ポケットモンスター 〜THE LEGEND OF SAGA〜 REMAKE   作:虎武士

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#6 新たな風雲

 ──力が欲しいか? 

 

 

 

 ──その言葉は何時から聞こえるようになったのかは、自分自身でも解らない。

 

 

 

 ──旅先でも聞く事もなかった、仲間達と過ごしていた時も囁きが聞こえなくなった。

 

 

 

 ──唯その囁きは、俺の此れ迄の日常と人生を。

 

 

 

 ──そして世界そのものを大きく変えるなど、俺は知ろうともしなかった。

 

 


 

 

「チュウウウウウッ!」

「みゃああああああああああっ!!?」

 電撃が全身に迸り、甲高い悲鳴が響き渡る。

 勢い良く起き上がり、周囲を見渡した。

「俺の……部屋……何時の間に帰って来たんだ?」

 サトシは困惑しながら天井を見て、それから周囲の空間を見渡してみた。

 棚にはこれまで自分が培い、そして勝ち取った数々の戦いの戦利品と呼べる記念品や勲章、仲間達と過ごした思い出の写真の数々。

 紛れもない自身の部屋、同時に思い出す。

「……そうだ、俺──負けたんだ」

 硝煙と血に塗れたバトルの末、一方的な敗北を喫した。あの時の光景が脳裏に焼き付き、その後の頬などの痛みが消えない。

 その後は──

「……? そう言えば、あの後どうなったんだ? ピカチュウ、何か知らないか?」

「ピ、ピカ…」

「ピカチュウ、どうした?」

 何も覚えていないのか、と言った風に鳴くピカチュウ。サトシも相棒の反応に首を傾げる。

 嘘をついている様子もない──本当に覚えてない様だ。

 ガチャッと扉が開かれる、振り向くと母・ハナコが目を見開いた様子で立っていた。

「サトシ! 起きたのね!」

「あ、ママ! 良く分からないけど大丈──うわっ!?」

 息子の言葉を遮るようにハナコが抱き締めてくる、サトシは母の突然の抱擁に驚くも…母が泣きそうな表情をしているのに気付いた。

「あれからずっと目が覚めなくて心配したのよ、運ばれて来た時には死んだんじゃないかって思って…! もう、ママを心配させないでちょうだい…!」

 記憶があやふやだが母を酷く心配させてしまった事を察した、それを聞いて「……ごめん、ママ」と一言謝罪をするサトシ。

 ピカチュウも傍らで「良かった、良かった」と嬉しそうに頷く。

 

 


 

 

 軽く食事を済ませ、サトシはオーキド研究所へ向けて歩き出す。

(……酷いな)

 道中、町中の惨状に心を痛めていた。

 樹木はへし折れ、草は焼き払われ、民家は彼方此方煤塗れとなった箇所がある。

 ハナコ曰く、あれから五日は経っていて修繕は順調に滞りなく進んでいる。

 それでもやっぱり失った命は戻らない、彼──ゼノンが葬ったあの男の様に。

 何故あの男、ゼノンは平然と生きる命を奪えるのか。デザイアとはなんなのか、何が目的でマサラタウンを狙ったのか。

 あの男の意図が全く読めないまま、サトシはオーキド研究所へと一路向かうのだった。

 

 やがて研究所が見えてきて、速足で玄関前まで赴く。呼び鈴を鳴らし、そのままジッと待つ。

 数秒のタイムラグもあって、扉が開かれる。

「よう、待っていたぜ」

「え…?」

 出迎えたのはオーキドでもケンジでもない、全く見知らぬ男だった。

 ボサボサの茶髪に黒いジャケットの上に紫色のセーター、下半身には空色のズボンと灰色のスニーカーを身に付けている。

 一見すると不審な感じの男だが、彼はニヤッと笑みを浮かべてサトシを見据える。

「もう大丈夫みてえだな、流石は世界最強となっただけはある。否、オーキドの爺さんが見込んだと言った方が正しいってわけか」

「えっと、誰ですか?」

 町でも会った事のない男の登場に困惑するサトシ、男の方は首を傾げていた。

「なんだなんだ、おっかさんから何も聞いてねえのか。しょうがねえな、俺が昔のおっかさんの事を色々と教えて──」

「──家の子に変な事を教えない程度でお願いね?」

 ギクッと男は途端に身を強張らせる、サトシが後ろを振り向くとバリヤードを伴ってハナコが歩いてくる。

「おいこら、俺はお前のありがた〜い話を教えようとしてるだけだぞ。変って何だ、変って」

「実際如何わしい教えようとしたじゃない? 幾つになっても変わらないわね、貴方の下心丸出しの考えは」

「違うわぁぁぁぁあああ!! 其方もお淑やかになったくせに、口数は達者だなっ!?」

 ばちばちと火花を散らす両者。

「あら、久々に捻っていいかしら? おバカさん」

「このアマァ…!」

 滅多に聞く事のない母の罵詈雑言にサトシが唖然とする中、二人は火花を散らし続けている。

 まるで自分と永遠のライバルである幼馴染と同じ、否…もっと激しいかも知れない。

「あの…二人共、入った方が良いんじゃ…?」

「あっ、確かにそうね。この馬鹿に構っていたら、サトシの教育に悪いわ」

「そこまで言うか!?」

 大人気ない口論をする二人を背に、サトシは苦笑いしながら研究所へと入っていく。

 

 

「サトシ、目が覚めたようじゃな」

「君のポケモン達も心配していたよ、後で顔を出して上げなよ」

 オーキドとケンジがそう言うとサトシは頷く、それにしても……とオーキドはソファーにどっかりと座る男に呆れた様子で目を向ける。

「久し振りだな爺さん、しぶとく生きていて何よりだぜ」

「お前さんは相変わらず言葉に歯を衣着せないのう」

 眉間に青筋を浮かべるオーキド、かの有名なオーキド博士にでさえこの物言いである。

「あの…博士、この人誰なの? ママとも知り合いみたいだけど」

「確かに……博士にこんな態度を取るくらいだし、結構凄い人だと思うよ。色々な意味で」

「おーい其処、聞こえてるぞー」

 失礼な事を言っている少年達に突っ込みを入れる、それは置いといて彼はソファーから立ち上がる。

「改めて自己紹介をさせてもらうぜ。──俺の名はジン、この町の出身であるトレーナーだ」

 男──ジンはニヤッと笑みを浮かべ、サトシをじっと見据える。

「因みにサトシ、お前のおっかさんとは昔馴染みでな、共にオーキドの爺さんからポケモンを貰った仲だ」

 愉快そうにジンは笑みを零し、どっかりと再びソファーに座る。

 と言うか──

「ママがポケモントレーナー!? そんなの聞いてないよ!」

「あら? 言ってなかったかしら」

「初耳だよ!」

 母の思いがけぬ経歴を知り、サトシは愕然とした。

「とは言ってもたった数年の間だったけどね」

「嘗てハナコちゃんとジンと儂の息子──シゲルの父親は同じ町で育ちトレーナー修行の旅に出て、共にポケモンリーグで好成績を残したんじゃよ」

 サトシは口を大きく開けて唖然とした。

 自身の母や幼馴染の父親がジンと同期であり、しかもリーグ出場までする程の腕前だった。

「そしてその旅の最中、一人のポケモントレーナーに出会った」

 懐かしんだオーキドは、サトシに視線を合わせる。

「サトシ……お前さんの父親じゃ」

「…………え」

 示された答えに思わず呆然となる。

「サトシのお父さん…? そう言えば今まで聞いた事なかったけど……サトシ?」

 ケンジが視線を向けると、サトシは眉間に皺を寄せて険しい顔となっている。

「……博士、何であんな奴の事を言うんだよ」

「サトシ、それは──」

「ママや生まれたばかりの俺を置いて出て行って、誕生日の日にも、旅立ちの日にも帰って来ない奴の事なんか聞きたくない」

 今まで見た事もない、不快感を一気に顕在化した様な表情をするサトシ。

「それで俺は()()()()()()()()とか! ()()()って呼ばれたりとか! 町の皆にそう言われ続けてきた、何も知らない事を良い事に!」

 ギリリッと唇を噛み締める、何も言い返せずにその話題で喧嘩する事も多くあった。

 悔しくて、悲しくて、そんな繰り返しが続いて──いつしかまだ見ぬ父の存在が憎たらしく思うようになっていった。

 鬼気迫る怒りを露わにする形相を露呈する少年にジンは頭を掻く。

(流石彼奴の息子だよ)

 このように怒りを露わにして己の弱さを吐き出す姿は父親そっくりだ、ジンは立ち上がってサトシの頭に手を乗せる。

 

 

「サトシ、確かお前さんポケモンマスターになるって夢があるんだったな」

「はい……」

「夢を持つのはそれぞれの自由、多いに結構だ。だが、まだまだ甘いぜ」

 呆れた物言いにサトシは怒りをジンに向ける、だがその怒りをものともせずにジンはサトシを見つめていた。

「ポケモンマスターになって何をする気だ。ポケモンを支配するのか? それとも未来永劫、服従させるか? はたまた自分の手足として働かせるか?」

 次々と出る言葉にサトシは唖然とする、暢気そうな優男の風貌でその仄暗い瞳に身震いする。

「俺が話したのは可能性の一つに過ぎねえ、お前さんがどう言うポケモンマスターになるのかを──試させてもらうぜ」

「じゃあ……ポケモンバトルをするって事!?」

 淀んでいた目が光を宿し、嬉々とした様子で立ち上がる。

 立ち直りが早いな、とつい思ってしまうくらいだ。

「嗚呼。だがバトルをするのは俺じゃない」

「え? じゃあ誰が」

「慌てなさんなって、これから来るんだからな」

 皆が傾げているとピンポーン、と呼び鈴が聞こえてくる。

「失礼致します。此方はオーキド博士の御自宅で宜しかったでしょうか?」

 扉越しに鈴の様な声色が奏でられる、オーキドは「入って構いませんぞ」と告げる。

「ではお邪魔致します」

 ガチャッと扉が開かれ、入って来たのは一人の女性だ。

 青い和装を纏い、ピンク色の髪を結んだ青いリボン。

 物静かな印象を持つ和装美人だが、彼女の発した第一声で脆くも崩れ去る。

「言われても言われなくとも即・参上! ジョウトがエンジュより遥々、カントーがマサラタウンへと我が師の頼みで参りました〜!」

 物静かな印象から一変、楽しげな声色を発してビシッとポーズを決める。

 サトシは突然のハイテンションに呆気を取られ、ピカチュウ共々目を丸くする。

「というわけでお初にお目に掛かります、タマモと言います! ポケモンリーグ実行委員会が会長をお勤めさせて頂きます」

 和装の女性──タマモはふふんと鼻を鳴らし、両腕を組む。

「ポケモンリーグの……会長? それはタマランゼ会長の事じゃ…」

「タマランゼ氏は今年度を持って職を退き、本人より拝命を受けて現職に就いたのです。タマランゼ氏から話は伺っていますよ、サトシ氏」

 ニヤリと妖美な笑みを向ける、何故かサトシは背筋が凍るような感覚を感じた。

「っつーわけでサトシ、お前さんには此奴とバトルしてもらう」

「あ、あら? せ、師匠(せんせい)……もしかして(わたくし)をこの場に呼び寄せたのはこの為…?」

「それもあるが……例の催しのお披露目の場に丁度良いと思ってな」

 ジンの答えにタマモは成程と頷く、サトシは合点が行った様子で笑みを零す。

「俺、サトシって言います。此方はピカチュウ、今日は宜しくお願いします!」

「成程。貴方が世界王者……その名に恥じないバトルを期待してますからね」

 タマモはサトシに踵を返し、退室する。サトシも後に続き、ジン達も着いていく。

 

 

 そしてこれから行われる一戦は、世界を巻き込む大きな催しの前哨戦に過ぎない。

 

 

 To be continued

 

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