高咲侑を曇らせたい   作:ぽぽろ

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他に色々書いてたらこんなに空いてた。



急に目の前からいなくなって曇らせたい

「ここから引っ越す事になったよ」

 

 僕は対面に座る少女、歩夢に向けて言った。

 彼女は紅茶の入ったマグカップを両手で強く握りながら力無く笑った。

 

「さみしくなっちゃうね」

「僕だって納得している訳じゃないよ、でも仕方の無い」

 

 僕はふぅ。と息を吐いた。胸に詰まった空気の塊を押し出すみたいに。

 

「この事を侑ちゃんには……?」

「まだ言ってないよ。本当は2人まとめて言おうと思ってたんだけれど、侑がいなかったから」

「あのね、もしかしたらなんだけど、この事侑ちゃんには言わない方がいいかも……」

 

 僕の顔を伺うようにして歩夢は言った。

「なんで?」と僕は返した。

 

「あのね、別に侑ちゃんに意地悪をしたいから言ってる訳じゃないんだよ? これは信じて欲しいんだ」

「うん、わかっているよ。歩夢はそんな事をするような人じゃないからね」

 

 すると彼女はどこか緊張した面持ちで大きく息を吐いた。マグカップから立ち上る湯気が彼女の息で切り払われ二つに分かれた。僕はその湯気の行先を眺めていた。

折角別れた湯気は上でまた一つになっていた。まるで運命づけられているみたいに

 

「侑ちゃんはあまり詳しくは言えないし、私もなんて言っていいのか分からないんだけれど、何かそれを言う事が悪い方に行ってしまうような気がするんだ」

 

「悪い方?」と僕は聞き返す。別に幼馴染に引越しを告げる事に良いも悪いもあるのだろうか。

 けれど歩夢が言うのだから、そういうものがあるのかもしれない。

 

「本当に何て言えばいいのか分からないんだけれど、勘……みたいなものかな」

 

 うーん。と悩ましく歩夢は首をひねりながら言った。

 

「分かった。侑には伏せておくよ」

 

 僕は紅茶を一口飲みながら言った。

 

「侑ちゃんはきっと悲しむだろうね」

「そうかもしれない」

 

 ###

 

 それから僕達3人は何事も無かったかのように過ごした。そしてちょくちょく用事があるのだと言って少しづつ引越し準備を進めた。

 

 歩夢が協力してくれたのもあって特に怪しまれる事も無かった。

 

 そして僕の引越しも近づいてきた時、侑の案で僕達三人は学校帰りにショッピングモールへ行く事にした。

 着くや否や侑は目を輝かせながら色々な店で立ち止まり見ていた。さながら子供のようだ。

 

「これいいなー、いやでもお金今日あんま持ってきてない…………最近、色々買っちゃったしなぁ……」

 

 急にずっと何かを見ていて、僕達は気になってついて行くと、彼女が悩ましそうに見ていたのは若木の葉っぱの様な髪ゴムやロング丈のチュニック、そして中心にアネモネが彩られたネックレス。

 合計で七千円弱。学生には辛い金額だ。

 

「僕が買ってあげるよ」

「本当に!? ありがとう!」

 

 彼女は僕の腕に抱きついてきた。

 どうせ僕は引越しをするのだ。もしかたらもう会わないかもしれない。そう思うと、最後に甘やかすくらいしてもいいだろう。

 せめてものの僕ができる精一杯のものだった。

 

 そう考えていると侑は僕の顔をじっと見つめていた。僕の目から何かを読み取ろうとしているみたいに。

 

「なにか隠してる?」

 

 僕は彼女にバレない程度に歩夢を一瞬見た。

 歩夢は小さく頭を横に振っていた。

 こういう時の女性の勘という物は怖いものだ。

 

「別に何も隠してないよ、ほら、喉乾いたし何か飲みに行こうか」

 

 僕は彼女の目を見ながら言った。

 

 ###

 

「いやー、本当にありがとうね! 一目惚れしちゃって」

 

 彼女はクリスマスプレゼントを貰った子供みたいに袋を抱きしめていた。

 

「本当に良かったの?」

 

 歩夢は心配そうにこちらを見ていた。

 

「最近、侑は頑張っているみたいだからさ。ご褒美があってもいいんじゃないかなと思って」

 

 僕はチラリと歩夢を見てアイコンタクトをすると、彼女は納得したように小さくうなづいた。

 

「確かに侑ちゃん、最近作曲頑張ってたもんね」

「そうそう! 本当に大変だったよ、人数も最初に比べて大分増えちゃったし」

 

 彼女はため息を吐き、店の新作だというパフェみたいな飲み物を飲み、「でも楽しいんだけどね」と付け加えた。

 

「だからさ、歩夢にも君にももっと私の曲を聞いて欲しいし、歌って欲しい。それだけで私は頑張れるんだよ」

 

 その言葉にはどこか含みのある様な吐息が混ぜられていた。

 

 ###

 

 それから僕はついに引越しをする日になり、荷物を全て詰め歩夢にはメッセージアプリで挨拶だけした。やはり後ろ髪を引かれる気持ちがあったが仕方ない。

 

 しばらくすると、歩夢から、侑が僕を探し回っている。というメッセージが来た。

 僕は少し罪悪感と微笑ましさを抱きながら携帯の電源を消した。

 

 ###

 

 新しい生活にも慣れてきた頃、歩夢と侑のいた近くに用事があり戻る事になった。

 その後は時間もあるし、家に寄ってもいいだろう。

 

 僕は2人を驚かせてやろうと行く事を連絡しないことに決めた。

 2人の驚く顔が楽しみだ。

 

 ###

 

 僕は2人の家の近くに着くと、大きく息を吸った。

 引越しをしてからあまり時間が経っていないのに何だか懐かしさを胸いっぱいに吸いたくなったのだ。

 

 3人の集まる場所であった侑の家のインターホンを押した。

 ピンポーンと家の中で響く音がした。

「はーい」と声が聞こえてからしばらくすると、ドアが開いた。

 

「ただいま、侑。歩夢はいる?」

 

 僕の顔を見るや否や侑は泣き始めた。

 僕は驚いて何も出来なかったが、彼女が僕に抱きついてきたので優しく背中を叩いてやった。

 

「本当に……? 本当に君なの?」

「近くに用事があったから来たんだ」

 

 彼女は僕の胸の中で大きく息を吸った。

 まるで僕の匂いを全身に吸い込むみたいに。

 

「いきなりどっかに行っちゃったからもう帰ってこないのかと思ったんだよ! 私の事が嫌いになったのかなって!」

「別に歩夢と侑の事が嫌いになった訳じゃない。引越しをすることになったんだ」

「なんで私に言わなかったの?」

 

 僕の目を見る侑の目は闇を携えていた。

 幾重にも塗りつぶされたかのような黒。

 前との彼女の変化に僕は驚いたが、きっと僕が急に消えたみたいなものだから寂しさから来るものなのだろう。

 

 彼女の部屋へと僕は通された。いつもはリビングだったから疑問はあったが、どっちでも別に変わりはない。

 僕は彼女のベットへ腰を掛けると、彼女は僕のすぐ隣、僕にくっつくように座った。

 

「侑?」

 

 彼女から切羽詰まった様な雰囲気を感じて呼ぶと、侑はにっこりと笑って僕をベットに押し倒した。

 

 カチリと何かを嵌める音がした。

 同時に手首に何やら冷たい金属のような感触があった。

 そして呆気に取られている間にその片方を彼女のベットの柵に着けた。

 

 普段ならドキリとしそうな彼女のベットから漂う甘い匂いが今ばかりは僕を苛立たせた

 

「侑、外してよ。これ」

「ごめんね、こればっかりは私のわがままなんだ。もう私には君がいなくてはダメなんだよ」

 

 母親に縋り付く子供の様な声だった。

 彼女は身動きが取れない僕の事を思っいきり抱きしめた。

 

 ###

 

「ただいま!」

 

 僕はゆっくりと身体を起こす。それに伴ってなる金属の音がやかましかった。

 時間は分からないけれど、彼女の額に光る汗を見る限り、彼女は学校が終わり次第急いで帰ってきている様だった。

 そして帰ってくると決まって僕の首に顔を埋め、高級な果物の匂いを嗅ぐように匂いを鼻に入れた。

 

「良かった……今日も居てくれてる……」

 

 朝ぶりだというのに家族と久しぶりに再開したかのように嬉しそうな顔をした。

 微塵も動けない僕に対して"いる"とはどういうつもりだろうか。

 彼女が帰ってくると僕は少しばかり自由が得られた。

 とは言っても体を動かせる。ということだけだ。

 

 彼女と一緒にいる時は外も歩けた。

 けれど、いつも僕の手とベットの柵に着いていた手錠の片方は侑の手首に掛かっていた。

 そして、手錠を隠すように僕たちは恋人の様にピタリとくっつきながら手を繋ぎ歩いた。

 その時も彼女はとても幸せ様な顔をしていた。

 

 僕は引越しをした新しい家の事を思い浮かべた。

 けれど、それはモヤがかかったように上手く思い出す事が出来なかった。




ハッピーエンド!!!

どんな風に高咲侑を曇らせたい?

  • 何かが起こる(事故、自分を庇って怪我)
  • 環境の変化が起こる(彼女が出来る、転校)
  • 第三者の影響を受ける(過労、記憶を失う)
  • その他 (良ければ感想等に)
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