悟司さんの言葉を聞いて、私は高揚していた気持ちが急激に冷めていくのを感じた。
そう…その通りだ。私は負けることが怖い。なぜなら、人生という大きな挑戦で私は失敗して、男性恐怖症という病気になったから───
私は十代の頃、アイドルとして活動をしていた。地方ローカル局発のアイドルグループの一員にすぎなかったけれど、あの頃の私は、今と違い、誰とでも明るく接することが出来た。
グループの中でも笑顔を振りまくのが得意で、愛想笑いではなく本当の笑みを浮かべることが自慢だった。
それが壊れたのは、私のファンだった男が起こした事件。
その男によるSNSでの誹謗中傷、脅迫じみた所属事務所への怪文書、ストーカー被害、そして最後には思い出したくもない───傷害事件。
男は私に襲いかかり、服を裂き、私の身体に触れた。怖かった。本当に怖くて、心の底から震えた。
幸いにも、直ぐに現場で男は逮捕されたが、その日から私の世界は一変する。
男を見るだけで吐き気が込み上げてくるようになったのだ。事件のトラウマにより男性恐怖症に自分はなってしまっていた。
当然のように、アイドルとしての仕事なんて続けられるわけもなく、私はグループを脱退し、引退。しばらくは、外に出ることさえ出来なかった。
………自慢だった笑顔も出来なくなっていたのが悲しかったのを覚えている。
でも、それから現在に到るまで、病院に通い、何とか働けるよう社会復帰し、少しずつ、少しずつ、私は立ち直ろうとした。
マッチングアプリで男性と合うのは荒療治なのは自分でも分かっている。それでも、克服したかった。
「あなたには関係ありませんよ」
私から悟司さんへの返答は、恐ろしく冷たい言葉だった。
「……会うのが二回目の人は悟司さんが始めてでした。あまり積極的じゃないのが好ましかった」
事情を何も知らない彼に対して、強く突き放してしまう。自分の核心に触れられて、感情的になりすぎていると、冷めた私が忠告をしている気がする。
「……すみません。軽率な質問でした」
「………」
悟司さんの返事にも、私は黙ったまま俯くことしかできない。
怖い。彼の顔を見るのが怖くて仕方がない。なんて、私は、自分勝手な女なのだろうと思う。自分の都合で彼を傷つけて、悟司さんはただ私と会うことを愉しみにしてくれていただけだというのに。
彼が怒って帰ってもしょうがない。それだけのことを私は言ってしまった。
「じゃあ、次は俺のターンですね」
え?それなのに、悟司さんの口から出たのは思いもしない言葉で、私は俯いた顔を上げる。
彼は───きっと色々考えすぎたのだろう。引きつった笑顔のまま精一杯にこう言う。
「さらに失礼なこと言うかもしれないですけど、玲那さんって強い人だなって思ってます」
「何を……言って」
「だって、病気のこととか同情されたくなかったんじゃないですか?」
息を呑む。
「今のやり取りで、あなたが病気を、今の自分を変えようと努力しているのは伝わってきますよ。過去のことに触れられたくないことも。なら、そんな玲那さんに俺が取るべき行動は……」
そう言って、悟司さんはスマートフォンをタップして、止まっていたデュエルを進める。2ターン目、今度は彼の番だ。手札が一枚増える。
「苦しい時は一緒に気晴らしで遊ぶこと。って今は思ってます」
引いたカードを見て、悟司さんは笑う。
ああ──こんな人に会うのは始めてだ。こんなにも私を理解してくれる人に、今まで出会ったことはない。彼は私の過去を憐れむのではなく、ただ、今の私を見ていてくれていた。それがたまらなく嬉しい。
胸の奥が熱くなる。この人となら、私は前に進めるだろうか?
「……ごめんなさい。先程は本当に失礼なことを言ってしまって」
「いや、元々は踏み込んだことを聞いた俺が悪いですし、まぁ、これでおあいこということで」
謝罪をして、ようやくお互いに笑い合う。
「それに、言っておいて何ですけど。俺、これからデュエルで玲那さんに勝とうと思っているので」
「………え?」
「手札からBF-毒風のシムーンの効果を発動!」
悟司さんの突然の発言に驚く暇もなく。
マスターデュエルの画面に出てきたのは私が全く知らないカードだった。
効果モンスター
星6/闇属性/鳥獣族/攻1600/守2000
このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札からこのカード以外の「BF」モンスター1体を除外して発動できる。
デッキから「黒い旋風」1枚を選んで自分の魔法&罠ゾーンに表側表示で置く。その後、手札のこのカードをリリースなしで召喚するか、墓地へ送る。この効果で置いた「黒い旋風」はエンドフェイズに墓地へ送られ、自分は1000ダメージを受ける。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は闇属性モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。