悟司さんは沈黙した。それはつまり、この状況が積みだということ。
正直に言えば……彼ならまだ、何か私の想像もつかないことをしてくるんじゃないかと期待する気持ちもある。
だが、私は自身の手札のカードを見る。
もし、ここで彼がターンエンドした場合、私の手札には既に二体目の相剣師-莫邪がある。次のターンになればもう一度、相剣モンスターを展開することができる。そうなれば、勝負は決着してしまう。
「配られたカードで勝負するしかないのさ、それがどうゆう意味であれ」
唐突に彼が口を開き、そんなことを呟く。
「仕事柄。昔の漫画とかも参考にしたりするんですけど、これ、漫画でスヌーピーが言った台詞なんですよ」
スヌーピー?あの有名なキャラクターのこと?悟司さんの言葉の意味を考えていると、彼はさらに話を続ける。
「意味は……まぁ、わざわざ言う程でもないですが、誰もが自分の持っているものだけで人生を戦っていくしかないってところでしょうか」
「……中々、厳しい台詞ですね」
それに、まさに今の私達のような状況を指すにはぴったりの言葉だと思った。
マスターデュエルで追い込まれている彼と、現実で追い詰められている私。しかし、だからこそ不思議だった。何故このタイミングでそんな話を始めたのか。
「けど、マスターデュエルをしていると、こういう風にも思うんですよ」
悟司さんは残り2枚の手札のうち、1枚のカードを手に取る。
「墓地とか除外ゾーンを利用出来るのは───自分が失くしたものにも、人生を逆転できる可能性があるってことじゃないですかね?」
私は思わず息を呑む。
そして、悟司さんはそのカードを発動させた。
「俺は!BF-南風のアウステルを
チューナー・効果モンスター
星4/闇属性/鳥獣族/攻1300/守 0
このカードは特殊召喚できない。
(1)このカードが召喚に成功した時、除外されている自分のレベル4以下の「BF」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
(2)墓地のこのカードを除外し、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●自分フィールドの「ブラックフェザー・ドラゴン」1体を選び、相手フィールドのカードの数だけ黒羽カウンターを置く。
●相手フィールドの表側表示モンスター全てに可能な限り楔カウンターを1つずつ置く(最大1つまで)。
「通常召喚!?」
そんな!悟司さんはこのターン………うそ!まだ、特殊召喚しかしていない!?私の妨害が尽きるのを待っていたとしか思えないタイミングだ。まさか、温存していたというの?
「BF-南風のアウステルの効果を発動!除外されているBFモンスター1体を特殊召喚!!」
除外されているモンスター?
「戻ってこい!BF-砂塵のハルマッタン!!」
効果モンスター
星2/闇属性/鳥獣族/攻 800/守 800
「BF-砂塵のハルマッタン」の①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。
①自分フィールドに「BF-砂塵のハルマッタン」以外の「BF」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
②このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、このカード以外の自分フィールドの「BF」モンスター1体を対象として発動できる。このカードのレベルをそのモンスターのレベル分だけ上げる。
「発動処理により、手札のBF-砂塵のハルマッタンを除外する」
……最初のBF-毒風のシムーンの効果で除外されていたカード!そうか、あの時、フルール・ド・バロネスで効果は無効にしたけれど、このモンスターは発動条件で除外されていた。
「それじゃあ最初からこの状況を予想して?」
「ええ、こちらのプレイを徹底的に妨害されるのは分かってましたから。………強いカード、テーマ。それらは勿論、勝つために重要です」
悟司さんは私を見据えて言う。
「でも、最後に勝敗を分けるのはプレイヤー同士の駆け引き。まぁ、俺が一番遊んでて楽しく感じるところですね」
策が上手くいったことを喜ぶ彼の姿に少しムッとするが、息を吐き、少し冷静になる。
……悟司さんのフィールドには2体のモンスターが現れただけ、一体ここからどうするつもりなのか?
「BF-砂塵のハルマッタンの効果を発動!フィールドの星4、BF-南風のアウステルのレベル分だけ自身のレベルを増加させる」
元々あった星2に星4を足して、レベルを星6に変化させた。レベルを調整するだけで直接的には意味がない効果だ。
「だけど、この2体のレベルの合計は……10」
「その通り!BF-南風のアウステルと、BF-砂塵のハルマッタンの2体でシンクロ召喚!!」
私自身が相剣デッキを使っていたから、気づくのは早かった。
悟司さんのエクストラデッキにもあるということだ。シンクロモンスターが!
「俺のエースカードを見せてあげますよ!来い!BF-フルアーマード・ウィング!!」
現れたのは、右手に剣を、左手に銃を構えた黒翼の鳥獣戦士。これまでのBFモンスターとは明らかに威圧感の違うモンスターだ。
シンクロ・効果モンスター
星10/闇属性/鳥獣族/攻3000/守3000
「BF」チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
①このカードは他のカードの効果を受けない。
②このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドのモンスターが効果を発動する度に、その相手の表側表示モンスターに楔カウンターを1つ置く(最大1つまで)。
③1ターンに1度、相手フィールドの楔カウンターが置かれたモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのコントロールを得る。
④自分エンドフェイズに発動できる。フィールドの楔カウンターが置かれたモンスターを全て破壊する。
「攻撃力3000!でも、それなら私のフルール・ド・バロネスと同じ攻撃力で良くて相打ち」
だけど、効果が4つある。
どれも見たことがない効果だ。一見すると、この状況をどうにかできるとは思えないが……
「手札からBF-黒槍のブラストを特殊召喚」
効果モンスター
星4/闇属性/鳥獣族/攻1700/守 800
①自分フィールドに「BF-黒槍のブラスト」以外の「BF」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
②このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
悟司さんの最後の手札が明らかになる。
また、BFモンスター。いったい何体、このターンに召喚するつもり?
「ここで、墓地にあるBF-精鋭のゼピュロスの効果を発動!今、特殊召喚したBF-黒槍のブラストを手札に戻すことで、このカードを特殊召喚します」
効果モンスター
星4/闇属性/鳥獣族/攻1600/守1000
このカード名の効果はデュエル中に1度しか使用できない。
このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの表側表示のカード1枚を持ち主の手札に戻して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚し、自分は400ダメージを受ける。
あれは、私が相剣暗転で破壊したカード。
墓地から蘇生する効果を持っていたんだ……もしかして、破壊されるのも予想されていた?
でも、効果発動の対価として、折角、特殊召喚したBF-黒槍のブラストを、また戻しては意味がないんじゃ……
「400ダメージを受けます。が、もう一度、手札に戻したBF-黒槍のブラストをフィールドに特殊召喚」
悟司LP6800→LP6400。
……なるほど、特殊召喚にターン1制限の縛りが無いなら、もう一度特殊召喚出来るということ。……なんで、ターン1の縛りがないのかは分からないけれど、これで悟司さんの場には3体のBFモンスターが揃った。
仮に、攻撃力が同じ、私のフルール・ド・バロネスと彼のBF-フルアーマード・ウィングが相打ちになり、残りの2体で直接攻撃をしたとしても、私のLP8000を削るには足りない。逆転するという、彼のあと一手はなに?
「俺は墓地に送られたBF-南風のアウステルの第2の効果を発動!このカードを墓地から除外することで、玲那さんのフィールドのモンスター全てに楔カウンターを1つ置く!」
「私の場のモンスターはフルール・ド・バロネス1体だけ。……まって!
そうか、悟司さんの逆転する方法とは───
「これで、BF-フルアーマード・ウィングの効果を発動することが出来る!楔カウンターが置かれたフルール・ド・バロネスのコントロールを貰います!!」
私の場にいたフルール・ド・バロネスに楔が打ち込まれる。
それだけでは、何の意味もない効果。だが、それを条件として、悟司さんのBF-フルアーマード・ウィングの効果が発動される。私のモンスターのコントロールが奪われ、あろうことか、彼の場へとフルール・ド・バロネスは移ってしまった。
あ…と思わず声が溢れる。
………これで私の場を守るモンスターはもういない。完全に盤面は覆ってしまったのだ。───攫われた薔薇の騎士を見て、不思議と羨ましく思う。私自身と重ねてみてしまったような感覚。それは、奪われたのではなく。まるで───助けられたかのような。
「……人のモンスターを奪うなんて」
「妨害だらけの人に言われたくない」
何だか、おかしくて二人で少し笑ってしまう。悟司さんのフィールドに並ぶ4体のモンスターたち。既に合計の攻撃力は私のライフポイントを超えている。
「バトルフェイズ!BF-黒槍のブラストでダイレクトアタック、BF-精鋭のゼピュロスでダイレクトアタック、フルール・ド・バロネスでダイレクトアタック!!」
玲那LP8000→6300→4700→1700。
私のライフポイントの数字が減っていく。
「BF-フルアーマード・ウィングの攻撃!!」
玲那LP0。
ああ、負けちゃったな。
◆
危ねぇーーー!?いや、ギリギリすぎる勝利だった。
俺は、なんとか玲那さんに勝つことができた。彼女がどう思ってるかは知らないけれど、余裕なんて全然ない。いや、本当に。
玲那さんに手札誘発があったり、効果発動を無効にするタイミングが違えばどうなっていたか分からない。というより、負けてただろうな……俺のBFデッキは爆発力はあるけど、展開妨害されたら相手のターン何も出来ないし。悲しいなぁ。
「次は勝つわ」
「え?」
ほっと一息入れていたところへ玲那さんが言った言葉がこれだ。
「あ、ごめんなさい。聞こえなかった?」
「いや、聞こえてましたけど……」
いやぁ、途中の気まずい空気よりは全然マシなんだけど、出来れば今日は、このまま勝ち逃げしたかなーって。ここはもう一戦するのが正解なのか?……分からない。女性と仲良くなるのって難しい‼
そこにちょうど、頼んでいた料理を届けに店員さんが来てくれた。ふぅ、ありがとう。名もなき店員さん。
「むぅ。残念だけど、まずは食事ね」
「そうですね、アハハ…」
なんか、本当にただのマスターデュエルの対戦から色々あったけれど、今はとりあえず勝利の美酒ならぬ、勝利の飯を楽しもう。
食べようとしたところ、何故か彼女がじっとこちらを見つめているのに気がつく。
「どうしたんです?」
「ん、なんでもない。ただ……」
玲那さんは少し照れながら言う。
「これからも……よろしく」