先行実装転生ゾロアニキ   作:あまも

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来る前に……来る前に……
投げておきたかったんです……



あまいのが好きで苦いのが嫌い

 

 

 目が覚めたらゾロアになっていた。

 何を言っ(ry) トラックが突っ込んできたとか足元に魔法陣がとかした覚えは無いが、確かにおれはふわもこまんまるちいさなゾロアだった。意識した通り動くふわふわの尾。ようく聞こえる大きな耳。

 ゾロアがいるならここはポケットモンスターの世界で、それなら世界の神はアルセウスなんだろう。

 

 つまりこれは全部アルセウスのせい。

 

 ならしゃーないか。奴は冒涜的な神の要素も含む、全ての神をモチーフとして生み出されたポケモン。しゃーない。

 はー、何だこの丸っこい手は。かわいいじゃねぇか。

 

 いや仕方なくねぇのよ。

 

 無断転生とかまるで意味がわからんぞ。おれの身になにがあったっていうんだ。

 そもそも自分は人だった気はするが、じゃあどんな人だったか?となるとこれが全然思い出せない。ゾロアになったことはわかっても、ゾロアになる前の記憶がない。けど、こうしてものを考えられる程度には知識がある。普通のポケモンとは違うのだろう。ホントに人だったの?と言われたら、悩むことかもしれないが。

 

 せめて何か説明しろ!何させるつもりだったんだ!

 

 ……ただまぁ、そんな神への文句も目が覚めて三日ほどで薄れてしまった。というのも、きょうだいのゾロアと、育ててくれてるパパさんがまたとても優しいのである。パパさんは毎日二食ながらお腹いっぱいご飯をくれるし、きょうだいはちょっとイタズラっ子だが見た目がゾロアなもんでかわいくてなんでも許せてしまう。

 そして合法的にこのゾロアのもふもふの毛に鼻先埋もれても許される。

 まぁ……ね。ちょっとよ。ちょっとくらいなら、こういうのも悪くない。

 夢だと思って堪能しよっかなー、なんて。

 

 と、思っていた矢先。パパさんからとくせいのイリュージョン……幻影の使い方を教わっていた最中のこと。

 突然住処に大嵐のぼうふうが吹き込んで、全部が全部めちゃくちゃになってしまった。ゾロアの軽い体が宙を浮き、泣きそうなきょうだいの手を掴みたくてもまるっともっちり獣足ではどうしようもなく。なすすべもなく、おれは嵐に巻き込まれ吹き飛ばされてしまったのである。

 

 おのれアルセウス。よくわからんけどいつかのどこかの人間たちにボコスカようわからん粉なり玉なり投げつけられてしまえ。

 怨嗟の声はきゅうと鳴き声で漏れ、おれは体と共に意識を飛ばしたのである。

 

――――――

 

 そうしてまた目が覚めてみると、これまた知らん場所であった。今度はどこかの建物の中らしい。ふかふかお布団とリネンのシーツ。そして文明の香り。人の気配。

 声がするのでちらと目線をずらすと、やや離れた辺りで男性がスマホ片手に小さく会釈している。あれは……くたびれたどこにでもいる一般サラリーマンおじさん……!

 つまりはすわ現実かと飛び起きようとして、自分のまるっこい手が動いたのを見てがっくりきた。期待した分ダメおし二倍だ。夢だけど、夢じゃなかった!

 

「気づきましたか」

 

 フカフカのまくらにきょうだいの尾を思い出し、倍率ドンで更に落ち込んでいるところに男性の声。主はくたびれサラリーマン殿。電話が終わったのか、おれの横たわるベッド脇に立つ。でっ……かいな、この人。おれが小さいのかも知れないけど。

 にしてもこんなかわいいゾロアを前にして無表情とは、心が動かんものかね。現代社会の疲れ切ったサラリーマンじゃあるまいし。

 え?マジのそれなの?いよいよポケモン世界にも社畜の波が来たの?

 ニューキンセツ?ゾロアくんの知らない場所ですね……

 

「状況がわからないかと思いますので、説明をさせていただきます。まず……私は、ポケモンリーグ勤務、チャンプルタウン配属、アオキと申します」

 

 これはこれはご丁寧にどうも。ちょっと色の違う悪いキツネのゾロアです。ぷるぷる。

 あの、椅子ありますし、ぜひ座って下さい……見下されてるとちょっと……でっかい……おじさんでっかいよ……

 その前にチャンプルタウンってどこ?

 

「二日前になりますが、そらとぶタクシーにて移動中、チャンプルタウン近郊で倒れているあなたを私のムクホークが見つけました。小さくなることもなく、空から大型の鳥ポケモンが見つけられるほど無防備な様子。そして一般的なゾロアより小柄でしたので、保護に踏み切らせていただきました」

 

 パパンから大型のポケモンには気をつけろよと言われていたのを思い出す。いじめられるならまだしも、最悪美味しくいただかれてしまうからだ。

ウォーグルとかにな!

 ポケモンって世知辛いんだなと夢がぶち壊されたのでよく覚えている。

 で、ムクホーク?出会ったことなかったが、確かにあれも大きな鳥ポケモン。きっとゾロアなんてゴリゴリのポキンだろう。

 

 つまり……このアオキのおじさんは命の恩人……ってコト!?

 

「腹部の裂傷、頭部の打撲、他擦過傷複数と、大変な大怪我でありましたので、こちらのテーブルシティ中央病院まで連れて来ました。怪我が治るまでこちらにて治療に専念していただきたいのですが、よろしいでしょうか」

 

 ポケモン相手に丁寧だな〜と思ったが、これ、もしかしなくてもポケモン相手に説明の内容変えるの面倒ってだけか?普通の野生ポケモンがこの説明でわかるわけねーだろがい。

 ま、おれは普通のポケモンとはひとあじふたあじ違うんで理解できるんですけどね!…………裂傷?切り傷?

 のそと布団から動こうとすると、確かに頭にガンガン腹に熱、あと全身の痛み。体をひねることも難しい。あいててて

 

「無理に動くと傷に障ります。現在、ポケモンレンジャーや有志の方があなたのおやを捜索中ですので、直に連絡が来るでしょう。無事治療が終わり次第、元の生息域へと戻しますのでどうか安静に」

 

 なるほど。つまり寝てろってコトだな。パパさんのことは心配してないが、きょうだいの方は心配だ。おれと同じくらい小さかったからな。

 ……むしろパパさんもある意味心配かもしれない。暴れてたりしないか的な意味で。

 

「あなたが目を覚ました事を医師に伝えてきますが、辛いようであれば寝ていても構いません。検査や確認等ありますが、乱暴には扱いません……ので、大人しく受けていただけますか?」

「…………」

「ありがとうございます」

 

 頷いて見せると、アオキも会釈して部屋を出ていった。先程動いて痛みに気づいてしまった後は目を閉じると意識してしまって……ちょっと寝るにはツライ。

 寝かされていたベッドはよく見たらガラス張り……の、カプセル?保育器みたいな感じだった。メカメカしい。山奥に居たから、久しぶりに文明社会に打ち込まれて、UFOに連れ去られた気分になる。それとも、タイムマシンかな? ……やっぱアルセウスがなんかしてんじゃないか?ゾロアは訝しむぞ。

 しかしまぁ、終始無表情ながら丁寧なおじさんだったな。ポケモンリーグ勤務ってことは、ジムとかの前にいる「オーッス ! みらい の チャンピオン!」って言ってるおじさんとかボールガイの中の人、みたいな?ボールガイに中の人なんかいねーよと。

 ポケモンリーグの仕事に野生ポケモンの管理とか、無いだろうし……関係ないことさせちゃったかな。なのに側でみててくれたの?じゃあ優しい命の恩人じゃん。

 …………あの見た目で病院って、ご本人の胃とかの治療じゃないかなって感じだな。

 

 白衣のお兄さんやピンクの髪の……たぶん、ジョーイさん、あとラッキーと、アオキさんがやってきて、横の機械なりなんなりガチャポチしてざわざわと。なんかスキャンされたりしたが、直接触ってはこない。頭に響かないようにか声を潜めてくれている。うーん、人間が優しい……

 でも逆に聞かせないように、ってことかもしれない。おれの耳は見た目通りようく聞こえるから、「ID登録無し、図鑑もやはり未登録」ってのは聞こえている。ゾロアのいない地方……カントー、ジョウト、シンオウかな?チャンプルタウンなんて聞いたことないから、知らない地方かも。

 でもそうなると、きょうだいやパパさんを探すには苦労するかもしれないってことになる。

あの大嵐でおれが無事だったんだ。きっときょうだいたちも無事だろう。

 ひと通り調べ終わったのか、おそらくジョーイさんが「食べられそうな物を用意してきますね」と出ていった。ラッキーが優しい微笑みとひと声鳴いて、付いていった。お兄さんとアオキさんが残る。

 

「言葉を、理解したんですかあ?」

「ええ。ゾロア、痛くはありませんでしたか?」

「…………」

アオキさんの言葉に頷いて見せると、横のお兄さんが感心した声を上げた。

 

「おお、頷いてますねえ。 ……なるほどお…………ゾロアさん、撫でさせてもらってもいいですかあ?」

 

 白衣のお兄さん……頭のボリュームと眼鏡が独特……がベッド脇に身を屈ませて聞いてくる。いいけど、お兄さん何者?

 すると、お兄さんは上から手を、手の甲をおれの鼻先に垂らしてきた。匂いを嗅がせてくれるらしい。これはポケモンの扱いに馴れてる? 白衣といい、さては博士の方です?

 

「ぼくは ジニア。ポケモン図鑑アプリを作りましたあ。あと、アカデミーで先生させてもらってるんですよお」

 

 ほう。なるほど、この地方の子どもたちの冒険の始まりか。間延びした口調もあいまって、優しげでいいと思います。匂いも覚えたし、いいよと込めて鼻先で手を押すと、ゆっくりと毛並みにそって指を、手をと順に滑らせてくる。手付きは優しい。手があったけぇ。思わず頭を手のひらにすり寄せちゃうよこんなの。

 

「わあ。ふふ、かわいいですねえ。ケガが治るまで、一緒にがんばりましょお」

 

 うんうん。ほら、やっぱゾロアのかわいさには男性でも思わずにっこりするもんなんだよな。わかるか?そこのアオキさんよぉ。

 

「 人慣れもしてますねえ。敵意もない。……人にひどいことされたわけじゃあないようです」

「なるほど」

「でもID登録無しですかあ……ゾロアさんはあ、人と一緒に暮らしたりしてましたかあ?」

「……」

 

 人と暮らしたことは……ゾロアになってからはない。首を横に振る。

 

「どうして怪我をしたのか、覚えていますかあ?」

「……」

 

 覚えは無い。首を横に振る。大嵐で物が沢山吹き飛んでいたから、吹き飛ばされてる最中にそれとぶつかったりしたのかも、という予想はできるが。

 

「なるほどお……ああ、ごはんが用意できたみたいですねえ。たべられるもの、あるといいですねえ」

 

 たぶんジョーイさんとラッキーが手押し車に色々載せて来た。別にきのみでいいのだけど。ゴスかモモンがいいなぁ。

 出されたのはペースト状のなんかあったかいものだった。離乳食……みたいな……。やわこい。きのみとミルク風味。あ、でも五味で分けてある。どれもちょっと薄味だが、食べれないことないな。寝ながらで行儀が悪いけど。

 

「わあ。いい食いつき。ごはんは大丈夫そうですねえ。…………ぜんぜん警戒してませんし、やっぱり、人に飼われてたポケモンみたいですがあ…………捕まえられていた、というよりは、餌付けされていた……ですかねえ?」

「なるほど」

「少なくとも、わるいひとには関係ないんじゃないかなあと思います。それに、この子も素直ないい子みたいですよお」

「……なるほど」

「では、先ほどのお話どおり確認のため、各研究所に写真を共有させてもらいますがあ、出来ればこの子のケガが治ったら、また調べさせてもらえるとお、うれしいなあって思います」

「はい。……一応、規制の方をしっかりと」

「はあい。この子が珍しい子なのは皆わかると思いますのでえ、ご安心くださいねえ」

 

 男二人の話を半分聞きながら、てちてちと辛めのペーストを舐めていると、ぱしゃりと、音がした。見ればスマホが浮いている。え、う、浮いている……!

 なんか顔みたいなのみえたが、あれもしかしてロトムか?なんだっけ、ロトム図鑑?小型化進んだのか?

 

「ああ、この音は初めて聴いたみたいですねえ。なるほど、なるほどお……ちゃんと警戒はできるみたいですねえ。へえ…………

 あ、たぶん、目星はついてるので、早めにご連絡できるんじゃないかなあと」

「ありがとうございます」

「ただ、ぼくの予想が正しいとするとお…………ちょおっとたいへんなことかも知れません。

 今、各地の委員会の人に、監視をお願いしてるんでしたよねえ? 見かけないポケモンの情報があったら、ぼくに共有してもらうことって可能ですかあ?」

「トップに確認してみます」

「お願いしますねえ」

 

 けっぷ。手が使えない、首をがっつり伸ばせない状態でペースト状のものって、食べるの疲れるな。それでもしっかり皿に出されたのは食べられた。メイビージョーイさんが食べられたこと程度を偉い偉いと褒めてくれる。なんだよ、生きてるだけで褒めてくれるタイプか?

 

 腹に温かいものを入れたからか、ほっかりして眠くなってきた。

 

 あっちはあっちで色々調べてくれるみたいだし、この人ら優しいっぽいし、色々任せてしまおうか。

 やっぱ、人に色々してもらえるって良いな。パパさんからひとり立ちしたら、自分でなんとかしなきゃいけなかったところを考えると、人と一緒に暮らしたりってのもいい考えに思えてくる。

 

 ま、なんとかなるだろ、きっとな!

 

 





のうてんきミントかのんきミントが落ちていたとかいないとか
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