ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE 作:虎武士
ヤマブキシティとタマムシシティを繋ぐ一本道の平野。
「ガネェェェェェェェル!!」
「ゴドォォォォォォォォ!!」
鋼鉄の強靭な鋼タイプ同士が激突、その余波で砂煙が舞い上がり、観戦していた豚猿ポケモン──マンキー達が衝撃波で吹き飛ばされる。
「くっ…!」
「きゃあ!?」
「うわ…!?」
鋼鉄の
相性ではハガネールが有利だが、ボスゴドラはそんな事を気にしていない素振りを見せる。
ハガネールのトレーナーであるタケシ、その後方でサトシとカスミが衝撃波を何とか堪えていく。
ハガネールと対峙するボスゴドラのトレーナーは、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべるのみである。
「凄え衝撃波だなァ、こりゃあ並のポケモンやトレーナーじゃあ堪えられるわけがねえ」
この状況を楽しむかの様に白を基調とした和装を纏い、笑みを浮かべるだけの水色の髪の男──ゼクスは呟く。
袴に両手を突っ込みながらも、その全身から噴き出すのは闘気。
飢えた獣の様に剥き出しにし、それを彼は隠そうとせずに佇む。
「もっと攻めてこいや。テメェが持ってんのは知識だけじゃねえ筈だ、もっと本能を曝け出せよ」
明らかにタケシを挑発し、その戦闘意欲を扇動してくるゼクス。
だがその闘気に臆することなく、慎重にバトルを進めようとするタケシ。
そもそも何故こんな事になったのか?
ほんの数十分前まで、単なる顔見知りの関係の筈だった。
それが何故この様な関係に昇華してしまったのか、タケシの脳裏に事の経緯が蘇ってくる──
「すっげー! 今の俺、本当の有名人みたいだなあ!」
タマムシシティへと向かう道中、先日の新聞に挟んでいた用紙──自分の写真が載った手配書を見てサトシは無邪気に喜ぶ。
無知なのか、或いは能天気か、和やかに微笑む彼の様子にタケシも釣られる。
「まあ確かに世界王者と言うだけでなく、色んな組織からも注目されているからな。各地のジムリーダーや四天王、チャンピオン、フロンティアブレーン、ポケモンGメンやポケモンレンジャーに至るまで。お前は見事に人気者だ」
「今頃ママや博士、他の仲間も吃驚しているんだろうな」
「兎に角胸を張っていいぞ、だけど調子に乗って痛い目に合わないようにな」
『あっはっはっはっはっは…!』
「──暢気に笑ってんじゃなあああああい!!」
『ぶぎゅっ!』
高らかに嬉々たる様子で笑う二人の頭上にカスミの拳骨が決まり、二人の頭上に見事なタンコブが形成される。
男子二人とは打って変わって、カスミは眉間に青筋を浮かべて手配書を突き出す。
「これ! どう考えても指名手配されてんでしょうが!? 笑っていられないわよ、こんなの!」
ピカチュウもこれに関しては息を吐き、楽観的な
過去に悪人と誤認されて、警察から誤報で逮捕された事は幾度もあった。
しかし今回の件はそれでは済まされない、既にサトシは表の世界でも──そして
これは悪戯の範疇ではなく、故意に行った行為……誰が行ったかはいざ知らずだが。
何より5000万なんて大金、一般人……金に喘ぐ貧困な人間が喉より手が出る程の多額の賞金額など、デボンコーポレーションやシルフカンパニーと言った大企業が抑えてくる可能性さえある。
他にもポケモンハンターや悪徳商人と言った闇に染まる者達も血眼になって狙ってくるだろう、たった一人の少年の首にそんな楽な生活が出来る程の大金が掛かっているのだから。
「折角サトシがポケモンに触れる様になったと思ったら、今度はお訪ね者! いい加減にして欲しいわよ、ホント!」
「明らかにこれは悪戯で済まされる問題じゃないな。こんな大それた事をして、誰が得するのかは分からない」
「大丈夫だよ、もしもお金に惑わされた人がいたら、全力でバトルして勝つだけさ」
何ともサトシらしい解決方法だろうか、あっけらかんに言い放つ彼に二人は息を吐く。
「あら…? そう言えばこの辺りって……」
手配書の話は置いておいて、道を進み行く中、カスミは周囲の風景──特に岩肌が目立つ平野が目に入る。
「思い出すよな……オコリザルをGETした場所だよな」
「嗚呼……出会った時はまだ進化前のマンキーだったが」
サトシは思い出していた……旅をした期間は短かったが、共に過ごした暴れん坊の一体のポケモンの存在を。
「サトシの帽子を気に入っただけじゃなく、おにぎりを美味しそうに食べていたわよね」
「投げられたモンスターボールに対抗してか、おにぎりを投げたが……まさかおにぎりをGETなんて事態が起きるとはなぁ」
「あれは投げた俺も吃驚したよ」
その後、いつもの様にピカチュウを狙ってロケット団が現れたが、除け者にされたマンキーは激怒──その怒りを力に変えてオコリザルに進化して益々手がつけられない状態へと発展。
「あ、そう言えばオコリザルの奴、俺の帽子を気に入っていたっけ」
「エイパム──当時のエテボースも気に入っていたけど、怒ってばかりのオコリザルに比べるとエテボースの方がマシだったかも」
此処にオコリザルがいたら間違いなく激怒し、完膚なきまで自分達をボコボコにしていただろう。
そしてオコリザルは最終的にサトシがGET、その後は格闘ポケモン達が競い合うP1グランプリに参加、その実力に目を付けたエビワラーのトレーナーを務める男──アノキの下に預けた。
「オコリザル……元気にしているかな」
「タマムシシティに立ち寄った後、アノキさんのジムに行ってみましょう」
「そうだな」
「ああ……マナミさん、お元気だろうか」
「おい」
タケシだけ違う事を考えているが、何れはトレーニングジムに立ち寄るのもいいだろう。
「あ……オコリザルと言えば、サトシ……あんたが被っていたあの帽子、家に置いてあるの?」
「え?」
「嗚呼、ポケモンリーグの公認キャップだな」
「あ〜〜……懐かしいな、昔ハガキを大量に送って応募していたっけ」
帽子欲しさに躍起になっていたあの頃、サトシは若干思い出して少々頬を赤くする。
「ちゃんと部屋に保管しているから大丈夫、汚れていたらママが洗濯しているだろうから」
新人時代を思い出して少々恥ずかしさもあり、何とも言えない表情を浮かべている。
そんな青臭い新人時代を知っている為か、カスミとタケシ、そしてピカチュウは感慨深く懐かしんでいる。
「──へェ、随分とお気楽な会話してんじゃねェか」
『!?』
不意に掛けられた声に驚き、サトシ達は振り返った。
手配書を片手に、ゴツゴツとした岩の上に和装を纏う水色の髪の粗暴な男──ゼクスが鎮座していた。
「え…? 誰…?」
カスミは見ず知らずの人物の存在に驚く。いつから聞いていたのか、否、寧ろ
タケシはゼクスの存在を認識し、目を丸くする。
「貴方は……ゼクスじゃないか。どうして此処に?」
「よう、タケシ。ヤマブキシティ以来じゃねェの」
鎮座していた岩から腰を上げ、ゼクスは近付きながら挨拶を交わす。
「タケシ……知っているの?」
「この前話さなかったか? ポケモンコンテストに向かう途中、一緒に赤ちゃんを助けた人さ」
「あ〜……そう言えば、言っていたわね」
「まあそんな感じよ? んで、其処の嬢ちゃんと坊主がお仲間か」
手に顎を撫で、観察する様にゼクスはカスミを眺める。
「性格は俺好みだが……悪いな、俺のタイプはガキンチョよりメリハリの良い女なんだわ」
「は…? ……///!!」
突然の解答にカスミは困惑するが、解答の意味を理解すると顔を赤くして自身の胸を両手で隠し「この変態!」と目の前の男を罵る。
この男、タケシの様に女好きの傾向があるが、身体を舐め回す様に見ている。
不快な嫌悪感を抱かざるを得ない為、まだ一目惚れし易いタケシが大分マシに思えてくる。
「メリハリ…?」
「あんたは分からなくていい!」
「分かった、分かった。……それはそうと、どうして此処に?」
「あァ……オメェ等を待ってたんだわ」
「俺達を…?」
ゼクスは獰猛な笑みを深くし、サトシ達から距離を取ると軽く指の骨を鳴らす。
「そうだよ……オメェ等の腕を確かめる為、んでもって──
『……!?』
別の意味合いを含んだこの発言、同時に彼からは凄まじい闘気が溢れてくるのを感じた一同。
「ちょっと待って……楯突くって」
「
「そう言うこった」
獰猛な笑みを隠そうとせずに、袴に帯刀していた刀を鞘から抜刀する。
刀身に一同の顔が映り、サトシ達はゴクリと唾を飲み込む。
「あァ、安心しな。此奴は真剣じゃねェし、単なる模擬刀だ。だが気ぃ付けろ、こうやって力を込めりゃあ……」
刀身に銀色のオーラが纏われる、剣先を自分が鎮座していた岩に向ける。
「こうなんのさ!」
片手で刀を天に掲げ、勢いよく振り下ろす。
すると同時に岩は真っ二つに割れ、土壁が舞い上がる。
野生のマンキー達は驚き、何事かとまじまじと彼等を岩陰から覗き見る。
「も、模擬刀よね、あれ…?」
「嗚呼……」
「模擬刀で真剣みたいに岩を真っ二つって、何かのドラマの演出にしてはリアル過ぎでしょうが!」
波導を纏わせた模擬刀の一振りは真剣と然程変わらぬ威力、あれを受ければ一瞬であの世行き間違いなしだろう。
「……貴方は」
「あん?」
タケシは険しい顔でゼクスに疑問をぶつける。
「貴方は俺を騙していたのか?」
「騙していたわけじゃねェんだけどなァ……街中で堂々と身分バラしたら大騒ぎだろ? 俺らデザイアは無法者の集まり、そんな奴が街ん中にいたら民衆は大パニックだ」
模擬刀を鞘に納め、ぶっきらぼうに語るゼクス。
「俺ァ無闇に曝け出す趣味はねェし、無反抗の人間やポケモンを痛ぶる気もねェ。誰かさんみてェにヒスったり、弱え奴を必要以上に虐げる気もねェ。ま、要するに刃向かわなけりゃ手ェ出さねェってわけよ」
ゼクスの言葉は一つ一つ、芯が通っていた。
彼はこれまで戦ったデザイアの構成員とは毛色が違い、殺戮衝動はなく……単に無闇な行動は取らないと公言している。
「っつーわけだ、俺とやり合おうや」
首の骨を軽く鳴らし、一同に向けて笑みを深くする。
「何だかサトシみたいね、まああんなぶっきらぼうじゃないけど」
「何で今俺、比較された?」
心外だと眉間に皺を寄せる本人の事は置いておくとして、タケシは一歩前に踏み出す。
「……分かった。その勝負、受けさせてもらう。だが……勝負の趣向は此方で決めさせてくれ」
「おう、それでも構わねえぞ」
粗暴な外見の割には寛大らしく、如何なる条件に一切口に出さない様だ。
「二人共、すまない。此処は譲らせてくれ」
「別に気にしてない」
「そうよ、遠慮しないで」
サトシとカスミの了承を得て、タケシは目の前の勝負へと乗り出す。
「先ずは頭脳戦──クイズバトルだ!」
タケシとゼクスは座り心地の良い石の上に座り、サトシとカスミは黒いシルクハットを被ってクイズ番組の如く司会と進行を務める。
「俺とカスミで二人にクイズを十問出す、十問中多く正解した方が勝ちとする!」
「私達二人が考えたクイズなんだから、きちんと答えてよね!?」
念には念を込めて忠告するカスミ、当の二人は「勿論だ」と堂々と頷く。
「先ずは第1問! イッシュ地方のテレビ番組、"これってなあに?"に出演しているポケモンは?」
意外な方向から出題される問題、思わぬ問題にゼクスは驚く。
「あ…? ちっと待て、大学のお偉いさんの相棒だろ、初っ端からハードじゃねえか」
もっとシンプルな問題を出せと愚痴るゼクス、その横でタケシは成程と直ぐに理解して手元にある解答ボタンを押す。
ポッポー!と言うカントーの鳥ポケモン、ポッポの鳴き声を彷彿とさせるスイッチ音が響く。
「んなっ!?」
「タケシ、答えをどうぞ!」
「出演しているポケモンは……ミルホッグのミルホっくんだ!」
「……ファイナルアンサー?」
「……ファイナルアンサーだ」
静寂に包まれていく空気、その中でカスミは重い口を開く。
「──正解!!」
「よし!」
左腕を天に掲げて声を上げるタケシ。ゼクスは自分の浅はかさに頭を抱え、思わず息を吐く。
「続けて第2問! ジョウト地方にあるアルフの遺跡、その遺跡に生息しているポケモン・アンノーンの姿は何種類まで存在する?」
俺も知らないけど、とサトシは後付けで呟く。その問いにタケシは頭を掻くが、問題に対してゼクスは素早く解答ボタンを強く押した。
「28種類!」
『!?』
「アルフの遺跡にゃ当時、A〜Zまでのアルファベットの26種類しか存在しなかった。だが後にホウエン地方の遺跡で新たに!と?の2種類が確認されたらしい、それを踏まえてアンノーンの種類は28種類だ」
「せ……正解」
粗暴な外見に反して、妙に賢くあっさりと答えたゼクス。
その後もクイズは続いた。
「第3問! アローラ地方で現在、確認されている
「デカグース、アローラのラッタ、ヨワシ、オニシズクモ、エンニュート、ラランテス、ミミッキュ、クワガノン、アブリボン、シャラランガ! 合計10匹だ!」
「第4問! カロス地方の伝説ポケモン──ゼルネアス、イベルタル、ジガルデ! 三匹は何を司る!?」
「生命と再生、破壊と死、んでもって秩序だ!」
「第5問! ガラル地方の伝説ポケモン、ムゲンダイナは嘗てガラルを滅ぼし掛けた存在だった。その異名は?」
「ブラックナイト!」
「第6問! パルデア地方にある教育機関、オレンジアカデミーは何年前に設立された!?」
「805年!」
「第7問! シンオウ地方は昔、別の名前で呼ばれていた。その名前は!?」
「ヒスイ地方!」
「第8問! イッシュ地方のジムリーダーの人数は!?」
「9人!」
「第9問! 一撃必殺の技といえば!?」
「ハサミギロチン、角ドリル、地割れ!」
的確に解答していき、二人は運動しているわけではないのに何故か汗をかく。
「へへ……ず、随分と食らいつくじゃねェか…?」
「其方こそ……誰かさんみたいに猪突猛進と思っていたが、意外だな……」
「何で敵同士なのに分かり合ってんのよ」
意気投合している両者にツッコミを入れるカスミ、それは兎も角として最終問題に移行する。
「これが最終問題だ! 問題を解いた方には10ポイント加算される! 二人共、準備はいいか!?」
最終問題なだけに解答すれば一発逆転勝ち、慎重に考えなければその時点で勝敗が決まる。
「第10問! 死ね死ね光線と言う技は存在するのか?」
その瞬間、二人は揃って頭を抱える。
そんな技など存在するのだろうか、と言うか存在するかどうかも疑わしい。
自爆や大爆発、道連れや悪足掻きと言った最終手段とも呼べる技が存在するが、聞いた事もない技名に困惑するしかない。
一向に進まない痺れを切らしたのかゼクスは解答ボタンを押し、高らかに叫ぶ。
「実在する! もうそれしかねェだろ!!」
憔悴しきった様子で叫び声が響き、静まり返る。
「ブッブー! 不正解!!」
「あ……」
絶句するゼクスの横でタケシが解答ボタンを押す。
「実在しない……それが答えだろう?」
「その通りよ」
結果、10ポイント加算されてタケシの勝利。
「……やっぱ俺ァ、頭使うのは苦手だわ」
クイズ勝負が終わり、ゼクスは髪を掻き上げて呟く。
その声音に苛立ちが含まれているのは否めず、袴に巻いていたホルダーからモンスターボールを手にする。
「まどろっこしいのは無しにして、此奴で雌雄を決するとしようや」
「やはりこうなるのか」
タケシもモンスターボールを手にし、小さな風が吹く。
「話し合う事は出来ないのか?」
「お断りだ。んな甘っちょろい考え方してると、自分の身を滅ぼすぜ? ……ぶった斬れ、ボスゴドラ!!」
天高く投げられるゼクスのモンスターボール、中から顕現するのは鋼鉄製の鎧をその身に纏う鉄鎧ポケモンのボスゴドラ。
「行け! ハガネール!!」
それに対抗してタケシは自らの
「ハガネールとボスゴドラ……何方も鋼タイプか」
「相性だとハガネールが有利だけど、油断出来ないわね」
ゼクスが無策でボスゴドラを繰り出したとは思えないが、あの飄々とした態度は何かあるのだろう。
何やらその物々しい雰囲気に野生のマンキー達が見物しているが、次の瞬間には避けて通れぬ死闘が幕を開けた。
「ボスゴドラ……アイアンヘッド!」
「! ハガネール、受け止めろ!」
「ガネェェェェェェェル!!」
「ゴドォォォォォォォォ!!」
ハガネールとボスゴドラの額が激突、それと同時に凄まじい衝撃が起こって砂煙が巻き上がる。
「くっ…!」
「きゃあ!?」
「うわ…!?」
単なる激突だけで衝撃が起こり、野生のマンキー達が吹っ飛ばされるが、気にする暇もなくタケシ達は耐え忍んでいく。
「凄え衝撃波だなァ、こりゃあ並のポケモンやトレーナーじゃあ堪えられるわけがねえ」
同じく耐えているゼクスはこの状況を楽しむかの様に獰猛な笑みを浮かべる、それはまるで狂ってるかの様に思えた。
「もっと攻めてこいや。テメェが持ってんのは知識だけじゃねえ筈だ、もっと本能を曝け出せよ」
更にはタケシを煽る様に挑発的な発言をする、これが彼のスタイルなのだろうか。
「本能、だと…?」
「そうよ。生きてる奴はみんなピンチになりゃ生物としての本能を呼び起こす。生存本能、自己防衛本能、狩猟本能、そして闘争本能! 俺ら人間は勿論、ポケモンだって
口端が裂ける程に吊り上げ、ゼクスは続ける。
「そんでもって他の連中を踏み台に
「言いたい事は分かる……分かるが、理屈だけではバトルの勝敗は確定しない! ハガネール、穴を掘る!」
ハガネールは地面に穴を掘り、地中を潜っていく。対してボスゴドラは慌てる様子もなく、只々堂々と佇んでいるだけである。
ボスゴドラの足下の地面に亀裂が入り、其処から飛び出したハガネールの頭部が顎に命中する。
「ボスゴドラは岩・鋼タイプ! 効果は抜群よ!」
「…! 否、敢えて受けたかも知れない…!」
サトシの言葉が的中したかは定かではないが、ゼクスはニヤリと笑みを深くする。
「わざわざ接近してくれてありがとうよ」
「まさか…!」
「取っ捕まえろ!」
弱点を突かれたにも関わらずボスゴドラは立っており、両手でハガネールの頭部を掴み、地面に押し付ける。
「地震!」
片足で頭部を踏み付け、地面に凄まじい震動波が発生。
ハガネールが痛々しい悲鳴を上げ、その振動波は三人にも伝わり転倒する。
「弱点のダメージを承知の上でハガネールを捕まえた上、攻撃を加えたのか…!」
「結構なダメージがある筈なのに、躊躇いがないの…!?」
傍目からすれば非情とも取れるが、勝つ為ならば多少のダメージをも気に留めないのだろう。
「ハガネール、ストーンエッジ!」
「此方もストーンエッジで防いでやれや」
隆起した石の杭が幾つも突き出し、互いの技が相殺されて杭が崩れる。
「締め付ける攻撃!」
ボスゴドラの頑丈な身体に巻き付き、力を込めて圧迫するハガネール。効果は薄いが地道に攻撃を与えてダメージを蓄積、だがそれでも決定打には至らぬ。
「甘ェよ。金属音」
頭部にある二本の触角から発される異音が響き、直に聞かされてハガネールは思わず締め付けの力を緩めてしまう。
「気合玉をぶち込んでやれ!」
両手を合わせて凝縮されたエネルギーの塊が生成され、それをハガネールに至近距離で叩き込むボスゴドラ。
盛大に吹き飛んで倒れ伏すハガネールだが、負けじとふらつきながらも身体を起こす。
「結構粘るじゃねェか、流石元ジムリーダー」
「まだ諦めるわけにいかないからな。ハガネール、アイアンテール!」
ハガネールの尻尾が鳩尾に叩き込まれるも、ボスゴドラは腹部を押さえつつも佇む。
「凄い……殆ど互角じゃない」
「相性なんか全然関係ない感じだな……俺も他人の事を言えないけど」
執念のぶつかり合いに観戦するサトシとカスミは目を逸らせず、ピカチュウもその光景に目を見張る。
明確な敵同士になってしまったと言うのに、両者は何故か生き生きとした様子でバトルを楽しんでいる様に見える。
「このままじゃ埒が開かない……悪いが、一気に決めさせてもらう」
「俺もちまちました削り合いも飽きてきた所だ、此奴で決めてやるよ」
タケシは上半身の衣服を脱ぎ捨て、ゼクスは模擬刀を手にする。
「ちょっと…! 彼奴の模擬刀の柄に嵌っているのって…!?」
「キーストーン……じゃあまさか──」
二人はゼクスの方からボスゴドラに目線を向け、ボスゴドラの首に鉱石の様な物が首輪としてぶら下げている。
「やっぱりメガストーン……」
「嘘でしょ…!? 彼奴、メガシンカを…!?」
唯でさえ強靭なボスゴドラだというのに、更にはメガシンカを扱えるとなると手がつけられないのではないか。
カスミの不安を知らず、二人はキーストーンに手を伸ばす。
「いくぞ!」
「来いや」
その手を伸ばそうとした瞬間だった。
「──見つけたぞ!」
『!?』
「──あァ?」
この場にいない何者かの声が響き、全員が其方へ目線を向ける。
五人程の若い男女──少なくともサトシやカスミよりも少し年上の少年少女達が走ってきて、サトシ達の周囲を取り囲む。
彼等はそれぞれ火吹きポケモンのブーバー、シャム猫ポケモンのペルシアン、毒蛾ポケモンのドクケイル、狐ポケモンのフォクスライ、砂蛇ポケモンのサダイジャを連れている。
「何だ…?」
「やっと見つけたぜ……世界王者マサラタウンのサトシ、そして最高の金づる!」
「金づるって……」
「知ってるでしょ? 其処の彼の首には5000万の大金が掛かっているの。そんな大金が手に入るんなら、裕福な生活が出来るじゃない」
「そうすれば僕らは好きに楽な事が出来るし、欲しい物をいっぱい買える」
「そしてお金を山分けしてリッチな生活を満喫……人間だから一度は美味しい思いをしてもバチが当たらないでしょ!?」
本人の意思と関係なく自らの欲望を口にする五人組の男女、何とも欲深く滑稽な願望に誰もが怒りを抱かずにいられない。
「貴方達……自分が何を言ってるか分かっているの? 賞金を山分けする……それはつまり、サトシを警察に売ろうとしているのよ!?」
「知った事じゃないね! 世界チャンピオンって言ってもまだまだ子供、金の為なら何だってするんだよ!」
身勝手にも人権を無視して金目当てに彼を捕らえようとする、そんな傲慢で愚の骨頂を許されない筈がないだろう。
大金と言う誘惑に負け、彼等の目は完全に金の亡者そのもの。こんな愚かしい考えを持つ者程、自らの身を滅ぼすなど知る由もない。
「世界チャンピオン……大人しく捕まえてもらうぜ! ブーバー!」
「ペルシアン!」
「ドクケイル!」
「フォクスライ!」
「サダイジャ!」
五体のポケモンはトレーナーの指示で敵意を剥き出しにし、サトシに向かって駆け出す。
金に飢えてる彼等はまともな自制心を保てず、容赦なく人間に向けて攻撃する事を厭わない。
「──ぶった斬れ、エアームド」
その時、ゼクスがモンスターボールを投げる。
中からボスゴドラと同じく銀色の身体を持ち、鋼鉄の鎧で身体を覆う鋼・飛行タイプのエアームドが飛び出す。
エアームドは顕現すると同時に急降下、風の刃──エアスラッシュを放って連中のポケモン達を吹き飛ばす。
「な、何をする! 邪魔するな──」
「──おい」
小さく紡がれる怒りを含んだ低い声音。五人組はそれに身体が強張り、背筋が凍る様な体感を感じる。
ゼクスはゆっくり顔を連中に向け、額に青筋を幾つも浮かべる。
「何下らねェ横槍入れてんだガキ共、お陰で気分が萎えちまったじゃねェか」
『ひっ…!?』
鬼の如く怒りに震えるゼクスの形相に彼等は恐れをなす、ポケモン達も同様で身体を恐怖で震え上がる。
「エアームド、ボスゴドラ、アイアンヘッド!」
二体の鋼鉄を纏う頭突きはドクケイルとペルシアンを沈める。その直後、ゼクスは二匹をモンスターボールに戻す。
「どうして…?」
「後は譲ってやるよ。仲間貶されてムカついてんだろ、内心」
敵に御膳立てされたが、今はそれをとやかく談議していられない。
経緯はどうであれ、バトルを台無しにした愚か者達に天誅を下す。
「グレッグル、瓦割り!」
「クワッス、水鉄砲!」
グレッグルの手刀がフォクスライの脳天に決まり、クワッスの水鉄砲でブーバーが吹っ飛ぶ。
「ヘラクロス、メガホーン!」
そして一本角が特徴的な虫・格闘タイプの虫ポケモン──ヘラクロスの一撃でサダイジャも吹っ飛ぶ。
バトルを邪魔された事によって五匹共倒され、彼等は慌ててポケモン達をモンスターボールに戻す。
「お、覚えてろ!」
三流悪役ばりの捨て台詞を吐き捨て、そのまま逃げ去っていった。
「ったく、お陰で気分が萎えたわ」
模擬刀を腰に帯刀し、ゼクスは三人に背を向ける。
「今日の所は此処までだ。この続きは次にやり合う時にだ」
「ちょっと待ちなさい! 幾つか、質問に答えて!」
カスミが去ろうとする彼に問い掛ける。
「サトシの手配書は貴方達の仕業じゃないの!?」
「……少なくとも俺はそんなもん、作った覚えがねェ。わざわざ俺がさっきの小物共に対しての事で、アリバイがあったろ」
ゼクス自身が関わらずとも、彼以外のデザイアが関与している可能性があると言う事を示唆している。
一先ずそれを片隅に置いておくとして、タケシは穏やかに微笑む。
「貴方は優しいんだな」
「あ…!?」
「貴方は他のデザイアのメンバーとは違って正々堂々としていて、素行は悪くても正面から俺に挑んできた」
外見で誤解され易いが、赤ん坊を救った時点で根っからの悪ではない事を窺い知れる。
「ふざけんな……何温い事を言ってんだ」
「……!」
「俺は戦いてえからデザイアにいんだ。血肉湧き上がる魂と魂のぶつけ合い、互いの命を賭けた死闘。他の奴なんかどうなろうと関係ねェ、ガキを救ったのも単なる気まぐれに過ぎねェ」
今までもずっとそうしてきたゼクスにとって、優しさなど己の戦闘欲求を否定している様な下らない感情。
そしてこれからも同じで、闘争を求め続けると頑なに肯定。
「それでもありがとう、わざわざ他人の為に助けてくれた」
「……その甘さを持ってる限り、デザイアを止める事なんて夢のまた夢だと思えや」
ゼクスはタケシの言葉に振り返ることなく、静かに去っていく。
その後姿は段々と小さくなっていき、最終的に見えなくなった。
「彼奴……他のデザイアとは毛色が違ったわね」
「嗚呼……でも彼奴はデザイアの一員、世界を騒がせている連中の一人なんだ」
「もしもゼクスの様に話し合える人間がいればいいんだがな」
突然の勝負に突然の邂逅、それはタケシにとって浅くもない因縁を孕んだ。
デザイアは何故世界に試練を課すのか、それがどう言う意味を指すかも分からない。
そしてサトシ達は一路、タマムシシティへと目指すのだった。
To be continued