトシ、これでお互い一体ずつとなった。

 

「な、何なんだあのプテラは」

 

「圧倒的じゃない…」

 

「流石に世界王者でもあんなプテラ相手じゃ」

 

「ジュカインとガマガルもああも簡単にやられちまうくらいだからな」

 

 観客席から諦めを含んだ声が漏れる中、それを振り払う様にカスミが声を張り上げる。

 

「まだ負けてない!」

 

「カスミ…」

 

「まだピカチュウがいる、勝負は此処からよ!」

 

 まだ希望は残されている、彼の最高の(ベストフレンド)に全てが掛かっている。

 

「……ピカチュウ」

 

「ピカ」

 

「後はお前だけだ……頼んだぜ」

 

 当然、とばかりに首を縦に振って、バトルフィールドに踏み入れる。

 

《ピカチュウ再びフィールドに踏み入れた! 強敵プテラを相手にどう立ち回るのかぁ!?》

 

 熱狂が収まらない客席を耳に傾けつつ、イシオは語る。

 

「先述した様に良い顔になった」

 

「はい……俺は勝ちます、その先へと進む」

 

「そうだ……他人が敷いた道ではなく、己が道を進むべきだ。そして……私も一人のトレーナー、そう易々と勝利を譲るわけにはいかない」

 

 右の裾を捲り上げ、右手首に付けているバンドを見せつけるイシオ。

 

「…! キーストーン……」

 

 プテラがメガストーンを身に着けている以上、薄々感じていた予感は的中した。

 

「君の決意と奮闘に敬意を表し、全力で応えねばなるまい」

 

 キーストーンが嵌められたバンド──所謂メガバンドに指で触れ、キーストーンが輝き出す。

 

《おおっ!? こ、これは!?》

 

《も、もしかして!?》

 

 ジッキョーとカイセーも食い気味に目を輝かせる。

 

「プテラ……今こそ己の身に宿りし太古の力、解き放て」

 

 首の装飾品に嵌められたメガストーンも輝き、二つの石から光の帯が放たれる。

 

 互いの光の帯が絡み合う様に結び付き、イシオはその言葉を紡ぐ。

 

「原始回帰せよ──メガシンカ」

 

 結び付く光の帯は輝きを増していき、プテラは咆哮と共に姿形を変えていく、それは耳や顎、翼や背中に黒い岩の突起物が生えていくものである。

 

 やがて変化が収まり、メガシンカを果たしたプテラ──所謂メガプテラがその姿を見せる。

 

 プテラはより強固な存在へと昇華、唯でさえ通常の姿でも強いというのに更にメガシンカまで行うと余計に手強い。

 

《プテラがメガシンカしたァ! 試験官イシオ、勝負に出たという事でしょうか?》

 

《一説ではプテラのこの姿こそ、太古の時代における本来の姿だと言う一部の研究者の見解があるそうですが、その真偽は正しいかは不明です》

 

 メガシンカを果たしたプテラを警戒し、ピカチュウはゆっくりと足を伸ばして臨戦態勢を取る。

 

「ピカチュウ、10万ボルトだ!」

 

「ピカ〜チュウウウゥゥゥ!」

 

「火炎放射」

 

 電撃は灼熱の炎によって打ち消され、炎は一直線にピカチュウに向かっていく。

 

 ピカチュウは電光石火で回避、持ち前のスピードを駆使してプテラに接近。

 

 一気に距離を詰めて跳躍、ギザギザの尾が銀色にコーティングされる。

 

「鋼の翼」

 

「アイアンテールで迎え撃て!」

 

 銀色の尾と翼が激突して火花が散り、客席からこれ以上ない歓声が湧き上がる。

 

 小さな身体でプテラに立ち向かい、見劣りしない状態で拮抗している姿に観客達は目を奪われる。

 

「流石だサトシ…! まだ若いながら数々のリーグ戦で好成績を残し、ジンダイを始めとしたフロンティアブレーンを下し、更には世界王者にまで至ったその手腕…! 私とプテラが全力で拮抗するに相応しい!」

 

 ポケモン達が激突する中、イシオは嬉々とした笑みを浮かべてサトシを賞賛し、その実力を再認識して心躍らせる。

 

「そんな風に言われると嬉しいけど、俺はまだまだだ! 最初のリーグ戦なんて自分のポケモンが言う事を聞かずにバトル放棄して、散々な結果に終わった! 他のバトルでも相手を侮ったり、トラブルもあったりした!」

 

 何より自分はそう持て囃されたり、一つの場所に留まるなんて性に合わないと自覚している。

 

「俺はきっとこれから先も迷ったり、弱音を吐くかも知れない! でも俺は一人じゃない、一緒に旅をして、悩みを聞いて、痛みを分かち合う()()()がいる! だから俺は絶対──自分に負けたくない!!」

 

 電撃が放出され、暴風が吹き荒れ、両者が激突するバトルフィールドは激しさを増す。

 

 ピカチュウもプテラも傷が段々と目立ってきて、息を切らして消耗が激しい。

 

 それぞれがトレーナーを信じ、お互いの力の全てをぶつけ合う。

 

 それこそがポケモンバトルの真骨頂、それをサトシは一時捨て去ろうとする程追い込まれていた。

 

「共に旅をして、悩みを聞き、痛みを共有する……」

 

「確かに彼奴らしいっちゃらしいわな」

 

 彼の言うみんなとはポケモン達は勿論、仲間達──つまりカスミ達だろう。

 

 あんな風に豪語する事は出来ず、タツキとトウマは静かに笑みを浮かべる。

 

「頑張って、サトシ! ピカチュウ!」

 

「でも無理しちゃダメ!」

 

「もう少しだ!」

 

 カスミが、タケシが、セレナが彼等の身を案じて声援を送る。

 

 プテラの放つ暴風が迫るも、ピカチュウ臆することなく風に乗って上空に舞い上がる。

 

「行くぞピカチュウ、全力全開で!」

 

 腕に嵌めているZリングを掲げ、Zクリスタルが輝く。

 

「プテラ、メテオビームを放て!」

 

 自分よりも高く跳ぶピカチュウに向けて口内を開き、(エネルギー)を再び蓄え始めるプテラ。

 

 これが最後の攻撃、観客の誰もがそう願って見守る。

 

「──10万ボルトよりもでっかい100万ボルト…! 否、もっともっとでっかい、超・全力!」

 

 アローラ地方に伝わるZ技、サトシとピカチュウだけが扱う事が出来る唯一無二の奥義。

 

「──メテオビーム、発射!」

 

「ピカチュウ! 1000万ボルトォ!!」

 

 虹を彷彿とさせる七色の電撃が放出され、プテラの放つメテオビームと激突する。

 

 コロッセオ全体に振動が伝わり、天変地異の前触れかと思わせる程だ。

 

 閃光と火花が散り撒き、フィールド上の岩や山のオブジェが破砕されていく。

 

「──いっけえええええええ!!」

 

 サトシの叫びが上乗せしたかの様に電撃の勢いが増し、メテオビームは霧散──プテラへと一直線。

 

 電撃はプテラへと直撃、爆炎に飲み込まれる。

 

《アローラ地方に伝わるZ技の激突! Z技が打ち勝ち、プテラに直撃ィ!!》

 

《プテラの安否は!?》

 

 黒煙が晴れていき、プテラは煤だらけで佇んでいる。

 

 渾身のZ技を耐えきり、最早これまでか……とピカチュウの敗北を悟った。

 

 しかしその時、プテラが掠れた様に一声鳴き、ボロボロの岩山に墜落。

 

 同時にメガシンカが解け、完全に昏倒するプテラ。

 

《……プ、プテラバトルOFF!》

 

 ドローンロトムがプテラの戦闘不能を告げる、それは即ち──

 

《し……試験官バトル、決着ぅ!激しいバトルに勝利を齎したのは──サトシ選手だァァ!!》

 

 ジッキョーの言葉に大きな歓声と拍手がコーラスされる。

 

『やったああああ!!」

 

「やったなサトシ…!」

 

「っしゃああああ!」

 

 トウマ以外の四人が歓喜の声を漏らす、トウマも満更でもない様子で笑みを零す。

 

 激しいバトルにサトシは勝利し、ボロボロのピカチュウの身体を抱き抱える。

 

「ピカチュウ、お疲れ様」

 

 疲れきった声で黄色い相棒は鳴く、一方でイシオはモンスターボールにプテラを戻しその奮闘を労った。そしてそのままサトシに近付き、静かに笑みを零す。

 

「我がポケモン達に打ち勝ち、よくぞやったなサトシ」

 

「はい……イシオさんのポケモン達、強かったです!ルガルガンにギガイアスもそうだったけど、何よりプテラのメガシンカ、凄かったです!」

 

 試験官の一角を担う以上、メガシンカなどの強化手段を使わざるを得ないだろう。

 

《今回のバトルのルールに基づき、サトシ選手にトークン10枚を進呈するぜ!》

 

 スマホロトムの画面を見てみると、確かにトークンが10枚加算されている。

 

 現在は13枚……まだ100枚まで程遠い。

 

「これからも精進を重ねていくがいい、他の試験官も何れ何らかの形で君に関わってくる。くれぐれも気を付けておく事だ」

 

「……何から何まで、ありがとう御座いました」

 

 試練と言う名の荒療治だったとはいえ完全な快復を遂げ、無事彼から勝利を得た。

 

 これ以上の感謝を込めてお辞儀し、サトシは礼を述べた。

 

《熱くも激しく、素晴らしいバトルを見せてくれた二人に皆さん、もう一度拍手喝采をお願いします!》

 

 ジッキョーからの催促でカスミ達を含め、コロッセオ全体に拍手が送られる。

 

 コロッセオは暫しの間、拍手によって包まれていった。

 


 

 ヤマブキシティの空は街の名前に肖ってか、すっかり山吹色に染まっていた。

 

「んじゃ、そろそろ行くわ」

 

「また何れ会おう」

 

 ポケモンセンターの前でタツキはマウンテンバイクに跨り、トウマは徒歩で旅立とうとする。

 

「タツキ、トウマ……ありがとうな、俺の為にわざわざ残ってくれて」

 

「此処でライバルが辞退するなど非効率な事象と判断したまで、決して感情面で赴いたわけではない」

 

「はいはいツンデレ」

 

 タツキがニヤケ顔で揶揄ってくる本人はスルー、セレナもこの二人の関係性を知って苦笑いする。

 

「サトシ……この先カルナヴァルの運営の意向により、俺達は相対する事となろう。だがもし手心を加えるようならば──友として手を下す」

 

 要約すると殴る、と言う事を察したサトシ。きっとタツキもそう言う腹積り、陽気に振る舞っているがそうなれば無遠慮だろう。

 

「嗚呼……手は抜かない、楽しく全力でバトルしようぜ!」

 

「心得た」

 

「んじゃまたな〜」

 

 それを最後にトウマは歩き去り、タツキはマウンテンバイクを漕いで去っていく。

 

「サトシ、そろそろ私も行くね」

 

「嗚呼、ルチアに宜しく。それと…もしカロス地方に行く用事が出来たらサキさんは勿論、ミアレシティにいるシトロンとユリーカにも元気だって伝えておくよ」

 

「うん、いつかまた」

 

 セレナも旅立ちの準備を整え、ヤマブキシティを発つようである。

 

「アイドルの仕事、大変だが頑張ってくれ」

 

「タケシもありがとう、今度会う時…レシピを教えて欲しいな」

 

 そしてセレナはサトシを見た後、カスミに目線を向ける。

 

「それとカスミ……私、貴女に負けないわ!」

 

「は?」

 

「言いたい事はそれだけ、じゃあまたね」

 

 そう言って逃げる様に走り出すセレナ、サトシとカスミは呆然としながら後ろ姿を見続ける。

 

「セレナ……何であんな事を言ったんだろう?」

 

「さあ……タケシ、何か分かるか?」

 

「知らん」

 

 ピカチュウも同意して、揃って溜息を吐いて鈍感二人に呆れる。

 

 今日はポケモンセンターに宿泊、明日には街を発つ予定である。

 

「すまないサトシ、一度タマムシ大学の医学部に顔を出しておきたいからタマムシシティに行きたいんだが…」

 

「嗚呼……別にいいけど」

 

 夕食時、ポケモンドクターとしてタマムシシティ行きを勧めるタケシの提案をサトシはあっさり承諾。

 

 カスミは横目で見て苦笑いしつつ、新聞を読んでいる。

 

 ポケモン達もポケモンフードを咀嚼する中、彼女は目を通しながら捲っていく……すると新聞から一枚の紙がテーブルに落ちる。

 

「あら、チラシ? 一体なんな……の……」

 

「…? カスミ?」

 

「どうしたんだ…?」

 

 紙を見て硬直した彼女に男二人は揃って首を傾げ、紙に書かれているその紙を覗き見る。

 

「え?」

 

「な……な……なんじゃこりゃああああ!?

 

 その紙の内容を見てサトシは呆け、タケシは思わず絶叫した。

 

 その記事には帽子の鍔に触れるサトシ、そしてその肩に乗るピカチュウのツーショット写真。

 

 いつ撮られたのかは気になるが、着眼点はそこではなく──その写真が記載されている紙の内容だった。

 

 

 WANTED

 

 DEAD OR ALIVE

 

 "最強王者"サトシ 5000万ポケドル

 

 その紙──否、手配書は世界を大きく揺るがせるものであった。

 

 

 To be continued

 

 




最後の部分は何故こうなったのかは、次回投稿する#29.5を御覧下さい。
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