ダンガンロンパ(仮)-よみがえり-   作:冷凍かに缶

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プロローグ②

 

 

プロローグ 開会 絶望卒業式

 

 

 

 

 

 

「……………ま」

 

 

 

 

 

 

 

「……な……しま」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい、七島」

 

 

 途切れ途切れに聞こえていた声が繋がる。

 目を覚ますと、まずは、自分は床の上で寝転がっていたことに気づかされる。頭上から萩野が心配そうにのぞきこんでいた。

 

「おい、大丈夫か? まずいな。俺まで寝ちまった」

 

 頭をかきながら萩野は言った。

 声が震えているように聞こえるのは気のせいか?

 

「今、何時だ?」

「ええと、4時……なんだけどよ」

 

 萩野が腕時計を見ながら言ったが、なんだか歯切れが悪い。

 4時……でも、待てよ? さっき食堂に行こうって言っていた時も、ちょうど4時だったよな?

 まさか朝の4時とか言わないよな?

 

 照明が薄暗いから、もう消灯時間が過ぎてしまったのか? 慌てて辺りを見渡そうとした。

 しかし、暗いのは夜が原因では無かった。

 

 

 

「えっ……?」

 

 

 

 窓を見て確かめようとしたが、そこには風景はなかった。

 

 ただの鉄板――。

 そこには大きなごつごつしたネジや釘が無造作に打ちこまれている。

 天井には怪しげな監視カメラが俺たちを睨みつけていた。

 壁にはテレビが備え付けられていて、まるで監獄。いいや、それ以上に不気味な空間。

 

 

 な、んだよ、これ。

 

 

 そして、俺たちは、“それ”に見覚えがあった。

 現実で目の当たりにはしたことがないが、“それ”は何度も見てきたものだった。

 照明のせいか、それとも寝すぎたせいか……眩暈が止まらない。

 

「食堂だけ見てちゃ、ラチが明かねーな。ちょっと外に行って確かめてみないか? 昇降口に行こうぜ」

 

 

 萩野が早口でモゴモゴとそう言った。

 お互いに混乱したまま俺たちは食堂を後にした。

 

 廊下に出ると、怪しげな照明が俺たちを出迎えた。

 学園がおどろおどろしい場へと変貌している。

 なるべく照明の光を浴びたくない思いで俺たちは走り抜けた。

 

 そして、昇降口へと辿り着くと、そこには……。

 

 

 

 

 

「あっ、まだ人がいたのだ!」

 

「これで、16人ね」

 

「ふん……野郎、か……」

 

「三人寄れば文殊の知恵っていうけど……うーん、どうなのかな」

 

 

 そこには10人以上の生徒たちが集まっていた。

 

 その空間は、多くの意味で、違和感しかなかった。

 大きい者小さい者。派手な装飾、地味な色。

 まさに十人十色という言葉が似合う光景でもあった。

 彼らの背に立ちはだかっている昇降口には、校門の代わりに大きな丸い鉄製の扉があり、通さないと言わんばかりに厳重に閉ざされていた。

 

 

「ん? なんかこいつら見覚えがあんな」

 

 そう言ったのは萩野だった。

 俺にとっては、見たことがない者たちがほとんどだ。

 

 

「私たちのことを知っているか否かは今はいい。お前たちの名は? 早急に答えること」

 

 

 俺たちの前に、茶色いブレザーを着た女子生徒が歩み寄ってきた。

 希望ヶ峰学園は、彼女が着用している古めかしい茶色いブレザーの制服が制定されているが、基本的に服装は自由なので、逆に既存の制服を着ている生徒は珍しい。

 

 そんな彼女の顔は目鼻立ちがくっきりしていて端正だ。

 それに、スカートもきっちり折り目がつけられていて清楚で品がよく見える。

 いうなれば、模範生ともいってもいいかもしれない。

 

 しかし彼女の佇まいは、腕組をしながら、尊大な、仁王立ち、だ。

 さらに口調は雄々しく、見た目とのギャップを感じた。

 

「萩野健だ。95期の超高校級のボクサーだぜ」

「俺は、七島竜之介。才能は書道家で……俺も萩野とおなじ95期だ」

「あはは、やっぱり君たちもか」

 

 サンバイザーの少年が、困ったように笑みを浮かべながら言った。

 「やっぱり」ってことは……。

 先ほどのブレザーの女子生徒が頷いた。

 

 

 

「ここに集っている我々も“全員95期生”、明日卒業予定の生徒ということだ」

 

 

 

 俺と萩野は反射的に顔を見合わせていた。

 

「なるほどな。だから俺は見覚えがあったってワケか」

「しかし。お前たちは2人とも同じクラスか。他の者たちは、私を含めてみんなそれぞれ別のクラスになるようだ」

 

 全員が全員、別のクラスか。

 それにしても外見だけではあるが、こんな奇抜な生徒たちがいるとは知らなかったな。

 

「さて。2人も生徒が来たんだ。もう一度、自己紹介を行おう」

「ええ、またあ? こんなことで時間を取られるなんて、クソメンドウだねえ……」

 

 ブレザー服の彼女の提案に大柄な男子生徒が口をとがらせた。

 しかし、すぐさま女子生徒がぴしゃりと反論する。

 

 

「これは命令だ。全員がお互いの身柄を知っておくのは重要なことだろう。さあ、手短に自己紹介をしていこう。まずは、私から。私の名前は『四月一日 卯月(ワタヌキ ウヅキ)』。みんなからは『超高校級の優等生』と呼ばれている」

 

 

 

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 強かな栗色の髪を揺らしながら、四月一日という女子生徒は握手を求めてきた。

 萩野はまじまじと彼女を見つめて、その後に「うお」と軽い驚嘆の声をあげた。

 

「お、おいおいマジかよ!? 『超高校級の優等生』って、あの優等生か!?」

「萩野、知っているのか?」

「……逆に知らねーのか?」

 

 呆れたような視線は萩野だけではなく、周囲の生徒たち数人にも向けられてしまった。

 自分のクラスの生徒たちですら、あまり話をしたことないし、ウワサも興味がない。

 そもそも、部活も委員も入ってなかった。

 だから、このような話は、萩野に任せるしかないようだな……。

 

「『超高校級の優等生』は名前の通り、驚異の発言力と魅力を持ち合わせている優秀な生徒だ。もちろん学園の生徒会にも所属している……っていうか、『生徒会長』だぜ?」

 

 ……えっ? 生徒会長!?

 

「そ、そうなのか……!?」

「そうだ。しかし、私の顔を知らないのも無理もないかもしれない。希望ヶ峰は全校生徒が集まるという機会は少ない、集まる機会があるとすれば、それこそ明日の式典ぐらいだろう。もっとも校内新聞には毎月あいさつを載せているから、それに目を通しさえすれば名前は分かるはずだが」

 

 ……う。痛いところを突かれた。

 校内新聞は裏紙にしか使ったことがなかったんだよな……。

 

「え、えーとワリぃな。こいつ書道ばっかりやってたもんで、校内のことにはニブくてよ……で、四月一日の話だけど、もちろん成績はオール5。さらにスポーツ万能、努力家という三拍子だ。まさに学生の鑑……いや、もっと言えば、人間の鑑とも言えるかもしんねーな」

 

 人間の鑑とは、さすがに言いすぎじゃないのか?

 でも、たしかに、この自信のある立ち方は、そう思わざるを得ないのかもしれない。

 むしろ、「そう思え」というオーラが強く感じられる。

 

「とにかく困ったところ、気になったところがあれば、すぐに私に言うこと。そしてすぐさま私に頼ること。よろしく頼むぞ」

 

 差し出された彼女の手を握り返す……うっ……!?

 握手の力が強い……!!

 もしかしたら、腕相撲でも負けてしまうかもしれない。

 この強さが、彼女の優等生たる意志に繋がっている……のだろうか?

 

 

 

 

「なるほど、ムッシュ七島に、ムッシュ萩野か……ふんふん、なるほどねえ」

 

 さきほどから灰色のブレザーを着た小柄な少年が、俺たちのつまさきから頭のてっぺんまで観察している。

 右目には怪盗がつけているような小さな眼鏡――モノクルを装着していた。

 

 

「やあ、Bonjour! ぼくの名前は『Lentille Claire』だよ」

「ランティ……あ? な、なんだって?」

 

 

 萩野が首をかしげたと同時に、彼は大きく手を広げた。

 

 

『超高校級の鑑定士』『ランティーユ・クレール(Lentille Claire)』! あ、『ランティーユ』が名前になるから、そう呼んでくれよ? 書物や壺、絵画、宝石など様々なコレクションに精通していて、五感全てが優れていると賞賛、格付け番組に出演した時は、出禁にされるまで不動の一流を座り続けていた、まさに、生きた虫めがねと言われたのは、このぼく! ランティーユ・クレールのことさ!」

 

 

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 ……聞いてもないのに、勝手に説明してくれたぞ。

 

「ランティーユ……ああ、そーか。フランスからの留学生だったな?」

「ウィ、その通りだよ!」

「留学生なのか……すごいな。日本語が上手だ」

Merci!(メルシー) 書道家のムッシュに言われるなんてうれしいな! でも、まだまだ勉強中だよ」

 

 勉強中とは言ってるけど、俺たちと同じぐらいに流暢だ。

 でも、萩野の言う通り希望ヶ峰の留学枠なんだ。

 向こうの国では、先ほどの四月一日と同じく優秀な生徒なのかもしれない。

 

「と言うか、おめー、さっきからなんだ? 俺らをじろじろ見て」

「ああ、ごめんね。そういう気はないんだ、人を観察するのは、鑑定士ならではのちょっとしたサガなんだ。最近は、物の鑑定もいいんだけど、『鑑定士』の才能を持っているから宝の持ち腐れはもったいないじゃない。だから、人の価値を測るのも趣味になっちゃってね」

「お? じゃあ俺らの価値もわかんのか?」

「あぁ……でも教えないよ?」

「なんでだよ」

「だって本当のこととか言っちゃったら、ショック受けちゃって、キズとかついちゃったらお互い嫌だろう? 鑑定士たるもの宝にキズはつけたくないからね! これは世界、いや、人としての常識なんだからね! ムッシュたちも紳士としてこれは心がけてほしいものだね!」

 

 そんな常識は知らないんだけど。

 でも、そう言われると、ちょっと知りたくなってしまうな……。

 

 

 

 

 次に、ぽてぽてと効果音がでそうな歩き方でこっちに近寄って来たのは、白と淡い緑のゴシックロリータな服装の女の子だった。

 一瞬だけ、そのふんわりとしたスカートが色合いでキャベツに見えてしまった。

 髪型は、外内両方に跳ねている茶色のツインテール。

 そして手には、ほとんどの幼少期の女の子が遊んだであろう、ごてごてした飾りのついたおもちゃのステッキがしっかりと握られている。

 あれは一昔前に放映していたという『プリティ★キャンディ』というアニメのおもちゃだろう。

 

 

「初めまして。七島さまに、萩野さまでございますね! 私の名前は、『角 芙蓉(スミ フヨウ)』でございます!」

 

 

 

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 そう言って角は『ペコリン』と擬音がピッタリなほど軽やかなお辞儀をした。

 

 

「角芙蓉……おっ、それってまさか。あの『超高校級の魔法少女』ってヤツか?」

 

 ま、魔法少女!?

 そんなキテレツな才能もあるのか?

 

「正確な名称でございますと、『魔法少女』、と書いて、『まじょっこ』と呼ばれているのでございます」

「魔法とか、魔女っ娘は、ともかくとしてよ。ウワサでは、アキバに突如現れた完璧な魔法少女系のアイドルでな。まあ、見るからにして立ち振る舞いがいわゆるフシギちゃんでよ。まさにアニメから抜け出した魔法のような雰囲気を持ち合わせていることから、熱狂的なファンが大勢ついて、『魔法少女』として崇拝されてるっていうのは聞いたことあるぜ」

 

 それなら、アキバ系アイドルでもいいような気がするが……。

 でも、たしかにアニメの世界の住人と言ってもおかしくないほど、ひときわ浮世離れしたものに感じられる。

 目もクリクリと大きくて、今にもこぼれてしまいそうだ。

 

「なにとぞ、よろしくおねがいしますでございます! 芙蓉、せいいっぱい、まごころこめて、仲良くさせていただきたいと思いますでございます!」

 

 彼女は丁寧にぺこぺことお辞儀をして微笑んでいた。

 不思議な喋り口調だ。そういうカオスな感じも、『超高校級の魔法少女』……だからか?

 

 

 

 ふと、なにかが俺の足にぶつかった。

 先ほどから、ずっと床をせっせと磨いているのは、髪も肌も色素が極端に薄い青年だった。

 青いエプロンを着て、雑巾を力任せに床に押しつけている。

 

「おいおい、謝罪もなしかよ? 掃除も大事だけどよ。今は自己紹介ぐらいしよーぜ」

 

 萩野がぶっきらぼうに言うと、彼は視線をあげて目を見開く。急いで立ちあがって、猫背気味に申し訳なさそうに目を伏せた。

 

 

「すみません。掃除に夢中で……自己紹介ですか? 改めて、初めまして。ええと、私の名前は『白河 海里(シラカワ カイリ)』と、申します」

 

 

 

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 雑巾を右手に持ち、深々と白河海里はお辞儀をした。

 

「白河海里なぁ……? なんだったかな……」

「たしか、『超高校級の清掃委員』じゃなかったか?」

「おっ!? 七島、それは知ってんのか!」

「覚えていただきありがとうございます。なにしろ地味な肩書きですから。ここにいる皆さんも、肩書きを言っても首を傾げるばかりでして……」

 

 『超高校級の清掃委員』……特技は掃除というと、バカにされやすいかもしれない。

 しかし、彼の才能は掃除の域を超えて、どんな汚い場所もあっという間に綺麗にできるそうだ。

 最近では、ゴミまみれの溝川を、蛍の住む川に生まれ変わらせたとして一躍有名になったという。

 それに、大人数を動かすと言う先導力も持ち合わせているらしく、若くしてリーダー性もあると有望な人材として一目置かれているらしい。

 

 喜んでくれるのはこちらも嬉しいが、書道道具の洗い方を教えてほしいと言う理由で覚えていたんだよな。

 なんて言ったら、さすがに失礼だろうか……。

 

「…………あ。ちょっと。そこのあなた」

「ンあ? 俺か?」

「いいえ、萩野さんではありません。七島さん……の、暗黒点及び黒い染み!」

 

 白河は唇をわなわなと震えさせ、俺のワイシャツの襟を指をさした。

 その場所には……。

 

「染みだぁ? どれどれ……いや、ねえだろ」

「あるじゃないですか! 3ミリの墨汁の跡が! ああ、なんて不潔極まりない染みと匂い。今すぐ牛乳石鹸で優しく綺麗に洗い流さなければ……なにをボサッとしているのですか、さっさと、そのYシャツを私に貸してくれませんか? いや、ください。よこせ。というか脱げ」

 

 白河は目を爛々とさせて、俺のYシャツにしがみつくように襟を掴みあげた。

 な、なんだ急に!?

 というか、目が完全にイッてないか……!?

 

「おっ、おいおい待て待て?! 後にしろって! 自己紹介ちゃんと済ましてねえだろ? さっさと、終わらせねーとって、そこの四月一日も言ってたし! 終わったら、脱がすなり煮るなりぶち込むなり好きなようにしていいから、な!」

 

 萩野、ナイスフォロー……でもないような。

 まだ目がハイエナのように狙っているが、渋々ながら白河は引き下がってくれた。

 やはり『超高校級の清掃委員』たるもの、どんな汚れも気になるってことか?

 

 ううむ、前言撤回。

 仲良くなるのは難しい。というかなるべく避けたほうがいいかもな……。

 

 

 

「うおーっす、こんちゃーす! あたしの名前は、『大豊 てら(オオトヨ -)』なのだー!」

 

 

 

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 次に話しかけてきたのは、オレンジのパーカーとホットパンツを身に着けた小柄な少女だ。

 こっちにやってきて、右手をあげながら明るく笑っている。

 二つのお団子髪が動物の耳のようで、その出で立ちはハムスターの擬人化のようにも思えた。

 

「大豊てらっていうと、『超高校級のランナー』だな。100メートルを7秒切って走り抜けるとかいう、マジもんの超異例。怪物級の足腰の持ち主らしいな。あだ名は『陸上界の口裂け女』だっけ?」

 

 たしか口裂け女って100メートルをありえないスピードで走るって言われてるんだっけ?

 だからと言って、物騒なあだ名だ。

 ……でも、たしかに体型からして身軽そうだ。

 

「ふんふん。それにしても、2人ともおっきいのだ!」

「あ? 身長のことか?」

 

 大豊はぴょんぴょんと跳びはねている。

 跳躍力もあるようだが、俺たちの身長は追い越せていないほどに小柄だ。

 

「むう、世界記録を持っているから、世間的にはビッグスターのはずなんだけど……でも、やっぱり、あたしがもっと欲しいビッグは身長なのだ! 5cmでいいから、わけてほしいのだ!」

「おいおい、俺は身長変わっちまったら、プレイスタイルまで変わっちまうだろうが! そういうのは七島に頼んどけよ」

「ほんと!? くれるの!?」

 

 キラキラと瞳を輝かせてこちらを見つめてきた。

 そ、そんな瞳で見られると困るぞ。というか無理だろ。

 

「おい、萩野。そういう無茶ぶりはやめろって」

「むむぅ……いいもん、いいもん。バカにするのも今のうちなのだ! いつか、2人まとめて追いこしてみせるからね! 日本の大仏さまも全員抜かしてみせるのだ!」

 

 彼女は超高校級のウルトラマンにでもなりたいのか?

 とにかく、テンションが高い子だってことは分かった。

 

 

 

「あははっ、これまた面白そうな人たちだね。初めまして、俺は『井伏 歩夢(イブセ アユム)』だよ。まあ、ほどほどによろしくね」

 

 

 

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 次にやってきた井伏と自己紹介した彼はサムズアップをして笑った。

 爽やかな少年であるが、服装も髪形もシンプルでこれと言って特徴がない。

 強いて言えばサンバイザーをつけていることぐらいだろうか。

 さすがの萩野も、隣で唸っている。

 

「うーん、なんだったかな。スポーツ系か?」

「あはは、テレビや新聞にもあんまり出ないからわかんないよね? じゃあ、こうすれば分かるかな……よっ、と」

 

 そう言うと井伏は足元に置いていた、あるものを背負った。

 それは紺色の大きなリュックサックだった。

 それを見るなり、萩野は、「そうか!」と指をパチンと鳴らす。

 

「わかった! おめー、『超高校級のアルピニスト』だな? 最近、世界最高峰の最年少記録を塗り替えたっていう」

「あははっ! よかった。そう、ご名答!」

 

 そう言って、井伏は屈託のない笑みを浮かべた。

 たしか『アルピニスト』は、高度なテクニックを持って過酷な山を登る登山家のことだったよな?

 それに、世界最高峰を登っただって?

 最初に小柄だとは思ったが、よく見れば無駄がない筋肉がついていることが薄いTシャツからも分かる。

 

「なら、最初からリュック担いでおけよ。疲れてたのか?」

「あー……いや、そうじゃないよ? こんな軽装で大きな荷物を持って、『アルピニスト』って宣言するとさ。なんだか、山をバカにしている気がして申し訳なくって。いつも山に登っているから、つい今日ぐらい軽装でいいかなって思っちゃった自分が情けないね。まあ、これでみんなに説明は終わったと思うから、今のところは常備しておくけどね」

 

 なるほど、山に対する気持ちは確かってことか。

 爽やかな外見に、真面目でしっかり者。人望もありそうだ。

 それにしても清純で曇りのない笑顔だ。うーん、不愛想だから見習いたい……。

 

 

 

 

 …………ん? な、なんだ?

 さっきから視線を感じる……!?

 

 振り向くと、眼鏡の女子生徒が無言で睨みつけていた。

 腰までかかるほど長い黒髪に、同じく長い丈の黒いセーラー服。

 夜にたたずんでいたら、きっと気づかずにぶつかってしまうことだろう。

 

「よっす、おめーの名前は?」

「は、はあ……? 『よっす』とか『おめー』とか、いきなり、なにさま……? 『ボクサー』のクセに生意気ね……」

「あ? い、いや、急に悪かったけどよ……そこまで言わなくてもいーだろ?」

「ま、まあ、仕方ないわよね。17歳4ヶ月で世界チャンピオンにのぼりつめた王様に、こんなダニの意見なんて、通じるはずないわよね……そっちは『書道家』でしょ? 最近では今年の2月19日、第11回東京書道展で最優秀賞を手に入れたという……」

「な……っ、うぇ?! 詳しいな!?」

「お、俺の情報まで……!?」

 

 最新の記録はまだしも、日にちや大会の名前までばっちりと言い当てるなんて。

 すごいというより、むしろ気味が悪いような……。

 

「言っておくけど超高校級のストーカーなんて言う肩書きじゃないわよ……言うなれば、私が知らない情報はないの……どうせ、アンタたちは知らないと思うから言うけど、一応『超高校級の司書』なんだから……」

 

 なるほど、彼女が『超高校級の司書』か。

 文系関係者として耳にしたことはあった。

 ありとあらゆる書物や情報を読み尽くた図書館の番人でありエキスパート。

 彼女の持ち合わせている情報量は膨大で、『生き字引』という名前がふさわしいほどだ。

 

「ふうん、『司書』なあ。文学についてはよくわかんねえなあ。まっ、それはともかくとしてよ、さっさと名前を……」

「そっ、それが人に頼む態度? ま、まあ当然の対応かしらね……どうせ私は司書よ……しかもフィクションと違ってブスで色気のない貧相な司書だから思いきり幻滅してることぐらい私にはわかるのよ……! そ、その目……わかってるわよ、どうせ私の存在が嘔吐物以下ってことぐらいは……!」

「い、いや、なにもそこまでは……」

 

 自信がないという点では俺と似ているかもしれないけど。

 そんな俺でも「かなり」とつけてしまいそうになるほど、後ろ向きな性格のようだ……。

 

 

「ふん……わ、私の名前は、『錦織 詩音(ニシゴリ シオン)』よ……」

 

 

 

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 そう言って、錦織はぷいとそっぽを向く。

 どうやら自己紹介は終わりみたいだ。

 

「はあ……アイツ、すげえネクラだったな」

「お、おい、ちょっと声落とせって……」

 

 萩野に注意するが、当の彼女はなにも反応を示さなかった。

 単純に聞こえなかったのか、もしくは……ま、まあ、そっとしておこう……。

 

 

 

「うーん……」

 

 さきほどから縦横と大柄の男子が、ステッキを手首にかけたまま、俺たちを見て唸っている。

 黒いジャケットを着ているが腹がどんと突き出していて、ボタンが今にも飛びそうだ。

 

「おーい、名前聞いて良いかー?」

「んー? 僕の名前? 『十和田 弥吉(トワダ ヤキチ)』だけど?」

 

 

 

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「えーと、十和田弥吉か。『超高校級の手品師』だな。国内だけじゃなくて、海外でも活躍する大々的なエンターテイナーとして有名らしい。トランプや人体切断、電気や水なんかも、魔法のように自由自在に操れるんだとさ。海外からは、古風な名前もあって、シノビのマジシャンなんて言われているみたいだぜ……っていうか、どうした? 調子でも悪いんか?」

「いや、そうじゃないんだけどさあ……」

 

 歯切れ悪く言った後で、十和田は「ふん」と軽いため息をついた。

 

「とりあえず、こっちはチンピライオンでいいとしてだ。君に関しては、なにが似合うかなあ」

「……ん!? なんの話だよ?!」

「なんのって、あだ名だけど?」

 

 あだ名ってことは、さっきのチンピライオンって……。

 俺はついつい、萩野を一瞥してしまった。

 

「お、おい……ちょっと待てや! あだ名はいいけどチンピラってなんだよ!? 似合わねえあだ名つけてんじゃねーぞ!」

「うわあ、予想通りのチンピラ。でも似合わないあだ名なあ……じゃあ君の名前、萩野健だっけ? その名前、100%、君にとって似合っているって言える?」

 

 それは……と、萩野は声を詰まらせていた。

 十和田はそんなことおかまいなしに、ステッキを磨きながら、不気味な笑みを浮かべている。

 

「正直、人間のほとんどの名前なんて全然一致しない。萩野とか、七島、なんて、ほんっとに似合わないんだよなあ。特に、七島くんに関しては。致命的すぎてどうしようもないんだよねえ。もっと、わかりやすいあだ名をつけてあげるよ。でも、あまりにも地味で存在が薄くて童貞まるだしっていういかにもすぎて難しいなあ。そうだねえ……じゃあ『ミドリムシくん』、なんてどうかなあ?」

 

 そう言って、十和田は杖から、緑のハンカチを鮮やかに取り出した。

 しかし、いきなり、ひどい言われようだ。

 しかもミドリムシって……名前にも見た目にもカスっていないし、センスもなければ悪意しか感じられないぞ!?

 手品師というのは、手先だけでなく、口先も器用になるのだろうか……?

 

 

 

「んー、名前と顔はともかくとしてさ。2人のスタイルはマズマズじゃね?」

 

 ひょっこりと十和田の後ろから現れたのは、線の細い派手な少女だった。

 水色のブラウスでヘソ出し、同じく水色に赤い模様の派手なスカートという大胆な服装だ。

 体を褒められたのはいいが、名前だけでなく、顔もさりげなく否定されていたのは気のせいか?

 

 

「あ、ジコショーカイだよね? うちの名前は『真田 斑(サナダ マダラ)』だよー」

 

 

 

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 ブーツもお洒落で光沢がぴかぴかとしていて眩しく、ヒールも高いうえに今にも折れそうなほど細い。

 化粧も派手で、一見するとビジュアル系みたいだ。

 

「派手だなあ。これが現代っ子ってやつか? 真田斑は、『超高校級のデザイナー』って聞いたな。奇抜なファッションデザインや、コーデを作り出して、オシャレ界の最先端を常に走る。特に若い女子の心を掴んできたっていう、女子高生デザイナーだってさ。カリスマ性もあるけど、デモとか過激なモンもやっているって聞いたことはあるぜ。ブログでも良くも悪くも話題になって……あっ、いや、ワリぃ、初対面だってのにこんなこと」

「ちょっと、なにクチごもってんの? うちは中傷、炎上、どんとこいだって! そんなことぐらいで筆もブラシもマスカラもおかないっての!」

 

 そう言って真田は指をずいと指しながら強く言い切った。

 語気といい長く鋭いツメといい、だいぶタフな女子生徒のようだ……。

 

「そ、そーかよ。たしか最近では“Patches”っていう自作のブランドも手掛けてるって聞いたな。それってマジか?」

「そっ、マジマジ。マジを通り越しちゃって、ぶっちゃけマジラー! あっ、マジョリカマージってカンジかな?」

 

 ……ん?

 萩野と俺は首を傾げた。

 マジラー? マジョリカマージ? 呪文でも詠唱したのか?

 

「マジョマ……あんだって?」

「は? マジの比較系と最上級だっつーの! 英語で習わなかったの? まっ、うちの作った言葉だから細かいことはスルっちゃってよ。とりまヨロッコね!」

 

 スルッちゃう? ヨ、ヨロッコ?

 俺は萩野と目を丸くしてしまった。

 やはり、世間一般の若者の心を掴むには、このような言葉が求められるのだろうか?

 というか最上級は『〇〇レスト』じゃなかったか……?

 

 

 

 

「ふふふ、ふっははははははは!」

 

 突然、白衣に眼鏡にボサボサ頭と、三大怪奇な男が高笑いをしてやって来た。

 街中で会ったら、すぐさま通報されそうな格好だ。

 

「な、なにいきなり笑ってんだよ。ってか、おめー誰だ?」

「ふむ、吾輩の名前を知りたいのかね? 世の中には奇人変人が多くはないが、少なくもないのだな? よかろう、その勇気に応じてお答えしようではないか。吾輩の名前は、ずばり『円居 京太郎(マドイ キョウタロウ)』だ!」

 

 

 

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 白衣をばさっと払い腰に手を当てて、円居と名乗った青年は偉そうにふんぞり返る。

 

「さては、『超高校級の科学部』だな……ま、そのカッコーからしてそうだろうな。薬学が得意分野で、生物兵器を軽々と作り上げるだけでなく、新しい科学物質を見つけたりなんかして、その手の世界ではとんでもなく有名みたいだな。学会ではたしか、ええと。なんだったっけか?」

「うむ、『超高校級のマッドサイエンティスト』と呼ばれているようだね」

「うおっ!? おめー、知ってたのかよ……せっかく、人が言わないようにしていたのに」

 

 驚く萩野に対して円居は「ふむ」と一息つく。

 眼鏡がきらりと光っていて、目もとの表情が分かりにくいのが怪しさをさらに際立たせる。

 

「記憶違いかもしれないがな。まあ、十中八九外れてはない……と言うか当たっているがな! むしろ、ラッキー・ドストライクだ! だが、残念だったな。吾輩はガリガリくんの当たり棒すらあげることもできないのだよ。今度べっこう飴を作ってやっても構わんぞ!」

 

 そう言って、円居はびしっとひとさし指をさして三日月型の口で笑みを浮かべた。

 ……変な奴だが、悪い奴ではない、と信じたいな。

 でも、やっぱりむやみにはあまり近付きたくないタイプなのも確かだ。

 

 

 

 

「ええと、次は……おう、名前聞いていいか?」

 

 次に萩野が聞いたのはポニーテールの女子生徒だった。

 紅色の燕尾服をきっちりと着こなしてキャリアウーマンのような佇まいだ。

 

「私の名前は『紅 紅葉(クレナイ モミジ)』よ」

 

 

 

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 簡潔ではあるが、きっぱりと言いきった。

 そっとピアノの鍵盤を押したように、静かで心地いい声だった。

 

「紅紅葉、か。『超高校級の指揮者』だな。幼いころからの、天才的な音感と努力による猛勉強。さらに数々の留学によって、数少ない女性、あるいは最年少の『指揮者』として世界を活躍しているんだとさ。そんでもって、指揮だけでなく、ありとあらゆる楽器にも詳しくて楽器演奏においても多くのコンクールで入賞したそうだぜ。だから『超高校級の音楽家』と言っても過言でもないみたいだな」

 

 なるほど、寄せつけがたい気品はその才能ということか。

 功績は俺よりも桁違いに華々しいものだろうと想像が簡単にできる。

 

「よろしくね。説明は彼の言った通りよ。私からは特に話すことはないわ。この状況下だもの。長々と話している時ではないでしょう。お互いに協力し合うことが今は大事だから。さあ、次の人に移ってちょうだい」

 

 喋り口調は四月一日と似て、力強くもあるが、彼女とはまた違う安定したものだった。

 いかにも調和をもたらす、この悠々たるたたずまいは、『指揮者』の賜物だ。

 下手すれば、男より男前かもしれない……。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 彼女の言葉に甘えて、俺たちは黒ずくめの大柄な男に目を向ける。

 それにしても、さっきからのこの男の殺気はなんなんだ!?

 大柄だからか、それとも髪の毛から服までが黒いからというのもあるのか。

 砂漠にいるサソリのような威圧感を感じられて、萩野も少し臆しているようだ。

 

「お、おーっす……その、名前は?」

『黒生寺 五郎(コクショウジ ゴロウ)』だ……」

 

 

 

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「ええと、黒生寺五郎……たしか『超高校級のガンマン』か?」

 

 黒生寺は目を瞑りながら、ゆっくりと頷いた。

 ガンマンか……言われてみれば西部劇に出てきそうな服装に思えてきた。

 

「経歴は俺もよく知らないから、あくまでウワサなんだけどよ……なんでも銃撃戦では無敗。百発百中はもちろんのこと。空き缶に6発弾丸をすべて正確に撃ち込んで粉砕したなんて言われてるぜ。しかも銃だけじゃなくて、多くの武器や火薬も、楽々と使いこなせるんだって? ひゅう、マジで漫画みたいなキャラだなあ」

 

 萩野は口笛を鳴らしたが、お前も十分漫画っぽいキャラだぞ……。

 『ガンマン』と言うと、できれば敵に回したくない部類だ。

 それでも、『ガンマン』と聞くと、正義だけでなく悪役でもカッコいい印象がある。

 このどっしりとした出で立ちは、さすが百戦錬磨の……。

 

 

「…………ぐう」

 

 

 ……え? 鼻ちょうちん?

 

「お、おい!? おめー、まだ自己紹介途中だぞ!」

 

 萩野が肩を揺すると、寝ぼけ眼で睨みつけている。

 黒生寺の目つきが悪代官のように、余計に酷くなっている。

 

「ふごふご……うるせえ……起こすんじゃねえ……ブチ抜くぞ……まあ、今はBB弾銃しかねえから安心しとけ……」

「いやいや、BB弾もあぶねえだろ!」

 

 ……どうやらマイペースな性格のようだ。

 しかし素が威厳がある分、こういう鼻ちょうちんをしていると幻滅してしまうな……。

 

 

 

「はあい! 『藤沢 峰子(フジサワ ミネコ)』でーす! よろしくね!」

 

 

 

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 次にピースサインをして笑いかけてきたのは赤いリボンで二つ結びをした少女だった。

 ……いや、少女とは少し言い難い。

 なぜなら、彼女の服は胸元が空いている紫色のシンプルかつ品があるワンピースだ。そして、その体つきは。

 

「うおっ、すげえグラマラスだな」

「お、おい、声が大きいって」

「あら、別に気にしてないわよ。もしかして竜ちゃんってばウブなの? 今ので好感度2あがったかも。そういうからには……浮気なんて絶対ダメよ? ダーリン?」

 

 藤沢は蠱惑的な瞳で、くすり、と微笑んでくれた。

 って、え……えぇっ!?

 う、浮気、しかも、ダーリン!?

 そんな急に旦那認定されてしまうのはさすがに!

 

 

「……なんてね! 冗談よ?」

 

 

 あ、ああ、ビックリした…………。

 

「早速、気にいられてよかったな? 藤沢峰子は、『超高級の演劇部』だ。学校の演劇部から、大規模劇団“キャンディパッケージ”にスカウトされて看板女優に上り詰めた若手女優だ。あんまり舞台のことは知らねえけど、七色の仮面と千の表現を使いこなす実力派らしいな。それに分かる通り、超高校級のプロポーションを持ってることでも有名だぜ?」

「健ちゃん、嬉しいけど、ちょっと買いかぶりすぎよ。アタシは普通に演技しているだけなんだから。それでは、これからも末永くよろしくお願いします。健ちゃん、竜ちゃん。いいえ、竜ちゃんは、未来の旦那様……ね」

「え、えっ?」

「あら、本気? うふふ、これも冗談よん」

「……っ! う、うう」

 

 ……さ、さすが、『超高校級の演劇部』だ。振り回されないように気をつけないと。

 

 

 

 

「……って、おい! 七島、危ない!」

 

 えっ?

 突如、萩野の注意と共に、頭にごつんという衝撃が走った。

 そして、気がつけば床に手と尻をついていた。

 

「ごめんなさい、大丈夫?」

 

 目の前に立っていたのはミディアムヘアの女の子。片方の前髪には、一つ星の髪留めが光っているので少しだけ額が見える。その額には、ここにぶつかったからか、赤い痕がついていた。

 真っ白なブラウスに桃色チェックのスカートの女子生徒がこちらを見つめる。

 ……って、それだけじゃない。

 

「お、おい!? おめー、鼻血出てっぞ!?」

「あ。ああ、うん。慣れてるから気にしないで」

 

 小さな鼻からとめどなく流れる血に対して、彼女は冷静だった。

 スカートのポケットからティッシュを取り出してさっさと拭った。治癒力が早いのか、すぐに血はおさまったようだ。

 

「それで、どうしたの?」

「えっ? あ、そうだ……おめー、名前は?」

 

 

「……私の名前は、『天馬 陽菜(テンマ ヒナ)』

 

 

 天馬陽菜。

 

 その名前を聞くや否や、俺と萩野は顔を見合わせた。

 

 

 

 

『超高校級の不運』。みんなは私をそう呼んでいるみたい」

 

 

 

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 唾を飲んだのは萩野も一緒だったようだ。

 自己紹介を終わらせた一部のメンバーも彼女を興味深そうに見つめている。

 まさか、本当にいるとは。

 

 『超高校級の不運』、天馬陽菜。

 学園にスカウトされたことが最大級の幸運ではあるが、それ以外は不運そのもの。

 100円を見つけたら、次の日は借金を背負っている。

 流れ星に3回願い事を言えたら、その流れ星は隕石で自分の家に直撃する。まさに歩く『不運』なのだ。

 『不運』である故に、両親も早いうちに亡くしてしまったという。

 だから彼女を恐れて、誰も近寄らない。天涯孤独の『不運』とも噂されていた……はずだけど。

 

「ごめんなさい。七島くんはケガしてない?」

「あ、ああ。大丈夫だ……」

「……どうしたの?」

「い、いや、なんでもない……」

 

 失礼だが、もっと幸が薄そうな、継ぎはぎだらけの貧乏神みたいな雰囲気を予想していた。

 しかし意外と普通なことに……いや、思った以上にクールな様子に、萩野も驚いているようだ。

 それは、やはり生まれたときから不運に見舞われている故だからだろうか……?

 自分の運命を悟っているというか、達観している……そんな様子に思えた。

 

 

 

「それより、これで自己紹介は終わりでいいのかな?」

 

 

 

 天馬はそう言って、一息ついた。

 四月一日も「ああ」と肯定してみんなを見回す。

 

 見かけだけではない。中身も十人十色だ。

 今の状況にも困惑しているが、こんな生徒たちがいた、ということにも俺は驚きを隠せなかった。

 そして、こんな生徒たちが一堂に会するこの状況。しかも卒業式前日に。

 いったい、なにが起こっているんだ……?

 

 

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