今回の位置はエリナベラとのお買い物の前です。
アンケートは今の所Aが優勢ですね。Aルートに移行します。
求めるはチート。チートだ。
「どうした急に」
俺は転がっている神様を押し退けてソファーに座った。
お決まりの展開なんだよ。異世界に来たらチートっていうのは。
「もう持ってるじゃないか」
スキルの事か? あれは強いけど強くない。リスクがデカすぎる。
「魔法は」
金目の物を複製しようにも買い取ってくれる先が無い。
「じゃあ知識はどうだい?」
ここって意外と文明が進んでるからなあ。しかし、地球の現代にはまだ劣っているのは確か。何かないか。
「オラリオ特有の文化もあるからそこも加味して考えたまえ」
あー、冒険者の方にウケがいいやつ。無いかなー。あったわ。
早速作ってみよう。
舞い降りた天才的なアイディアと記憶の呼び出しによって目の前の水が変貌していく。
よし、完成。
「なんだいそれ?」
これは経口補水液、スポーツドリンクと言った方が正しいか。真水よりも水分が吸収されやすいから、脱水予防になる。
「いいじゃないか。冒険者向けだし、そうでなくとも肉体労働の後は水分を取る必要がある。味は?」
レモン果汁を入れたから多少は飲みやすいはずだ。
原価も安いし、一度に大量に作れる。これを売りさばけば大金持ち間違いなしだ。そう、これがしたかったんだ。これがしたかったのか? いや、そうじゃなくて。
「で、どうやって売るんだい?」
『どうやって』って、それは売り上げの数%を対価にポーション屋に置いてもらうとか。
「そうじゃなくて、どうやって売り込むのかって話さ」
医学的にこっちの方が吸収がいいからって言えば――。
「無理だな。そっちの世界がどうかは知らないが、こっちにはポーションがある。だから、解剖学はそれなりだが、それ以外は全くと言っていいほど発達していない。その経口補水液とやらは、恐らく体液の濃度に関係しているのだろうが、それを言ったところで誰も信じないだろうね。数年、数十年かけてデータを取って有用性を証明する、今から医学を学んで体液を分析し論文を出す。どちらがいい?」
諦めるかあ!!
一瞬、目に入れて痛くないことから真水との違いを明らかにするという案を思いついたが、記憶の彼方に葬り去った。これでいいのだ。
知識チートがダメなら別の案を考えよう。
「暴力とかかい?」
そう。暴力。この世界では暴力さえあれば大抵の事はできる。お金と同じだね。
「でも君は某猪のLV7ほど強くはないだろう」
いや、スキルを使えば届くかもしれない。そいつに殺されそうになるとかそういう状況になれば、相応の力を顕現させるはずだ。しかし、補正の方向が分からない。
一つ分かっているのは、あのスキルは抜け道を開くスキルだという事だ。正面から向き合うための物ではない。
「暴力無双は無理そうだね」
せやな。
オラァ! 暴力無双だァ!!
鶴嘴を振り回すとオークは蜂の巣になった。
「急にどうした」
言いたくなったんだ。やはり暴力‥‥!! 暴力は全てを解決する‥‥!!
「もっと身長と筋肉付けてから言えや」
言ったな? 今日お前の家のドアノブ全部外してやる。
「理不尽の塊だ」
まるで暴力みたいだろう?
「うるせえなあ」
ノールックで鶴嘴を後ろに投げる。鶴嘴はその重量で強引にインプを撃墜した。第六感が冴えて来た。
現在、知らない人と臨時パーティーを組んで十階層を闊歩している。知らない人の名前は知らない。
俺は落ちた魔石をちまちま拾いながら雑談に努めることにした。
水ってさあ。飲みにくくない?
「さっきの投擲について言いたい事がいくつかあるが、まあいいや。病気でもない限りそれは無いだろ」
飲みにくくない?
「否、だから――」
そう。飲みにくいんですよ。
「聞きやしねえ」
そこでこれ。飲んでみ? 俺は経口補水液の入った水筒を取り出した。
「なにこれ。毒?」
失礼が過ぎる。んんっ、これは効率的な水分補給が可能な飲み物です。
「根拠は?」
体液とほぼ同じ濃度です。
「ふーん」
あっこいつ分かってねえな。取り敢えず飲んでみ。
俺がそう言うと、彼は無言で飲み始めた。毒入ってたらどうすんだろ。
「ジュースの方が美味い」
趣旨違うから。なんかこう、回復した感じしない?
「しない」
駄目かあ。
俺は立ち上がってモンスター狩りを再開した。
しばらくして、俺たちは解散した。俺はさらに深く潜るため、彼は地上に一度戻るため。ともかく、俺は一人になったという訳だ。
冴えるなあ。やけに冴える。俺は後方からの攻撃を鶴嘴で逸らしながらそう思った。第六感の調子がやけにいい。何処に移動するか、どう攻撃するかがなんとなく分かる。俺が鶴嘴を振り下ろすと、アルミラージが丁度そこに回避し、自動的に砕けた。ほらね。思考が浮つくが、そんなことは関係ない。
殺意のままに行動するのが楽でいい。若干身体がだるいが、掛かるバフによって通常以上の挙動でしなるように動かせる。倒れるように攻撃を回避し、そのまま足を掬って落ちて来た頭を穿った。直ぐに俺は立ち上がり水筒(水入り)の蓋を開けて浴びるように飲む。ついでに飛んできた火柱を避ける。移動先に投擲される手斧が見えたので、鶴嘴を回転させて絡めとった。勢いを失ったそれをキャッチして投げ返す。石斧は頭を叩き割った。鶴嘴の方も投げると、ヘルハウンドの頭部に突き刺さった。本当に調子がいいな。
うーん。あっそうだ。二層下に行こう。
結果から言えば、ミノタウロスを二体仕留めて帰って来た。そして、その代償として俺は右腕を折った。プラマイはプラスだ。取り敢えず第三層に戻って手当をする。手当のやり方が分からない。腕を元の形に戻し、そこにポーションをぶっかける。腕を動かして確かめた。多分これで大丈夫だ。
口元に巻いていた布を取って腕に巻きつけた。怪我人アピール完了。この格好でポーションを買いに行くと買う順番を譲ってもらえたり、運がいいときは値引きしてくれたりするので、何かとお得である。
もう一度腕を動かしてその動作を確認した後、俺は地上を目指して歩き出した。
魔石の入った袋をカウンターにドンと置いて待つ。隣で取り分を揉める声が聞こえるが、それはもう日常の一遍だ。それを聞き流しながら指の間でコインをパタパタと転がして遊んでいると、終わりましたよーという間の抜けた声と共にヴァリスの入った袋が渡された。ミノタウロスの魔石があった所為か、いつもより多い。ありがとうミノタン。俺はその金でポーションを買いに行くことにした。
ポーション屋の多くは第七区にある。これはダイダロス通りの反対側なので、ダンジョンから最短ルートで向かったとしても、移動距離がどうしても長くなる。加えて、この時間帯になると仕事帰りの冒険者というのは殆ど居らず、飲みに出かけるかその帰りのふらふらしている輩が多くなる。そうすると、喧騒が遠く街明りがぼやけて、周囲に人は沢山いるのに寂しくなる、一人帰りが遅くなった会社員の様な気分になるので、俺は大通りを歩かないことにしている。神様だけが日々の癒しだ。そういうことで、多少遠回りにはなるが、狭い小道を進んでいると、前方から人が歩いてくるのが見えた。珍しいな、こんな時間に。そう思いながら歩いていると、その人物と擦れ違った。特になんてことない。道が狭かったせいで少しぶつかったが、なんてことない擦れ違いだった。しかし、次の瞬間、瞼の砂嵐が揺らいだ。なんとなくポケットに手を伸ばすと、財布が無かった。スられた。
暗赤色の結晶よ。
即座に詠唱し、血の糸を紡ぐ。形が定まる間に冒険者の力で跳躍し、一瞬でその人間の背後を取った。人間は俺が犯行に気付いたことを察したらしいが、もう遅い。もう一度跳躍し、加工した鶴嘴をその人間の目の前に投擲する。同時に手を円を描くように動かし、数秒遅れて怯んだ人間の正面に回り込んだ。糸を括り付けておいた鶴嘴を右手で拾い、左手の糸を引くと、その人間は血によって縛られた。
さて、どうしようかな。
膨らんだポケットに手を入れて、俺の財布を取り返す。
「私は飢えている家族の為、盗みを働かなくてはならなかった。今持っている金は全て差し出そう。許してくれ」
鏡面が波打つ。
本当に?
「今、私の左のポケットには布が入っていて、その中に硬貨が包まれている」
左のポケットを漁ると、言った通りの布と硬貨が現れた。
「もう、これ以上スリをしないことを誓いましょう。なので、解放してください。どうか」
解放はしても良いと思う。だが、その前に一つ描いてほしいものがある。
俺は糸を解いて、その手に石を握らせた。
地面に円を描いてみてくれ。なるべく正確に。
「わかりました」
彼は右手の石で石畳を擦った。白い跡が付くのを見て、俺はそれを辞めさせた。
大義名分を得た。その口から布を取り出してから彼を解放した。
俺はポーション屋に急いだ。早くしないと店を閉められる。それだけは避けなくてはならない。明日またこの長距離を移動するのは苦痛だ。急げ。急がなくては。
「熱があるね」
やっぱね。なんかおかしいと思ったんよ。
「風邪だね」
やっぱね。やけに調子がいいと思ったんだよ。
神様はくっつけていた額を離し、なにやら考え始めた。
「今日は調子が良かったと聞いていたのだが」
調子は本当に良かったんだ。ちょっと思考に靄がかかるくらいで。その程度なら何度もあったから平気だと思っていたんだ。
「私が言うのもアレだけれど、もっと体調管理をした方が良いね」
『私が言うのもアレ』って、それはつまり体調が悪い時があったって事か?
「まさか、気付いていなかったのかい?」
無理だろ。顔見えないんだぞ。
「心で感じるんだよ。心で。あっ死んでるか」
お? やるか?
「実際初期は死んでたしこれからも死ぬだろうね」
すっごいこと言われた。
でもそれはキャラ変がえぐい奴に言われたくないわ。コロコロスタイル変えて、自分が無いんすねw。
「あ、それ君が言う? 君が言う? 好きな食べ物とか言えるか?」
は? キャベツとか好きだが? お前は?
「塩」
知ってた。
はー好物すら個性無いんすね。
「個性にこだわる方が個性無いってそれ一番言われてるから」
やめとけよ。俺には効かないが、クラスで態と変な言動をして必死に変わり者演じている奴に効くから。
後やっぱりキャラ固定しろ。誰が話しているか分かり辛い。
「会話の合間の描写不足は筆者の怠慢では?」
会話に集中したいのさ。
俺は天井を見上げた。空は見えない。
「そんなものは言い訳でしかない」
彼女はそう言って、俺と同じように天井を見上げた。神は空に居るのだろうか。確かに原始の宗教である太陽信仰は空という広大なものを横断する謎の光球に神秘性を見出した事から始まったし、今や神は降臨している。この降臨という言い方も下に降りているのだから、相対的に神は上に居ることになる。高次元から俺たちの世界に降りるという見方もできるが、それは現代的な考え方だ。
「まあ、キャラは固定しよう。イメージは若き天才だ」
何かやらかすポジションじゃねえか。ゾンビとか創んなよ?
「作らないさ」
彼女はコインロールをした。
陽が落ちた。
作者マジ愚か。人類って感じ。
次回の投稿は遅れます。いつも通りですね。
聖書で一番よく覚えている話は、「マラの苦い水」です。出エジプト記に書いてあります。
特に深い意味はありません。
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