先行実装転生ゾロアニキ   作:あまも

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視点別、一より前の話です



食べるのがすきで輝かないのは苦手

 

 

今期のアカデミーの課外授業が始まる為、リーグ実行委員会での定例会兼打ち合わせの会議があった。四天王……ポピーは所用のため来れず、チリとハッサク、私と、彼の三人での会議。

 いつも、会議待ち合わせの時間の15分前には何があっても到着している彼が、その電話では一言。『遅れます』と。

 

 何事かと思えば、衰弱状態の野生のポケモンを保護した為、病院に預けてから向かうという。それについては問題ない。むしろ、見捨てて来ていたらドドゲザンに頼むところだった。

 遅れること30分……それでもたった30分の遅れだが、深々とアオキは頭を下げた。珍しく背広を脱ぎ、腕に掛けている。

 

「前期までと変更点は多くありません。事前資料は確認していますね?」

「ええ。今どこまで進みましたか?」

「もうほぼ終わりやな。大穴周辺の警備について……やけど、あの岩山、素で登らんと大穴にゃ行けへんし、これもゲート封鎖と監視カメラ、あとハッサクセンセとポピーの巡回でええやろ。

 んなことより、や。衰弱した野生のポケモン見っけた……て、何があったん?」

「私も気になります。説明いただけますか?アオキさん」

「…………はい」

 

 彼もポケモンリーグに所属する以上、ポケモンを無下に扱う人間でないのは確か。しかし、見つけたのは彼だとしても、仕事を押してまで彼自身がその野生ポケモンを保護する必要があったのか、ということ。他の人物には任せられないような案件であるか、もしくは……

 アオキはスマホロトムに何事か頼む。私たちの前まで飛んできたスマホロトムには、籠の中で横たわる、小さなポケモンが写っている。

 

「おぉ、こらあかんわ」

「ひどい怪我ですね……」

 

 画面を見た皆が一様に眉を顰める。柔らかそうな体毛はどす黒い血に染まり、アオキが応急処置したのであろう、体に巻かれたハンカチも変色している。頭の横に置かれたオボンの実よりも小さな頭。

 わるぎつねポケモンのゾロアに見えるが、ずいぶんと小さいサイズだ。

 そして、かろうじて見える毛先の方。特に、尾の先。普通のゾロアは赤い筈だが、この写真のゾロアは青く見える。なるほど、あまり人目に晒せない理由はこれだろう。

 

「色違いのゾロアですか」

「一部の好事家なら大金を出してでも手に入れたい人気のポケモンですね」

 

 ポケモンどころか人間をも騙す性質から、かつては忌み嫌われていたポケモンだが、現代となっては生態も解明されてきた為か、外見と種族特性で非常に人気が高いポケモンとなったゾロア。

 ただでさえ個体数はあまり多い種類ではないのに、更にその色違いともなると、狙う者は多い。悪い者の目に入れてはならないもの。

 

「この、敷いてあるのは……あなたの背広ですか?」

「はい。籠はタクシーのドライバーが持っていたものをお借りしました。体はゾロアの形でしたが、見ての通り……とても小さく。ポケモンの習性である小さくなる事すらも上手く出来ないのか……まだ幼体ではないか、と医師も」

 

 彼が広げて見せた背広にはべっとりとポケモンの血が染み付き、クリーニングでも落ちるかどうか。新しいものを買わねばですね、と嘆息する。

 

「これ……ホンマに色違いのゾロアなん?汚れとかやないの?」

「私が見た限りでは、ゾロアのように見えました。ムクホークも、ゾロアの姿で見えていたはずです」

「イリュージョンすら使えない状態ですか。……この怪我では無理もありませんね。近くに “おや” や、群れのリーダーは?」

「確認できていません。イリュージョンで見えなかっただけかもしれませんが、少なくとも私のムクホークの警戒には引っかかりませんでした」

 

 アオキのムクホークの視界は広い。異常があれば気付くだろう。近くにはいなかった、もしくは……言う通り、イリュージョンで隠れていたか。だが、そちらは可能性としては低いはず。群れの仲間を放っておく種類では無い。

 子を奪われたおやポケモンは大変危険であり、人が襲われる事故もある。非常に気の立ったおやポケモンがいるだけでも、その一帯の野生ポケモンにその緊張感は伝わる。

 しかもゾロア、ゾロアークは種族間の繋がりが強く、特にゾロアを連れたゾロアークなど仲間に手を出そうものなら、烈火の如く怒り、大暴れする危険なポケモン。万が一もありえる、危険な状態となるだろう。

 何より、この怪我が事故でなく……凶暴なポケモン、もしくは……考えたくはないが、その他の理由であったなら。その原因が、人間に手を出さない保証はない。

 アカデミーの課外授業も控えている。早急な解決が求められる。

 

「……そうですね。では、アオキ。その子の発見地点を。レンジャーに協力を要請して、“おや”の捜索と、原因の調査をしなければ」

「チャンプルタウン近郊、プルピケ登山道西側です。スマホロトム、マップを……こちらですね。

 発見した際、ポケモンレンジャーには私個人からの調査の連絡はしてあります。移動中に私のポケモンも数匹、捜索に出しました。正式なリーグ委員会からの依頼という形に、改めてご連絡させていただいても?」

 

 話が早い、こういった所だけは信頼出来る男だ。

 

「いいでしょう。他に何か原因に繋がるような異変はありましたか?」

「…………はい。心当たりが」

「ほう」

 

 その発言まで。いつもどおりの無表情だが、その瞬間、僅かに視線が動く。瞬きのうちに視線は戻ったものの、確かに何かを考えたのだろう。

 

「ハッコウシティから、ナッペ山ジム経由のルートでの移動中でしたが、ナッペ山の麓付近で突然天候が悪化しました。

 多少の荒れにも耐えられる、そらとぶタクシーのイキリンコたちですら混乱し、ムクホークの補助もつけてようやく、なんとか不時着出来たほどの大嵐でした。タクシードライバーも、『あんないきなり天気が崩れたのは初めてだ』と」

「天候の悪化……大嵐、ですか」

「太陽が翳るほどの分厚い雲、雨を伴わない猛烈な暴風と、……地鳴りです。…………それと、もう一つ。

あの近辺では見かけたことのないポケモンが、一斉に動き出していました。レントラー、レアコイル、……カイリキーに、ポリゴンなど」

「ポリゴンやと? それに、カイリキー……パルデアにはおらんはずやんなぁ?」

「ええ、ジニア先生の図鑑でも登録無しです。生息は確認されてませんね」

 

 普段見かけない、生息しないポケモン。アオキの見間違いでなければ、何かが起きているのは間違いない。

 それが自然現象か、はたまた人災か、の問題。幸い、このパルデアでは他地方のような過激な団体の活動は見られないが……いつだって、些細な芽はどこにでも生えるものだろう。

 

「そう……ですね。やはり、一度アカデミーの教師陣、ジムリーダーとまとまって話をするべきでしょう。大嵐について調査がまとまり次第、オンラインで会議を行います。

 調査にジニア先生の協力があると良いですね。ハッサク、頼めますか?」

「了解ですよ。クラベル校長にお伝えしても?」

「お願いします。新任の先生方には苦労をかけてしまいますが、致し方ないでしょう」

 

 昨年度のアカデミー人員総入れ替えは痛かったが、クラベル以下クセはあれど皆信用できるメンバーになったのはありがたい。ハッサクも教員となってくれたおかげでアカデミーへの連絡が早くなった。学生への対応は彼らに任せられる。あとは……

 

「チリ」

「はいな」

「ポピーと共に、各ジムリーダーへの連絡と、それぞれの街周辺の出現ポケモンの生息域調査を頼めますか?」

「ポケモンレンジャーと協力してええやんな?」

「もちろんです。ジムのある街の付近については、ジムリーダーが詳しいでしょう。また、予期せぬ強力なポケモンが居た場合、対応もお願いします」

「了解や。チリちゃんとポピーに任しとき」

 

 頼もしい限りだ。彼女らならば、強力な野生ポケモンにも対応できるだろう。

 

「アオキ」

「はい」

「……ゾロアの容体は、分かり次第連絡を。ゾロアは賢く、人への警戒心が強い種類ですが、その子は特に、何があるかわかりません。目が覚めた際、対応できる範囲にいるように」

「はい」

「プルピケ山道周辺の調査はレンジャーが先行しているのでしたね。そのままオージャの湖近辺まで範囲を広げてください。あちらは人の立ち入りが少なく、強い野生のポケモンも多い。ですが確か、ゾロアークの生息域があちらにあったはず。確認をしてもらった方が良さそうですね。レンジャーの護衛もお願いします」

「……はい」

「ゾロアの生息域は、しるしの木立の方にもありましたね。近いのはピケタウン……ジムのない町ですか。アオキ、こちらもお願いできますか?」

「……はい」

 

 私は他地方のリーグと連絡を。人の不自然な動き、謎の大嵐、見かけないポケモン。ひとまずはウルトラホールなる現象のあるアローラ、それにホウエン、カロス辺りから当たってみるか。

 ようやくアカデミーの件が落ち着いてきた頃だというのに……大きな事件につながることが無いと良いが。

 一野生ポケモンの怪我。それだけなら、自然界ではよくあることながら、今回は不可解な出来事が連なっている。偶然か、人災か、はたまた。

 全て杞憂ならばそれでよい。パルデアの地は安全である。その確認となるだけ。

 

「アカデミーの課外授業前に、人々とポケモンの安全が確認できれば一番です。

 それでは、各員よろしくお願いします」

 

――――――――――――――

 

 ナッペ山から見下ろした裾野の非常に低い位置に、禍々しい暗雲が見えた。新顔の白羽のイキリンコの捕獲エピソードを軽快に語っていたタクシードライバーの口が止まる。

「……お客さん、ありゃあ……オレも初めて見ますが、ちょっと避けて通ってもいいですかい?」

「ええ。……大穴付近まで回り込みましょう。あれは避けた方が良さそうだ」

「了解! イキリンコ、左に進路を取ってくれ。……イキリンコ?」

 

 ドライバーの声にタクシーが一度、ぐらりと揺れるが、何やら屋根の上が騒がしい。スマホロトムに暗雲を撮らせようとしていたが、何かあったのかとドライバーを見る。困惑した表情。

 

「どうしましたか?」

「それが、イキリンコたちの様子が……まずいぞ……風向きが、どうもよくないみたいです」

 

 吹き込む風は確かに強い。いや、先ほど大穴側へと頼んだ時より、幾分か強くなっている。

 むしろ、

 

「雲の方に向かって吹いている……?」

「こりゃいかん……! 揺れます!落ちそうなものはしまって、しっかり掴まって!」

 

 出ようとしていたスマホロトムをカバンに押し込み、足元のそれと、手すりを掴む。途端、徐々に傾く車体。間違いなく、たつまきのようなとてつもない強風が、暗雲に向かって吹き下ろしている。そのおいかぜに乗ってしまったのだろう。落ちるような速さで、プルピケ登山道を眼下に斜面を下る。必死で風を捉えようとイキリンコが一丸となって羽ばたいているが、個々の力では足りていない。

 ならば、もっと大きな羽を。

 

「ムクホーク、手伝って下さい」

 

 手すりから手を離し、外へとムクホークを出す。ぼうふうの中、力強い羽ばたきで車体に並ぶと、気付いたタクシードライバーが身を屈ませて運転席の背もたれを指した。

 

「ムクホーク、あちらを。どこでもいいので、安全に着陸させてください」

 

 もう暗雲は目の前だ。風の動きはポケモンの方がはるかに詳しい。車体の後ろを吊られ尻上がりに傾いたまま、辺りの様子を見る。吹き飛ばされているヒノヤコマ。転がって壁側で目を回しているビリリダマ。ひとかたまりに固まって耐えているマフィティフとその群れ。土埃に踏ん張るペルシアン……暗雲に突っ込む。

 ムクホークが大きな翼で風を捉え、幾らかイキリンコたちも楽になったのか、ドライバーの指示で細かく左右に微調整を加えていく。しかし、距離が足りない。速度が乗りすぎている。やむをえないか。

 

「カラミンゴ」

 

 斜めではあるが揺れはそう大きくない。前方へと出した華奢な体躯のカラミンゴは、ムクホーク程ではないがしっかりと風に切り込み前方に回り込む。

 

「車体へけたぐり」

「エッ」

 

 人間が二人乗っているが、他はひこうタイプ。車体は軽く作られている。後ろで息を詰まらせたドライバーには悪いが、命よりは安いだろう。

 進路と反対方向に首を翻し、風に乗ったカラミンゴの細く力強い足が車体に文字通り突き刺さる。バンパーを貫通し、座席を蹴り抜いた衝撃で大きく揺れるが、かなり速度は落ちた。

 

「おわあ、ああお客さん頭守って下さいああい」

 カラミンゴをボールに戻し、万一の衝撃に備える。ドライバーが悲鳴をあげているが、この速度と高度ならムクホークとイキリンコたちで十分制御できるだろう。

 

 ズズンと、突き刺さる形で斜めに着地。

 

「……お、お客さん、生きてます?」

「私は大丈夫です。……が、運転席は危険ですね。イキリンコたちをボールへ戻し、あなたも中へ」

 

 ポケモンバトルが出来る人間は、こういう時に前に立つ必要がある。仕方のないことながら、増えていく仕事に溜息が溢れるのは、今更か。ドライバーと入れ替わりに外へ。

 

「ムクホーク、ふきとばしです」

 

 空は暗雲に覆われて暗く、紫電も走り、風は依然強いまま。雨はなく、地鳴りが止まない。天変地異のごとき有様だが、チャンプルタウンへの被害が出ていないか。仕事が増える。面倒な。

 ……囲まれている。

 先ほど外から見た時は、居なかったポケモンたち。鈍く光る鋼の体。筋骨隆々な大柄の巨体。鋭く赤い眼光。様子のおかしい野生ポケモンたちは、敵意を剥き出しにしてこちらを囲んでいる。ムクホークの先ほどのふきとばしといかくで飛びかかってくるには至らないが、時間の問題か。

 公式戦でもないなら、一対一は決まりではない。

「……ウォーグル、ノココッチ、パフュートン。頼みます」

 ジム戦では使えない、本来の手持ちたち。見たところ、レベルはそこまで高くはないが、正気とは思えない様子の野生ポケモンを制圧するには必要か。

 

「お、お客さん!危ないですって!」

 

周りの様子にこちらを止めようとしているドライバー。危なくとも、やらねばならない。

 

「これも仕事ですから」

 

 民間人と一緒になって縮こまっていた、で済ませられるなら、それが一番いいのだが。

 

――――――

 

 やはりレベルはそこまで高くはない。が、容赦なく、躊躇いなくこちらに攻撃してくる野生ポケモンを蹴散らしていると、ムクホークが鋭い声を上げた。そちらに目をやると、地面に赤黒い何かが落ちている。……

 

「ノココッチ、ドリルライナー……あれの回収を」

 

 ムクホークが報せるような物だ。この野生ポケモンとは違う物なのだろう。ノココッチの抜けた穴をカラミンゴで抑え、猛攻を凌ぐ……時。

 唐突に重苦しい地鳴りも、風も収まる。あまりにも唐突で、指示を出そうとしていた体制のまま止まってしまった。空を見上げれば何事もなかったかのような青空。同時に、相手取っていた筈の野生ポケモンの姿が忽然と消えている。

 

「な、何だったんですかい……?」

「さあ……ただの自然現象、とは言い難いところですね。みなさん、お疲れ様ですがもう一仕事。周囲の安全確認をお願いします」

 少し消耗した手持ちたちを散開させ、ノココッチの戻りを待つ。地上を這うより穴を掘りながら進む方が早いノココッチが、赤黒い何かを咥えて穴から飛び出してきた。

 ……これは

 

「ヒェッ! お客さん!そいつ、大丈夫ですか?!」

 

 ドロドロに汚れているが、今尚血の流れ出ている小さな塊はまだ微かに温かい。患部にハンカチを押し当てるが、出血は酷いらしい。全然足りない。背広を脱ぎ、強く巻き付けて抑える。

 

「わかりません。急いで……いえ、自分で行く方が早そうですね。あなたはタクシーを起こせるか試して下さい。ポケモンセンターに行ってきます」

「ああ! ならお客さん、コイツ使いな!サンドイッチ入れてたんだが、抱えてくよりは静かに運べるだろ」

「……ありがとうございます」

 

 いい角度で刺さってしまったタクシーから、ドライバーの差し出したピクニックバスケットを受け取る。背広のかたまりを慎重に中に入れ、一番安定して飛べる手持ちを呼び出す。

 

「トロピウス。ポケモンセンターまで頼みます。……後で戻ります。鞄と手持ちを置いていきますので、保証として下さい。みなさんは彼を手伝って」

 

 高度は必要ない。屈んだトロピウスの背に乗り、できるだけ静かに飛ぶよう指示する。

 

 ……ああ、トップに遅れる旨を連絡をしないと。

 

 





アオキさんとオモダカさんお互い苦手そう
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