曇らせ初心者なので歴戦の猛者の皆様には物足りないかもしれないです。
僕は寝ている時にある事を思いついた。
僕の幼馴染、高咲侑を曇らせることだ。
何か前兆があった訳では無い、前々から考えた訳でもない。パッと僕の頭に思い浮かんだのだ。
彼女、侑を曇らせろと。それはまるで神様から啓示を受けるかのように唐突に。
寝ている時なのだから無意識だろうし、無意識というものは何時でも天才なのできっと神様からのお告げと言っても過言ではない。
まず僕は考えた。彼女を曇らせるためには何をすればいいのか。
そのせいで僕は寝不足になったし、風邪だって引いた。看病をしに来た侑の顔は呆れたような顔で僕の望んでいるような顔では無い。
別に僕が侑の代わりにせつ菜とイチャイチャしてもいいのだが、そうすると違う方が反応して、「いい加減にしてよ! 私とせつ菜ちゃんどっちが大事なの!」と違う方が曇ってしまうのでダメなのだ。
あの様になった歩夢を止めるのは大変骨が折れる。
そんな時、また僕は啓示を受けたのだ。
もう一人の幼馴染、上原歩夢と付き合う、恋愛関係になる事で彼女の曇った顔が見れるのではないだろうかと。
僕に好意はないにしろあるにしろ(恐らくないのだろうが)、一緒に過ごしてきた幼馴染同士が付き合うというのは、今まで保てていた三人の輪から一人だけ出された様な感じがしてきっと辛いはずなのだ。そして僕はその顔を見たい。
やっている事は人間として男として最低だとわかっているけれど僕にとってはどうでもいい。
彼女の曇り顔を見る事の方が幸せの秩序を守るより、平和を守るよりよっぽど重要な事だと僕は思えた。
###
僕たち三人の朝は高咲家で三人で朝ごはんを食べる事から始まる。
前は僕の家だったけれど、侑があまりにも寝坊をするものだから侑の家にしようということになった。
合鍵で玄関の扉を開けると、とてもいい匂いがした。朝ごはんの匂いだ。
靴を脱いでリビングへ向かうと台所で味噌汁をかき混ぜている歩夢の姿が見えた。
歩夢はとてもいい幼馴染である、僕たち二人の面倒をよく見てくれるし、朝ごはんだって美味しい。
一部を除けばとてもいい僕たちには勿体ない幼馴染である。僕たちを包む優しさはまるで母の様でもあった。
「歩夢、おはよう」
僕はそう呼び掛けるとくるりと振り向いて、微笑みながら「うん、おはよう」とお玉で小皿に移した味噌汁の味を確認しながら云った。
「歩夢、今日大切な話があるんだ、放課後二人で話できないかな?」
「だ、大事な話? う、うん、勿論いいよ。珍しいね」
少しばかり頬を赤らめている歩夢。
さっき味噌汁でやけどしたのだろうか。
「あまり侑には聞かれたくない話なんだ」
「侑ちゃんにも聞かれたくない……うん、分かった。後で皆に遅れるって言わないとね」
僕はその後侑を起こして欲しいと言われて、彼女が寝ている部屋へ向かった。
ノックをしても返事は無かったので入ると、すやすやと呑気に眠っていた。
「ほら、侑起きろ」
「う〜ん、あと5分……」
「もう歩夢、朝ごはん作ってるぞ」
「抱っこして〜」
赤ちゃんか。と思った。笑いのツボだけではなく起きたばっかりの時も赤ちゃんとは。
面倒臭いので、僕はそのまま侑の手を掴んで引きずる様にしてリビングへ移動した。
「もぅ〜もっと優しくしてよ、あ、歩夢おはよう」
「侑にはそれで十分だ」
「うん、侑ちゃんおはよう」
朝食をテーブルに並べていた歩夢は、こちらを見るとにっこりと笑った。
侑は「酷いよ〜」と僕を見つめながら見てテーブルに着いた。
「女の子に優しくできないと彼女も出来ないねー」
「今別に彼女を作ろうと特別思っていないよ、残念ながら」
僕はそんな事より、侑を曇らせる方が重要だから。
まぁ、今から歩夢に告白をするのだけれど、事前に知らせるのはあまり面白くない。曇り顔も少しばかり減ってしまう。
僕がそういうと何処か侑は嬉しそうに笑った。
そんなに先を越されるのが悔しいのだろうか。
「だよね、私達の方が大事だもんね」
そして、僕たちは朝ごはんを食べ、学校に向かった。
###
あれから時間は過ぎ、授業が全て終わると僕は歩夢を屋上へ呼び出した。
「ごめんね、ちょっと遅れて。侑ちゃんに怪しまれちゃって……」
「全然大丈夫だよ」
「どうしたの? いきなり二人きりで話したいって」
僕の真意を図るように僕の目を下から覗き込むようにして云った。
「何か告白でもしそうな雰囲気だよ」
きっと何か僕の何かを感じ取ったのだろう。少しばかり揶揄う様に歩夢は微笑んだ。
「そう、僕は今日歩夢に告白しようと思って呼んだんだ」
「そうなんだ……ってええ!! 本当なの……?」
「歩夢、僕と付き合って欲しい」
やっとこれで僕は次のステップに進む事が出来る。
ここで歩夢が断る事を考えないで作戦を立てたものだから、もし断られたら違う方法を考えるしかない。
「侑ちゃんじゃなくて私でいいの……?」
「歩夢がいいんだ」
暫く彼女は考え込んだ後、OKをしてくれて僕たちは付き合う事になった。
「何か照れるね」
「確かに」
そんな訳で僕達は幼馴染から恋人にステップアップした。それを口にするのは少しばかり恥ずかしかった。
そして、これで僕は侑も曇らせる準備が全て完了した。
###
夕飯時になると、彼女は僕にボディタッチが多くなった。前より物理的距離が短くなったし、何かを確かめるように僕と手を繋いだりした。
そんなことを三人の時にすれば流石に侑は怪しんだ。いや、怪しむと言うより、何か苛立ちが募っていくようにどんどんと時間が経つにつれて機嫌が悪くなって言った。
ご飯も食べ、宿題も終わり普段ならもう各自家に帰るのだけれど今日は僕は侑に呼び止められた。
きっと歩夢と僕の事だろう。
ここからが本番だ。
彼女の部屋に入ると、侑は腕を組みながら僕を睨みつけるようにして見つめた。
「何か今日やけに歩夢と距離が近くなかった?」
「そうかな」
「そうだよ、ずっと今日は二人でベタベタとしていてまるで恋人みたいだった」
「僕と歩夢は付き合うことにしたんだ」
一瞬、時が止まったような感覚があった。
侑は驚いて目を見開いてただどこかを見つめていた。暫く視線をさ迷わせた後、項垂れるように俯いた。
「なんで? 何で歩夢なの?」
「なんでって……」
空気が急に冷たくなった気がした。
侑の顔は今俯いていて、どういう表情なのかは分からないけれど、何処か落ち込んでいる様な納得出来ていない様な感じがあった。
僕が心配になって見ようとした途端、彼女は僕に飛び掛かってきた。
急な事に対処出来なかった僕は、見事に彼女に上を取られて、動けないように乗られている。
「侑……?」
「なんで……! 何で歩夢なの……、私じゃないの!」
堰が破られた川のように、彼女は畳み掛けるように話した。
「なんで歩夢なの? 私じゃなかったの? 確かに歩夢の方が料理は上手いかもしれないし女の子っぽいかもしれない。でも……私が君を好きって言う気持ちは歩夢には負けない、いや歩夢以上だよ!! なのに……なのに、なんで……?」
そのまま力が抜けた様に僕にもたれかかってくる。
「侑、落ち着いてって。何だかとっても侑らしくないよ」
「落ち着けないよ! だって、私の方が好きなのに……」
僕は曇らせたかっただけなのに、なぜこんな事になっているのだろう。
僕の予想では『あ、そうなんだ……と、とってもお似合いだと思うよ! 私ちょっと用事思い出したから!』位で治まると思っていた。その後ネタバラシをするなり、その顔をずっと楽しむなりすればいいと思っていた。
きっと僕たちの関係は薄氷の上でダンスをしている様なものだった。そして僕はダンスのステップを間違えたせいで皆が水に溺れた。
「なんで? なんで? なんで? なんで? なんで?」
彼女はしばらくして何かを呪文のように小さい声で連呼していた。とても不気味だった。
「あ、まだ歩夢とエッチな事してないでしょ、キスだってまだかもね」
急に彼女は手を判子を押すようにポンと叩いた。僕は嫌な予感があった。それ以上言わせたらもう元に戻れないような
「まて……それはダメだ」
「このままじゃきっと君は私を忘れて、歩夢と何処か私を置いてどっか言っちゃいそうだし、新しく君の魅力に魅せられる
「ダメだ、侑、それ以上進んだら元に戻れない」
「えへへ、戻る必要なんて無いよ。君と一緒に堕ちるなら私はむしろ本望だよ。君に私の全てをあげるから、私に君の全てを頂戴? 君の頭から爪の先まで君の吐く言葉、愛、全部私に頂戴、その代わり私の全ても君のものだよ、二人の将来もね」
虚ろな目でずっと興奮気味に話している侑はとても気味が悪かった。さっさと逃げ出したかった。
戻れるなら物語の最初に戻りたかった。
そんな事はいつの間にか万力の様に握られていた侑の両手が許さないし、上に乗られている以上、僕が取れる手段は何も無かった。彼女の興奮と共に話される話を聞き、勝手に進められる物語に流される事しか出来なかった。まるで僕の意志に関わらず予め進む方向が決まっているRPGゲームの様だった。
彼女は手始めに僕の首筋に噛み付いた。まるで肉を食む肉食獣みたいに。
それと同時にスルッと外された彼女のリボンの音がイヤに大きく聞こえた様な気がした。
どんな風に高咲侑を曇らせたい?
-
何かが起こる(事故、自分を庇って怪我)
-
環境の変化が起こる(彼女が出来る、転校)
-
第三者の影響を受ける(過労、記憶を失う)
-
その他 (良ければ感想等に)