ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE   作:虎武士

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やっと最新話を書き上げたので投稿します。

今回のゲストにタマムシジムリーダーの彼女と、無印のカントーポケモンリーグ戦に登場したある女性を登場させてみました。

因みに他にももう一人、ゲーム版初代及びFR&LGのタマムシのNPCをモチーフとしたモブキャラを出してみました。

ゲーム版タマムシジムの前にいる……と言えば想像出来るかと思いますが、本作ならではの悲惨で不憫な末路を描写しています。


#32 タマムシ囮捜査線 〜綺麗な花には毒があるけれど本当に怖いのは純真な真心〜

 タマムシシティの街並みを眺めながら、毎度お馴染み──サトシ一行は歩く。

 

 マンションやデパートなどの高層の建物を横目に見つつ、彼等は目的地へと行き着く。

 

「見えた見えた、タマムシジム!」

 

「ピッカ!」

 

 彼等の目先にはこの街のポケモンジム──タマムシジムがあり、サトシとピカチュウは歓喜の声を上げる。

 

「変わってないわね、このジムも」

 

「そうだな……嗚呼、エリカさん。久し振りにお会い出来るとは……このタケシ、胸焦がれる想いです…!」

 

「あのね……」

 

 テンションが上がって別の意味で意気揚々となっているタケシ、カスミは彼のハイテンション振りに呆れるばかりだ。

 

「タケシ……俺達は()()()()()()()()()()このジムに来ているんだぜ? 騒いだら迷惑だろ」

 

『………』

 

「な……なんだよ」

 

「いや……サトシに常識を口説かれるとは思わなくて、今日は一日雨が降るんだろうか」

 

「もしくは大雪だったりしてね」

 

「お前等酷いな」

 

 肩の上でピカチュウがしみじみ思うように頷き、親目線的な視線を向けていた。

 

 少し納得いかない様子ではあるが、兎に角サトシは建物の扉の前に立つ。

 

「たのもーう!!」

 

 高らかに勇んだ声を上げる、その間際30秒は静寂な空気に包まれた。

 

 すると扉が自動でスライド式に開き、中から和装を纏った清楚な雰囲気の女性が姿を見せる。

 

「サトシさん、お待ちしておりました」

 

 行儀よく深々と挨拶をし、この街のジムリーダー──エリカが一同を迎えた。

 

「いえいえ……自分は貴女にお会い出来て光栄です」

 

 その挨拶に何故かタケシが対応し、彼女の手を取る。

 

「はあ……」

 

「エリカさん、再会を祝してお茶でも──」

 

 モンスターボールから飛び出し、グレッグルが彼女を口説く彼を制裁しようと毒突きの構えを取る。

 

「ハナァ〜」

 

 エリカの側に控えていたポケモン──クサイハナが太陽の石で進化するキレイハナが花粉を飛ばし、それはタケシに降り掛かる。

 

 鱗粉を浴びたタケシは「……zzz」と言う呟きと共に崩れ落ち、寝息を立てる。

 

「お見事」

 

「そのキレイハナ、良く育ってますね」

 

「ええ……恩人たるサトシさんに会えて嬉しいのか、少し張り切っている御様子です」

 

「え?」

 

 サトシは身を屈め、キレイハナに目線を合わせる。ロケット団が起こしたジムの放火が脳裏に過り、それを思い出して確信を得た。

 

「お前……もしかして、あの時のクサイハナか!?」

 

「ハナ!」

 

 キレイハナは嬉々とした様子で頷きながら返事をし、優雅に踊りを披露する。

 

「よかったですね、キレイハナ。命の恩人とまた会えて」

 

「確かにそうですね……それでエリカさん、わざわざ手紙をポケモンセンターに届けてまで私達を呼んだのは」

 

 そう……サトシ達は単純にタマムシジムを訪れたのではなく、ジムリーダーであるエリカ本人から直々に呼ばれたのである。

 

 今朝方ポケモンセンターで過ごしていた所、ジョーイから自分達宛の手紙を渡された。

 

 その送り主がエリカだと知り、わざわざTV電話ではなく手紙と言う手段で自分達の下に届けた為、手紙を開封してその内容を読み上げる。

 

《御無沙汰しております、サトシさん。マサラタウンでの事件は聞き及んでおります、息災で何よりです。恐らくカントーを旅する中、この街を訪れている貴方に相談事をお願いするべくこの文を書きました、もしお時間がありましたらタマムシジムを訪ねて下さいませ》

 

 御丁寧な達筆で書かれた手紙を読み上げ、彼等は此処へ赴いた──と言うのが現在に至るまでの経緯である。

 

「……野外では話せません、立ち話もなんですし中で話しましょう」

 

 キレイハナを抱き込み、優雅な足取りでジムの中へと入っていくエリカ。サトシ達もその後に続き、ジムの中へと入っていく。

 

 その近くの茂みからごそごそと物音が響き、一人の人物がひっそりと顔を見せる。

 

「うひひ……やっぱりエリカちゃんはいつ見ても可愛いのう」

 

 年老いたその老人は鼻を膨らませて卑しい眼差しをエリカに向け、こっそりとその場を去っていった。

 


 

 タマムシジムの内部は温厚な雰囲気を醸し出していた。

 

 花壇や花畑、花の装飾がジム内部の雰囲気を引き出していて、他にもジムに配属する女性トレーナー達がバトルコートでポケモン達と特訓を励んでいたり、楽しく雑談していてとても穏やかな様子が見受けられる。

 

『──ストーカー!?』

 

 ……なのだが、現在このジムを脅かす事態が起こっている。

 

 カスミはまだしも、サトシとタケシは正真正銘の男。乙女の花園とも言えるこのジムに入る事自体本来なら憚れるのだが、エリカにとってサトシはジムやポケモン達を救ってくれた恩人──特別に入る事を許可された。

 

 彼女の私室には凡ゆる花瓶や香水瓶が並べられていて、清楚な雰囲気の彼女の性格を表している証拠だろう。

 

「………って、何?」

 

 首を傾げたサトシの純真無垢な発言にガクッとカスミとタケシはずっこけ、ピカチュウは呆れて溜息を零す。

 

「あのねェ! ストーカーって言うのは特定の相手に対して付き纏ったり待ち伏せされたり、嫌がらせをしつこく繰り返す人の事よ!」

 

「………ああ、ロケット団(いつもの彼奴等)みたいな感じか」

 

「大体合っているわ」

 

 大丈夫だろうか、とタケシは思わず不安を覚えた。

 

「それでエリカさん……エリカさんをストーカーしているのはどんな人なんですか?」

 

「ええ……御高齢の男性ですわ」

 

 あっけらかんに答え、エリカは経緯を説明する。

 

「最初は何の変哲もない、ジムの中を窓ガラスから覗いている御方でした。来る日も来る日も毎日ジムの中を覗いていまして、変わった御方と言う御印象がありました」

 

 お淑やかな雰囲気で微笑むエリカ、サトシ達は真顔で顔を見合わせてから彼女の方へ視線を向ける。

 

「ですがジムトレーナーの皆さんはその視線を煩わしく思い、その御方に注意しました。ですが彼は注意を受け入れてもらえず、時折お店のお手伝いやお買い物で外に出る私を尾けていたのです」

 

 カスミとタケシは眉間に青筋を幾つも浮かべ、今にも殺意が芽生えそうな雰囲気である。

 

「毎日同じ時間でジムの外、そして外出中も視線を感じて……流石に気になってしまったので文を書き、ポケモンセンターへと届けたのです。貴方方が文を読む事を予見して」

 

「は、はははは……」

 

「許せーん!」

 

「ええ! 気持ち悪いったらありゃしないわ!!」

 

 引き攣った笑みで乾いた笑い声を小さく上げるサトシの傍ら、カスミとタケシが激昂してストーカー男への憎悪が芽生えている。

 

 方や同じ女性として、方や乙女の花園を覗いた事への嫉妬心ではあるが。

 

「おいおい、幾ら何でも興奮し過ぎじゃないか? 確かに覗きや尾行されたりとやり過ぎている感じはするけど」

 

「甘いわよサトシ! 女の子にとって死活問題よ、まだドンメルの如く鈍感なあんたには分からないでしょうけどね!?」

 

「その通りだ! よりによって清楚系ジムリーダーである美しいエリカさんを追い回すとは、しかも覗いたと言う事は彼女のあんな所とかこんな所とかも…!」

 

 一人だけ誇張気味であるが、話を聞いただけで此処まで怒りを昂る有り様は当然の感情。

 

「ええ…そうですわね、許し難き所業です。ですがお相手は御老体、老人虐待の罪に問われたくないでしょう?」

 

 エリカの正論に一気に怒りが冷めるカスミとタケシ、確かに警察沙汰になれば即、罪を問われて連行されるだろう。

 

「警察と言えば……ジュンサーさんに相談しないんですか?」

 

「出来ればこの事は内々に収める事が望ましいかと。警察の方々の手を煩わせるわけにも参りません」

 

 現状デザイアと言う存在のお陰で警察側も忙しい、こればかりは手配する程の人材が少ない筈。

 

「なので貴方方とは別にもう一人、協力を仰いだ方にも同様の文を送っておきました」

 

「へ〜…その人にも俺達のと同じ手紙を」

 

「はい。その方はとある街の名家の御令嬢で、私と似た趣味と手持ちのポケモンのタイプも似ており、意気投合していますの。それに嘗てポケモンリーグにも出場し、サトシさんともバトルしておりますのよ」

 

「え?」

 

 思わず呆けるサトシ。確かにカントーを含めた様々な地方のポケモンリーグに出場したが、記憶力もいい方ではなく首を傾げて頭を悩ませる。

 

「エリカさんと似た趣味にポケモンのタイプも似ている…」

 

「それにお嬢様……」

 

 一方でカスミとタケシは誰なのか心当たりがある様子で顔を見合わせていると、ジムトレーナーの女性が一人、扉を小さく開ける。

 

「御歓談中失礼しますエリカ様、御友人の方が参られました」

 

「ありがとう御座います。出来ればお通しして下さい」

 

「分かりました、ではどうぞ」

 

「──失礼致します、エリカ様」

 

 エリカに促される形でその人物は入室し、ジムトレーナーは「ではごゆっくり」と告げて扉を閉めて去る。

 

「お久し振りです」

 

「ええ、此方こそ。本日はお招き頂きありがとう御座いますわ、本日もエリカ様はお変わりない美しさでなに……よ……り……?」

 

 エリカと同じく和装を纏い、大和撫子風の美しい女性。若干タケシより年上のその女性は礼儀作法で挨拶する中、サトシが視界に映った途端、その美貌が硬直した。

 

「……ああああああああああああ!!?

 

 そして清楚な雰囲気が崩れる程に驚き、勢いよく立ち上がってサトシを指差す。

 

「あ、貴方はいつぞやの!? 何故エリカ様のジムに!?」

 

「………ああ!?」

 

 サトシも釣られて立ち上がり、思わず声を張り上げる。

 

「──誰だったっけ?」

 

 思わず女性はずっこける。予想通りの反応をしてくれた彼にカスミとタケシとピカチュウは呆れ、エリカは苦笑いする。

 

「あ、貴方! 御自分がバトルしたお相手を忘れるとは何事ですか!?」

 

「いやそうじゃなくて、顔は覚えているんだけど名前が思い出せなくて……」

 

「カオルコですわ! ジョウチンタウンの出身で、貴方とはポケモンリーグの四回戦でバトルしていますわよ!」

 

「………ああ! あのマダツボミ使いの」

 

「……思い出して安心した筈だと言うのに、何故か釈然としませんわ」

 

 その女性──カオルコは顰めた表情でお辞儀し、エリカから事の経緯を聞く事に。

 

「成程……事情は理解しました。それは由々しき事態で御座います、内々に事を収めたいと言うエリカ様の心情をお察しします」

 

 呆れた様子でカオルコは視線をエリカからサトシに移し、言葉を零す。

 

「それにしても……タマムシジムがポケモンリーグが開催される以前に火災に遭ったと言う話は聞きましたが、まさかこの少年がエリカ様達を救っていただなんて」

 

 よりによって自分を負かした相手が自分の知らぬ間に友人を助けていた事に驚き、同時に疑問が氷解したカオルコ。

 

「あの時の少年が今ではあのダンデ様を下し、ポケモンバトルの頂点に立つとは……当時では考えられませんわね」

 

 彼女もマスターズトーナメントの決勝戦を拝見した身で、少々複雑な様子であった。

 

「俺も吃驚だよ……まさかあの時バトルした……え〜と、カオルコさん?がエリカさんと友達で、知り合い同士が繋がっているなって感じたよ」

 

 世間が狭いとはまさにこの事。何方も和装を纏っている上に扱うポケモンのタイプも似ている、類は友を呼ぶと言うべきだろうか。

 

「こほん……雑談はこの辺りにしましょう。──それでエリカ様、その御老人の貴女様に対する所業、この(わたくし)も見過ごせませんわ…!!」

 

 眉間に青筋を浮かべて怒りを震わせるカオルコ。彼女以外の面々はやはりこうなったか、と苦笑いしながら同調を示す。

 

 彼女に同意を示すかの様に草・毒タイプのマダツボミも俄然とやる気を出し、両手の葉を振るっている。

 

「それで……御老人をどうやって誘き出すつもりですか?」

 

「計略があります……少々人心を惑わすようで痛み入りますけれど」

 

 床に街の地図を広げ、赤いマジックペンでとある箇所に丸で囲うエリカ。

 

 タマムシデパート、噴水広場、ガーデニングショップ、花壇の見えるベンチ。

 

 これらの場所は全て彼女自身外出で訪れていて、ジムが休みの日には必ず来ている。

 

 (くだん)の老人も休日を過ごすエリカの休日スポットで待ち構え、彼女を覗き見るには絶好の場所と言えるだろう。

 

「この中の誰かが私に成り済まし、彼に接触して下さい」

 

「つまり……囮として女装しろって事?」

 

「短楽的に言えばそうなりますわね」

 

 満面の笑みを浮かべて頷くエリカ。向こう側の動機を掴めない以上、下手に一方的に捕らえてもそれは根本的な解決には至らないだろう。

 

 決行は今夜の20:00。ガーデニングショップもデパートも閉店時間になっており、噴水広場も子供達は家に帰っているが為、見回りでジュンサーを始めとする警察官が街の巡回に訪れる。

 

 となると……行き先は唯一つに絞られる。

 

「花壇が見えるベンチ……街の東にあり、デートスポットに数えられています」

 

「成程……私もタマムシ(この街)を訪れた際に彼処を拝見した事が幾度もありますけれど、その時間帯ならばそれ以外ありませんわね」

 

 土地勘故に地元民たるエリカ、そして幾度も訪れた事があるカオルコが詳しい為にサトシ達は彼女達の言葉に耳を傾ける。

 

 少しずつ解決の糸口が見えてきた気がする。

 

「うーん……でも誰がエリカさんに変装するんだ? 流石に本人だとバレるだろうし………おい、何で俺を見ているんだよ」

 

 カオルコ以外の三人が自分に視線を向けている事に気付き、思わずキョトンとするサトシ。

 

「適役はお前しかいないじゃないか」

 

「そうよ。ロケット団に勧められたとはいえ、あんな女装を披露してくれたんだから」

 

「ええ。私もサトシさんにしか出来ないと確信に思います♪」

 

 口角を上げて笑みを浮かべる三人に悪寒を覚え、恐る恐る一歩下がるサトシだがカスミ達は距離を詰めてきており、妙な雰囲気の四人にカオルコは首を傾げ、ピカチュウは呆れて息を吐く。

 

「ま、まさか」

 

「そのまさかですわ、サトシさん♪」

 

 和装の振袖から化粧品を取り出したエリカを見て、彼の目の前が真っ暗になった。

 


 

 タマムシシティの夜は煌びやかな光が照らされ、同時に夜の街へと姿を変える。

 

 仕事帰りの社会人が酒を飲んで飲兵衛化して歩いていたり、ホーホーやヤミカラスなどの夜行性のポケモンが活性化したりと、夜の世界が始まる。

 

「むほほほ……」

 

 街中にある綺麗に咲く蒲公英(タンポポ)の花壇、その近くにあるベンチの茂みで件の変態爺はにやけつつ隠れている。

 

「エリカちゃん来ないかの〜……」

 

 笑みを隠そうとせず今か今かと茂みに潜み、エリカの来訪を待ち侘びている。

 

 ……単なる下心目当てであり、大した目的など目論んでいない。

 

 だがいずれにせよ他人に対して嫌がらせ行為を行っているので余計に質が悪いが、そうとは自覚せず老人は鼻を膨らませる。

 

 一般的視点でそう考えられる中、何やら足音が聞こえてきた。

 

 カジュアルな私服を纏ってその()()は現れ、()()()()()()()()()()()で歩いてくる。

 

(ぬほぉ! 生エリカちゃんじゃあ!)

 

 まさかの本人が歩いてくる事に鼻を膨らませ、内心ハイテンションになる老人。

 

 こっそりと近付き、エリカ?の右隣を横切る。

 

「こ、こんばんは」

 

《はい、こんばんは。夜は冷えますわね》

 

 口を開くと何やら声音を出さず、代わりに電子音の様な声が発せられる。

 

 妙な違和感を覚えるが、老人は気にすることなく会話を続ける。

 

「エリカちゃん、ジムリーダーの仕事は辛くないかのう。一町人としてはちょいと心配じゃわい」

 

《お気遣いありがとう御座います。ですがこれは私自身が望んだ事、気兼ねなく日々精進しておりますわ》

 

 口パクで電子声音を発するエリカ?は澄ました丁寧口調で対応し、老人は「そうかそうか」と嬉しそうに同意する。

 

 ベンチで会話する二人を別の茂みからカスミ達が見ていた。

 

「上手くいっているわね」

 

「嗚呼……エリカさん、直接対面していないと言うのに見事な演技ですね」

 

 タケシは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を見て、称賛の言葉を贈る。

 

「く……ぷくく……まさか彼をエリカ様の影武者に仕立て上げ、そのまま送り込むとは何とも大胆……ぷぷっ」

 

 カオルコは口元を抑えて込み上げる笑いを堪えており、()()()()()()()()()に憐憫の眼差しを向ける。

 

 そう……老人と共にいるエリカは本人ではなく──本人達によって変装させられたサトシである。

 

 礼儀作法を数時間掛けて叩き込まれ、サトシは堪えて口だけ動かすだけで肉声を発さず、和装の懐に忍び込ませたスマホロトムの通話でエリカが話しているのだ。

 

 つまりエリカの声は全てスマホロトムからの音声であり、サトシは口だけを動かすだけである。

 

 巧妙な策に踊らされる中、老人は厭らしく不気味に微笑む。

 

「そうじゃ、もしよければ儂のポケモンを見てもらえんかのう」

 

 老人はモンスターボールを取り出し、独りでに開いてその姿を見せる。

 

 長い鼻を持つ上半身が黄色、下半身が黒の体色のエスパーポケモン──催眠ポケモンのスリープである。

 

《あらまあ、可愛いスリープですこと》

 

「そうじゃろう、よ〜く見て欲しいんじゃ」

 

 エリカ(サトシ)の目線がスリープと重なり合い、老人は指示を出す。

 

「催眠術」

 

 スリープの両目が怪しく輝き、サイコパワーによる念波が両手から発せられる。

 

(にひひ! 生エリカちゃん、GETじゃ〜)

 

 だがその下衆な目論見は、あっという間に崩される。

 

「──クワッス! 水鉄砲(みずでっぽう)!!」

 

 茂みから飛び出したクワッスが口から鉄砲水を発射、直撃を受けたスリープは前のめりに倒れる。

 

「んなっ!? だ、誰じゃ!?」

 

「──御機嫌よう」

 

 スマホロトムの通話を終了し、エリカは茂みから姿を見せる。カスミ達もそれに続き、老人は困惑の表情を浮かべて二人のエリカを交互に見る。

 

「へ…? エリカちゃんが……二人? どう言う事じゃ?」

 

「──こう言う事だよ」

 

 痺れを切らして肉声を発し、カツラを外すサトシ。

 

「……なっ、なあああああっ!? お、男ォ!?」

 

「残念だったな、エリカさんじゃなくて!」

 

 少し八つ当たり気味に言い、眉間に青筋を浮かべてサトシは拳を震わせる。

 

「ぷぷっ! あはははは! サトシさん、怒っても迫力がありませんわよ! あははははは!!」

 

 余程ツボに入ったのかカオルコは路地に這いつくばった状態で大笑い、片手を叩いて使い物にならない始末だ。

 

 取り敢えず爆笑する彼女は放っておき、衝撃のあまりに四つん這いに項垂れる老人。

 

「ま、まさか──唯の青臭い小僧にときめいておったとは……儂は唯、エリカちゃんを眺めたいだけじゃったのに…!」

 

「其方はそうでもエリカさんにとっては迷惑なのよ! いい加減諦めなさい!」

 

 だがこの老人はめげないと言うか、諦める事を知らないのか、往生際が悪かった。

 

「喧しいわ! 貴様等若者にゃ分かるまい、老い先短い身でどれだけ虚しい日々が続くのかを! 一度でもいいじゃろうが、女子の花園を覗き込むぐらい!」

 

「余計に質が悪い! 気持ちは分からなくもないが」

 

 思わず男として同意し掛けるタケシだが、やっている事が十分な迷惑行為な為に否定する。

 

「エリカちゃんを催眠術で操り、あの手この手で遊ぼうと思っておったのに…! こうなればお前達だけでも……スリープ、サイコキネシスじゃ!」

 

 先程よりも強力なサイコパワーを放つスリープ、それに対峙するのはサトシ達ではなかった。

 

「お行きなさい、ウツボット」

 

「キアアーッ!!」

 

 エリカの投げたモンスターボールから飛び出したのはマダツボミの最終進化形、蝿取(はえとり)ポケモンのウツボット。

 

 ウツボットは両手の葉から葉っぱカッターを放ち、サイコパワーと相殺させる。

 

「ぬおっ!?」

 

「その様なお考えであるのならば致し方ありません。御高齢の方に手を出す事自体心痛み入りますが──お覚悟はよろしくて?

 

「ひ……っ!?」

 

 老人の怯えた声が零れる。

 

 一見すると微笑ましい笑みだが、それに含まれた怒りは計り知れない程。

 

 サトシ達は老人に憐れみの視線を向けるが、決して庇護する発言を控えている。

 

 彼自身の自業自得である為、口に出せば此方に怒りの矛先を向けられるので沈黙を貫く。

 

 そしてエリカは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ウツボット……メガシンカ♪」

 

 メガリングのキーストーンとウツボットの腹部の装飾に嵌められたメガストーンが共鳴、それぞれの光が結び付き、ウツボットの姿が変わっていく。

 

 胴体は肥大化し、トランポリンの如く常時跳躍。頭部の触角の葉は二枚になり、凄まじい巨体として立ち塞がる。

 

「あれがウツボットのメガシンカ……」

 

 巨体であるが故にその体積比は凄まじく、うっかり踏み潰されてしまいそうである。

 

「ウツボット、パワーウィップです」

 

 巨大な蔓が鞭として振り下ろされ、アスファルトの床に振動が伝わる。

 

 土煙が晴れていき、仰向けでスリープが昏倒する姿があった。

 

 勝敗はたった一発で決まり、老人はスリープとしなかった。否、出来なかった、自身が恐ろしい人物の琴線に触れ、腰を抜かしているのだ。

 

「今後はお気を付け下さいね♪ 私は兎も角、ジムの周りで迷惑行為を繰り返すようであれば、()()()()()()()()()()()()♪」

 

「ひ……ひぎゃあああああああ!!」

 

 恐れを為して老人はスリープを放って走り去り、その後姿は遠ざかっていく。

 

 御丁寧にモンスターボールも転がっており、落とした事にも気付かずに。

 

「あら? 少しやり過ぎてしまったかしら」

 

 キョトンとして首を傾げる彼女に一同は冷汗を流し、老人の後姿を見つめるのだった。

 

 

 

パァン

 

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

「……? 今、何か聞こえなかったか?」

 

「ピカ?」

 

 ピカチュウでさえその音を聴き逃したらしく、サトシが首を傾げていると……逃げていた老人が唐突に倒れる。

 

「あら、転んだの?」

 

「傍迷惑とはいえ御高齢の人だ、起こして上げよう」

 

「仕方ないですね」

 

「お爺さん、大丈夫ですか?」

 

 呆れつつも老人の上体を起こそうと一同は歩み寄る。うつ伏せに倒れている老人を起こす為に駆け寄るが、一向に彼は起きようとしない。

 

「……ちょっと待った。何かおかしい」

 

 何か異変に気付き、駆け足で走るサトシ。

 

 未だに女装であるが気にする余裕もなく走り、ピカチュウやカスミ達も続く。

 

「……!!」

 

『!?』

 

 老人の近くまで行くと――彼は頭部から血を流していた。

 

 頭部には貫通したと思われる弾痕が残っており、エリカは彼の身体を仰向けにさせる。

 

「駄目ですわ…! もう脈が……心音も聞こえません」

 

「……!」

 

 老い先短い命が何の前触れもなく失われ、サトシ達は言葉を失う。

 

 エリカは歯を軋ませ、カオルコは口元を押さえて顔色が青く染まる。

 

 幾らどうしようもなかったとはいえ突然起こった銃殺事件、先程まで生きていた老人の遺体を彼等は見下ろす。

 

「デザイア……」

 

「え…?」

 

「まさか、例のマサラタウンを襲撃したと言う……」

 

「はい……恐らく」

 

 先程聞こえた発砲音、何処からかは不明だが――この様な所業を行った刺客は……街の何処かで老人を狙撃して葬った。

 

 サトシの拳は自然と力が入り、彼は闇夜で覆われたタマムシの空を見上げる。

 

 満月が照らされる中、夜は自然と更けていく。

 

 

 To be continued

 

 

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