ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE   作:虎武士

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#3 色恋を知る時、災厄は降り掛かる

「本日はありがとうございました」

 

「いや、此方こそ曖昧な返事を出すこともできなんだ」

 

「それでもやはり、オーキド博士とお話出来て──感慨無量です」

 

 アンヌは一礼し、ドーブルと共に車に乗って去っていく。

 

 タイヤの走行音を聞きながらオーキドは階段を登り、扉を開けて研究所兼自宅内へと入る。

 

「やれやれ、歳は取りたくないものじゃな」

 

 自虐気味に言うオーキドは何処か物悲しそうだった。

 自身がもう少し若ければトレーナーとして力になれただろう、だがこんな老ぼれた身では心許ない気分になり無力な己が恨めしくなる。

 各地の事件に関しても此方から出せる人選が少ない、出せたとしても否応なく応じるかどうかも不明だ。

 ……否、一人だけ──今や世界王者である彼が帰って来ている。

(いや……サトシを関わらせてはならん!)

 もしも、()()()()宿()()()が発現してしまえば取り返しのつかない事となってしまう。

 仮に事態を終息させたとしても、その果てに待つのは──

 

 


 

 

 研究所の庭にある牧場、ポケモン達は割り当てられたポケモンフーズを食している。

 ミジュマルが摘み食いをしようとすればフシギダネに制され、ケンタロス達が一斉にムシャムシャと食べているなどの光景が見える。

「……サトシ、どうしたんだ?」

「……え?」

 ケンジにそう言われてサトシはハッと我に返る、「何か上の空だったよ?」と言われてしまい頭を掻く。

「俺、そんなにボーッとしてた?」

「ボーッとしてたと言うよりも、何だか楽しくなさそうな表情だったよ? もしかしてまだ旅の疲れが残ってるんじゃないかい?」

 訝しむような視線を向けられた為か、痛い所を突いてくる。

 別に疲れてるわけでもなければ、心ここに在らずだったわけでもない。

「いや……何かよく分からないんだけどさ、心が温まらないんだよ」

 こんな気分になるのは初めてだ。未熟だった頃に天狗になっていた時期もあった、バトルに敗けてスランプになった時期だってあった。

 だけどこの感情はなんだろう。諦めとも違う、この不可思議な表情は。

「もしかしてサトシ……誰かの事を好きだったりするの? 例えば一緒に旅した仲間とかで」

「え? 仲間の皆は好きだぜ?」

 キョトンとした様子で言うサトシにケンジは苦笑い、だが彼はめげずに問い正す。

「じゃ、じゃあ改めて聞くけど──今まで過ごした地方で気になった女の子っている?」

 そう言われてサトシは腕を組んで唸り始める。

 

 

「先ず、ホウエン地方で知り合ったハルカだよね」

「そうだな……ハルカは何かとマサトと一緒に俺の事を見本にしていたしな、“舞姫“としてコンテストの腕を磨いている」

 何と言うか妹を見守る兄みたいな目線だ、これは外れかも知れない。

 

 

「次にヒカリだね、シンオウの“妖精“って言われている」

「ヒカリは何か俺に似ているかな? 大丈夫じゃない所もあるけど、ポッチャマ達と一緒にコンテストの腕を磨いているんだろうな」

 まるで双子の兄妹だな、と心の中でつい思ってしまう。

 

 

「じゃあアイリスはどうかな、現イッシュチャンピオンの」

「そうだな……初めて会った頃は何か視野が狭かったように思えた。イッシュの事を知らなかった俺を小馬鹿にする態度だったし、って言うか我が強かった。でも再会した時は強くなったオノノクスと共に心が成長してたし、凄く安心した」

 氷タイプに怯えていた頃とは大違いだと驚いた、サトシは少し嬉しくなった。

 

 

「で…次はカロス地方で会ったセレナだけど、サトシは小さい頃に彼女に会っているんだよね?」

「うん、ポケモンキャンプでな。あの時はハンカチを渡した女の子が俺に会いに来てくれるとは思わなかった、一度風邪を引いた時…セレナが俺に成り切った時は俺の為にありがとうって思ったよ」

 ちょっとした事で風邪を引いた自分も反省があり、同時に申し訳なかった。

 

 

「次はアローラのポケモンスクールのクラスメイト…スイレンとマオ、それとリーリエはどうかな?」

「スイレンは案外図太かったし、マオは皆の帰る場所を守ってくれている。リーリエはお母さんと確執があったけれど、ウルトラビーストの一件で和解出来た。リサーチフェローの一環で再会した時は驚いたけど、ポケモンに触れなかった頃とは一回りも違っていた」

 アローラにいる父と呼べる存在──ククイからの話によれば、現在は世界中を旅していると聞いた。もしかしたら何処かで再会するかも知れない。

 

 

「次は…サクラギ博士の娘さんのコハルちゃん、彼女は?」

「あー……コハルか? 最初の頃はポケモンに興味がなかったけど、イーブイと出会ってから変わったよ。サンダースやブースターと言った進化形とそのトレーナー達にリサーチフェローを通して出会い、イーブイの様々な可能性を知って良かったんじゃないかな」

 今はどうしているか分からないけど、クチバシティに行った際には会っておきたいと思う。リサーチフェローの相棒である彼女の幼馴染の近状も知りたい。

 

 

「じゃあ最後に──カスミはどうだい」

 不意打ちとばかりにケンジが最後の問い合せを言い放つ。

「…………は?」

 瞬間、少年の空気が凍り付いた気がした。

「あ、ご、ごめん! 無し! 今の無し!」

 拙いと感じて慌てて訂正、幾ら何でも踏み込み過ぎたと白状する。

「カスミに関しては……分からないや」

 突然俯くサトシにケンジは困惑する、何故と言う疑問が浮かぶが本人は静かに口を開いていく。

 

「旅に出て最初に出会って、それからジョウトでの旅が終わって別れてからモヤモヤするんだ」

「……何処が?」

「胸が」

 ぽつりと小さく言葉を紡ぐ。

「カスミに出会えたから楽しい旅が出来た、そう自分に言い聞かせて旅を続けてきた。他の男が彼奴に寄り付くと胸が痛くなったり、悲しい顔になると俺も同じように悲しくなった」

 カントーとオレンジ諸島、そしてジョウト。彼女との旅が終わり、後輩達との交流を交えて少しは成長した筈だった。その筈だったのに──

「カスミの事を考えると胸が熱くなっちゃうんだよ、ケンジ……俺病気なのかな?」

 悲しげに、そして真剣な表情でサトシは片手で胸を押さえる。

 ケンジも薄々は感じていた、彼の彼女に対する秘めたる感情を。

 だけどそれを言葉にしなかった、彼が自身の成長を遂げてそれを言葉にするのを待つだけだった。

 抱え続けていた想いをサトシが口にしたように、自分も包み隠さず明かそうと思う。

「サトシ、それはね──」

 その感情の名を口にしようとした時、それは起った。

 

 ──ドオオオオオオオンッ!

 

「………え?」

「い、今のは…!?」

 轟音。

 研究所……否、マサラ中に響き渡る恐ろしいまでに凄まじい轟音。

 ポケモン達も何事だとばかりに騒ぎ出し、空の向こうから黒煙が立ち込む。

「か、火事…!? 一体何処から」

「分からないけど、兎に角行かなきゃ!」

「お、おいサトシ!」

 5個のモンスターボールに自分のポケモン達を戻し、サトシはピカチュウは駆け出した。

「おおっ!?」

 物凄い勢いで走って行った為か、オーキドには気付かなかった。

「博士、あの煙は一体!?」

「儂にも分からん、じゃが何者かが町を襲っているのは分かる!」

 今までこの研究所が襲撃される事はあったが町全体が襲撃されるなど前代未聞のケースだ、オーキドも焦りからか顔から汗をかいている。

「サトシ……無理をしてはならんぞ…!」

 


 

 この日、マサラタウンは突然の襲撃に見舞われた。

 町で暮らすポケモンや人々は恐怖に煽られ、悲鳴を上げながら逃げ惑う。

 逃げ遅れた者達はその襲撃者とポケモンによって完膚なきまでに苦痛を、血を滲むまでに裂傷を与えていく。

「ひゃーはっはっはっはっ! 本当にど田舎だなァ、話にならねえ程に弱えぜ!」

 燃え盛る炎をバックに、巨漢の男は狂ったように嘲笑う。

 鶏冠のような髪に筋骨隆々に鍛え抜かれた体躯、きっと真っ当な道を進んでいればそれなりの強者だったのだろう。

 だがこの男はトレーナーとしての道を踏み外し、自ら悪へと身を堕とした。疑うことを知らず、自らの破壊衝動に従って。

「止めろ!」

 其処へピカチュウを同伴して、サトシが険しい表情と共に姿を現す。

「お前、ロケット団の仲間か!?」

「あぁ? ……俺様をあんな小物共と同類とされるとは心外だなぁ」

 歪み切った笑みを浮かべて、男は両腕を天に向けて仰いで豪語する。

「俺様の名はディアス! 栄光あるデザイアの徒だァ!」

「デ、デザイア…?」

手前(てめえ)のような餓鬼が知る必要はねえ、此処で俺様に殺されるんだからなァ!」

 巨漢の男──ディアスは手にしたモンスターボールを空高く投げる、ボールが開くと光が飛び出す。

 白と紫の体色を持つ存在、スカンクポケモンのスカタンクがその姿を現す。

「ピカチュウ、君に決めた!」

「ピカ!」と勇んだ声と共に黄色い相棒が飛び出す、ディアスはフン! と鼻で笑う。

「ピカチュウ如きで俺様のポケモンを倒そうってのか? 可愛いだけが取り柄の雑魚に何が出来るんだよ!」

 明らかに見下した物言いにカチンとくるも、今はそんな事は関係ない。

 今は唯、この故郷を襲う狼藉者を追い出す事が先決だ。

「行くぞ、ピカチュウ!」

「ピカ!」

 

 

 運命は流れるように動き始める。

 時計のように針が動き出し、凍て付いた氷が氷解するように。

 やがてそれは、世を狂わす幾許かの戦へと誘う。

 

 

 To be continued

 

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