『先生はがっかりです。正答率低くない? 多数決の原理で正解だけどね。三連続正解です! 今回、“超高校級の手品師”の“十和田弥吉”くんを殺した犯人は、“超高校級のデザイナー”の“真田斑”さんでしたー!!』
マナクマは真田の顔が描かれた絵札を見せびらかす。
真田は唇を噛んで棒立ちで佇んでいる。
しかし、歯に力強さはなく、悔しさが滲み出ていないようだった。
「真田さま……? あの、こ、これは、どういうことでございますか……!?」
『ウ、ウソでちゅよね? あちきは夢を見てるんでちゅよね!?』
角とマナミは震えた疑念を真田に投げかける。
自分自身の動揺を解すために。真田の答えを知るための問いかけだった。
「あっちゃー。やっぱバレちゃうよねー」
しかし、返って来たのは緊迫した空間に似合わない。
薄っぺらく、間延びしたものだった。
「いやさ、マジで行き当たりばったりってウマくいかないもんだねー。うちも、まだまだだったわー」
「ふ、ふざけてんじゃねーぞ、おめーっ!!」
「え? アンタなにキレてんの?」
当たり障りのない、針でちくりと指をさした時と同じ日常的な喋り方だった。
それに対して、すぐさま怒りをのせた萩野の重低音が飛ぶ。
掴みかからんとする形相で睨んだものだから、さすがの真田も口の形を歪ませた。
「ったりめーだろ!! その態度は、さすがにねーんじゃねえのか!?」
「な、なにそれ……じゃあ、どんなタイドすれば言いワケ!? いまさら、ごめんなさいって謝ってなにになるんだっつーの!?」
「ぎゃっ、逆ギレしてんじゃねーぞ!? おめーだって辺見に踊らされてたにしろ、多少の罪悪感ってのはねーのかよ!!」
「ザイアクゥ? ワケわかんなさすぎだっての! カミくだいて、ゼラチンにしてから説明しろっつーの!!」
萩野の荒々しい言い方は、彼女のことを慮ってのことだ。
だけど、彼女はその善意すらも次々と突き返す。
「今でも変わるもんか! これから死ぬとしても、うちは殺してやりたかったんだっ!!」
強烈で明確な敵意であり殺意。
「うちは、アンタを……辺見ルカリスをブッ殺してやりたかった!!!!」
負の感情だというのに、何故、俺は否定の言葉が出てこないのだろう。
細い肩を揺らしながら、真田は息をぜえぜえと切らす。
「ふん……じゃあ、なぜタヌキを殺した……」
「…………知らないよ……わかるわけないじゃん……? ってか、うちが聞きたいんだよっ! なんで十和田が死んじゃってるワケ!?」
張り裂けそうな声の疑問は、俺たちの糾弾を止めるのには十分だった。
一瞬の静寂に、マナクマは「ん?」と体を傾げる。
『おやおや。記憶喪失? じゃあ、十和田くんが銃殺された場面をVTRでも』
「そんなのやめましょうよ! これから処刑があるっていうのに、二連続でそんな縁起でもないもの見たくありませんからね!」
「あ、あなたが……っあなたが言えたことじゃないっ! もう黙っててちょうだいっ!」
ヤツのお道化た振舞いに紅が激怒する。
しかし彼女の罵声にも、複数の眼光にも臆せず、辺見はあどけない無知な少年のように笑う。
「いったい、なにを怒っているんですか……あっ、そうだ。マナクマさん、生きている十和田さんを見せてあげたらいかがですか? 彼女のはなむけに」
『オマエ、一生徒のクセにボクに命令すんなよ。ま、今回の辺見くんは、絶望的に最悪。絶望的にサディスティック。絶望的に寒いキャラの『3S賞』を受賞したからね。大目に見てやるよ」
「言っておきますけど、あなたと違って私はそのような汚らわしい絶望なんて求めていませんからね!?」
辺見を無視してマナクマが、「ぽちっとなー」とリモコンを押した。
「このような事件が起こった理由。それは、あの映像で話させてあげるのが一番ですから」
裁判でおなじみとなった大きなモニターに映像が浮かびあがる。
そこに映し出されていたのは、俺も捜査をした3階の娯楽室。
部屋に佇んでいるのは真田。そして入ってきたのは……今は亡き彼だった。
先に娯楽室にいた真田に、十和田は多少目を見開く。
十和田の右肩にはギンバトの小竹がおとなしくのっかっている。
「どーも、来てくれたんだねー」
無言の十和田は、右脇に抱えていたスケッチブックを乱暴に手渡した。
真田はばり、とスケッチブックの一ページを破った……そこに書かれている文字は『娯楽室に来て』だろうか?
同じく乱暴に破ったページ一枚を、真田は手でぐしゃりと潰した。
「ここに来たってことは、分かってたんだね?」
「オツム弱すぎじゃないのかなあ? 分かっていなかったら来るわけないよねえ?」
「誰もがみんな辺見の犯した罪によって苛まれる可能性……ね。イミわかんないけど、国語風に言うなら、言い得てミョウってヤツ?」
十和田は彼女の言葉に対して、不機嫌な表情のままだった。
「ねえ、アンタはうちをどうして信じたワケ?」
「信じたねえ……っていうか、先客のくせになにを言っているのかねえ? 見たんだろ、片っ端から図書室の雑誌を。しかも、ずっと前からやたらと読みこまれていた跡があった。爪の跡からして君だろ?」
真田はネイルをいじりながら「まあね」と呟いた。
十和田が咎めるように黒いステッキを向けた。
「で? なんの用だよ?」
「最初に言っておくけどさ。うちは、今まで、アンタをケイベツしてた。サイテーのドロボーで犯罪者。今でも、多少はそのオモイがあるってことは忘れないでよ?」
「うっわ。呼び出し説教とか先公か? 知ってるし言われなくてもだよ。あと、僕も君のこと軽蔑してるよ? うざいから」
「言ってくれるねアンタ!? ……まっ、うちも、これからサイテーになるから、どっこいどっこいか」
真田は首を振りながら、歯を見せて意地悪く笑いかけた。
「うちが憎んでいたアンタよりもサイテーの人間になる」
暗いトーンの真田を、十和田はいつもの仏頂面で眺めていた。
嫌いなヤツと一緒にいることの嫌悪か。それとも不穏な言葉に対する苛立ちか。
「うちは白河を……いや、辺見ルカリスを殺す。今からゼッタイに」
「へえ? すごいねえ、犯罪者宣言とは。頭イカれたマゾヒストかなにか? 全員が出られるチャンスだっていうのに」
「さっきマナクマに聞いたんだけどさ。死体発見アナウンスが鳴った時点で殺人確定ってことになるって言ったんだよね。キョクタンな話、9時59分に殺して10時でカイサン! ってできたらオッケーじゃん?」
カイサンねえ……と、十和田は面倒くさそうに頭を掻いていた。
一方の真田は監視カメラから背を向けてダーツ盤を睨む。
十和田は、微かに覗き込むように首を傾げたが、彼女の表情は見えただろうか?
「そもそもさあ。3人以上にバレたらアナウンスが鳴るんだろ? 数が少なくなったにしろ、どう殺すんだよ?」
「密室殺人だよ。辺見を殺したままの状態で、部屋に閉じ込めてやんの!」
「君にそういう知恵があるかが、まず疑問なんだけど……それ、失敗したら、ものすごく反感買うよねえ? 最悪、この話を聞いた僕まで疑われるんだけど?」
「アンタの心配はしてないし! アンタは元々ヒョーバン悪いでしょーが! そもそも、アンタは別になんもしなくてもいーの。うち一人が辺見をシトメテやるから」
「一人で? 呼んでおいてそれかよ。っていうか、できるのかなあ?」
「やると言ったら、やるの! デザイナーとしての本領発揮ってヤツだ! “あの子”のためにも戦わなきゃならないんだ……だから、ゼッタイに。アイツだけは、うちが殺す」
「あの子?」と十和田が言葉を反復したのを聞いて、真田は少しだけ目をきつく閉じる。
しかし、意を決したのか、顎を引いて険しい顔立ちで口を開いた。
「……うちの友達っていうか、ちょっと年上の優しいお姉さんなんだけど親友。タメで話せるぐらいのね。リコンしたカーさんに似ててさ。ホントーだったら超高校級の彫刻家になるはずだった子」
……はずだった子という過去形。
「うちより、ずっと前にスカウトされたけど、ある日、空き巣に入られて全部の彫刻を壊されたんだ。それでもあの子は戦おうって決めて神社にお参りしてた。『どうか犯人が捕まりますように』って。……でもさ、神様はサボったのかな? そのお参り中に誰かに襲われて、逃げた先の階段からつまずいて……手足が使い物にならなくなった」
息を飲む音は十和田のものだった。
自らの手を見つめ、それをぎゅと握りしめて拳を作り上げる。
手足が使い物にならない……それは才能を持つものなら、一度はどこかでなにかしらの拍子で考えてしまう悪夢だ。
現に俺も、もしこの腕が潰されたら……咄嗟にブルリと身を震わせてしまった。
それほどまでに、体の損失は絶望であるとみんな知っていたのだろう。
映像に聞き入っている裁判場も、空気が冷めたくなっていたようだ。
「文字通りに転がり落ちたって……そう言ってた。スカウトも取りやめられた。しかも神社で誰かに襲われたっていうウワサがひどい方向にねじ曲がった。そしてなによりも……新しい彫刻を作り出せなくなった。壊されたものをなにも取り戻せなかった……だから、あの子は……雨の日に」
……雨音が聞こえたのは、果たして気のせいだろうか。
真田の回想が、俺の脳と共有したかのように。
軒先に吊るされた大きなテルテル坊主が頭に浮かび上がった。
「その発端が……辺見ってわけなのかなあ?」
「あいつは、もともと絵のモデルで依頼されて関わりがあったみたい。でもヤツにとって不都合なことがあったんだろうね。きっと……“死神”の罪が世間にバレるのを恐れたんだ。だから、あの子を自分自身を殺すように仕向けたはず。そして、そのまま透明人間になって逃げやがった…………だから、殺してやんなきゃダメなんだ。アイツは四月一日ちゃんや円居以上に許されない。『マックロ』だよ」
十和田は大きく溜息を吐いた。
諦めとも、屈服とも思える深い息だった。
「……で? 僕にどうしろと?」
「だから、あんたはなにもしなくていい。……そうだね、10時まで技術室だけには近づかないでとだけ言っておこーかな」
「なに、それだけ?」
「そ。でも連絡はしとくからさ。決行かどーかのは、お知らせは7時ぐらいに……そーだ、ここの娯楽室のマナクマボトルに入れておく! "紫のちゃこペン"で書いとくから、それで判断してよねー?」
「とにかく紫で書かれてりゃいいんだな? まあ、わかったけどさあ…………いや、わかんないなあ。どうして僕に……いや、僕にだけ、そんなこと言うわけ? なにがしたいの君は」
ステッキをくるくると回す十和田はまだ不服そうだ。
たしかに犯行予告だけ言って、それだけというのもおかしな話だ。
それでも、真田は冗談の素振りを一度も見せない。
「うちはアンタの"同朋者"だから。辺見の罪を知ってるであろうアンタに、あの子とうちのことを知ってもらいたかった……そんだけの話」
「へえ、"同朋者"とは違うんじゃないの? たしかに、僕も辺見のことをゴミクズ以下で生きる価値ないと思っているけど、僕は殺さない。君とは違うはずだけどなあ? ……なにがそこまでして、君をそうさせるのかなあ?」
「あの子は、犯人を探し出してほしいって遺書に書いてたんだ。それにカーさんに言われてたからさ! 真っ直ぐに生きろって。自分のために生きるのもダイジだけど、自分の生きるために必要な人がいるなら、なにがなんでもその人のために尽くすこと。それが自分の糧にもなる、ってね! ……アンタはうちの希望になってもらいたい。うちが散った時の、明かりになってほしい」
十和田が参ったように項垂れる。
いやいや、と真田が慌てたように首と手を大きく振った。
「そんな思いつめないでってば! 別にうちらのことガンガン活動しろってワケじゃないから! だから、アンタはふっつーにしてれば」
「ちげえよ。そうじゃなくてさあ」
なにかを言おうとしたが十和田は言葉を濁した。
真田は、なにさ、と不満そうに口を尖らせた。
「あ、そーだ、工具セットある?」
「なに、工具セット? これのこと?」
「え? 持ち歩いてんの?」
「小竹のカゴを直すため。まあ、終わったし。勝手に使えば?」
十和田は工具セットをビリヤード台に荒野劇のビール運びのように滑らせた。
真田は慌てて、それをキャッチする。
「サンキュ! そんじゃま、うちはちょっくら準備してくっから。ま、やると決めたからやめるなんてことはないけど。イチオー、見ておいてよ?」
「へいへい。くたばんなよ」
「アンタこそねっ! 絶対生きて外に帰るんだから! みんなイッショにさ! あ、もちろん辺見以外」
「…………みんな、なあ」
「みんな」という言葉を何度か繰り返して、十和田は深い溜息を吐いた。
「あのさあ、いまさら僕が生き残ってなにになるっていうんだよ」
それは十和田にしては珍しい自暴自棄な諦めだった。
図太く生き残るようなバイタリティがあった彼の初めての弱音に思えた。
真田も彼の貴重な姿に対して、いち早く驚嘆を漏らした。
「へっ? でも、あんたには……そのハトが」
「小竹はいるよ。だけどこの子は、僕より先に死んじゃうだろうねえ。不運女に言われたけど……ああ、わかっているけど認めたくないなあ!? そしたら僕はまた一人だ。弟を二回も失った、ただの嫌われモノが残るだけだ」
「弟? 弟って」
「昔の小竹は、5才の男の子だったというべきかなあ?」
5歳の男の子だった?
もしかして、『小竹』という名前の意味。
彼が、この鳩を『弟』と愛でていた理由は。
「5歳の小竹は言うなればさあ……そうだな。ここのヤツらで言うならミドリムシくんみたいなヤツかな。アイツも根っからの弟気質だよねえ? 甘っちょろくてねえ。甘えん坊かと思えば、ふいと『自分でやる』って意固地になっちゃうおかしな子だったよ……だけど、僕にとっては大切で大好きな、ほんとに可愛い弟だったんだ。……あの火事が起こるまでは」
第二の事件の裁判で聞いた、十和田の悲鳴がリフレインする。
耳を劈く恐怖から逃げ出すための叫び声が想起させられる。
「辺見が放火魔に唆して火をつけたみたいだねえ。僕の家に……家族みんなパニックだよ。元々しょうもない人たちだったけど、両親は僕らを置いて逃げだした。僕も命からがら無我夢中で外に……だけど小竹は……そうだっ……!! あの子は助けを呼ぶために……っ、煙を吸って……っ!! 僕はそれでも振り返らずに逃げた! 『たすけて』って聞こえていたんだっ! めいっぱい手を伸ばしていたのに!! それをわかっていたのに逃げた!! 手を取ってやらなかった!! 自分の命可愛さに、あ、あの子を見殺しに……こっ、こんな、くだらない命欲しさにっ……!!」
気がつけば、彼はパニックに近い症状で過呼吸を起こす。
慌てて真田が手のひらで必死に背中を擦った。
「落ち着いて、落ち着け」と真田は言い聞かせるようになだめて、十和田の痙攣はようやく収まったが……。
顔を大きな手のひらで隠して、まだ、苦しそうに呼吸をしている。
「どういう理由で火をつけたか知らないけど辺見は許せない。絶対許せない。僕が殺したいぐらいだ……だけど一番、許せないのは他でもない僕自身だ。どうして僕は助けられなかったんだ? 火は熱くて苦しくて恐ろしくて……だけど、小竹の恐怖に比べたらなんでもないはずだ。今でも、にーに助けてって……夢の中で叫んでいる。ずっとだ。それで何度眠れなかった……いや、まあ、そんなのどうでもいい話なんだけどさあ」
「うちだって……あの子の自殺を止めたかった。あの雨の日の前に……」
「それでも!」と苦しそうな息遣いの十和田の手を取る。
「でも、自分を責めちゃなんもなんない! 責めてもなにが変わるっていうのさ!? そもそも、そうなったのは、うちらのせいじゃない。全部なにもかも辺見のせいだ! だから、アンタも自分を責めちゃダメだよ。ってか、自分のせいにするなんて、アンタらしくない! 全部全部、辺見のせいっ! だから、辺見を殺さなきゃいけないんだ……っ!」
十和田は猫背気味のまま、しばらく黙っていた。
真田の言葉を聞いても安堵は見せない。
むしろ、物珍しそうな、奇妙な生き物をを見るような目つきだった。
「……っはぁ……まあ、どっちにしろさあ。僕は外の世界に出たいとは思ってない。でも、君は違うんだろ」
「当たり前っしょ! あの子のお参りはもちろん、なによりカーさんに会いに行くんだから!」
「じゃあ、なおさらだろ。君の母さんが生きているなら、それこそ、ゾンビになってもいいから生き残るべきだろ?」
「アンタもだよ! 外には出なきゃダメだって!」
「だとしてもだよ。僕にとっての向こうの世界に希望なんてない、小竹以外は……だから、小竹がいなくなるまでの余生はテキトウにほっつき歩くぐらいだろうねえ。この才能も嫌いだし、とっとと弟子に任せて隠居コースだよ」
皮肉げに、自嘲するかのように十和田は嗤った。
生きていた頃にはそうそう見せたことがない嘆きに満ちた顔立ちだった。
それを見て真田もおかしいと思ったのか、「ちょっと!」と水を差した。
「あ、あのさ。人生ゴジュ―ネンじゃあるまいし、ネガマックスかっての……ってか、幸せは歩いてこないとは言うけど、意外とそーいうのはゴロゴロ転がっているもんだよ。モリモリの食事とか、キラキラの景色だったりさ! あとは……休日の二度寝とか? ゾウやキリンとも友達になるってのもいいでしょ? だから、もっとポガに元気にしなって!」
十和田を指さしながら、真田は至極明るい口調で励ます。
快活で明快な言葉の羅列で、今度はあからさまに十和田の眉を大きくひそめさせた。
それは陳腐すぎるという理由ではないようだった。
「…………本当に、いいのか?」
「え? なにが?」
「まあ。相変わらずのアホ丸出しではあったけどさ。君の言いたいことは、なんとなくわかった。芸術世界の感性はともかく、現実世界の君はくだらないぐらいに、ふっつーの凡人。どこにでもありふれた真っ直ぐすぎるものだってことは僕でも理解はできたよ……だから、そんな曲がったことをしなかったヤツが」
真っ直ぐに引かれた地平線のような真田の視線を十和田は辿っていた。
「そんなバカ正直な君が、法に触れる罪を犯すなんて、できるのかなあ」
それは皮肉ではなかった
十和田の言葉は、彼女の描かれた眉毛を跳ねさせるものだった。
「どういうことだって言いたいみたいだねえ。そのまんまの意味。今まで正しいことをしてきたヤツが罪を犯す。しかも、最も罪深い殺人。普通のヤツなら最悪の罪悪感に見舞われるはずのことに、達成感に満ち溢れてシャバの空気を吸う……なんて君に、できるのかなあ? って意味だよ」
「ちょ、ちょ、っと。それは……うちをバカに……」
「ああ、はいはい、悪かったねえ。だから君のこと嫌いだったんだよ」
「嫌い」という言葉が十和田から発せられた。
だけど、それはいつもの「嫌いと」は異なるニュアンスだった。
言葉の意味を汲み取って、目玉をブルブルと揺らしている真田に十和田は伏し目がちに見遣る。
「"正しいと思いこんでいることを、正しくやろうとするところ"……『そんなことムダだ』って、『どうせ痛い目に遭う』って、いつも見ていられなくてムシャクシャしてた。だから、そんな君に、殺人なんてできるのかなあ? 殺人をすると決めたなら、もっと、君は不敵に不埒に、それこそ誰のことなんか信じずに生きるべきだったんじゃないのかなあ?」
それは完全に――。
普段の十和田が嫌っていただろう、余計なお世話で。
「君は殺人をするべき人間じゃないと思うんだけどなあ」
それは、彼の気遣いだった。
自分の言葉に嫌気がさしたのか、十和田はすぐさま無の表情から不貞腐れたモードに戻った。
「ったく、僕らしくねえ……まあ、最終的には勝手にしろっていう話なんだけどさあ」
「………そっか……う、うち、これから……人殺しちゃうのか……?」
「いまさら」という言葉は飛ばなかった。
真田は煌びやかなネイルがつけられた手のひらをじっと眺めた。
「銃の仕掛けなんて言っても作るのはうちだ……四月一日ちゃんや、円居のこと、散々怒ったうちが……この手が……殺しちゃうんだね……?」
彼女は……ようやく気づいてしまった。
いいや、気づけたんだ。
殺人を犯すという罪の重さを。自らの暴走を。
「……あのさあ、もう人殺したようなツラしないでくれる? 余裕で引っ込めるタイミングだろ。だから」
「引き止めてくれるの? 辺見を殺すなって?」
十和田は目を見開いて、彼女の肩に伸ばしかけた大きな手を止めた。
ああ、そうか。
同朋。向けるべき思いは、二人とも一緒だったんだ。
真田は仲間がいたからこそ。
"誰かのために殺さなければいけない決意"ができてしまったからこそ。
最後の禁じられたハードルを越えられてしまった。
「アンタも、そう思うよね? ……やっぱりアイツを人とは思えないや」
「人とは思えないのは同感。だけどそんなことせずとも、なんとかできる方法はあるはずだろ」
「あの子の作品、彼女の体や心を壊して自殺させて……それでもアイツは生き続けてるなんて……ふざけんなよ……っ! アイツは、うちらと一緒にノウノウと生きちゃダメだ! アンタの話を聞いたら、なおさらだよ! だって小竹も、アンタも、なんにも悪くなかったじゃんっ! アイツは死んでもいいっ! あの死神を止めるためには刺し違えても殺さなきゃ……っ」
「……あ!? ちょっとおい今なんて言った?!」
彼女の一言が逆鱗に触れたのか。
怒号を飛ばしながら、十和田が真田の細い右肩を掴む。
一瞬だけ怯んだようだが、それでも真田は睨みつける。
「いいや。もう決めた。うちはホンキだから。地獄に落ちてでも殺す。カクゴはできたから」
「ばっ……!? ふ、ふざけんな……ふざけんじゃねえよっ!! 死んで英雄気取りか!? そんなこと冗談でもっ」
「ジョーダンなワケあるかよッ!」
彼女は右肩を掴んでいる十和田の手をむしり取って握りしめた。
十和田は目を見開いて、素早く息を飲み込む。
「うちが『大罪人』だろうと『英雄』だろうと白でも黒でも何色に染まろうがどうでもいい!! これは誰かがやんなきゃダメなんだっ!!! だったら、うちがやってやる! 辺見を殺すのは間違ってないっ! 『辺見を殺すな』だの『それは罪』だの世界が言うなら、辺見を生かす世界が悪だっ! 間違ってるんだ! うちは殺してやる! やってやるよ!! アイツと同じとこに堕ちてでもぶっ殺してやるからっ!! そうでもしなきゃ、あの子も、みんなも、小竹も、アンタだってっ!」
最後はなにを言おうとしたのか。
その場にいた十和田も、きっと叫んだ本人も分からなかったのだろう。
だけど、彼女も彼も、お互いの存在で我に返った。
同じような顔で、鏡を見ているように、怯えた様子で見つめ合っていた。
二人して手を離してバツが悪そうに目を反らす。
「あ、あー、ちょ、ちょーっとヒートっちゃったカンジ? なーんて……」
「ま、まったくだよ……ったく。ツメ食い込んだだろ」
「それはこっちのセリフ! ……って、そんな顔やめ! アンタのシリアス顔は似合わないって。とにかく、もう行くからさー! よろっこねー?」
そう言って、慌てて真田は踵を返した。
その彼女の手首を、手のひらを伸ばして繋ぎとめたのは。
「ちょっ、なにさ今度は?」
「はいはい、悪かったねえ。シリアス顔が似合わない顔でさあ……あーあ、気持ち悪いなあ。僕、こういうのクソ縁遠いのにねえ。だからさあ……これは一回しか言わないから、よーく聞けよ? まずは、ネガマックスの僕に忠告ありがとう。だけど、もう不要みたいだけどねえ?」
十和田は至って普段の間延びした口調で話し始めた。
だけど、その表情はいつもの薄っぺらいものとは違って“なにか”が込められていた。
「なぜなら、僕の新しい希望はもう見つかったようだから」
彼の言葉に込められているものに、名前をつけるならば。
果たして、どのような名前が似合うのだろう。
それは、きっと彼が一番嫌いな言葉であることは確かだった。
「そんな僕の希望――“同朋者”に、言わせてもらう」
真田は手を掴まれたまま、茫然と一ミリも動かず、瞬き一つもせずに。
彼の言葉を、ありとあらゆる五感で受け止めていた。
「もう、これ以上、こんな正義のために生きるなよ」
彼らは同朋者でありながらも、考え方は正反対で別々の道を歩む人間だった。
殺人を犯す罪を断固として突き進まんとする真田に。
十和田は、なにを思って、この言葉を送ったのか。
「自分のためとか、人のためとか、みんなのためとか。正しい間違っているとか誰にも分からないことを振り回して戦わないでくれ。頼むから……いいや。君には……できないだろうなあ。そんなのわかってるんだよ。結局、僕ができないだけだからさあ」
憎々しげに十和田は呟いて、真田の手首を放した。
すると十和田は硬く大きな握り拳をつくった。
真田はまじまじと、戸惑ったように彼を見つめている。
「だから、それが無理ならせめて……これだけは守ってくれないかなあ?」
十和田は握り拳をさっと下に振って結んでいた手を開く。
その指が挟んでいたのは、トランプのカード……ハートのジャックだった。
アイラインが引かれた真田の瞳孔は瞬く間に見開かれた。
「絶対に。なにがなんでも生きろよ。真田さん」
「取れ」と言わんばかりに、十和田は視線で促した。
真田は恐る恐る、そのトランプのカードを手に取る。
十和田とカードを交互に見たが、やがて、十和田のほうがニヤリといつもの笑みに変わった。
「まっ。後はせいぜい汗まみれになってスッピンになっていないことを祈ってやるよ」
真田は驚きを隠せないままだった。
だが、その笑顔を見て、彼女もすぐさま白い歯を見せた。
「……うんっ! わかった、約束! ほらユビキリしよ!」
「へいへい。って、君、指細すぎだろ。ホワイトアスパラかよ。油をリットルで飲んだら?」
「アンタに言われたくないっての! こっから出たらダイズとかコンニャクのランチセットでヘルシーにさせてやるっての!」
真田の細い指と十和田の太い指。
形は違えど人々を喜ばせるために働いてきた指が織りなすように絡まりあった。
「って、あ、あれ?」
真田が呟き、刹那――目を、カッと見開いた。
「おい、なんだよ?」
「ウソ……あれ? ……なんで…………ね、ねえ、ウチら、前にこんなことしなかった?」
「はあ? なに言ってんの。してるわけないだろ」
「そ、そう……だよね? い、いや……うちの……思い違い……えっ……?」
「急になんなの? 電波みたいなこと言い出しちゃってさあ?」
「電波は受信はしてないっての! い、いや、ちょっと疲れてんのかな……」
「…………そうだろうねえ? ほら、言いから戻れって。頭までイカれたら元も子もないだろ?」
小指の契りは終わり、真田はすごすごとヒールを引きずるように歩いた。
たしかに、今の……なんだったのだろう。
十和田の言う通り、真田は疲れていたのだろうか?
それにしては、かなり不自然なやりとりでもあるが……
不毛な表情を浮かべたまま真田は扉を開けて十和田に振り返った。
「じゃあね。十和田、小竹、アンタたちも絶対生きてよ。うちは、どんなカタチになろうと……これから地獄に堕ちていくだけだから」
彼はひらりと手を振っただけで、小竹はくるぽーと一鳴きした。
それを彼女は了承と取ったのか。
同じく手を振って、ドアをゆっくりと閉めた。
「さて、これで理解できましたか? 十和田さんが亡くなった理由を」
裁判場に意識を戻すと、最初に口を開いたのは辺見だった。
黙ってと言われたのに悠長に口を開けるなんて、肥大した神経なことだ。
「あ、あの。どういう意味でございましょうか……!?」
「わからない? なら、微塵切りのように細かく言いましょう」
いや、理解できないはずがないんだ。
「真田さんたちがこのような結果になってしまったのは、私を殺そうとしたからですよ」
理解してしまうのが嫌だった。
殺そうとしたから殺させた。
それが、辺見が介入して真田に十和田を殺させた理由。
理解不能。理不尽。いや、なんなんだこれは。
正当防衛? 過剰防衛?
その言葉すら思いつかないほどの慈悲のない行為。
「私を殺害を実行しようとした時点で、殺意があった時点で、彼らは犯罪者同然。立派な人殺しです。なにが弟ですか、なにが親友ですか。なにが復讐ですか。私は彼らの大切な人々の命に手はかけていません。だというのに、このようなことで私が勝手に恨まれて殺されなければいけないなど……冗談甚だしい! 私は犯罪者じゃないというのに! それに、みなさんと同じです! 私だって外に出たかったというのに!」
最後の言葉は、俺たちの内にも残っていた思いだった。
何度も望んでいた脱出が絶たれた発端は辺見ではない。犯人のせいだ。
犯人が殺さなければ、仲間を失うことも裁判も起こらなかったのは事実。
……なのに。
「そもそもどうして、辺見くんは真田さんたちの動機のことを知っていたの?」
ふと天馬が疑問をぽつりと尋ねた。
蜘蛛の糸のように、ちょっと触れただけでも崩れてしまいそうなほど緊張を張りつめさせていた。
「何故って? 真田さんたちの動向は私にとっては丸見えだったからですね!」
「あ……? まどろっこしいことを言うんじゃねえ……」
「それにしても娯楽室のロッカーって、元々物を置きやすい場所ですよね」
そう言って、辺見がエプロンポケットから取り出したのは。
"小さなボイスレコーダー"だった。
まさか――寒気が稲妻のよう全身を巡り走った。
「……っ!! お、お前っ……盗聴してたのか!?」
「いやですね人聞きの悪い。置き忘れていただけですよ?」」
「で、でもおかしいわよ……な、なんでそこに手品師とデザイナーが来るってわかってたの……わかってなきゃそんなの置けないわよね……!?」
「それは、真田さんたちがあまりにも迂闊だったというべきか。それとも私自身の性質のせいか……清掃委員って、そういうものなんですよ。あなたたちのような華々しい活躍を繰り広げている素晴らしい才能と違って! 私はいわば下水道でせっせと掃除をする……いわば市民Aのような才能にすぎないんです! 私は水面下で動いても、気付いてもらえない……つまり、私はそういう才能なんです。だからこのような立ち回りもできていたんです」
それは一般な善良市民の顔をした死神。
俺たちと同じ目線に立った、不幸を呼び起こす悪魔そのものだった。
「私としては、十和田さんが誰にも見つからずに時間通りならハッピーエンドだったんですけどね?」
「貴様はタヌキを見殺しにするつもりだったワケか……」
「しかし、真田さんだってそうでしたよね? 十和田さんとの約束を見たでしょう? 義理堅い人ですね。生きろと言われたら、十和田さんを捨ててでも生き残りたくもなりますか……本末転倒にも見えなくはないんですけどね!」
もし真田が辺見を殺したら、俺たちはよくやったと言えただろうか。
十和田を殺しても、自首に近い形であれば同情はできただろうか。
どちらにせよ真田には殺意があった。
だけど、辺見がいなければ、こんなことにはならなかった……そのはずだ。
「変な話ですみませんが、私は……死ぬのが怖いんです。とても」
辺見から発せられたのは、どこかで聞いたことがある言葉だった。
アイツの物静かな声も、鋭利な顔だちも……記憶は遥か彼方に追いやられてしまった。
「醜い殺意を持った人間がいるという事実は、私にとっては恐ろしく許されないことです……しかし、果たして死にたくないという思いは、私だけにしか分かりえない感情なのでしょうか? いいえ、そんなはずはありませんよね? みなさんだってそうではないですか? 凶器を持った人間と、持っていない人間。どちらが恐ろしく、私たちに死をもたらす人間かと言われたら前者でしょう。これって世の常識ですよね?」
俺は、今、辺見に殺意を抱いているのだろうか?
忌々しい。今すぐに視界から出て行ってほしい……これも殺意なのだろうか?
感情がごった返しになり、どれが悲しみなのか苦しみなのかも判断できなかった。
「言いワケじゃないけど、うちもオクビョウだったのかもね。アンタを殺したら密室にするつもりだったんだよ。一生、あのニスのにおいプンプンの部屋でくたばってろって接着剤も塗る気マンマンだったってのにさ……」
真田の引かれたアイラインの目元が、さらに険しくなる。
ぐしゃりと潰された紙のように歪みかけるが、真田は証言台の縁を握りしめる。
ジャングルで獲物を狩りとめようとする勇敢な民族のように、彼女は二本足で今にも槍を持たんとする気迫だった。
「でも、そうだとしても。……うちは正しいよ。間違っているのはアンタのほう」
「まだ悪態をつくつもりですか?」
「ハッ、言ってるっしょ? うちは、必ず実行するってさ。計画をポシャらせんのはデザイナーとして許されないことだっつーの」
真田の瞳は、歪な文様を描き始める。
瞳の中ががぐるぐる、ぐるぐるぐると渦巻き荒々しく尖る。
「これからは死ぬだけ。なくなっちゃうモンはないなら……どんなに道を踏み外してでもやってやるよ」
「あらら、まだ殺意に蝕まれたままですか。しかし、この状況で、どうやって私を殺すつもりですか? みなさんもいる中で。救いようもないぐらいワガママなあなたに対しても、みなさんは優しいですからね?」
辺見が高らかに言うも、真田はまったく怯むことはない。
それどころか……十和田に似た不敵な笑みだった。
死ぬ間際だというのに艶々と輝いている。
このときを待っていたと言わんばかりの策を弄した武将のようだ。
萩野は今すぐに駆け出せる態勢を取っている。
相手が辺見とはいえ、彼も……いや、俺だって彼女に罪を重ねてほしくないんだ。
「ところでさ。みんな、なんか"忘れてること"ない?」
……えっ?
俺の間抜けな顔を見たのか、ぷっ、と真田は吹き出した。
「……なーんてね! でもムネに手をあてて、よーく考えなよー?」
忘れていることだって?
リストアップされた証拠の一つが脳裏に過った。
"消えた4つの拳銃"
元々技術室には5丁拳銃があったが、事件後にあったのは1丁だけだった。
1つは黒生寺。2つは辺見。朝に鳴った銃声はこれらのことだろう。
3つは仕掛け銃に使われてバラバラになってしまった。
「さ、真田っ!! ダメだよせっ!!!」
俺のひらめきが先だったか。
真田の瞬発力が先か。
だけど、俺が叫んだ時には遅かったようだ。
腰に巻いたスカートを翻し、素早く黒光りの拳銃を取り出し両手で構える真田。
さながらハードボイルド映画のヒロインだ。
その銃口はどこに向けるか、なんて、言うまでもない。
彼女が何度も殺すと誓った、史上最低の死神。
ヤツは口元を手で覆い目を見開いていた。演技か? だけど避ける様子は。
いいや、そんなこと考えてる暇なんて……!!
――そして、今日で五発目の銃声を俺は聞いてしまった。
「なっ……い、いやはや……みなさん、なんて人たちですか……わ、私を見殺しにしてもいいという方が多すぎませんか……っ!?」
俺たちはしばらくこの光景に唖然としていた。
間に合わない、そう思った瞬間に俺は目を瞑ってしまっていた。
辺見は顔面蒼白で汗を流し、軽く仰け反っているようだ。
この真田の行動は、さすがに予想できなかったのだろうか?
「本当に……………よかったですね! 私が幸運だったおかげですね! でも、こんなことになっちゃうから、おいたはもうやめたほうがいいですよ。真田さん?」
辺見が涼やかな笑みを浮かべたのは……膝をついた真田だった。
苦悶の表情を浮かべたまま手を抑えていた。
いや、それ以上に。
「すっ、角ちゃん……っ」
膝をついた彼女の近くでばったりと倒れ伏してるのはフリルスカートの少女。
その倒れた手の先には、愛らしいステッキと拳銃が放り出されていた。
「な……ッ?! お、おい……っ!?」
真っ先に動いたのは、眉間に大きく皺を刻んだ黒生寺だった。
緊張が解けたように、俺たちも慌てて角の元に駆け寄った。
彼女の頭の包帯は解け落ち、花びらのように血がはらはらと落ちる。
「ふざけた真似を……! 銃を持っている相手に体当たりなんて無謀じゃねえか……ッ!?」
「しっかりして、角さんっ! 死んじゃダメだよっ!」
「ちょ、ちょ、ちょっと……っ!!? こっ、これって……被弾したんじゃないの……!?」
『おっ、おっ? これ死んだ? 死んじゃった?』
「いっ、いや、大丈夫だ! 撃たれてない! 呼吸は浅いけどマダム角は生きてるよ! 体当たりの衝撃でまた出血しちゃっただけで……うっ、ぷ」
『なーんだ。まあ、今から裁判やっても疲れるだけだしね』
『げ、外道でちゅ!! 兆死に値しまちゅ! わーん角さぁぁん! しっかりしてくだちゃいぃ!』
必死に多くの呼び掛けが飛び交う中、角は顔面蒼白のまま手を伸ばす。
「あ、ああ……さ……真田……さま……は、ご無事でございますか……?」
彼女から呟かれた、か細い言葉は角自身が助けた少女の名前。
その名前で、俺たちは我に返った。
「さ、さ、真田っちぃぃっ!!」
角の声と対称した大豊の泣き声。
振り向いた先にいた真田はうずくまって、血で濡れた両手を祈るように握りしめている。
それこそ角の鮮血よりも、それは炎に似て真っ赤で、タイル床にぽた、ぽたと滴る。
黒生寺が忌々しげに、ふん、と鼻を鳴らした。
「なるほど、暴発しやがったか……改造銃にはよくあるとはいえ……」
「お、おいっ、血が止まんねーじゃねーか! 真田! おい!」
「や、やだよ……ねっ、ねえ、だれか真田っちを助けてよ! 真田っちこのままじゃ死んじゃうって!!」
『いやいや、死なないでしょ。この程度の血だよ。しかも、たかが手だよ?』
「た、たかが、って、あなた……!?」
『命があるだけ丸儲けだよ! 出血大サービスだよ! そもそも』
マナクマの牙がぎらりと嫌らしくチラついた。
『どーせ、死ぬんだからさ、手ぐらいどうってことないじゃん?』
「ああ、まったく。相も変わらず人情……クマ情がないことで。それにしても可哀想な真田さん。お友達と同じことになってしまうなんて。コーデと一緒でお揃いというものですか?」
太陽が二つもあるような異様で気色が悪い絶望感。
もはや怒りも湧かない。感情のエネルギーが切れてしまったのかもしれない。
ぐらりと、足元がおぼつかなくなって、俺は反射的に近くにいた萩野の肩を借りていた。
「七島っ」と、どこか泣きそうな声で萩野は背中を抑えてくれた。
「や、やだよ……ねえ……な、なんで? 真田っち悪いことしてないよ? わ、悪いのは辺見なのに……っ!!」
「善悪は人の価値観によりけりなので否定はしませんが……私には殺意はありませんよ? 自分を正当化するために裁判をめちゃくちゃにしたあなたや、ファムファタールの紅さん、猪鹿さんの手を壊した萩野さんなんかに比べれば、少なくともクリーンだと言える自覚はありますよ」
「っ、う、う、うるさいっ!! あっ、あたしはともかく真田っちは悪くないのだっ!!」
「悪くない? 十和田さんを殺したのに? 私を殺そうとしたのに?」
辺見は自然な悪意を連ねる。
残酷な事実を鞠のように転がし、それが世の中の常と言わんばかりに。
「十和田さんを殺して、みなさんを踏み台にして、外に出ようとしたのに?」
真田は口元の筋肉を、ひくと引き攣らせた。
映像の十和田が言っていた通りだ。
殺人を犯すには、彼女はもっと不敵に生きるべきだったのかもしれない。
曲がったまま、生きていれば。俺たちだって。
こんなにも口の中が苦い感情の唾液で味わうことはなかったはずだ……
『さてさて一悶着ありましたが。時間的にアレいっちゃいましょうか』
マナクマは大きな時計を抱えながら絶望の宣告を言い放つ。
ほわわ、という声が聞こえ、パソコンの画面に映し出されたマナミが汗を流し始める。
『アレって、まさか!? そ、それはダメでちゅってー!!』
『処刑! ショケイ! し・ょ・け・い!!』
マナクマは手拍子をして、ガッツポーズを振り上げる。
まただ。またしても、この時が訪れてしまった。
俺たちが勝利し、俺たちの一人が負けたこの瞬間に。
沈痛な表情の俺たちの中で、真田は諦めたようにすくりと立ち上がる。
とん、とん、と高いヒールを明快に鳴らしながら歩き始める。
どんな視線に見送られても、トップモデルのように動じない軽やかな足取り。
ふと、真田は俺の目の前で足を止めた。
「えーっと、七島かなー?」
「な、なにがだ?」
「ショージキ今まで疑ってたんだよね、アンタのこと……でもさ。変な話、七島に賭けてみようかなーなんて思っちゃって。うちらしくないかもだけど。同じゲージュツを歩んだアンタにはわかってもらえるよーな気がしたんだ」
そう言って、真田はスケッチブックを渡した。
この中には俺たちも見た夢や希望が詰め込まれている。
それを知っても、知らなくても……スケッチブックはずっしりと重さを感じた。
「……真田。本当に、ごめん」
「え? なに謝ってんのアンタ?」
「俺は……裁判であんなことを……お前の言葉を引き出すために卑怯で酷いマネをしたんだ……っ! それに辺見はっ!」
「ちょ、ちょっとタンマ! ヒトの最期だってのに相変らずシンキくさいっての! ってか、殺人犯の言葉なんか真に受けない! 同情なんかしない! ……なんて言葉もムダになる?」
真田は、どこかシニカルな笑みを浮かべる。
「アンタは生きなよ? 十和田だってそれを望んでたんだから……そうでしょ?」
真田はスケッチブックから指を離して、また歩き出そうとする。
しかし、その彼女の目の前で仁王立ちしたのは大豊だった。
大粒の涙が弾けて床に落ち続けながら、命が尽きる前の小動物の如く震えていた。
「ご、ごべんなさいっ……真田っち……あ、あだし、あたじ……絶対に、辺見を殺すがらっ! ぜったいに! 真田っぢや十和田っぢのためにもっ!!」
「やめときな」
怒りに支配された大豊に、たった五文字で真田はバッサリと切り捨てる。
大泣きしている彼女に対して、困ったようにピアスをいじりながら笑う。
「ゼッタイに、辺見にはコンリンザイ関わっちゃダメ。どんなこと言われても『うるさいのだ!』で聞かないこと。これはユビキリだからね! ヤブったら、サスガのうちも化けて出ちゃうよー?」
「で、でも……だ、だっでぇ……真田っちも十和田っちも、辺見を殺したかったんでしょ?! あだしも辺見が許せないよぉっ!」
「気持ちは分かるけど、大豊ちゃんはやめておいたほうがいいよー? うちよりもニアわないって。大豊ちゃんが殺人や復讐なんてさ」
「じゃ、じゃあ、あたじ、どうすればいいのだ!?」
「辺見はうちらをオロカとか、お酒の名前みたいにケーベツするけど……大豊ちゃんを受け入れてくれる人はいっぱいいるっ……って、うちは思うよ? 角ちゃんや天馬ちゃんに紅ちゃん、錦織ちゃんも。それに七島に萩野。黒生寺……はビミョーだね。ランティーユはヘンタイだしさ。それでもね」
これは大豊だけに向けられたメッセージではないようだ。
この場にいる、俺たちへの。
「ダイジョーブ、大豊ちゃんは一人じゃない! それに気づけばコワイことなんてないって! みんなも一人じゃないっしょ! もっとトナリの人を信用することに気づくべきだって! …………まっ。結局、心から気づくことができなかったヤツが、なに言ってんだって話なんだけどさ?」
真田は目をぎゅっと瞑った、拭うとメイクがぐちゃぐちゃになるからだろうか。
デザイナー精神の強い彼女らしい涙の乾かし方に思えた。
そして、真田は腰を落として大豊を抱き寄せる。
小さな大豊の後頭部を、綺麗な左手で優しく撫でた。
「大豊ちゃん、こんなサイテーなうちを守ってくれて本当にありがとう。元気でね」
名残惜しそうに真田は大豊から離れて、背筋を伸ばして歩く。
大豊は駆けだそうとするも、ランティーユがそれを止める。
辺見を鋭く糾弾していたランティーユも、今は愛する人と共に涙で頬を濡らし、小さな少女を引き止めんとしていた。
やがて真田はすべての元凶の真横に立った。
「今回は生き延びてよかったね? いちおう、今はサヨナラを言っておいてあげる。アンタが地獄の溶岩で溺れる絵を描きながら待ってるからさ……また会おうね、死神ヤロー」
真田は右手で、辺見の肩をぐっと掴んで離した。
ストライプのTシャツに血がこびりいて辺見は、「ぎゃっ」と声をあげた。
舌をべぇ、と出した真田は、かつん、こつんと心地よい音をなびかせてスキップをした。
気高いというべきなのか、強いというべきなのか。
そのどっちでもないのか……俺たちは、真田の心の内を知れないまま見送っていた。
「そんじゃま、先にうちはリタイアってことで! タッシャでね、みんな!」
真田はひらひらと真っ赤な右手を振った。
近場に出かけてくると言わんばかりの、満面の笑みで。
『それじゃあ張り切ってまいりましょー! オシオキター』
その時、その言葉を遮ったのは。
「――――小竹?」
銀鳩の鳴き声だった。
それを聞いた真田は……ふと硬い仮面を外したように。
「ああー。やっぱ、こーいうカラゲンキ……ムリか」
ぺたり、とヒールが折れたように真田は床に崩れ落ちる。
その鳴き声は知ってか知らずか。
彼女を呼び止めるかのように、くるくると鳴きはじめる。
『あーあ、いっけね。しきりなおしということで。ドキドキワクワクマカフシギアドベンチャー系の! 超高校級のデザイナー、真田斑さんのために!! スペシャルなオシオキをよういしましたー!!!』
「ごめんね……っ十和田、みんな……ごめんなさい……!! こんなことになっちゃって……うちのせいで……っ!」
座り込んだ真田の細い肩が揺れる。
子を宥める母の如く、彼女は自らをゆっくり抱きしめる。
それでも誰も「大丈夫だよ」と彼女の肩をたたいて慰めてくれる人はいない。
『それでは、ハリきっていっちゃいましょー! オシオキターイムー!』
「っ、ねえ、カーさん……うちは……っ」
彼女は殺人者だ。
現に辺見を殺そうと望み、十和田を殺してしまった。
そして俺たちを捨てようとして、裁判で俺たちと戦ったんだ。
それなのに、彼女は。
「うちは、ホントに、正しかったのかな……?」
顔を覆い泣き続ける殺人者は、未来が託されていた少女の背中をしていた。
彼女が去った後、娯楽室で十和田はドアを暫くの間、睨みつけていた。
首を横に振ってビリヤード台に向き直る。
「まったくさあ。死人に……しかも見ず知らずの名前も知らない人間に暴言は吐きたくないところだけど。ある意味では殺人者だから、言わせてもらうかなあ?」
すう、と息を吸って十和田は苛立ちを顔に刻む。
「あんなに君のことを思ってくれる友達見捨てるんだよ! なんで生きるのをやめやがったんだよっ!?」
ばん、とビリヤード台を手で叩いて怒鳴った。
それは純度100パーセントの怒りであった。
「みんながみんな自分勝手に生きる権利があるんだぞ! だから、自分勝手の権利を使わずに死ぬなんてもったいないし、誰かの自分勝手を奪うなんてもってのほかだろ!? それも、自分で潰すなんて、頭どうかしてるんじゃないのかなあ!? 自分を殺せるくせに、どうして自分の好きなように生きられない!? ズルしてでも戦えよ! 図太く生きろよ! わがままになれよ!! どうして残ったあの子一人に闘わせようとしたのかなあ!? 答えろよ!!」
亡き人への憤怒は、自らの信念に反するがためか。同朋者のためを思ってか。
やがて十和田はハッ、として、罰が悪そうに指で台をとんとん叩く。
「ったく、さすがに不躾すぎたな。生きたくない気持ちは、わからないでもないし……腕を潰されたら……」
手の痺れを取るために、彼は手首をぶんぶんと大きく振った。
「この手も使いおさめかなあ? ま、どうせ僕の腕は金のためだった。最後ぐらい、この手が、この僕が。希望のために戦うのも悪くないだろ」
十和田が痺れを取れた右手を眺めていると、くる、と肩にとまった鳩が鳴く。
鳩は心配そうに彼の丸い頬に顔を寄せた。
「君にも手伝ってもらっちゃうけど大丈夫。絶対に危険な目には遭わせはしないから……そんな顔をしないでくれよ」
病弱な弟に寄り添う兄の姿そのもの。慈愛の表情であった。
弟と呼ばれた鳩は、彼を慰めるかのようにくるると、細い声で鳴いた。
「君の仇を。彼女たちの無念を。くそったれな僕自身の人生に区切りをつけるためにも。……ようやく堕ちる覚悟ができたよ。真田さん」
穏やかな笑みを浮かべ、十和田は弟の頭を撫でる。
そして出口の扉に歩み寄り、鈍い足音が部屋中に響き渡る。
「自らの罪の深さを知ってもらうためにも。人の自分勝手を奪った辺見には、せいぜい苦しんで死ぬまで野垂れ生きてもらわないとねえ」
十和田はドアノブに左手をかけてゆっくりと回した。
ロッカーで悪意が聞いていることも知らず。
同朋の手が汚されることも知らず。
信じた希望によって、いずれ殺されることも知らずに。
「……なあ小竹。この気持ちはなんだと思う?」
ドアノブを回したところで、動きを止めて十和田は弟に語りかけた。
小さな鳩は、つぶらな目で首を傾げるだけだ。
「いや、恋ではないよねえ? 口うるさいし、色気の『い』の字もないしさ……だからこそ、こんなにあっけなく受け入れるなんておかしくないか? そもそも、こんな簡単に情が湧くなんてなあ? どうして、すぐに彼女の言葉が本当だって思ったんだろう? いつもなら疑うはずだよねえ。今までずっとケンカばかりしてたからなおさらだろ? これも一つの運命? いや、運命なんて、もう言葉からして寒気がするよねえ……僕も勘が狂ったもんだ。白河を一時は信用しかけていたなんて。なんでアイツなんかを……でも、なんでだろうな。アイツはなんだか…………ああ、くそっ! これだから、人は信じたくないんだよ! …………もう、わかんないよ。なにもかも…………小竹、君は……どう思うの?」
十和田は誰に語りかけるわけでもなく、その後は無言だった。
「それに、どうして、あの指の感触。『電波』だって言ったけどそうじゃない。僕もたしかに、少しだけ思ったんだ。バカげてるから言わなかったけど、『ああ、懐かしいな』って。…………なあ、どうしてだよ? こんなふざけたコロシアイの前に彼女に会ったことなんて。僕、は…………」
ドアノブを動かすのをやめて十和田は振り返る。
彼にしてみれば誰もいない、なんの変哲もない娯楽室だった。
「………ああ、」
自らの大きな右の小指を、なにかを思い出すかのように見遣った後に。
「独り言なんて……らしくないんだよ」
秘密を仕舞うように、ゆっくりと扉は閉じられた。
GAME OVER
超高校級のデザイナー 真田斑さんがクロに決まりました
オシオキを開始します
オシオキ 『 仕立屋地獄変 ~挙式の巻~ 』
ステンドグラスが煌めく美しい教会のような空間。
祈りの椅子がずらりと並び、真っ赤なバージンロードが中央に敷かれていた。
バージンロードの両脇には、マネキンの体つきをしたマナクマたち。
マナクマたちが着ているのは、女子の心をぎゅっと掴むようなガーリースカートから、フリルワンピース。
真っ赤なカクテルドレス、シャープで体のラインを見せつける黒いフォーマルドレス……ありとあらゆる洋装が座っていた。
やがて扉が開き、マネキンたちが拍手をし始めた。
その奥からやってきたのはマナクマと、首輪をされた少女……真田だった。
だが、真田の恰好はいつもの服装ではなかった。
永遠の憧れで幸福の象徴と言われる、ウエディングドレスとも白無垢ともいえる真っ白なドレス。
白という色は、かつて将軍伊達政宗が降伏、服従の意で着たものであることは彼女も知っていだろう。
真田は自らに纏わりついた眩しい白を眩しむように目を細めるが、すぐさまつんのめる。
マナクマが歩き出すたびに、首輪につながれた真田はゆっくりと引きずられるように歩かされた。
売られた奴隷を見せびらかすように、マナクマの歩みはのろのろと遅い。
そして、やかましい拍手の連打を浴びる、浴びる、浴びる。
席についたマネキンの体をしたマナクマたちが、シャンパンボトルを振りはじめて蓋を開ける。
液体が勢いよく噴射され、ばしゃばしゃと真田の頭上に雨の如く降り注ぐ。
歪な雨を浴びる、浴びる、浴びる。
ドレス、客席、バージンロードに降り注ぎ、その冷たさに真田は肩を大きく竦めて怯えた。
……が、すぐさま顔をしかめる。
液体の奇妙さに、いち早く彼女は気づいたのだろう。
それは単純なお酒ではなく、もっと強い原液でありアルコール。
――嗅ぎ慣れないオトナの火薬。
気がつけばマネキンたちは、彼女の祝杯のために蝋燭を掲げていた。
その炎がフリルワンピースの袖に燃え移る――そうなれば、後は瞬く暇もない。
多数のマネキンたちは、夏の花火のように点火する。
ぱち、ぱちと音が弾けて火花が舞いあがり、豪華絢爛な天国の様相が地獄の炎へと変貌した。
マネキンたちの原型は留めることなく、赤い振袖かと見間違うほど炎は燃え広がる。
真田の純白のドレスに、腰のリボンに、ベールに火の粉が羽虫如く飛びかかる。
怯み、逃げようとするも、マナクマに繋がれた体ではうまくいかない。
すぐさま、彼女が浴びた火薬が炎を嗅ぎ付け――。
一瞬にして火柱が聳え立つ。
いきなり炎に焼かれて、即死などできない。
意識は嫌でも飛ばすことはできない。
空気をも引き裂く悲鳴は、大音量のオルガンに掻き消された。
その時、白い影がドアから飛び出してきた。
それは純白の鳩だった。
彼は迷いなく懸命に翼を羽ばたかせ、轟々と燃え盛るバージンロードを駆け抜け飛びあがる。
小さなくちばしが向ける先は――炎の中で踊り暴れ狂う少女。
そして阿鼻叫喚となった紅蓮の地獄へ。
美しい一羽の鳩は消えていった。
火葬場と化した空間では、荘厳なパイプオルガンだけが空しくレクイエムを奏でるだけだった……。
『えくすとりぃぃぃむぅぅぅぅ!!! いやはや、びっくらこいたな展開だね!』
俺たちは一部始終を眺めることしかできなかった。
感情をひっくり返して、すべてをごちゃごちゃにしたまま。
あんなに笑って、怒って、泣いていた真田が……今はもう動かない。
だけど、それだけじゃない。
「ねえ待ってちょうだい! 今のハトって……!?」
『ボクのせいじゃありませんよ。勝手に飛び込んだだけだからね。クマも自殺する時代らしいから、鳥類もやってもおかしくないでしょ?』
あの時、炎に焼かれたのは真田だけじゃない。
どうして小竹までも!?
マナクマが解き放ったのか? でも動物は炎が苦手だから逃げるはずだ。
炎の中に自ら飛び込むなんて……!
「や、やだよ゛ぉ……あ゛ぁぁぁぁあ゛ぁあぁぁぁ……ざ、真田っぢ……真田っぢぃ……っ!!!」
ほとんど枯れたのか、大豊の声はほとんど痰混じりだった。
ランティーユもまた光がない瞳で呆然としていた。
「ふざけやがって……!! よくも、あんなマネしやがってよっ!!?」
『またそのセリフ? もう聞き飽きちゃったよ。そろそろ『Wow! アーティスティック!』って賞賛の声が聞こえてもいいはずなんだけどなー』
「こればかりは加害者に同情しますよ。私ですら今回の処刑は悪趣味だと思いましたからね……」
なにをバカげたことを。
彼が今、忌々しげにマナクマを見つめる顔立ちは、俺たちがお前に向ける嫌悪そのものだ。
『ちぇっ、ちぇっ、つまんねーの。まっいいや、新しい"布石"は用意しているからね』
『ほわわ! 布石ってなんでちゅか!?』
『辞書ひけよ』
『なんでそんなぶっきらぼうなんでちゅか!?』
『というわけ、蛇口全開並のアドレナリン放出イベントの次回もおたのしみ~! だーっはっははは!!!』
マナクマは跡形もなく去って行った。
逃げ足だけは早い。立つ鳥跡を濁さずとはいうが、こいつは……絶望だけを残していく。
「うぎゃあっ!!? ちょ、ちょっとなにをするんですか!?」
ここで、場違いな悲鳴があがる。
萩野が辺見を羽交い絞めにして腕を封じていたのだ。
慌てた様子で、辺見がぐいぐいと振り放そうとするが、さらに萩野はきつく締めあげているみたいだ。
「なにをするとでもねーよ。ただ、おめーを縛らなきゃ気が済まねえ!」
「殺せないから縛ると? それはそれは、とても短絡的な発想で……い、痛いっ! やめてくださいっ! 痕になっちゃいますっ!」
「おい、後でガムテープも張るからなっ!?」
「まったく、なんなんですか!? みなさんも見ているだけだなんてあんまりじゃないで」
萩野の怒りのボルテージに達したのか。
ごつん、という嫌な音が二回響いた。思わず耳を塞ぎたくなる不快な打撃音だ。
「っお、おい!? 萩野っ!」
俺が駆け寄ったときには、辺見は床
に伏していた……だけじゃない。
辺見の頭はぐり、とスニーカーで踏みにじられ、色素の薄い髪が床にばらばらと揺れる。
――いくらなんでも。それは。
立ち止まった俺の姿を見て、萩野はじろりと疲労と苛立ちの眼差しで突き刺す。
「はっ……俺が、殺したとでも思ったか」
「い、いや、そうじゃないけど……」
「やりすぎだって思ったか。だが、俺はそうは思わねーぞ……なあ、わかってるよな七島。俺たちはもう戻れないところまで来ちまったんだ。こいつのせいでな」
萩野は寂しそうに、憎々しげに……床にへばった辺見を見下ろす。
「だけど心配はすんな。俺がいる、怖がる必要はないからな」
「あ、ああ……」
「いいから無茶だけはすんなよ。おめーはいつも抱え込みやがって」
……なんだか様子がおかしくないか。
俺が不安げに見つめると、「ん?」と萩野は首を傾げた。
「まっ。俺やこんなもんより角の介抱を手伝ってやれ」
そう言って、萩野は気絶した白河の両足をがっしり掴んでずるずると引きずる。
というか、本当に死んでないよな……?
振り返ると床に転がった角の傍に佇んでいるのは黒生寺だった。
「な、なあ、黒生寺。早く角を運ぼう」
そう促すと、黒生寺は一瞬だけ戸惑った眼光を向けた。
そして黒光りの銃口を……。
「ちょ、ちょっと黒生寺っ!!」
俺と紅が咄嗟に彼の腕を止めた。
なんだって、急に銃を角に向けるんだ……!?
黒生寺は俺たちを睨みつけたが、紅も視線を臆することなく睨み返す。
「ふざけたことを……」
「ふざけているのはあなたよ。どうして角に銃を向けるの?!」
「うるせえ……Femme fatale如きが……」
「だから止めたのよ」
紅はいつぞやの裁判の時とは真逆で角を背負いあげた。
黒生寺は銃口を向けたまま動かない。
「ふん……撃たないのかしら……?」
「……っ! 馬鹿にするな……!!」
錦織が挑発をして、一瞬ヒヤリとさせられるが……結果は錦織の思惑通りだった。
彼の銃口は角の額に向けられたまま、引き金の指はかちりと止まったまま。
角を背負ったまま、紅はエレベーターへと乗り込む。
「黒生寺……お前も一体、どうしたんだよ……?」
「……クソ……寝不足だ……調子が狂ってやがる……!!」
多分、そうじゃないと思うのは俺だけだろうか。
黒生寺に続いて、ふらふらと大豊、ランティーユたちもエレベーターへと向かう。
地から伸びた透明な手によって足が絡め取れられているように鈍い。
それを、必死に振り払うように俺は一歩一歩踏みしめる。
後から天馬と、地面に落ちたノートパソコンを拾った錦織もついてきている。
「錦織さん?」
「なっ?! な、なによ……っ!?」
「大丈夫? 顔色が悪いよ」
「い、いつものことよ……大体、あんなの見せられて良い気分はしないでしょう……!?」
「………そうだよね」
顔色が悪い、と聞いて振り向こうとするが……
きっと錦織に「なに聞いてんのよ」と怒られるだけだ。
それに、彼女の血色が悪いのはいつものことだろう。
「デザイナー。アンタは正しかったのよ……だから私も同じように……」
「……錦織さん? どうかしたの?」
「ひっ!? ひとりごとまで、いちいち聞くんじゃないわよ……!?」
……私も同じように? どういう意味だ?
思わず振り返ったら、案の定ぎろりと睨まれた。
でも、なにも声は飛ぶことはなく、そのまま俯かれてしまった
これで、三回目の裁判は完全に終わってしまう。
そして十和田や真田がいない日々が始まってしまうんだ。
……ふと、足元を見るとなにかがエレベーターに入り込んできたことに気づく。
手に取らずともわかる。それは一枚の白い羽だった。
「……共に、堕ちたというのか」
彼らを、彼らへの思いも残したまま。
厳重なエレベーターの扉は無機質な音をたてて閉じた。
部屋に戻ったのはいつだったか。今は何時かも分からない。
俺はなにをするとでもなく、また書を仕上げていた。
君ならで
誰にか見せむ
梅の花
色をも香をも
知る人ぞ知る
あなた以外に、この梅の花を誰に見せましょうか。
この色も香りも、私たちだけのものにしましょう。
『古今和歌集』の『紀友則』の歌。そう言えば……紀友則って。
最初の夜。この学園に閉じ込められた時に書いたんだ。
繊細で、ほろりとそれこそ梅の香のように溶けてしまいそうなしなやかな歌。
――心慰みのつもりで書いているのか?
自分に問いかけても、答えなど返ってくるはずもない。
『彼らにとっての正しい殺人』を辺見が汚したこと。
もちろん正しい殺人など、この世に存在しない。それは俺も理解している。
今回の真田の犯行は罪深いことだ。
だけど、真田と十和田が望んだ決死の覚悟を辺見はいとも簡単に嘲笑った。
…………誰を憎めばいいんだ?
…………誰が、悪かったというのだろう?
答えを求めるように、俺は徐に真田のスケッチブックを開いてみた。
色鮮やかで新進気鋭なデザインの数々。
真田の生きていた証が、しっかりと残っている。
…………ふと、俺はデザインではない、文字の走り書きを見つけた。
『心理学の棚 140 徹底解剖! ジェノサイダー翔の謎!』
……これってなんだ?
…………いいや、もしかすると。
思い出したのは円居が残して、井伏が隠してくれた原稿用紙の束。
俺はすぐさま椅子から立ち上がって、よろける足取りで図書室に向かった。
向かった図書室は薄暗く、錦織はいなかった。
自室にいるのだろうか? でも、今は――140番の心理学の本を隈なく探す。
そして、スケッチブックに書かれていた名前の本を見つけ出した。
過激的な真紅の色の本に挟まれていたのは……トランプのカード。しかも、ハートのジャックだ。
俺はそれが挟まれているページを開く。
そこにはカラフルな封筒が折りはさまれていた。
丁重に、ゆっくりと開くと数枚の手紙だ。
文字は慌てて書いたのか、ひっかいたように鋭いものだった。
これを見ているってことは 十和田殺しのサイバンに成功した?
オメデトー! ウチは死んでると思うからイワっとくよ
これは、間違いなく真田の書いたものだろう。
さっきのスケッチブック、そして『絶対に来るな』と十和田に宛てたメモと同じ文体だ。
高ぶる心臓を抑え込みながら、俺は文面に視線を落とす。
ダラダラ書くのは、ウチらしくない
まず 話になってた 『辺見ルカリス』は 『白河海里』だ
もしもの時に ここに書いておく
でもなにがなんでもウチがぜったいに殺す
ウチは十和田を殺したんだから 辺見を殺せないワケがない
だから なにがあっても 必 ず 殺す
"必ず"の筆跡が強い。
果たして、角が真田を止めたことは正しかったのだろうか。
いや、どれが正しいなんて……今の俺たちの選択に正しいも誤りもあるものか。
次のハナシ ←ココからがダイジ!!
みんなって 今のウチらの記憶はぜんぶタダシイって思ってる?
記憶という文字に、俺の右手が震えたがすぐさま抑える。
俺の疑問や震えを解消するために、さらに視線を下の文章へと向ける。
いまから 書くことはウソだって思われるかもね
でも キモチはわかる
きっとこんなこと書かれたら うちもウソだって思っちゃうから
十和田が死ぬ前のこと
アイツと話すときがあったんだ
そのときに 急に ピキーンって 頭の中にシーンが浮かんだ瞬間があった
それは 十和田とユビキリをしたこと
笑いながら ゼッタイに生きようってチカいあったこと
ウチの頭に流れた そのシーンはアキラカに“コロシアイのときじゃない”ものだった
だって そのシーンで 目の前のアイツは 希望がみねの学校のセーフクだった
ユビキリをしていたのも知らない場所
なによりも… あんなにやさしいアイツの顔は知らなかった
どうして あんなシーンが浮かんだのか ウチにはワカらない
ウチが ただのデンパだって 笑うなら笑えばいい
でも もしも
ウチが一瞬だけ見たシーンが ウチ自身がちゃんと見たことならば
ウチはムカシに この学校で十和田と会っていたこと
ウチらがベツベツのクラスで過ごしてきたっていう今の思い出はマチガっている
…とも考えらんない?
“コロシアイのときじゃないシーン”?
十和田がこの学校の制服を着ていて、知らない場所にいたって……
そして彼女が見たというシーンに対して、彼女自身が推察したこと。
コロシアイ前に、学園内で十和田と会っていて彼女はその記憶を覚えていない。
だから、今の俺たちのほとんどが他のクラスで過ごしていたという事実は本当に正しいのか。
もしかして、真田が言いたかったことって。
あとサイゴに もう1つだけ
また ふとした瞬間に頭に流れたことがあった
それは… すんごくヘンっていうか 『だれかのコトバ』だった
だれが話してるのかは よくわからない
ただ声だけ タブンだけど ウチ(ウチら?)に向けられたコトバ
思い出せるハンイで書いとく
『 あなたたち95期生 が “ハコニワ”に選ばれたのは 他でもない “絶望のタネ”のせいです
そして この学園も 学園長も 世界も あなたがたに希望をたくしているんだ
どうか あなたがたが この学園で一生を終えることを
そう みんなが 望まれているのです それが世界の望みなのだから
希望のあなたがたたは 役目を果たしてくださいね』
…………どういう、ことだ?
真田が聞いたという謎の声による言葉に、何度も目を瞬かせてしまう。
“ハコニワ”というのは箱庭だろうか?
それに“絶望のタネ”ってなんだ?
それだけじゃない……95期生は俺たちのことだ。
つまり、俺たちがこの学園から一生を終えることを望まれているって?
しかも、それが役目っていったいどうい、
「……っう!?」
どうやら紙面に集中して気づけなかった。
――背後の大きな影に
―――鈍痛 暗転。
突如鋭くも眩しい閃光と共に、俺、は………。
「……う、うう」
気が付けばカーペットに手と膝をついていた。
まだ、頭がずきずきと痛む……なにが、あった……?
もしかして後ろから殴られたのか?
俺は座り込んだまま頭を擦り、カーペットを見て
…………カーペットしかない。
「な、ない……!?」
手元、足元を交互に見るも状況は同じ。
真田の手紙がなくなっている……!!
マナクマ? 辺見? それとも他の誰かが?
様々な憶測が飛び交うが、答えは得られなかった。
くっ、そ、なにやってんだよ俺……っ!!
思わず、近くの本棚を拳で殴りつける。
「なにしてんのよっ!?」
「あいだっ!?」
今度は脳天から痛みを喰らった。
視線を上げると、錦織が憤怒の形相で見下ろしていた。
手の形を見る限り、どうやらチョップを落としたようだ。
「本に傷をつけたら、ただじゃおかないからね……アンタの頸動脈をカッターで切り刻むわよ……!?」
「さっ、殺人予告じゃないか!?」
「そのぐらい本気ってことよ……!! と、ところであんた、なにしてんのよ……図書室じゃないと寝れない体質なのかしら……?」
皮肉のように言われたが……。
ここからはちょっと真面目に話さなければいけない。
「あ、あの実は……真田からメッセージが残されていて……その手紙がここにあって……」
「まどろっこしいわね……簡潔に言いなさいよ……!」
たしかに事情をあれこれ言うのも大変なので、かいつまんで話した。
真田が生存者のために手紙を残してくれたこと。
彼女の頭の中に流れたシーンのこと。
“箱庭”“絶望のタネ”というワード。
この学園に一生過ごすことを望まれていると言われた話。
一通りの話を聞いて「それで」と錦織は改まったようにつぶやく。
「……それで? その、手紙とやらは、どこにあるの……?」
「そ、それが、さっき殴られて気絶しちゃって、それで、な、なくって」
「ぬぁっ!? な、なんですって……!?」
「ご、ごめんっ! 俺がちゃんとしていなかったから!」
慌てて弁明をしようとするが、錦織から非難の声はあがらなかった。
むしろ、錦織は焦ったように瞳をきょろきょろと動かす。
「い、言っておくけど、私はあんたが座り込んでたときにちょうど来ただけで……わ、私は殴ってないからね……!?」
「ああ、わかっている。背の高い人だった……気がするから」
「あっ、上げ底とかも……してないんだからね……!」
「わ、わかってるよ」
錦織は「うう」と少しだけ呻き声をあげた。
そして、考え込むように親指の爪をぐっと噛む。
「じゃ、じゃあ……さっき教えてくれたマナミの話……まさか……」
「マナミの話、って?」
「……あ。そ、そうよ書道家……! なんで銭湯に来ないのよ……!?」
「な、なんでって、言われてないから」
「い、言われてなくても来なさいよ……! みんな集まっているのよ……死神以外は……」
そんなこと言われても……と思ったけど、もしかして自室にいなかったせいか?
どちらにせよ、理不尽じゃないか?
とにかく俺は錦織に押されるがまま、彼女とともに銭湯へ向かうことになった。
銭湯の脱衣所にはほとんどの人が集まっていた。
それこそ、辺見以外は全員だ。
だけど、皆が皆状況が状況で浮かない面立ちだ。
特に大豊は完全に疲労と絶望で意気消沈してしまっている……。
ベンチにパソコンが置かれていて、画面の中でマナミが涙目のまま映っていた。
錦織はすぐさま腕組をして、咳払いをする。
「さあ……あんたの新情報、教えてやりなさい……」
『え、えーと。マナクマが作ったらしい名簿がありまちてね……このコロシアイ学園生活が始まった時には、すでに17人いることがわかったんでちゅ……』
ざわ、とどよめく声が広がったがすぐさま収集がついた。
やはり、人数が少なくなったせいもあるのだろうか。
奇妙なところで、そんなことを実感させられる一抹の悔しさが残る。
「17って……や、やっぱり……潜伏者ってことかい!? そ、それで、誰だっていうんだ!」
『わ、わかりまちぇん。名簿の名前までは解析できなくて……でも、あちきは先生だったらいいな、なんて思っちゃってるんでちゅけど……あ、そうだ! さっき、いろんな写真を見つけまちたよ。そこに先生の写真もあったんでちゅ! ええとね……そうそう、この人でちゅよ』
要領を得ない口ぶりで、マナミは画面に写真を映し出した。
どことなく中性的で年齢不詳な顔立ちだ。
結われた長い金髪に、銀縁の眼鏡。
まるで一国の王子のような美形。大企業の御曹司って言われても頷けそうだ。
その顔は穏やかで、なおかつミステリアスな笑みを浮かべている。
『あのでちゅね、先生は』
「まあ。"チャーミング先生"でございますね」
『そうでちゅ! とってもラブリーチャーミーな教職者“チャーミング先生”でちゅー! ……って、ほえ?』
…………いまの、どういうことだ?
マナミの肯定もあって、一気に空気がねじれ曲がっていくような感覚に陥る。
俺たちは、頭の包帯がさらに痛々しくなっている角を一斉に振り向き見つめた。
「超高校級の怪盗として有名だった“佐藤チャーミング先生”でございますね……うふふ。相変らずお鼻立ちがすっきりしていて素敵でございます」
「な、なによ……美形のクセして三流芸人系列のダサい名前……い、いや、でもどういうこと……? なんでアンタ……」
「お、おい……どういうことだ貴様ッ!? 何故“チャーミング”を知っている!?」
「…………は、はぁっ!?」
って、ちょ、ちょっと待て。
困惑した空気に、さらに石が投げられたように動揺の波紋が広がる。
当人の彼も彼女も、そんな状況に臆す様子はなかった。
何故だ。どういうことなんだ。角。それに黒生寺も。
どうして、お前たちが?
「答えろ……何故だ……? 何故、貴様がチャーミングを知っているんだ……! アイツは……ッ!!」
それは、俺たちがお前にそっくりそのまま返したい言葉だった。
マナミまで、「あ、あのぉ……?」と入る余地がなく戸惑っている。
「何故って……だって芙蓉は、なにもかもを知っているのでございます」
フラワー・フローラ……いいや、角は絵画のように微笑む。
いつもの穏やかで健康的な笑みだというのに。
それが、何故、こんなにも俺たちを惑わせる。
何故、俺たちはこれに対して、「ちがうだろう」と言えないまま立ち竦んでしまっているんだ。
「先生のことも。黒生寺さまのことも。みなさまのことも。芙蓉はすべてを存じ上げているのでございますから」
角、お前は一体なにを言っているんだよ。
その疑問を口にするものは誰もいなかった。
何故なら、俺たちも。
コロシアイ学園生活――いままで資料に描かれていた写真や文章を思いだしていた。
そして、その真実の底を、俺たちは覗き込もうとしていた。
角は祈るように指を組み、清らかな微笑で目を閉じた。
「先生、ご覧になっておりますか? ようやく、みんな……再び巡り会えた時が訪れたのでございます」
Chapter3 21gを賭けた宣戦布告 完
イキノコリ:10
シボウ:2
◆『フルカラー・スケッチブック』を手に入れた!
真田が七島に手渡した色鮮やかなスケッチブック
菓子、天気、政治、生死……森羅万象のデザインが詰めこまれているが、制作秘話は作者のみぞ知る。
To be continued……