東京のビジネスホテルの一室。備え付けられているテレビを映し、流れているニュースを耳に入れつつ僕は赤い制服に身を包み、身嗜みを整える。
「これでよし……」
後は朝食をホテル内の飲食店で済ませ、チェックアウトするだけ……アクシデントもなく予定通りの段取りで目的地へと向かう準備が済んでいく中、僕の脳裏にはこれからの不安というより、よりによってどうしてこんなことになったかという。これまでの経緯に頭を悩ませる。
事の発端は3ヶ月ほど前……僕が所属する時空管理局という機関からの指令からだった。
「高杉曹長。君に特別な任務を言い渡す。4月より第97管理外世界に赴き、日本の高度育成高等学校に入学し学校の現状調査をしてもらう」
「調査……でありますか」
時空管理局、本局の所属する部署の部屋で上司の座るデスクの前に立つ僕は上司から言い渡された指令に首を傾げた。
「疑問に思うのも無理はない。先ずはこれを見てくれ」
そう言われて上司のデスクから投影された情報に目を通し、これはと思わず声を溢す。
「近年、管理外世界の無職やワケありの人間を使った違法行為が増加している。よく言う。先日の違法物の取引の運び人……あれも管理外世界の人間だったのは覚えてるな?」
「……ええ、管理外世界での違法物の取引……中堅犯罪組織と違法商人とのロストロギアの取引でしたか」
「そうだ。どちらも足が着かないように、管理外世界の人間を暗示にかけて取引を行わせた。」
「管理外世界に赴くことはわかりましたが何故、この学校に……」
「この調査資料を見ろ」
そういって、デスクの端末を操作して僕の専用端末にデータが送られてくるとその場で空中に半透明でウィンドウが開きデータを見ると険しい顔を浮かべた。
「これは……日本における若者の大学の退学、仕事の失業率……ですか……高いですね」
「そうだ。しかもこの高度育成高等学校は進学、就職率100%と謳っているが卒業する生徒の8割以上が中退や退職していると言っていい」
「国立といってもここまで酷いのは目に余りますね。この学校の実態を調査しろということですか?」
「話が早くて助かる。中退、失業した若者を狙い、組織の運び屋や末端に仕立てる傾向が多い。そこで高杉曹長にはこの学校に入学し実態を調査してきてくれ」
調査の概要をしっかりと理解した上で僕は敬礼する。
「了解しました。それで質問なのですが……入学試験はいつなのでしょうか?」
国立というだけあって事前の勉強は必須だ。勉強など捜査官の試験以来となるか……理系関連は問題ないだろうが文系や社会関連は一通り知識を入れるしかない。勉強は仕事の合間になるけど時間はまだまだ……「3日だ」……は?
「すみません。聞き間違いだと思うんですが……何日とおっしゃいましたか?」
「3日だ、3日……入学願書については前々から提出してあるから問題ない。五科目の筆記試験と面接のみだ……簡単だろ?」
「いやいやいや!問題だらけです!3日で試験範囲の知識を頭に詰めろって無謀にも程がありますよ!」
「大丈夫だ。お前が落ちることはまずないからな」
あからさまな無茶ぶりに冷静さを欠けた僕は声を荒げて抗議する中、上司は笑って問題ないの一点張りを口にする。
それから3日間は有給を使って現地のホテルの部屋で試験勉強に取りかかり。筆記テスト、面接を乗り越え……そして僕は無事に高育高校の入学を果たすのであった。
「はぁ……本当、ドタバタした3ヶ月だった気がする」
入学が決まった後も、暫く入学すれば帰ってこれないこともあって、仕事の引き継ぎや抱えていた事件の報告書をまとめ……制服や教材などの受け取りなどで動き回っていた。
(学園内の実態と生徒の素行を調査する以外は平凡な学生を振る舞えば問題ないし……長い休暇だと思って、リフレッシュするとしますか)
これから長めの休暇を取ると思いつつ、ホテルをチェックアウトし学園前まで向かうバスに乗車すると空いている席に座る。
これからバスに揺られて大体30分程で学園に到着する。それまではバックの中に入れておいた小説でも読んで到着までの時間を潰すとしよう。
そうして僕はバックの中から持ってきていた小説を読み始める。それからしばらくして……
「…………」
「…………」
「…………」
既に10分程だろうか……バスに乗ってから二つほど行ったバス停で乗ってきて、隣に座った銀髪の少女が何度かチラチラとこちらに視線を向けてきていた。
いや、正確には僕ではなく。読んでいる小説に視線が向いているようだ。
「…………」
「…………」
少し横目で少女の様子を見てみると完全に僕の持つ小説に釘付けになっている。
物珍しそうに興味本位で見惚れている彼女は僕の視線に気づきどうすればいいか戸惑う。
(見た感じ、本に興味があるだけみたいだし……)
「えっと、本、好きなんですか?」
僕は口を開いて優しい口調で隣の彼女に声を掛けると掛けられた少女も戸惑いがなくなって問いかけに応じる。
「はい。そうなんです。あなたが持っているそれは海外版シャーロック・ホームズシリーズですよね!名作ですよね。私も日本語吹き替え版はよんだことはありますが、全て英文のシャーロック・ホームズの本は初めてなんです……」
「えっと……その……一応バスの中だから……ね」
「あっ……」
好きな本関連の話ができることからテンションが上がり口数も多くなっていた彼女。だけど流石にバスの中なので彼女の声は響き。周りの視線を集めてしまい、それに気付いた彼女は少し顔を赤らめて恥ずかしがる。
「本当に本が好きなんですね。僕は高杉浩介……少し前まで海外にいたんだ。よろしく」
「し、椎名ひよりといいます。こんな早くに同じ趣味の人と会えるなんて思いませんでした」
それからは周りのことも配慮しつつ、椎名さんと本の話題を語り合う。
今思えば住んでいるところが本局の住宅エリアだったから同じ趣味の友人はおろか同年代の友達というものも居なかった。
そういうことで椎名さんと話す時間は新鮮で楽しい時間が過ぎていく。
そして暫くするとバスのアナウンスが目的地前まで辿り着いたという知らせが流れる。
「あっ……」
「どうやら、着いたみたいですね……降りる準備しましょうか」
お互いバスのアナウンスで目的地間近まで来ていることに気づき、バスが学園前に停まると僕らは同じバスに乗っていた他の入学生と共に下車する。
バス停から目の鼻の先にある豪勢な校門、高度育成高等学校の入口。
流石は国立と言ったところだろう金の入れ方具合が目に見え、周りを見ればたじろぐ入学生も何人かいる。
「行きましょうか、高杉くん」
「うん、行こう」
豪勢な校門に立ち止まる理由もない。椎名さんの声に応じて校門をくぐり抜け、入学生用の案内板の通りに向かうと大勢の入学生の人集りの前に大型の掲示板にクラス分けを記載された大きな用紙が4枚貼り付けられていて、用紙の上にはデカくAクラスやBクラスと書かれている。
「あそこでクラス分けの発表がされている見たいですね…………ここからじゃ遠くてよく見えませんね」
「(視力強化の魔法を使って……あった。)僕はBクラスか」
「高杉くん、見えるんですか?でしたら私のクラスも見て欲しいんです」
「うん、別に構わないですよ。えっと……あった椎名さんはCクラスみたい。クラスは別になってしまいましたね」
「そうですね……同じクラスならもっとお話し出来るのですが、残念です」
「別に休み時間には会いたいなら会いにいけるのですから、そう落ち込まなくても大丈夫じゃないですか」
僕と別のクラスだったことで少し落ち込んでいる椎名さんを宥めつつ、各教室までの道程は同じということでそれまで一緒に向かっていくなか、掲示板のクラス分けを見てふと気になることを脳裏に浮かべる。
(それにしても……クラス……ねえ……一般的なら何組とかで分けられるものだろうけど……どうして
ここに来て早々気付いた違和感に思考を回しつつ、僕らは指定の教室へと向かった。