ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE 作:虎武士
微風が吹き、木の葉が木から離れて空に舞い上がる。
そんな静かな一景から掛け離れた光景が、マサラタウンが襲われたと言う地獄のような光景が広がっていた。
「スカタンク、ヘドロ爆弾!」
「ピカチュウ、電光石火で躱せ!」
スカンクを大きくしたポケモン──スカタンクの口から放射されたヘドロの塊が襲いかかる、ピカチュウはサトシの指示で鮮やかに回避。
そのままその瞬発力を活かして一気に駆け出し、あっという間に懐まで飛び込む。
「なぁっ!?」
「アイアンテール!」
「くっ! シャ、シャドークロー!!」
あまりのスピードの為に慌ててディアスは指示を飛ばす、それを受けてスカタンクは影を纏った爪を繰り出して黄色い電気鼠の鋼鉄の尾を受け止める。
だがアイアンテールがスカタンクを押していき、やがてピカチュウはその巨体を吹っ飛ばす。
「ピカァ!」
「んなっ!?」
あの小さな身体の何処にあんな力を出せるのか、ディアスはピカチュウが簡単にスカタンクを吹っ飛ばした事実に驚愕で顔を染めた。
「エレキネット!」
サトシの指示を受けてピカチュウは電撃で構築された球体を放つ、球体はスカタンクの眼前まで迫ると網状へと変質してスカタンクに覆い被さる。
「クソが! スカタンク、さっさと噛み千切れ!!」
「ピカチュウ、10万ボルト!」
「ピ〜カ〜チュウウウウウッ!」
赤い頬袋から膨大な電気が放出される、その電撃はあっという間にスカタンクを飲み込む。
スカタンクはあっという間に黒焦げと化し、そのまま横たわる。
「な、な、な……!」
呆気なく倒された事にディアスは唖然とし、苛立ちを露わにしてスカタンクをモンスターボールに戻す。
「この役立たずが! カイリキー、行きやがれ!!」
次に繰り出したカントー地方に生息するワンリキーの最終進化形、四本の腕を持つカイリキーだ。
「どうだ! まぐれが連続で続くと思うなよ!?」
既に余裕がないディアスは恐ろしい形相で睨む、しかしサトシは──まるで凍るような冷たい眼差しで見ていた。
「は──っ!?」
その瞳と目が合うなりディアスは背筋が凍るような感覚を覚える、口を動かそうにも口が詰まったように言葉が出せない。
「一つ聞かせてくれ。何でこの町を狙った?」
「……ッ! ど、何処でも良かったんだよ、場所なんて…! この世界に試練を与えるなら、な……!」
この餓鬼は普通じゃない、ディアスには彼が人間ではない何かとしか思えなかった。
「そうか……じゃあ遠慮なく、お前をやっつけるだけだ」
「ッ! 自惚れんじゃねええええ!!」
憤怒の形相を浮かべて怒号を上げる、否……この底知れぬ恐怖を紛らわそうと声を張り上げるのでディアスには精一杯なのだ。
「カイリキー、爆烈パンチィ!!」
「ピカチュウ、躱して10万ボルト!」
彼は知らない、目の前にいる少年が唯の子供ではない言う事に。
カイリキーの拳を華麗に避け、再び高電圧の電撃を放つピカチュウ。瞬く間に電撃がカイリキーを襲い、黒焦げになって倒れ伏す。
圧倒的な敗北にディアスは愕然とし、歯を軋ませて目の前にいる少年を威嚇する。
「て…
「俺はマサラタウンのサトシ、此方は相棒のピカチュウ」
律儀に名乗る彼の口上にディアスは更に愕然とする、信じられない様子でサトシを凝視する。
「せ、世界王者…!? あのダンデを倒した…」
今まで気付いてなかったのか、ディアスは唖然とした様子でサトシを見る。ポケモンバトルの頂点に立つ最強のトレーナー、こんな腐りきった男が敵う筈がない。
「確かに俺はダンデさんに勝った。だけど俺は王者として君臨するよりも、世界一のポケモンマスターを目指す事が大事なんだ。じっとしてるよりも旅を楽しむ事が大事だ」
静かにそう語る彼は真っ直ぐな表情を浮かべている、だがディアスは「ふ…ふはは…」と乾いた笑い声を上げる。
「ふははははは! ひゃはははははは!」
その笑い声は大きくなり、狂ったように笑い続ける。一頻り笑い続けるとそれは止み、こう言い放つ。
「ポケモンマスターだと…? 馬鹿も休み休み言えや、
「何だと…?」
聞き捨てならないその言葉に眉間に皺を寄せ、サトシはディアスを睨む。
「王者っつってもまだ餓鬼だな、
負け惜しみとは思えない、かと言って法螺を吹いているとも思えない。
「……何、言ってるんだよ」
「教えてやるよ……ポケモンマスターは
ザシュッ!
「……ぁ……が……っ」
赤い水飛沫がディアスの胸から飛び散る、彼の口から赤い液体が流れ落ち──そのままうつ伏せに倒れ伏す。
「……え?」
何が起きたのか分からない、脳が理解出来てもサトシには意味が分からなかった。
「──成程、確かに此奴が醜態を晒すのも無理もないことか」
淡々と冷たい声が響き渡り、今さっきまで喋ってた男の傍らには鋏ポケモンのハッサムがいる。
その背後から、炎に紛れて一人の青年が歩いて来る。
赤紅色の双眼と揺れる艶やかな黒髪、冷徹な憎悪に満ちた眼差し、整った端正な顔立ち……端から見れば美男子に部類する青年。
何も見えなかったが、このハッサムがこの声の主の命で何をしたのか──嫌と言う程に理解してしまった。
「あ、ああああ、ああああああっ!!」
人が死んだ。サトシは今起きた現実に愕然とし、絶叫してしまう。
目の前にいるこの青年は、何の躊躇なくポケモンを使って人の命を奪った。
「な、何で、何で殺す必要があったんだよ!! 何で簡単に人やポケモンを殺せるんだよ!?」
黒髪に血の様に赤い瞳を宿す美青年、だが彼は何の躊躇なく命を狩り取った事にサトシは激昂する。
「──其奴は貴様に敗れたからだ。戦いに敗れた者に、生きる価値はない。この世は力で勝敗が定められる、そう言う世界だろう」
冷酷に青年は紡ぐ、確かにそうとしか言えないが何故このような暴挙に出るのか見当がつかない。
「そんなの間違っている! ポケモンと人間は仲良く出来るし、友達にもなれる! お前みたいな奴に、未来を奪う事なんて絶対させない!」
「下らん。全く持って甘い、貴様の言葉を耳にすると──耳障りに思えてくる」
こんなやり取り、何処かで聞いたような気がする。
だけど今は、目の前のこの男を止める事が大事だ。
「ピカチュウ、頼む…!」
ピカチュウはこくりと頷き前に出る、青年の方もハッサムが前に出て両者は向かい合って火花を散らす。
「そう言えば名乗りが遅れた。俺の名はゼノン、其処に転がっている奴と同じデザイアの者だ」
青年──ゼノンは不気味なまでに飄々と応える、真紅のボディを持つ鋏ポケモンは両腕を突き出す。
「死の旋律を奏でろ、ハッサム」
「ピカチュウ、電光石火!」
今、終焉に向けての火蓋が切って落とされた。
To be continued