先行実装転生ゾロアニキ   作:あまも

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最初で最後にしたい我ながら解釈違いなのですが、くらーいこと考えてると暗くなりがちな人間なので許して欲しいです。
ヒスイのゾロアとガラルサニーゴめちゃくちゃかわいそうで、逆にドラメシア族の緩さが一周回ってノイズになるバグ



調べるのは好きで階段は嫌い

 

 

白いゾロアの鳴き声を聞いてもらった、レホール先生のゾロアーク。彼女によく育てられている筈のゾロアークには、まずは声だけ聞いてもらって、しかるのちにピカチュウの姿で実際会ってみてもらおうとしていた。同族のイリュージョンを見分ける目も、コミュニケーションに必要な要素だから。

 けれど授業一コマ分のその間、ゾロアークは物陰から一歩も出ることは無く。病室から離れたと同時に、解けたイリュージョンから酷く取り乱した、悔しそうな、悲しそうなゾロアークが現れてこちらも困惑。

 セイジ先生、レホール先生曰く、とても悲しい、という鳴き声。ぼくの資料によれば、それこそ親が子のゾロアを想っている時の、暴れる前のような、悲しさを堪えている姿によく似ていた。

 

「どうした、ゾロアーク。何をそんなに……ああわかったわかった。少し落ち着け」

 

 レホール先生も見たことがないというゾロアークの動揺ぶりに、優しい手つきで宥める。このまま病院で騒いでいては迷惑になる。レホール先生はゾロアークをボールに戻して、ぼくたちは、ひとけの無い路地に集まった。

 改めてゾロアークに訊いていく。

 ゾロアの鳴き声は、うまく聞き取ることはできなかった。

 あの子は鳴き声を出しているだけで、鳴き方を知らない……少なくとも、このパルデアのどのゾロア種にも、彼の鳴き声の意図を理解することはできない。喜びや悲しみはわかるだろうが、そこに込められた詳しい情報は何も、伝わらなかった。

 あの子を見ているのは、悲しかった。

 あれはゾロア種ではある。

 けれどゾロア種ではない。

 

 あの子はゾロア、ゾロアークの種族の仲間かと訊くと、ゾロアークは逡巡して、大きく頷いた後に小さく首を横に振った。

 やはりただ毛色が違うだけではない。

 

「……パルデアに、同じ毛色のゾロアは確認されていません。図鑑も、あの子をパルデアに生息するポケモンだと、認識しませんでしたあ」

 パルデアに、彼の仲間はいない。

 

 ともすれば、他所から連れて来られた、もしくは何かに紛れてやってきた可能性が濃厚となるが…………

 それはともかく、このゾロアークの動揺ぶりはいったい何故?

 

 あの子が親から逸れた様子だから、ではなく。

 親があの子を迎えに来ないから、でもなく。

 親が死んでしまったから……には、こたえない。

 

「ままならんな。アレが人間と話をしたくなる気持ちもわからないでもない。

 ……ゾロアーク。オマエはあの子が群れから逸れたわけでも、親を亡くしたわけでもないと見た。その根拠はあるのか? 何を感じて、何故そう悲しむ」

 

 レホール先生の言葉に、視線に、ゾロアークは正面から向き合うと、小さく、本当に小さく鳴いて、胸に手を当てた。心臓の位置に。

 人間が、そこに心があると考えているのをゾロアークも知っているんだろう。

 

「……そうか。……オマエはそうか。ならば、あとは我々の考える事だろう。

 ご苦労だった。ゾロアーク」

 

 レホール先生が、ゾロアークの手と、鬣を撫でて労い……ボールへと戻した。

 

 セイジ先生も、腕を組み目を伏せ、何も言わない。ぼくも、何も言えない。

 同族を目にしただけで、悲しさが溢れるなんて。

 

「少しは何か分かるかと思ったが……謎が深まっただけだな。すまないな、ジニア先生」

「いえ。色々な反応が見れましたし、……今後に重要なこともわかりましたあ」

「……ゾロアさんは、can't go home……野生にも帰してあげられないね」

「……ええ」

 

 セイジ先生の言う通り。あのゾロアが同種……近似種と思われる通常のゾロア、ゾロアークの仲間として打ち解けることは出来ないだろう。よしんば憐れまれて群れに混ぜてもらえたとしても、外から来た、上手く物事を正確に伝えられない彼を他の野生のポケモン達が見逃すはずがない。

 

 あれほど人に慣れている、身体の小さなポケモンが、野生でこれまで誰の世話にもならずやってこれたと思えない。親なり、群れの仲間なり、……人間なり。何らかの、誰かの力は借りていただろう。

 彼の元々暮らしていた場所も、彼の親もわからない以上、ここで新たな、彼を混ぜてくれる強い群れを探すより……人の集団に混ぜてやった方が、彼にとって良いのでは?

 

「……せめてもう少し、ぼくに力があればなあ。お世話してあげられたんですけどねえ」

「それだ。何故ジニア先生が引き取らないんだ? あれほど懐いているのに」

「Right. ゾロアさん、ジニア先生といるときベリベリスマイリー!楽しそうだったよな。力って、パワー? ポケモンバトルセンス?或いは……authority?」

「……あはは。腕力もセンスも、体力もありませんからねえ〜」

 

 階段を上がる今ですら、先をいくセイジ先生とレホール先生に、息を切らしながらやっとついていっている程度の体力。

 

 人気のポケモン、珍しいポケモンという事実だけで、その希少性を考えずに乱獲し、売り捌く悪い集団は、どれだけ捕まえても後を断つことは無く現れる。規模は小さくても、パルデアでも何度か誌面を飾った事もある。それらを未然に、または早期に解決してきたのはこのパルデアのリーグ委員会。彼らのおかげで、今現在はそういった集団は確認されていない。

 

 けれど、確認されていないものが存在しないとはかぎらない。人間は欲が絡むと暴走してしまう生き物だからだ。

 そうして暴走してしまったひとを、止めきれる自信はない。

 

「ジニア先生?」

 

 レホール先生が声をかけてくれるけれど、疲れてしまって足が止まりがちだ。最近、往復する事が増えて筋肉に疲労が溜まっているらしい。

 

「オー!オヌシお疲れさまでござるな? OK、ワシがてだすけするですよ!」

「わあ。ありがとうございまあす」

 

 レホール先生は止まって待っててくれて、セイジ先生が下まで来て、腕を引いてくれる。

 今も、いつも、ぼくはみんなに助けてもらってばっかりだ。

 

………………ああ、

「ああ、そっかあ。うんうん……そうですねえ」

「What's happen?」

 

 腕を引いて貰い、背中を押してもらって。

 各地の研究会の皆に、調査をお願いしていて。

 レンジャーさんや、リーグ委員会の方に頑張ってもらっている。

 あの子のため、だけじゃなく、このアカデミーの生徒を含む、パルデアで暮らす人々のためでもある。

 きっとそのためならば

 

「みなさんに、手伝って貰えば良かったんですね」

 

 協力を頼むことを、躊躇う必要はないはずだ。

 

――――――――

 

 きっかけは、意外な所から。

 

「いっそ……バズらせちゃえば良いのでは?」

 

 動画撮影の為にアカデミーを訪れていたナンジャモさん。「せっかくだから噂のゾロアが見たい!」と言う彼女に、資料として撮影していた動画を見せながら、退院後に協力してくれる人を探している旨を話すと、そんなことを言う。

 

「動画で撮って、ネットに上げるんですかあ?」

「それもいいけど、その子が、“ドコ”の“ダレ”にお世話されてるのかってみんなに知っててもらうの。

 例えばジニア氏がゾロアくんを、アカデミーで授業に連れてくでしょ?生徒さんはゾロアくんを見て、『ジニア先生がお世話してる、珍しいゾロア』って、覚えるじゃん。

 同じ毛色のゾロアを他の場所で見かけたら、ジニア氏に伝えてくれたりするんじゃないカナ?

 それがみーんなに知っててもらえたらぁ、もーっと範囲は拡がるよね?」

 

 有名人の彼女だから、見えた事なのだと思う。いつも観られている、観られている事を意識している彼女。

 

 ナンジャモさんを見送って直ぐにクラベル校長の元へ駆けたし、彼女からの話を聞いて考えた事を提案した。

 

「アカデミーで、ゾロアを保護するのはどうですかねえ」

 

 今まで身動きが取れなかったゾロアも元気になり、多少の移動にも耐えられそうな健康状態だと分かった。

 リーグ委員会と一緒に、可能な限り内密に話を進めてきたこの件。ゾロアがどんな性格のどんなポケモンで、何に関わっているかを調べて来たけれど、あの子自体は凶暴でも、危険でもない。人にもポケモンにも親しく接せる、優しいポケモン。

 

 今後、あの子がどうしたいかはあの子次第。

 それでも、「人と一緒にいたい」と思ってくれたなら。

 今のように、彼を隠して特定の相手だけと接するような狭い世界じゃなくて……色んな人やポケモンと出会って、一緒にいたい人を見つけてもらいたい。

 

「“アカデミーで保護されている、毛色の変わったゾロア”が知られれば、下手に手を出してくる人も、いないのでは無いでしょうか」

「他には見たことがない……唯一の珍しいポケモンだからこそ、ですか」

「そうですねえ。特に目立つ目印がある彼が、知らない人と歩いていたり、アカデミーと関係のない場所にいたら…」

 

 受付のコダックや、生物室のヤミカラス……ボウルタウンのキマワリのように、普段はそこにいるポケモン。ライムさんのボチのように、人と一緒にいるポケモン。いつもいる子が居なければ、不思議に思うし、同じものを見た時に「あの場所にいた子かもしれない」と考える切っ掛けになる。

 

「見守る防犯、ですか……よいかもしれませんね。リーグ委員会と相談してみましょう」

「わあ!よろしくお願いしますー!」

「ですが」

 

 眼鏡をかけ直したクラベル校長が、言葉を切った。

 

「ゾロアさんがどうしたいか。これは考えてありますか?」

「……はあい。もちろんですよお。訊いてみてから、ちゃんと」

「では、あなたはどうしたいか。考えてありますか?」

「────ぼく、ですかあ?」

「調べてみたいのでしょう?どの地方の図鑑にも載っていない、あの子を」

「………………」

 

 図鑑は、一から作った物。たくさんの資料や、アプリ使用者からの提供で成り立っている。

 データの現物があって、その発見を自分で発表できる。リージョンフォームや、地方毎の生態系、栄枯盛衰を調べられる機会だ。

 それも、その調査対象が自分に懐いている。チャンスだと思ってしまう。

 

「一緒にいれば、少しずつ彼のことがわかるかもしれませんねえ」

「一緒にいたいのではないんですか?」

 

「…………アカデミーで保護してあげられるよう、よろしくお願いしますー」

 

 仲良くなれるほどに、気を許される度に、どこまで許して貰えるか、一瞬でも考えてしまうのは、あまりいいことではない。

 ゆっくり、急がなくてもいいはずだ。少しずつ分かっていければ、それでいい。

 

――――――――――

 

 ゾロアの体力も充分ついて、諸々の手続きも準備も終えた今日。アカデミーの校舎に、あの子を連れていく。

 

 大勢の目に触れる事になる。当然反対意見もあった。

 だけど、一人より複数の目で見ていればその分、ゾロアを守る事に繋がる筈。

 

 本当は、安心できるいいトレーナーと会わせてあげることができれば良かったのだけれど。人懐っこいのに気難しいところがあるのか。

 アオキさんの差し出したボールは鼻先で押し返し。

 キハダ先生とタイム先生のボールには近寄ることもない。

 モンスターボールがどういうものかを知っている。モンスターボールを毛嫌いしている様子はない。

 

 きっと、彼の気にいる人はどこかにいる筈だ。

 

 リーグ委員会との話し合いで可決した後すぐに、彼の元へ赴き、アカデミーでしばらく過ごして貰いたい旨を伝えると、彼は一瞬きょとんと首を傾げて目をぱちくり。その後こくりと頷いてくれた。

 

「アカデミーでは、なるべく先生の誰かと一緒にいてくださいねえ。キミを攫おうとする人がいないか、先生達で目を光らせますから」

「……きゅぬ」

 

 もう痛々しさなんてどこにも無い、すっかり元気になった様子で彼はとてとてとぼくの足の周りを回っている。歩き出せば、ちゃんと顔を見上げながらついてくる。病室を出ようとして、思い出した。籠を持ってきたのだったっけ。

 

「建物の中は、ポケモンを連れて歩くのは原則禁止なので……抱っこと籠、どっちが良いですかあ?」

 

 アオキさんがあの後新しいものを購入して返却したという、彼が入っても充分な広さがあるピクニックバスケット。

 訊ねれば、ひょいとぼくの胸へと飛びついてくる。

 本当に、よく懐いてくれた。確かに懐かせようとはしていたけれど、これほど素直に懐かれて、信頼されていると、なんだか悪い気がしてくる。

 

 結局、パルデア中を捜索しても、彼と似た毛色のゾロアークもゾロアも、子を探して暴れるポケモンも、この子を探す人間も見つからなかった。

 レンジャーさんたちには引き続き、普段のパトロール中の注意を頼んである。ニュースでも危険な野生ポケモン特集を組んで放送する事で、一般の人々にも自然と警戒感を持ってもらった。

 世話になった医師の先生やジョーイさん、ラッキーたちに見送られ、ついに病院の外に出る。晴天の空は、いい門出の日だろう。

 

「きゅぬ……ん?」

 

 外だからか、張り切って飛び出したゾロアが周りを見渡して首を傾げている。促して歩き出しても、キョロキョロと周りを見渡してはきゅーきゅーと悩んでるみたいな唸り声。

 以前街に出た時より、視界に入る人の数が少ないことに気付いたのかもしれない。

 アカデミーは伝統の課外授業……“宝探し”が始まり、学生たちがパルデア中に旅立って行ったのは昨日のこと。下手したら学生の方が多いとも言えるこのテーブルシティは、長期休暇の次に人が少ない時期となっている。

 退院の日をわざわざこの日まで待ったのは、そのためでもある。

 

 それでも、人が居なくなるわけじゃない。今も、アカデミーの教師のぼくが連れている、毛色の違ったゾロアの彼を見ている視線をそこかしこから感じる。

 

「きゅ……」

「うんうん。階段ですねえ……アカデミー、この上なんです」

 

 見上げる、最上段の門も見えないような長い階段。

 上がれば、アカデミーだ。みんなが待っている。

 病み上がりに段差を上がるのは辛いだろうかと手を差し出すと、戸惑っていた顔から伺うような顔……そして、手から目を逸らして軽やかに飛び上がった。二段飛ばしで軽く上っていってしまう。

 

「……はは。

 あんまり急ぐと疲れてしまいますから、ゆっくり行きましょー」

「きゅぬ」

 

 声をかければ、ちゃんと立ち止まって待っていてくれる。うん。元気でなにより。

 

『ゾロアさん。オヌシはちゃんと言葉の意味も分かってて、とってもグレート!エラいのな!ジェスチャー、身振り手振りでワシに伝えてくれたり、お顔も表情ハッキリで、言葉要らずは解るのだが…………

 でもノンノン!それじゃダメなんだ! 声っての、実はとーってもvery important、大事ね!』

 

 セイジ先生に言われていた事を意識してか、なるべくぼく達にも鳴いて知らせてくれるようになった。きゅーきゅーと、小さい声だけどご機嫌な時に鳴いている姿も見られている。

 

「……よし。ぼくもがんばりますよお」

 

 この階段も、これから先も。

 

 

 





のうてんき「ジニア先生がボール出してくれたらなぁ〜なんでも許しちゃうんだけどなぁ」

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