プロセカ世界の住民がキズナランクを見れるようになった話 (なおキズナランク30な模様) 作:鳩羽しろ
『精神病 幻覚』
その文字を見た瞬間、わたしの世界が変わった気がした。
頭から血がさーっと消えていく感覚がして、そのスマホから出てくる光しか認識できなくなってくる。
「──えっ? どういう、こと……」
わたしはもっと近くで見るため、寝ているひよりの元へと近づいていく。
しかし、その文字は見間違いというわけではなく、近づくにつれて一文字一文字はっきりと見えてくる。
「見間違いじゃ、ない……ほんとう、なの?」
ひよりが精神病を患っている?
そんなわけ、ない。
絶対に絶対に絶対に違う。
「──そうだよね? ほんのちょっと調べてみただけなんだよね?」
……だけれども、心の底では不安を感じているのは確かで、今でも心臓がドクンドクンと嫌な響きを全身に行き渡らせている。
ひよりに直接聞けばいいだろうか?
でも、今ひよりは眠ってしまっていて起こすのも悪いし、なにより──
「──聞くのが……怖い……」
聞いてしまえば正しい事実を得ることができるだろうけれども、どうしてもそれが怖いと思ってしまった。
少なくとも、今この時間にひよりの口から真実は聞きたくない。
じゃあ、どうすれば……
「……そうだ、これを見れば……」
わたしは再びひよりの手に握られているスマホを見る。
これを見れば、さっきの文字が単なる気まぐれなものなのか、残酷なものなのかわかるかもしれない。
……ひよりには悪いけど、スマホ見させてもらうね。
わたしはひよりの指を一本一本スマホから剥がしていき、ひよりの手からスマホを徐々に離していく。
幸い、まだわたしは電源を切っていないので、スマホは着いたままだ。
「……ごめん、ひより。見させてもらうね」
ひよりの手から離されたスマホをわたしは拾い上げて、恐る恐るスマホの中を見る。
「──っ!? ……やっぱり、そうなの?」
ひよりのスマホを見ると、そこには夥しい数の精神病や幻覚についての履歴があった。
それこそいくらスクロールしても、他の記事がないくらいには。
もう、確定なのかな?
スクロールする内に、スマホの画面に涙が落ちたことで、わたしが泣いていることを気付かされた。
悲しさとどうしようもなさでわたし自身のことが虚しくなってくる。
でも──
「──だめだ。わたしが諦めちゃ、だめなんだ」
ひよりを救う曲を、わたしは作らなきゃいけないんだ。
わたしが諦めちゃったら、絶対にだめなんだ。
さっきまでの悲しさや虚しさは確かに胸の中にある。それこそ泣いてしまうほどには。
だけれども、それ以上にひよりを救いたいと言う感情が強くあった。
「わたしが……救わなきゃ……」
わたしはひよりの頭をそっと撫でた。
ひよりの寝顔はとても可愛らしく、悩みなんてこれっぽっちもなさそうな表情をしているけれど、あのことを知ってしまった後から見ると心なしか取り繕った笑顔のように見えてしまう。
「……でも、なんで精神病なんて──」
わからないのは原因だ。
でも、無闇に詮索するわけにもいかないし、そもそもなんで知っているのかと言われてしまうと……嫌われるかもしれない。
まだ、わたしにはひよりを救う覚悟がない。
いずれわたしの心の整理ができてから、ひよりのことをもっと知る必要がある。
「──もしかして、前に瑞希が言ってたことと関係があるのかな?」
ふと心当たりを思い出した。
それが原因の一つなのかはわからないけれど、それらしいのは間違いない。
でも、やっぱりもう少し時間が経ってから考えたい。
そうじゃないと──
「──本当に……死にたくなっちゃう」
「ごめん! わたしもう帰らなきゃだからまたね!」
「あ………うん。またね……」
私が起きる頃には、もうお日様は完全にお月様へと変わっていて、私はヤバいよヤバいよと喚き散らかしていた。
流石にお泊まりするわけにもいかないので、猛ダッシュで帰る支度をした。
……本当はお泊まりもしたいけど、流石に奏に迷惑だしやめた。
「それじゃあ、また。25時に、ナイトコードで!」
私は奏に大きく手を振って、急いで奏の家を去った。
奏も小さく手を振っているのが後ろを向くと見える。愛らしい。
私は行きよりかは全力ではないけれど小走りで走る。
そういえば……
「──奏以外の人にあれは見えないな……」
あの幻覚予備症候群のキズナランクとかなんとかは他の人の頭の上にはなぜかない。
本当になんでだ?
とうとう私の計り知れないほどの奏愛が引き起こしたヤバい幻なのかな?
だったらせめて幻覚なんだったら好感度めちゃくちゃ高くして欲しかった。
なんだキズナランク30って。
高いのか低いのかと言われれば絶対に低い方だろう。
どうせ幻覚なんだったらキズナランク100億とかだったらよかったのに……
「……まあ、所詮幻覚だから気にすることもないかー」
奏だけに出るのだとしたらの奏愛が引き起こしたのは確定だし、他の人には出る様子もないし、本当によくわからない。
一応記事を見てもそれらしいのはなかったから、幻覚とは断定できないけど、多分幻覚だ。
まあ、とりあえず言えることは──
「次会う時には消えててくれ」
『……それにしても、K、大丈夫かな? 突然休ませてくれって連絡来たけど』
『そうだよねー、Kにしては珍しいよね。……ひよりは何か知ってる?』
『…………ひより、すごい落ち込んでる』
『あちゃー……これじゃ原因分かりそうにないなー』
私ことひよりちゃんは絶賛鬱状態です。
理由はもちろんお分かりですね!?
奏がなぜかナイトコードに現れず、あまつさえ『ごめん。今日は休みます』と連絡が来たからです!
もしこの原因が私だったとしたら!!
私は私自身を呪います。絶対に。何があっても。
そんなわけで気分もやる気も何もかも落ちてしまった私が出来上がりました。
でも、最近奏は曲が出来上がる直前だと言うこともあり、徹夜で作業していることも多かったので、休むにはちょうど良いのかもしれない。
休んで欲しいと言う気持ちと奏に会いたい!!!!……という気持ちの二つがぶつかり合うけれど、!の数を見てわかる通り後者の方があまりにも大きい。
結果、鬱からは抜け出せない。
『……ひより。大丈夫なの? さっきからずっとだんまりだけど』
『………ごめん』
『……ひより、作業はちゃんとできてるの?』
『………ごめん……ごめん……』
『ちょっと雪! そう言うこと言わないの!』
本当にごめんなさい!
結局落ち込みは回復することもなく、今日の作業は停滞が続いた。
……かのように思っていたが、まさかの救世主が現れた。
『ま、まーまー。……よし、わかった! ボクからひよりに1つ提案があるんだけど聞いてくれる?』
『……? いいけど……提案ってなに?』
私は瑞希に提案があると言われるが、なんなのだろうか?
私は興味を持ち、ほんの少しだけ鬱から抜け出した。
『ボクがひよりのお願い1つ聞くからさ、元気出してくれたら嬉しいな〜』
『……え!? ほんと!?』
『おっ、食いついてきた。もちろん本当だよ』
私は問答無用でこの提案に乗る。
当たり前だよね。誰だって乗るよね。
『じゃあ、元気出す!!』
『…………単純』
『本当ね。餌を前にした子犬みたい」
まふゆと絵名が若干呆れているが、そんなの知ったことじゃない。
私は私の願いが叶えられるのなら問答無用で
──犬になれる!!!
『やった〜!!』
『……言っておくけど、オーバーすぎるのはやめてね! ダイヤモンド買ってとか裸で街中歩いてとか』
『私のことなんだと思ってるの!?』
心外すぎる。
流石に私は小学生じゃないんだし、頼むにしてもルビーとかサファイアとかにするのに。
裸は……ちょっと興味あるけど。
それじゃあ、何をお願いしようかな……そうだ!
『……明日……いや今日、Amiaは予定ある?』
『え? ないよ。それがどうかしたの?』
『それじゃあ、どこかに遊びに行こ!』
私のお願いはズバリ、直接会いたい! そしてなにかしたい!
私のお願い瑞希は聞いてけれるかな?
『え〜!? 遊びに……か』
『ダメかな?』
『…………いや、いいよ。じゃあ遊びに行こうか!』
私は喜びで目の前が明るくなったような気がした。
『やったーー!!』
『…………うるさい』
『はあ……瑞希も羨ましいわね』
私はその後はとても上機嫌で作業をすることができたのだが、なぜかまふゆと絵名は終始不機嫌だった。
誘ってみたが、何やら2人とも予定があるらしい。
盛大に遊びにいくアピールをしまくったら、珍しくまふゆと絵名が協力し、めちゃくちゃ怒られた。悲しい。
ボクこと暁山瑞希にはどうしても守りたい人がいる。
その人の名前は如月ひより。
ニーゴの中ではボクと同い年のたった1人の人物で、とてもよく話す仲だ。
でも、ひよりはとても年下っぽい……というか妹っぽい。
ボクに妹がいたらこんな感じなのかなーと感じることがとても多く、つい甘やかしてしまうことがある。
絵名も弟持ちだけど、こんな感じなのかなー?と聞いたことがあるけど秒で否定された。
とにかく、ひよりは可愛らしい。
ボクが霞んでしまうほどには。
だけれども、そこには嫉妬などの悪感情は一切なく、あるのはこの笑顔を守りたいと言う母性のようなものだけ。
でも、この守りたいという感情は、ただただひよりが可愛いという理由だけではない。
あるきっかけが原因で、その感情が爆発した。
昔、ひよりはいじめられていたことがあるらしい。
ある時、ボクはひよりと二人で買い物をしに行ったことがあった。
待ち合わせの時間が少し過ぎて、ボクはひよりがどこかわからなくなっているのだと思い、探しに行った。
幸いにもすぐにひよりは見つかったのだが、ひよりは何人かの女子たちに囲まれていた。
なんだろうと思って近づいた時、その人たち中の一人が言った言葉がボクの耳に届いてきた。
「ひよりってまだ機械とかいじってるの? ほんと女子らしくないよね〜」
ボクはその時どんな表情をしていたのかは知らない。
ただ、煮えたぎるほどの怒りが湧いたのはわかった。
ボクは〜らしいという言葉が好きじゃない。
昔、ボクもそれで悩んでいた時期もあるくらいだし、なんなら今も悩んでいる。
男子らしく……じゃなくてボクらしく。
好きを貫いたからこそ今のボクがいるのは確かだった。
……だからこそ、ボクはこういうことを言う人が嫌いだ。
ボクが言われる分には構わない。
でも、ひよりがそれを言われているのは、どうしようもなく……腹が立つ。
その後のボクの行動は速かった。
「ちょっと、ひよりから離れてくれる? ボクはこれからひよりと買い物に行くんだ」
「あ……瑞希」
「え、なに? 知り合い? いいじゃん、ちょっとぐらい。あなたも一緒に喋ろーよ」
「……ボクは、さっきみたいなことを言う人と話したくない」
ボクがそう言うとひよりを含む全員が驚いた表情をして、すぐさまこっちを睨んでくる。
「は? なにこいつ? 本当のこと言っただけじゃん。女子らしくないなーって」
「そうだよ! 何が悪いか言ってみてよ?」
もう、こいつらと話したくないと言う気持ちがおかしなくらいあり、怒鳴りたいと本気で思ったが、ひよりがいるおかげですんでのところで冷静になれた。
「もう……どこかに行ってよ……」
「なにこいつ? ……つまらないし、もう行こ」
リーダーらしきその人がそう言うと、すぐに僕たちから離れ始め、最後にはボクとひよりだけになっていた。
……なんとか追い払えた。
隣にチラッと視線を配らせると、ひよりが心配そうにこちらを見ているのがわかる。
「ごめん、瑞希……遅れちゃった」
場違いな事を言うひよりがおかしくてクスッとボクは笑う。
「それぐらいぜんっぜん大丈夫! ……ひよりの方こそ大丈夫? あいつらに囲まれてたけど……」
ボクがそう言うとひよりはほんの少しだけ笑ってこう言う。
「大丈夫だよ! ああいうの慣れてるから!」
……これで、泣きたくならないわけがない。
ボクは必死に泣くのを我慢し、言葉を紡いだ。
「……ダメだよ、ああいうのに慣れちゃ〜……辛くなったらいつでも言ってね」
「それもそうだね……でも辛くはならないから安心して……それに──」
ボクはその後にひよりが言った言葉を今でも鮮明に覚えている。
「──私は機械が好きだし!」
その時にボクの心のブレーキが壊れた。
涙をこらえるのが我慢できなくなり、ボクはボクよりも小さなその身体を引き寄せてぎゅっと抱きしめた。
ボクが静かに泣いている間、ひよりも同じように静かだった。
……こんなことがあったら、守りたいと思うのも当然だと思う。
それ以来、ボクはひよりのことを守りたいと強く思うようになり、それと同じように大好きになっていった。
ボクはひよりのことが大好きだ。
それはひよりとボクが少し似ているからなのか、単純にひよりの魅力に惹かれているだけなのかはボク自身も分からない。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
ここからは完全に僕の後日談みたいなものなんですが……。
瑞希の話を書いて思ったことがあるんですけど……この人、めっちゃ書きやすいです。
筆がもうめっちゃくちゃ進む。
あと心の声の口調とかを合わせやすいですね。
奏の話を書いてると、絶対こんなんじゃないよな…ってなる場面が多かったんですが、瑞希にはそれがあんまりないんですよね。
……正直、いずれ来るまふゆの話で口調がはちゃめちゃにならん気がしないでもないのが怖いです……。
もしも! もしも、プロセカの二次創作を書こうと意気込んでいる方は!
瑞希を最初に書く事を強くお勧めします!!
……プロセカの二次創作もっと増えて欲しいですね。できれば曇らせ系。