先行実装転生ゾロアニキ 作:あまも
転生ゾロアが定期的に陰が薄い…
「本日はみなさまお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」
校長室で教師陣が見つめるモニターの中、オモダカ委員長が映っている。ワイプ画面では各地のジムリーダー。パルデア地方の実力者を集めた、緊急会議だ。
議題は、先日プルピケ山道で起こった災害と、そこで見られた現象について。
チャンプルタウンジムリーダーのアオキさんが、自身の遭遇した一件を一通り説明する。教員は既にクラベル校長から聞いているため、確認程度にさらっと流された。
「この異常な気象現象を、以降“大嵐”と呼称します。大嵐の発生後の現場での調査結果を報告します。
まず、調査により確認できたことですが、
プルピケ山道西の一地点を中心に、丁度円を描く範囲においてのみ、大嵐の痕跡が見られたことから、大嵐は非常に局地的な現象であったこと。暗雲、暴風、地鳴り、落雷が目撃されていますが、痕跡としては竜巻のように巻き込む形の暴風の跡が現場に残されていたことが確認されています。
これら現象が気圧との関係が無く、通常の気象現象では起こり得ないことから、自然に発生したものではないこと。
人為的なものの可能性を考えましたが、人の手が加わった痕跡は見られないことから……この大嵐は、なんらかのポケモンが起こしたものではないか、と調査隊が見ております」
調査のためチャンプルタウンまで同行した上でぼく自身が見た範囲でだけにはなるけれど。機械が使われた痕跡もなく、様々な計測機器の数値も特に問題は無く。生息しないポケモンがいたという話だったものの、探す範囲ではそういった見かけないポケモンの姿もなく、本当に、草が薙ぎ倒された跡が残るばかり。変わらず自然豊かなパルデアの大地がそこにはあって、ポケモン達も変わらぬ様子でそこにいた。
しかし実際に体験した証言が、アオキさんとタクシードライバーから。他、街道を移動中のポケモントレーナー、ポケモンセンターの業務に当たっていた数名から「低い位置にあった黒い雲と、強烈な風」の目撃証言が聞かれている。
「大嵐内で見られたポケモンは非常に凶暴で、正常な状態にはないように思えました。これまでにこの現象に出会った者がいないためデータがありませんが、もし同じ現象が発生し、戦う力の無い者が遭遇した場合、大きな事故に繋がる恐れがあります。急な天候の変化に警戒を呼びかけて下さい。
現在原因究明と共に、過去に似たような現象が無かったか、目撃情報を集めております。報告は各地ポケモンセンターで受け付けておりますので、ご協力よろしくお願いします。
…………ここまでで、何か質問がありましたら…………はい、グルーシャさん」
「急な天候変化、って話だけど、そもそもパルデアはよく天気が変わるよ。それに、山の天気だってもっとずっと変わりやすいし、荒れやすい。具体的に、黒い雲と強い風、って特徴の他に、何か無いの?」
「…………ドーム状に渦巻く雲、でしょうか。こちらに……はい、お願いします。
……こちらにチャンプルタウンにて民間の方からお借りした映像があります。参考にしてください」
自分は一度見せてもらった映像だから、まだ余裕をもって見ていられる。しかし初めて見たジムリーダーや先生達が驚くのも無理はない。
アオキさんの代わりに流される映像の中には、分厚い雲に覆われた空と、鳥ポケモンが吹き飛ばされるような強風。そして、渦巻く黒い雲と時折走る紫電が映っている。いくら天候の変わりやすいパルデアでも、ここまで酷い天気はそうそう無い。言われなくても、近寄りたくて寄る人間はあまりいないだろうと思える禍々しさ。
「……確かに、これと比べればわかりやすいかもね」
「すっごい映像! コレって配信とかに流してもいいヤツ?大バズり確実だよ!」
「流すとしたら注意喚起としてでしょうね」
「アオキはこの嵐にそらとぶタクシーで突っ込んだんだったか……フッ。中々にアヴァンギャルドだ」
「いやいや危険でしょ……」
ジムリーダーが好きに話しているけれど、宝探しを控えている学校側はみんな神妙な顔。学生達が巻き込まれた場合を考えてしまう。
「そういえば、保護したポケモンはどうなったんですか?」
「ああ……それは」
「それについてはボクからご説明しますねえ」
手を挙げると、オモダカ委員長がボクのモニターの画面権限を寄越してくれたので、資料を画面に表示していく。あの子が保護されたばかりの頃の画像を出すと、痛々しいその姿に皆んなが顔を顰めた。
「アオキさんの保護した、大怪我していたポケモンですがあ、“ゾロア”で間違いなかったんですけどもお……生息域が違うんですよねえ」
「ゾロアはしるしの木立と西3番エリアにいるんだったか」
「そおです、レホール先生。西3番エリアとプルピケ山道は近いですが、山道側にはゾロアは見られません。なのでこの子も、恐らく“大嵐”で現れたポケモンなのかなあ、と思われたんですがあ……アオキさんの見た大嵐の中の凶暴なポケモンと違って、とても人懐っこいいい子だったんですよねえ」
次の画像。治療され、体をきれいに洗って、やや元気になったゾロアの映像を表示する。チリさんの手に自ら擦り寄る姿は、凶暴という言葉にはとても当て嵌まらない。
けれど、その写真でみんなが思うのは別のことだろう。
「……え」
「白いゾロア?」
「色違い?」
「はあい。体毛が黒に、頭や尾の先が赤いのがぼくらの知るゾロアですねえ。でも、この子はほとんど白いと言っても遜色ないほど、体色が薄く、先の色は青いんですよお。
参考までに、こちら。イッシュのアララギ博士からお借りしてきた、色違いのゾロアの映像ですねえ」
記録映像を並べる。アカデミーの生徒に撮らせてもらった、サンドイッチの生ハムを抜き取ろうとしているところの、黒毛と、その毛先が赤いゾロア。
そしてイッシュから借りた、とあるトレーナーの赤いシューズにじゃれつく、黒毛の、毛先が青いゾロアの映像。
「ゾロアの色違いは、赤い毛が青くなるそうでえ……白いゾロア、という個体は、現在ゾロアの生息するどの地方でも見つかっていないんですよねえ。なので各地方の研究者の皆さんと首をひねっていたんですがあ、ひとつ。数ヶ月前に見つかった、古い、……ふる〜い、映像がありまあす。出しますねえ」
それは、ガラルの若い研究者が心当たりを思い出した、と連絡を繋いでくれた先で手に入った映像。シンオウ地方のコウキという、ナナカマド博士の助手の青年が、快く提供してくれた。
映像も音声もノイズが酷く、最後の方の解析に少し時間がかかったものの、無事復元できたもの。
暗い、夜の雪山での野生ポケモンの観察映像。
ユキワラシの群れを離れ、撮影者が見つけた「ガーディやロコンっぽい何か」の容姿に言及し、……何か、恐ろしいものがカメラに向かって襲いかかり、悲鳴を上げた撮影者がカメラを放り出して離れた音。
投げ捨てられたカメラの画面を覗き込むように現れたそのポケモンは、まさしく、話題の『白いゾロア』とそっくりな姿をしていた。毛先が赤いか青いかという違いはあるものの、少し困った様な目や、普通のゾロアより長い毛足はまさにそのまま。
「これはシンオウ地方の、ミオ図書館奥に死蔵されていた、とても……とてもふる〜い、資料映像ですがあ……これが撮られたのは、恐らくは大昔のシンオウ地方であると思われまあす。 レホール先生、質問は後でお聞きしますねえ。
ここに映っているポケモンは、かつてシンオウ地方にいた、シンオウ地方のゾロアではないかと研究中だったんですねえ。
……ですが、今シンオウ地方ではゾロアは見られないんです。理由は多々考えられますが……、一番はやはり、気候が合わなかったんでしょうねえ……」
映像のゾロアは、似た毛色のゾロアークのようなポケモンと共に去っていった。今現在、この映像の他に彼らの記録は、発見されていない。
外見が似ている、というだけならば、ディグダとウミディグダのような、似た形態に辿り着いた説や、ホエルコとアルクジラのような進化の過程で分かれた近い種などあるだろう。しかしこのゾロア達で当て嵌まるのは、恐らく。
「リージョンフォーム……ですか?」
「はあい。オモダカ委員長、その可能性が高いです。シンオウの豪雪地帯に合わせ、雪に紛れる白色と、豊富な体毛を獲得したのではないかと。とはいえ、この幻影の使い方など、わからない点は多いので、まあだまだ調べることは多いんですがあ…………それはまた今度ですねえ」
鼻息荒いレホール先生を、キハダ先生とセイジ先生が取り押さえている間に別の資料を並べて行く。現在のパルデア地方における、ゾロア、ゾロアークの目撃された地点のまとめや、大量発生等で普段はそこにいないポケモンが現れる場所や時期のまとめ。
合わせて、アローラ地方で見られるウルトラホール現象と、ガラル地方で見られるダイマックス、及び数年前のマクロコスモス事件を並べていく。
ここからは、オモダカ委員長に話を任せる。
「かつて、別の地方に存在していたとされるポケモン。今は見かけなくなったポケモン。……シンオウ、アローラ、ジョウトでは時間も、空間も超える力を持つポケモンが、伝説で伝えられています。ポケモンの中には、それだけの力を持つものがいる。パルデアにおいて、そのような伝承はありませんが……今はどんな手掛かりでも欲しい。
考えられる可能性は、いつでも受け付けます。みなさんの知恵をお借りできれば幸いです。」
オモダカ委員長はそう頭を下げると、最後に改めて、情報提供を呼びかけて会議を閉じた。途端に、通信画面を閉じるより先にレホール先生に襲撃……突撃された。
「ジニア先生!!古き昔のシンオウ地方の、映像……とは具体的にはどれぐらい前のものなのだ!」
「あのお、れ、レホール、せん、あた、あたまがあ、ゆ、ゆ、ゆれるう、ああ」
「シンオウ地方は永く語り継がれる神話と歴史の根付くロマンに溢れた土地!“映像”記録というのがやや不満だが、未だに未発表、未研究の文献が死蔵されているというのは問題、大問題、由々しき問題!!それらの調査中の人物と連絡が取れたのか?!どこまで調べた?!何がわかった!?かつてのパルデアと何か繋がりは!!?」
「あああああ」
肩を、肩を掴まれ激しく揺さぶられていて、頭がぐわんぐわんと揺れている。レホール先生にあまりこの話をしなかったのも、レホール先生に話せるほどの情報が無いからでえええ。
「レホール先生、その辺にしておかねば、そろそろジニア先生がバターになってしまう」
「はにゃあ……」
「何を……寝ている場合ではないぞジニア先生!」
サワロ先生が止めてくれなければ、本当にバターになっていたかもしれない。
落ち着いた……一応席に座り直したくらいには落ち着いたレホール先生が、ぼくの話を一通り聞いてくれる。……聞いてくれ は した。
「まだ調査中だと? 発見されたばかりの資料?……ラベン博士の手記?!…………〜〜ッ!クラベル校長!!!!」
「申し訳ありませんがレホール先生。旅行は長期休暇期間にお願いします」
「まだ保存修理も済んでませんからあ、今行っても作業の手伝いは出来ませんよお。
その代わりと言ってはなんですがあ、今回協力していただいた分、力を貸せる時には存分に使って欲しいと伝えてあるのでえ、呼ばれた時には是非お手伝いに行きましょう?」
「……成程。確かにこちらもパルデアの調査は不十分……片手間などで来られても、彼の地の先人に失礼か。いいだろう、ここは……………………………………こらえよう」
「ありがとうございますー」
セイジ先生やミモザさんが「あちら、ホントにこらえてるかー?」「でも今飛び出して行かれたら困っちゃいますし……」とコソコソ話している。
クラベル校長が席を立ち、みんなの視線を集める。
「では、アカデミーの方針です。
今学期の宝探しは中止……とも考えましたが、今のところ大嵐の発生は確認されておりません。今回の大嵐はレアケースだったのではないか、と委員会でも見ております。
もちろん、調査は続けますが……、映像や周辺の聞き込みで、自分から、または空から近寄らない限りは巻き込まれる事もない筈である、とのこと。
ですので、宝探し期間中はポケモンリーグ委員会と連絡を密に取り合い、異常発生に備える事。また学生達にも各々異常気象への十分な注意と対応を呼びかけ、雨天、荒天、嵐の際はなるべく安全な場所で待機を心掛けてもらう事。改めて、これらを徹底することで、安全に備えることとします。
教職員の皆様には、仕事を増やしてしまうことになりますが……何卒ご協力、よろしくお願いします……!」
深く頭を下げる姿。
本音を言えば、中止でも仕方ないと思う。大嵐が原因で、小さなポケモンが酷い怪我を負っている。ならばそれが人間への被害に変わる恐れはある。
ただ同時に、これまで一度も確認されていない現象に、遭遇したのが手練れだったお陰かそのせいか、人的被害は無く、タクシー一台への被害のみ。
再発の確証はないが、もう起こらないとは決して言えない。そして、防ぐ方法は未だ不明。
なれば、人の方が対応していくしかない。
なにも難しいことでは無い。危ないことには近寄らないというだけで、パルデアの大自然を、野生ポケモンの中を旅をするのはそもそも危ないことには変わりない。
人以上の力をもったポケットモンスターたちと暮らしていくんだから。
「――クラベル校長。ぼくたちみんなで今学期、安全で、素敵な……、楽しい学期にしましょうー」
「……ええ、よろしくお願いします」
誰が言ったか。
ポケモンは、ふしぎな生き物で。
そして、ポケモンは こわい 生き物。
でも、彼らは優しくて強い。ボクらの大事なともだちでもある。
生涯の友人との出会い。素敵なものにするお手伝いこそが、ぼくたちの仕事だろう。
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特定の場所で、普段は見かけないポケモンが突然大量に増え始め、またしばらく後に姿を消す。これは大量発生として、このパルデア地方でも、他の地方でも周知されている。原因は不明だが、出現するポケモンとその場所には一定の法則はあり、少なくともゾロアがプルピケ山道に現れた事はこれまでない。そして、集まるポケモンに凶暴性や暴走する様子はない。よって、これは関連性が薄い、と考えられる。
続いてウルトラホール。こちらは未だに調査中、かつ、アローラ以外では見られていないが、他の地方のポケモンや、見たことのないポケモン……のようなものが現れる現象。ただし、これはアローラ特有の力場の影響であるため、離れたこのパルデアでは考えにくい。
そしてガラルのダイマックス。原因は『ムゲンダイナ』というポケモンではあったが、調査によるとそれより遥かに大昔にも、ポケモンが巨大化する似た様な現象はあったという。
あとは……そうだな、ホウエンか。姿を現すだけで、洪水のような大雨、悪夢の如し日照りを発する伝説のポケモンに、宇宙から来たというポケモン、どんな願いでも叶えるポケモン……ポケモンの持つ力には、想像もつかない程の代物がある。
だが、ポケモンばかりではなく、人も進化はしている。今回の大嵐内で人に造られたポケモン……ポリゴンが確認されたのだったな。
伝説上のポケモンを、再現しようとした人間の話は、いくつかある。
時を超え、空間を超え、天候を操り、力を与え…………そして知恵を持つ、…………かもしれないポケモンか」
画面の向こうで、女性がクツと喉を鳴らす。送った資料の数時間後に返ってきた通信は、現在オモダカ委員長と私だけの校長室で受けた。
パルデアで起きた異常気象。テラスタルとは違う現象ながら、原因がわからない以上、その見解を聞くべくオーリム博士に連絡を取るのは必然。磁場の影響か、少し映像に乱れはあるが、余程急いで調べてくれたらしいオーリムは、やや乱れた髪を手で撫で付けている。
「ポケモンが原因、であると?」
「その通り。だが、そのポケモンが……人の手で用意された可能性は否定できない。……パルデアに伝わる伝承、そしてエリアゼロにおいて、その大嵐を起こせるような能力を持つポケモンは見られない。それに、我々の用意したバリアでエリアゼロからポケモンが外に出てしまうことも無いからね。よって、何が原因かはわからないが、少なくともそれは外から持ち込まれたものではないだろうか、とワタシは考える。
…………そこでひとつ、考えたのだが」
オーリムは、癖でもあるこめかみに指を当てる動作をした。彼女が何か考える時の仕草。
「発見されたポケモンだが、シンオウ地方にかつていた、ゾロアのリージョンフォームに酷似した特徴があったのだったね。シンオウは神話と非常に強く関係する地。その昔、太陽……いや、神と呼ばれたポケモンが、人々に崇められていたと聞く。
シンオウの地にも、嵐を起こし、時と空間を操り、人に知恵や勇気を与え……神と崇められた伝説のポケモンがいるだろう。
そちらの資料を集めてみてはどうだろう。
残念だがワタシはそちらにはあまり明るくはない。エリアゼロとテラスタルがあまり関わらないと考えられる以上、今回の件、ワタシから協力できることは……すまないが、これぐらいだ。作業のついでに資料を見た限りでの見解ではあるが……」
「いえ。こちらこそ忙しいところをすいません」
「ああ。もしもまた同じ現象、見たことのないポケモン、テラスタル反応など、何でもいい。関係ありそうな情報があれば、連絡はいつでも。……必ず折り返して連絡しよう。
では、失礼する」
にこと笑い、手を振って、彼女は通信を切った。オモダカ委員長は考えている様子。
シンオウについて、ですか……
レホール先生に却下を告げた上で、パルデアとかつてのシンオウ地方がもしかしたら何か繋がりがあるかもしれない、それについての情報を集めている……と知られては……。
いけませんね。彼女が授業を放り出して空港に走る未来が見えた気がします。引き続き、ジニア先生に研究者の皆さんとの連絡をお願いするしかないでしょう。
感想ありがとうございます!