「あれ、本が減ってる」
あー。神様が買って増えたから今整理してるところなんだよ。
俺は空になった本棚の下段を見ながら言った。
本は秘密の部屋、もとい倉庫にて選別中だ。
「バジリスクでも飼ってそうな名前の癖に用途がしょぼい」
授業の日、律儀にもエリナベラは我らが拠点まで迎えに来た。そして、流れるままに彼女をリビングに上げて五分。このまま彼女を放置するのは良くない。なので、俺は尋常で日常的な提案をした。
お茶でもどうだい?
「じゃあ貰おうかな」
そう言ったは良いものの、お茶の淹れ方はよく知らない。取り敢えず沸かした湯に茶葉を沈めた。対流して踊る茶葉と、だんだんと色がつき始めた湯を前にして、俺はどうやってこの茶葉を回収しようか考える。後先を考えずに行動するからそうなるんだよ。バカが。
何となく金属でできた笊で漉そうとする。目が荒かったので、中くらいから細かいものが残った。もうこれでいいや。
椅子に座って寛ぐ彼女に、家では数少ない陶器製のカップでお茶を出した。彼女は、それが冷めるのを待ってから飲んだ。
「あのさ。淹れ方知らないなら何で訊いたの?」
男にはね……やらなきゃいけない時ってのがあるんだよ。
「絶対に今ではない」
プライドが許さなかった。
「そのセリフとプライドより安いものは世界中を探しても見つからないだろうね」
やればできる気がした。
「抽象画みて『俺でも描ける』とか言って本当に描いちゃう奴だ。愚か」
もうこの件めんどくさいし行くか。
「行こうか」
彼女はそう言って立ち上がる。カップには何も残っていなかった。
俺は鶴嘴を手に取りドアを開けた。
神酒って知ってる?
俺は唐突かつストレートにそう言った。薄暗く、助けを呼んでも誰も来ない。そんな古ぼけた洞窟の表層で、魔石に囲まれて俺たちは休憩をとっていた。
「もちろん知ってるよ。でも何でそんな急に」
彼女は水筒を傾けながら言った。
最近、よくソーマファミリアがギルドで揉めてるからな。
「あー。あいつら金にがめついからね」
エリナベラは神酒飲んだことある?
「ないねー」
嘘だ。直感的にそう思った。神様程の的中率は無いが、俺の勘は九割ほど当たる。
なぜ彼女は嘘をついたのか。答えはそう、何かやましいことがあるからだ。
そうだな、神酒関連ならば、例えば横流しとか。しかしそうすると、借金がある説明がつかない。もしや依存したのか? 借金の正体は神酒の購入による散財。何か引っかかるが、今のところ有力候補だ。
俺はただ、へえと生ぬるい返事をして会話を切った。
「よし。始めようか」
彼女は立ち上がって、刀の柄に手を当てた。
「色々考えたけど、ダンジョンにおいて今の君に教えることは殆どない。これ以上のことは、自分自身で確立していく物だから」
その言葉に、俺は純粋な喜びを感じた。多少努力が報われたような気がした。
「しかし、それはダンジョンの話。この弱肉強食の街で暮らすからには、それなりのリスクがついてまわる。君には対人戦闘の技術が必要だ」
話が読めてきた。つまり、そういうことか。
「模擬戦の時間だ」
俺たちは、互いの背中をくっつけ合った。
「ルールは簡単。この状態から同時に十歩歩く。十歩目が地面についた瞬間からスタート。スキル、魔法何でもありだけど、殺しや身体が欠損するような攻撃はなし。降参の合図は右手の人差し指を立てる事。分かった?」
分かった。
俺は鶴嘴を握り直した。このルールは彼女に有利だ。距離がある状態からの開始は、飛ぶ斬撃の連打を意味する。それをどう攻略するか。
「行くよー。先ずは一」
緊張が走る。
「二」
天秤が痙攣するようにその傾きを変える。
「三」
力が篭る。
「四」
改めて彼女の実力を確認する。
「五」
キツくね? という言葉が頭を過ぎる。
「六」
直ぐに回避に移れるよう足に意識を割く。
「七」
勝負の時間だ。
「八」
汗が垂れる。
「九」
鼓動が激しくなる。
「十」
今。
振り向くと同時に目を見開き、彼女の右手を確認する。下。斬撃は縦。
横に跳びつつ右手の軌道を見続ける。袈裟斬り横縦横。フェイントを混ぜつつ左右に避けた。ついでに接近しようとするが、彼女はその手を加速させた。
目で見てから処理できないような速さで刀を振り続け、斬撃を雨のように降らせる。斬撃の一番の強みは見えないことだ。不安を募らせ、あらゆる回避手段に圧をかける事が出来る。俺は彼女の体の向きで大凡の挙動を判断していたが、もうそれでは対処できない。避けたつもりの一閃が脇腹を切り裂いた。大丈夫。まだ皮膚だけだ。
また天秤が揺れる。もうこれで何度目か。身体中から血を流しつつ、痛みを無視して足を動かす。目眩しに鶴嘴で礫を飛ばすが、彼女に到達する前に細切れになって砂と化した。投げたナイフを半ばおとりにして接近するも、ナイフより先に迎撃され撃沈。もうまぢ無理。降参しよ。
俺は右手を高く挙げて人差し指を立てた。
「ようやくかあ」
俺は荒い息と共に座り込んだ。超疲れた。彼女も少し息を切らしているようだった。
「なかなか降参しないから、出血死しないか焦ったよ」
マジでふざけんな。これ対人戦じゃなくてただの弾幕ゲーじゃねえか。
「高めのポーションあげるから許してよ。ね?」
俺はその手からポーションをぶん取った。許す。
「チョロい」
殺す。
その後はいつも通りだった。十二階層付近をウロウロしてサーチアンドデストロイ。魔石と経験値を稼ぎつつ適当なことを話していた。
「君って妹とかいるの?」
暗い穴を二人で彷徨っていると、エリナベラは唐突にそんな質問を投げた。珍しく、彼女の方から始まる会話だった。
しらね。そう答えようとした口を閉じる。これでは会話が弾まない。せっかく彼女が持って来た話題だ。もっと繋がる返答を……。
二人いるよ。可愛い。
頭をひねった結果、クソみたいな設定が生成された。
「きっと二人共可愛いんだろうね。君みたいに」
俺は可愛くない。
「私にも妹がいてね。滅茶苦茶可愛いんだよ」
こいつ無視しやがった。
あの質問は妹について語るための物か。いるよね。他人に質問してその返答がどうであれ自分語り始めるやつ。
でも、彼女はとても楽しそうに笑っていた。彼女のこれほどの笑顔を見るのは初めてかも知れない。だから、俺は水を差すのを止めた。
「妹のためなら何でもできる。そんな気がするくらい可愛くて大切でさ。……そうだ。今度会わせてあげるよ」
へえ。期待しておこうかな。
俺は続く言葉を違和感と共に飲み込んだ。この話題を続けるのは良くない。天秤も反応している。ここで切るのが正解だ。
銀閃が煌めき、モンスターがバラけて落ちる。彼女の横顔には鋼のような無表情が張り付いていた。
普段より早い時間で探索を切り上げた俺たちは、やけに人気の多いギルドを目にする。閉店セールでもやっているのかと見てみれば、誰かのランクアップで盛り上がっているようだった。
少し気になるので、腕を切ってその血を全身に塗した。そのまま掲示板の方に赴くと、葦の海のように人が割れた。流石ベル式の人避け。今や俺の道を阻むものは誰一人いない。
「そんなことしなくても素で避けられてるよ」
おっと…心は硝子だぞ。
さて、噂をすれば影とはこの事。張り紙の主、注目の的の正体はなんとベル・クラネルだった。なんでも、世界最速のランクアップだとか。おめでと。単純な関心と共に、僅かな劣等感を覚える。
なあ、これってどれくらい凄いんだ?
「あの剣姫でもLV2になるまで一年かかってるから相当早いね」
マジかよ。ベルRTA走者説浮上してきたな。
はい、ここでタイマーストップ。記録は一ヶ月半です。完走した感想は――。
「やばいまた発狂した。こうなったら……」
待て、早まるな。その手を降ろせ。俺は正気だ。
「狂ってる人は皆そう言うんだよ」
……俺は正気じゃない。
「ああ、やっぱり狂ってるんだ。ても狂ってるならさっきの発言が本当かどうか怪しく……」
そのパラドックスは長続きしないぞ。
閑話休題。しかし、RTA説よりも信憑性のある見解がある。それはスキルだ。俺のスキルには「早熟する」という効果がある。これに関しては解釈の余地が残るが、結果としてステイタスは異常なほど伸びている。もし、これに類する効果のスキルを彼が持っていたとしたら最速のランクアップにも説明が付く。
早熟スキルがあれば、ランクアップの条件の一つ、任意のアビリティがD以上であるという条件を容易にクリアできる。かかる時間で言えば、偉業の達成よりもこっちの方が長いだろう。だから、それを大幅に短縮するだけで、最短ランクアップへの道は容易く開かれると考えられる。
俺の早熟効果は死に近付くほど強化を受ける、所謂瀕死バフの付属品だ。そこで俺は考えた。ならばベルのは何の付属品だ? そう。死から遠ざかるほど強化を受ける、HP満タンバフだ。
性格的に俺とベルは全く違う。その上で使い勝手の悪いバフ系スキルと言ったら、俺と対となるものが当てはまるはずだ。というか、ぶっちゃけバフ系はこれ以外思いつかなかった。
どうしようか。今からでも世界二位を狙うか。パラドックスから抜けたらしいエリナベラの顔をちらりと見上げる。ああ、いつにも増して何を考えてるのか分からない笑顔だ。
色々と買い物をしてから家に帰った。明日は休もう。回復が必要だ。昨日の分では足りなかったから。
明日は何をしようか。そうだな、そろそろ情報を纏めて進めに行くか。戦闘やら会話やらの日常で情報収集は全くしてなかったけどいけるだろ。足りないところは想像で補えば何とかなる。というか、この思考になっている時点であれは確定なんよなあ。ああ考えないようにしろ忘れろ。
ええと。一先ず夕食にしようか。
キャベツを茹でる。なんかい感じになったら笊にあげ、放置。多分後で使う。少な目のニンニクと多めの唐辛子をオリーブオイルで低温から火を通し、それと並行してパスタを茹でる。塩は適当。何なら入れなくても何とかなる。パスタの茹で時間は表記から一分引いた時間で。
時間になったらパスタの茹で汁をニンニクその他に入れ、乳化させてソースにする。で、どうするんだっけ。ヘイ記憶ゥ!
マンテカーレ:マンテカトゥーラとも言う。フライパンを振ってパスタとソースと和える動作。
何となくやってるけど、これ普通に混ぜるのと何が違うの?
訳も分からずマンテカーレする。普通に混ぜるのと何が違うのか分からないし、これが合っているかも分からない。
出来たものを皿に盛って、完成。キャベツ忘れてた。キャベツを乗せた。そして余りにも遅いタイミングで味見。塩味が無い。塩を足して完成。
タンパク質を忘れていたので、ソーセージを適当に炒めて乗せた。塩分量が一気に増すが、問題ない。
キッチンの扉から顔を出して呼びかける。
ご飯出来たぞ。
「今行くよ」
ダイニングに料理と皿、フォークを運ぶ。それから二人で手を合わせ、いただきますと言ってから食べ始めた。俺は日本に住んでいたからこれは当然だが、神様までやる必要は無いのではないか。
そう言えば、魔法についてなんだが。
「どうかしたのかい?」
自分なりに要求と回答を整理しているんだが、意味が一致しないんだよ。文脈がおかしいというか。
「ああ、そういう事。心配しなくともそれで合っているよ」
はあ? そんな訳ないだろ。ルールに反する。
「君はそのルールとやらを把握した気になっているようだね。そんなもの誰にも分からないのに」
え、神様も知らないのか?
「何でもは知らないさ、知ってることだけ」
そのセリフはあの作品の中でもトップクラスに好きなんだがそうじゃなくて。他人なのに何故か俺の魔法の全容を把握出来ている神様が、分からないのか?
「他人とは失礼な。私たちは家族じゃないか」
……いや、誤魔化されないぞ。本当はルールを把握しているんだろう。
「情報が少なすぎるから分からない。君のは十分に情報が出ているし、信じ難いけれど実現しうる範囲だからね」
駄目だ。俺には分からない。魔法については早急に解明したいのに、神様がネタバレしようとしない。
黙々とパスタを食べる。許容範囲の味だ。ちらりと神様を見ると、目が合った。少し恥ずかしかったが、そのまま見つめていると神様の方が先に目を逸らした。俺の勝ち。
そんなことをしていると、神様の方が先に食べ終わった。俺は考え事をしていて食べるペースが遅かった。悔しくはない。決して。
十分後、色々と考え事をしながら食べ終わり、二人分の食器を洗った。その後は風呂に入り、寝る。明日はいつもより遅く起きよう。魔石灯の光は誰の目にも止まることなく、蛍のようにぼんやりと消えた。
――今まで出た要素は、生成魔法、ショウシャクヨモギ、血、素材、魔力、精神、生物、有と無、■。これで何となく分かったと思う。しかし最も重要なのは――。
辻褄は合わせておきます。
魔法の設定はある作品から強い影響を受けています。
取り消し線の部分は、主人公が思考を停止した箇所です。
人によって考えは変わると思いますが、主人公の行動は理想的ではありません。
筆者は必要な情報を出していません。構成が下手すぎて無理でした。バカがよお。
モチベーション等の理由より、感想や評価を募集しています。
イエスキリストは呪いをかけたことがある。
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