無限列車での戦いは終わった。下弦の壱、そして上弦の弐、上弦の壱のの襲撃があったが一般人死傷者出ず、鬼殺隊も怪我人が出ることはあれど死傷者無し。
これだけ見れば大金星であるが、その当事者達は浮かれている余裕など無かった。各々が自身の無力さに打ちひしがれ、上弦の鬼の実態と力を知る事となる。
さらに、
嵐柱 八雲舞銀が重傷を負い蝶屋敷に運ばれた。隠に運ぶ場所を指示しながらしのぶが声を掛け続ける。
「しっかりしなさい舞銀!アンタが死んだら真菰や皆が悲しむわよ!!アオイ!舞銀を処置室に運ぶわ!姉さんにも声掛けて!」
「分かりました!」
正確に数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの切り傷。一際目を引くのは背中の傷である。背中からの出血、傷の深さ的に一刻の猶予も無いと言う緊迫感がある。
「しのぶ!状況はどう!?舞銀ちゃん!頑張って!」
花柱 胡蝶カナエも合流し二人の姉妹による処置が開始された。
「舞銀は大丈夫か!?」
「真菰や炭治郎、他の皆は大丈夫なのか?」
真っ先に来たのは水柱の鱗滝錆兎とその継子、冨岡義勇。二人の妹弟子を心配して駆けつけたのだ。それにアオイが対応する。
「今、舞銀様はカナエ様としのぶさんが処置をしています!今回の件で一番の重傷でしたので。真菰さんも肋骨が折れているのでしばらく安静なのですが……」
言い淀むアオイ。錆兎が肩を掴み
「安静だがどうしたのだ!?言ってくれ!」
「錆兎、落ち着け……!他の隊士達も療養している……!」
義勇が錆兎を止めようとする。アオイは錆兎に促され続きを話す。
「怪我よりも……精神が受けた負荷の方が……」
「どういう事なんだ?」
今度は義勇が務めて冷静にアオイに聞く。アオイは聞いた話を思い出し震えながらに言う。
「舞銀様は真菰さんを庇って上弦ノ鬼に斬られたと……。舞銀様の名前を何度か呼びかけて、慟哭を上げて気絶されたと聞いてます……」
「そんな……!」
「舞銀……真菰……!」
二人は自分達が今何も出来ない事を呪いながらも舞銀と真菰の処置が上手く行くことを願う。
「不甲斐ない!柱として本当に不甲斐ない!!」
無限列車の事件から二日後。煉獄は蝶屋敷のベッドで他の柱と話をしていた。
「けど、死者を一人も出さずに退けたのなら大金星だろ。派手にやるじゃねぇか煉獄!」
「うむ!列車の乗客に大した怪我が無くてよかった!!竈門少年も猪頭少年も、黄色い少年も真菰も無事だった。だが、舞銀が来なければ、俺と真菰のどちらかは死んでいただろうな」
宇髄の言葉に頷きながらに煉獄は話す。
「先ず、上弦の弐は体術主体の鬼だった。血鬼術と言うよりほとんどが鬼の純粋な身体能力から出される純粋な体術だ。どんな攻撃も対応してくる上に、再生速度も並じゃない。柱2,3人相当と言うのはその通りだと思う!!」
猗窩座について煉獄が体験した事を話す。
「加えて、今以上に柱同士の連携、鍛錬した方が良いとは思うが!現状だとそれに割いている時間が無いのも事実!鬼をそっちのけで鍛錬とは難しい話だからな!」
「そうだなァ。手っ取り早いのは柱同士での模擬戦をすることだろうけどよぉ。鬼の被害が出ているのに呑気に鍛錬に打ち込んでいる時間はねぇな」
風柱の不死川実弥も難しそうに言う。以前に舞銀と模擬戦をして多くの物を得た彼。鍛錬したことにより、その日の担当地区は舞銀が行う事になった。その事も考えると、あの時は例外であろうとも、鬼の被害が出ている以上任務が優先である。
「だが、強くなるには実戦と鍛錬しかない。泣きごと言わずにやるしか無いだろ。交代しながらでも」
錆兎がそう言う。今回の件に関して冷静に見えるが心は穏やかでは無い。弟弟子三人が鬼の襲撃を受けているのだ。それも重傷とあらば心中察する物がある。
「お館様に話してみる他あるまい。これ以上は怪我に障る。一先ずは解散としよう。煉獄、貴重な話感謝する」
「うむ!悲鳴嶼さん、それにみんな見舞いありがとう!」
そうして柱は帰る。残るのは錆兎のみである。
「……竈門少年や八雲、真菰の容態はどうだ?」
煉獄が錆兎に尋ねる。錆兎は
「炭治郎、善逸、伊之助の三人はしばらく療養。真菰の方の怪我は煉獄と同じくらいだ……。だが、大分魘されたり、自分を責めているな……舞銀の件が相当堪えているようだ。舞銀はまだ意識戻らずだ……」
錆兎が手で顔を覆いながら言う。
「そうか……。本当に面目ない!俺が付いていながら情けない話だ……!」
煉獄は悔しさを滲ませながらに言う。らしくないで片付けるには今回の戦いでは多くの課題を前に晒された。
錆兎は煉獄を見ながらに言う。
「何度も言うが、情けなくねぇよ。あの場に煉獄が居て、隠に指示を出してくれたから皆が生きていることが出来たんだ。感謝こそすれどお前を責めるのはお門違いだ。情けないのは俺だ……俺は何時もアイツらが大変な時に助けてやる事が出来てない……!」
錆兎は拳を強く握りしめて外の夕日を見ながらに言う。
「俺達は強くならないといけない。だから、先ずは傷を癒せ」
「ああ!今度は負けん!」
互いに笑い合い、錆兎は煉獄の病室を後にする。そして向かうのは真菰の病室。廊下には食事が置かれていた。全く手がつけられていないのだ。
「真菰!飯くらい食べろ!舞銀が目覚めた時にどう言い訳するつもりだ!」
部屋からは微かな息遣いと嗚咽が聞こえていた。無理やりでも食わせようと入ろうとするがそれをカナエに止められる。
「胡蝶!」
「今はそっとしておいてあげて。死なせるようなことは絶対にさせないから。頭を冷やす為に散歩なんてどう?」
錆兎はカナエの目を見てそれ以上は何も言えなかった。二人は蝶屋敷を出て暫く歩く。二人は真菰や舞銀の話、しのぶと義勇の話、柱達の話をする事で落ち着きを取り戻す。
「ありがとう、落ち着いた。あと、すまない、本来であれば俺が何とかするべきなんだろうが……頼んでもいいか?胡蝶」
「任せなさい!あの子が助けた命を繋げるのが私の役目でもあるから!」
カナエは胸を張って錆兎に言う。その直後、きよが息を切らして二人に言う。
「はぁ……!はぁ……!嵐柱様が!」
真菰は悪夢を見る。家族を失う夢、仲間を失う夢、そして……大切な人物が目の前で失う夢。
目を瞑る度に繰り返される光景。そして言うはずの無い彼女から告げられる言葉
『足手まといだから、下がってて』
そんな事言うはずがないと分かっているが、自分が言われても仕方ないと感じてしまっている。
『私、独りで十分だから』
一人で戦わせたくない。でも、言われても仕方ないとも思ってしまう。
『真菰が来たから私が死ぬんだよ?』
あの光景がフラッシュバックする。自分を庇い斬られて動かなくなった大切な人。
『さようなら……真菰』
血の海に沈んでいく舞銀に必死に手を伸ばす。
「行かないで!舞銀!!」
しかし、その手が届くことは無く舞銀が沈みきる。その手は舞銀の血で真っ赤に染まる。
「いやあああああ!!!」
そして、
「っ!」
真菰は悪夢から目覚める。
「うっ!」
込み上げてくる吐き気、近くに置いてあるバケツに込み上げてくる物を出す。出てくるのは胃液のみ、溢れるのは涙。
二つの夜が真菰を苦しめる。
一つ目の夜は童磨との戦い。二つの夜は猗窩座との戦い。
自分の無力差を痛感した一つ目の夜。その日から死ぬ気で鍛え上げ、技を磨き上げてきた。だが、並べる程に差は埋まっては無かった。未だに遠くを走る舞銀。助けるなんて夢の話と突きつけられている現実。
「……死ぬ気で……鍛えても……私じゃ……舞銀の足を……」
震えが止まらない。一度悪い方向に進んだ思考は止まらない。溢れ出る涙、漏れる嗚咽。自分が自分の無力を一番許せない。
「……私じゃ……舞銀……の……隣に……」
込み上げる悲観的な思いは止まることは無い。それ程までに深い絶望が真菰を支配している。
「嫌だよ……舞銀……。傍に……居たいよ……隣に立ちたい……一緒に……居てたい……よ……」
真菰の心は暗い部屋にポツリと零れる。誰にも聞こえる筈のない呟き、虚しく届くはずの無い声。何人も真菰の声に答えることは無い。返答の無い暗闇、絶望と無力差に打ちのめされ、真菰は沈んで行く。
それこそ、光すらも届かない深い、深い闇に飲まれて行くように沈んで行く。
「私も……真菰と一緒に居たいよ?」
直後が真菰の病室の窓が開き、突風が舞い込む。月明かりが部屋に差し込むが、人影が其れを少々阻む。
真菰はその声とその人物を見て驚く。そして今にも泣きそうな表情になりながらに
「舞銀……どうして……?」
問いかける。問われた銀髪の少女、舞銀は。
「真菰が呼んでくれたから」
そう言い、満月を背に自信満々の笑みで答えてみせた。
復活が早い?天与呪縛ということで……
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