先行実装転生ゾロアニキ 作:あまも
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やっと学校に辿り着きました長いな~
でけえ!
本棚が!!
たくさんある!!!
右も左も、階段の上も奥まで壁一面に本がギチギチに並んでいる。ここらで一番の図書館!って蔵書量だが、これで学校のエントランスホールらしい。屋根あるのに中に街灯立ってるやんけ。高い天井は三階分ぶち抜いて、ムックルも悠々と天井近くを飛んでいる。
まるで外のような広さだけど、本特有の紙と糊と防虫剤の匂い。臭いけどクセになる。これ、おれは結構好き。
子供ばかりの学校をイメージしていたから、似た服装で老若男女、幼いからしわしわまで色々な人がいて、全員学生だって言うから驚いた。しかもこれでも、今学校内には生徒は少ないって言う。
みんな集まったらとんでもねー数になりそうね。
「若い学生はもちろん、学びたい意欲があれば大人でも通えます。働きながら夜に授業に、なんて学生もいらっしゃるんですよ」
ふむふむ。定時制的な?
そう説明するのはジニア先生……ではなく、顎髭がチャーミングな背筋の伸びた老人。橙色のジャケットに、それはアクセサリーか何かか?なプレミアボールをゴロゴロ六つも引っ提げた、特徴無いから特徴付けときますねみたいな方。
お名前はクラベルさん。
このパルデア……というかおそらくポケモン世界で一番大きな学校であるオレンジアカデミーの、当代の校長らしい。とっても偉い人だ。
新任ホヤホヤのピッカピカ一年生らしいけどな。
そのプレミアムなボール、覚えてもらおうって魂胆か?プレミアボール六つってモンボ六十個で一万と二千円……実はそんな高くないな。
学校まで案内してくれたジニア先生は、でっかいでっかい玄関前で待機していた、このクラベル校長におれを紹介して、眉をとんがらせたタイム先生に連行されてってしまった。なので、今おれはクラベル校長と二人だ。校長直々に校舎内を案内してもらっているってわけね。
学校の来歴から現在の生徒数やら授業やらなんやらと、説明しながらちらちらと、おれの様子を見ぃ見ぃゆっくりと歩いてくれている。普通のポケモンなら、そんな話されても理解も興味も無いぞ。
おれは普通じゃないけど、……あんまり興味は………………
あ、これってもしかして各地の朝礼の校長や社長の話と同じやつ?
そんなら、真面目に聞いてたら寝ちゃうじゃん……
「ゾロアさん?」
はっ
すれ違った、今階段を下りていった幼い学生の後ろを、フワンテがぷわわ〜っとついて行くの見てたら、足が止まっていたらしい。大丈夫かあの子。手持ちなら良い……のかぁ?
で、何このゲート。学生証で開くシステム?やだ、本は時代を感じるのにそういうとこ文明的……
スライドして開いたガラス戸をすり抜け、大きな扉を潜る。語り始めるクラベル校長。
あ、まだ話続くのね?
ゲートの先の扉をくぐり、辿り着いたのはでっ……かくもない扉。他の扉と変わらない。
「こちらが校長室です。ゾロアさんには、こちらで普段は生活してもらいます」
案内されたのは校長室。らしい。これが校長室?
変な機材がズラズラっと並ぶ部屋に、顕微鏡やらなんかのファイル、貴重そうな石が置いてあったり飾られた壁。
まるで研究室みたい。
校長室らしいものなんて、奥のスペースの大きな窓の前に置いてある重厚な長机とカッチョイイ椅子辺りかな。トロフィーも?
一応リノリウムっぽい貼ったみたいな、やわぺったらな掃除しやすそうな床の模様の境が、とりあえずここは校長室です感がある。そんな境のスレスレ、ギリギリ機材スペース側の床の方。ふかふかのカーペットの引かれた、低い柵で囲まれたスペースがあった。かまくらみたいなベッドもある。青の陶器の皿には水。
「居心地は如何でしょうか。…………急いで用意したので、最低限だけなのですが。こちら、プレゼントです」
ちり、とクラベル校長が手にした……羽と鈴のついた棒をかまくらベッドに添える。じゃれませんよそんなのには……もらいますけどね!
んで、ここがおれの寝床……ってこと?
ひとっとびで越えられる柵を乗り越えて、かまくらベッドと玩具を確認。
入り口狭いけど、感触、広さはよきよき。
ただ……うん。新品くせえ。袋から出したての、工場な空気。ジニア先生がおれの使ってた毛布持ってっちゃってたっけな。こりゃ、あれ敷いてもらわんと寝れないぞ。
「セキュリティはここが一番高いのです。ゾロアさんが人の目の無い所でお休みになりたい時には、お手数ですが必ず、ここに戻ってきてもらえますか?」
ふむ。それはよかろうもん。
まぁね。そりゃ一軒家とは違うのだし、暗くて落ち着けるから隠れて休もうかな〜なんてして、無駄に人を、例えばこのご老体を働かせちゃうのは良くないもんね。
エントランスからここに来るまででも広かったのに、外観ではその十倍は広そうな感じだったし。このジェントルマン校長を、使いっ走りにするのは気が引ける。いくら悪いキツネのおれでも躊躇っちゃうよ。
「ありがとうございます。……ここまで歩いていただきましたが、お疲れでしたらひとまず休憩しましょうか?行けるのであれば、まだお会いしていない職員と顔合わせに参りたいと」
職員……先生とかか。あれっぽっちしかいないわけ、ないもんね。
大丈夫大丈夫、さすけねのよ。いくらでもいけますぜ校長。ポケモンの体力、結構あるのだよ。
ぴょいひょい跳んで校長の元に戻る。
「……ここに扉がありますので、出入りはそちらからお願いしますね」
ワ!
側面の柵に、申し訳程度の留め具と引き戸の扉。開けっ放しにしといてくれるらしいけど……気付かなかった。
そうか、そうか。低くても、これ柵か。柵は乗り越えるもんじゃないよな。
おれの自らの身体能力をひけらかしちゃったな……。
――――――――――
二階に降りては職員室。なんとびっくり、普通のおじさんおばさんおにいさんおねえさん先生がいた。普通……めちゃんこに普通。アオキさんくらい普通。ベストのおにいさんとか、パーカーのおにいさんとか、ちょっと丸いおじさんとか、スーツのおねえさん……はリーグの方?へえ、提携してるんすね。受付の、事務のおばちゃん達は顔そっくり。姉妹の方?へえ。
普通普通、と来て……でもいたぞ。クセがある人。
「吾輩はサワロ。家庭科を担当している」
逆三……!ダンディズム!丸太のような腕!
引っ越しダンボール担いでんのかい!って筋肉と、ストライプのピンクシャツと前掛けのアップリケの可愛さがアンバランスな……ムーディな、色気ムンムン(褒めてる)の男性。肩と胸と脇腹を強調するベルトがこれまた……。
家庭科???
バトル学のキハダ先生と外見交換してもいいんじゃないかな。いやこれはこれでアリ……?
オッサンのカワイイからしか摂取できない栄養素あるもんな。アリっちゃアリか。
あと、もう一人。
「医務室勤務のミモザよ。先生ではないんだけど……よろしくね、ゾロアちゃん」
こちらがぐうかわギャル……いや、おねいさん。女性にこういうのはなんだか失礼な気がするのだけど、キハダ先生の素材感と違って外見にとても気を使っている感じ。
でもちゃんとびったりキレカワっすわ。色気というか、きゃぴきゃぴ感がある。正統派カワイイだね。
いやサワロ先生が正統派じゃないとは言ってないんで。
「職員室では先生方が居ない時はほとんどありませんので、こちらに来てもらえば、手の空いた教師が相手になります。気軽に遊びに来てくださいね」
もちろん、この校長も手が空いた時はお相手しますよと校長ニッコリ。ジジイの笑顔からしか取れない栄養素か……あるな。
なるべく誰かしらの先生と一緒にいてねとジニア先生が言っていたのを鑑みるに、とりまここ来て暇な人見繕って構ってもらえってぇ事だろう。
可愛がってくれんならありありのアリです。病院は一人部屋だったから、ようけ一人の時間が多くてな。
「それでは、校内案内の続きです。次は…………食堂にでも行ってみましょうか」
引き続きクラベル校長。おれの腹の音を耳聡く聞いて、食堂へと案内してくれる。昼前だけど、昼だろう!
校舎は、エントランスホールを中心に虫の脚……喩えがキモいな。
猫のヒゲ!みたいに左右に棟が三本ずつ伸びている。これが効率いいのか知らないが、正面とか斜めから見ても中央の塔が目立ってでっかく見えるね。効率いいか知らないけど。
で、エントランスホール横切って反対の棟。自由によそって食べれる形式な食堂だった。奥にはキッチン直通。料理人さん常駐。食いたいものありゃあ注文してもいいとかなんとか。
学食に力入れてます?
ポケモン用のクッションを置いた椅子の上に上がり、テーブルの上に用意してもらったカリカリふわふわドライフルーツの入ったパンと、コンソメともろこしとなんかの草のスープもらって、黙々と食べる……んだが。
めっっっちゃ視線を感じる。
見られてるフゥ!
「校長先生、その子はだあれ?」
「クラベル校長の新しい手持ちですか?」
「えー、図鑑が反応しなーい!」
小さい子たちは無邪気に、でかいお友達は興味津々に訊ねている。許可も取らずに図鑑使うんじゃないよまったく。
何?まだおれ登録されてないの?ジニア先生。
「アカデミーの新しいお友達ですよ。このゾロアさんは、チャンプルタウンの近くで保護された子です。まだ誰のポケモンでもありませんが、人には慣れています……が、驚かせてしまいますから、触らないように。
ゾロアさん、彼らにご挨拶してさしあげてください」
ふむ?まぁ……よかろうもん。
マナーも知ってるおれなので、テーブルに上がるなんて真似はしない。ちゃんと椅子の上でお座りして、面々の方を向き、胸を張ってご挨拶。
はい、
おはこんハロチャオ〜
「「「かわいいー!」」」
ふはは。そうだろうそうだろう。
なんか全然面識はないけど、ジニア先生の発想の手助けしてくれた人ってぇ派手なナリした動画配信者の女性の動画見せられたからな。流行りらしいから、そんな流行りにノッてみた。
たぶん、きゅきゅぬんきゅあきゅぬって言ったからそう聞こえてるはず。でも頑張ってご挨拶してるように見えるだろう、聞こえるだろう!!おれのかわいさにひれ伏すがよい。
餌食ってうみゃいうみゃい言ってる(ように聞こえる)猫理論。九割親バカから来る、耳ツンポだから。
動画投稿とかすると皆が助かるぞ。
「よくできました」
クラベル校長がもさもさと撫でてくれる。学生たちには、まだ触らないように言ってたくせに〜。
仲良しマウントか?
別にいいけどね。おれは長いものには積極的に巻かれていくタイプの悪いキツネ。
ふと、スマホロトムを取り出そうとしている学生が目に留まる。なんだ、写真か?毛にスープ付いてない?
「ああ、彼の写真はまだ撮らないで下さいね」
しかし、耳だけじゃなく目も敏いクラベル校長が先にそれを止めた。なんでや、おれもバズりたい。
「彼は、あまりスマホロトムが好きではないようですから。音に驚いて、叩いてしまうかも」
ホァッ?!
言われて、彼のスマホロトムが自分から慌てて彼のケツポッケに引っ込んでしまった。
お、おれそんな暴れないよ!!
……ジニア先生のスマホロトムの件、まだ引き摺ってんの?!
いや、慌てるおれや学生諸君を見て、クラベル校長はクスクス笑いだ。冗談か?!冗談なのか?!
「冗談です」
冗談か〜!このお茶目さんめ!
「……ですが、突然写真を撮られると驚いてしまう子も実際いますからね。近くに人がいるときは、ちゃんと撮ってもいいか、確認してからにしましょう」
「「「はーい」」」
おっと、真面目な教訓挟んできた。それは結構大事。ポケモンが驚くかもってのもそうだが、飼い主の気分が悪くなる時だってあるしね。
ま、わざわざ写真で撮りたい!なんて、気になっちゃう程素敵なポケモンだったんだろうから、褒め言葉のひとつでもつければ飼い主もポケモンも悪い気はしないっしょ。
あーあ、おれは全然気にしなかったのになぁ!!バズチャンスが!
……クラベル校長側に、おれを学生に撮られると困る要素があった、ってことか?
んー……?
「ゾロアさん。せっかく温かいのに、冷めてしまいますよ」
おっと。
残っているパンとスープを急いで食べる。
ちなみにクラベル校長先生はお紅茶でティータイム。 ッカァー、お優雅ですわ〜
かんきつ系のあまいかおりだったので惑わされたが、一口貰ったらしぶにがとほのかなすっぱみなオトナの味だった。しわしわに顔を歪めたおれを見て、ふふと小さくクラベル校長が笑いよる。わかってて何も言わずに飲ませたな?!
この……お茶目さんめ!!
――――――――――
ひとやすみして午後である。
引き続き校内探検。しつつ、授業も少し見学しましょうかとクラベル校長。
いきなり校長来たら緊張しちゃうんじゃないの?と見つめれば、なんと扉に隙間ちょっぴり開けての家政婦は見たスタイルで覗き出した。
バレるて。もうそれはバレてるて。セイジ先生がちらちら見とるて。
「Ah……OK.
海外の人も、ワシもみんなも!自分の国の食べ物褒めて貰えるの、誰だってハッピー!嬉しいことだもんね!」
見なかったことにしてる!
「良い笑顔です。飽きさせないテンポの良い講義……流石です、セイジ先生。
しかし、やはりまだ緊張が見えますね。集中が乱れています」
そりゃ……乱してる人がいるからじゃない?おれは頑張ってる方だと思うよ。
頑張って生徒と向き合うんだ、セイジ先生!見ちゃダメ!こっち見ちゃダメ!ノンノン!
そんなセイジ先生の言語学見学に味をしめたクラベル校長(家政婦のすがた)は、順調に家庭科、バトル学、数学の授業を見学。
順調に、家庭科でバレかけて人差し指で『シー……』の形でもって無言のアイコンタクトによりダンディームーディなおじさん達による目線だけなら真剣なやりとりして。
バトル学で見つかってキハダ先生が50m5秒台で駆け寄ってきたから退散し。
タイム先生に秒速で見つかって怒られていた。
この学校、もしかして一番偉いのタイム先生なのでは……?
授業は基本、時間割などはなく、この時間にやる、という決まりもない。学生の方から希望者を集め、人数が一定数集まったら時間を調整して、授業を行うらしい。まだ今年度上半期開始したてで、どの授業も初回や第二回ぐらいが多いんだそう。
急ぎ駆け足で基本授業を駆け抜けて、さっさと専門分野の授業に行っちゃう人も居るそうで、そういう人は先に集中講義でまとめてやっつけちゃうそうな。進み具合に応じて、そこまでまだ進んでない人たち待ってるよりは良いよね。頭詰め込み式なっちゃいそうだけど。んでもある意味、こんな早期に基本を駆け抜けてしまいたい人ってのは二極化されるらしく。
単位だけ目的で、一夜漬けでも合格だけ欲しい人か。
真剣になりすぎて、基本なんて予習復習終わってるから今更やる意味もない人か。
あと僅かながらジニア先生を一目見たいのが一定数いる……とかなんとか。そいつらだけ怖いな。何しに学校来てるんだ?
ああいや、ジニア先生見に来てるのか。……いや怖ぇよ。わからないでもないけど。各先生にそういうのいそう。推し活じゃん。
で。その集中講義希望者。生物学……つまりジニア先生の担当なんだが、溜め込んでたそうな。
「ゾロアさんの様子を見ていただいていましたから、仕方のないことではありますが……元々人気の授業です。
特に彼はパルデアに生息するポケモンについてのスペシャリスト。宝探しでパルデアを旅するなら、一通りの話を聞いておいて間違いはありません。
…………時々脱線してしまいがちなので、少し心配なのですが……どれどれ」
懲りないねぇ。
ここまで全部、おれも興味あるんで一緒に覗いてるんだけどね。人のこと言えない!
「──リージョンフォームはフォルムチェンジとはちがうんです。個体差、一時的な変化ではなく先天的な違いなので、そもそも色や形、タイプも違います。こちらの画像はパルデアのケンタロス。みなさんの見慣れてる黒い姿ですが……一般的にはこちらの、茶色の毛並みのケンタロスが本来の姿なんですよねえ。どっちもカッコイイですよね〜。
でも実は、パルデアのケンタロスにはさらに違う姿がありまして──」
すごいちゃんと授業してる……黒いケンタロスなんているんだなぁ。
「ほう……ちゃんと授業してますね……しかもかなりいいペースです。早すぎるぐらいです」
まさか。おれでもジニア先生の間延びした口調で授業時間に間に合わなさそうだって思うのに。
……あれ?それってまさか。
恐る恐る、生徒の中で手が伸びる。
「ジニア先生。あの、タマゴの話は……」
「ああ! すいません、また脱線してしまいましたあ」
ああんやっぱり!
学生のおねえさんのおかげで止まったけど、なんでタマゴがそんなよくわからん話になっちゃうんだ。
「今日中に彼等の集中講義、テスト分終わりますかね……」
どうだろ。難しそうじゃない?