ダンジョンに潜る上で名前は必要ない(旧)   作:イクラ系鮭

21 / 25
更新が遅いのは間違っているだろう。


第十九話

「もう一度だ」

 神様がそう言うので、俺は渋々ロック・ダウンを再び唱えた。

 瞬く間の永遠を。

 蒼い風が一枚のメモ用紙を巻き上げる。俺は頃合いを見てそれを氷結した。

 君に。

 紙が一枚の氷へ変わる。もう一度。

 瞬く間の永遠を。

 蒼い風がもう一枚のメモ用紙を巻き上げる。俺は頃合いを見てそれを凍結した。

 君に。

 紙に霜が張る。

「なるほど」

 神様は腕を組んだ。何がだ?

 現在の状況を簡潔に説明しよう。この俺が恥を忍んで問題を打ち明けたというのに神様は敢え無くそれをスルー。挙句魔法を強請る始末。キレそう。かれこれ今回で五回目の実行になるが、神様は早くも何かわかったらしい。何で本人より理解早いんですか? 

「一つ分かるのは、その魔法の出力はそれに限られるという事だ」

 やっぱり何を言っているのか分からない。範囲とか色々あるだろ。

「出力の定義にもよるが、その魔法はある一つの現象に収束する。凍結である」

 知ってる。

「この魔法は0か100、否、0か1しかない。一つ、物質の凍結は凍結する温度まで冷却することで成される。或いはその逆、強制的に凍結している為、結果的にその温度まで下がる。この為、例えば特定の物体を-10℃にするなどの細やかな温度低下は起こせない」

 なるほどね。流れが読めた。つまり、吸われる魔力は下げる温度に依存しているのか。

「正解だ。そして二つ、あれは事象の凍結が可能だ」

 事象の凍結。俺のアクセスとかか?

「それも可能だろう。だが、それよりも君の問題も何とかなるかもしれないという事の方が重要だろう」

 なんとかなるんだ。

「世界観の切り替えが出来るなら」

 嫌だ。

 出来ない訳じゃない。しかし、もの凄く嫌だ。あれやると気分が悪くなるんだよ。

 世界観の切り替えというのは、俺がなんとなくで使える最終奥義だ。どうやって使っているかは分からない。そういう器官を動かす感覚で、一番近い例えは頭の中の肋骨を抱え込む感じだ。だから当然失敗することもある。何よりデメリットが全く分からないのが怖い。原理は分かっているが。

 俺はこの世界のキャラクターではない。TRPGのキャラシである。しかし、何があったか今はこの世界にいる。その所為で、俺は二つの世界観を併せ持っているのだ。俺ができるのはこの二つの世界観の切り替えである。世界観を切り替えることで何ができるのか。今のところ、それはオート化、正確に言えば処理の省略である。何度も言うが、ゲームの世界は様々なことが省略されている。戦闘での行動処理の場合、ゲームでは剣を振ってダメージを与えると言う行為は「攻撃」の一言で全て完結していて、攻撃が当たったと判定されるとダメージ処理が行われる。しかし、現実ではそうもいかない。踏み込み、どこを切るか、どう切るか、どの程度切るかなど無数のパラメータが存在し、それによるダメージも多岐にわたる。簡潔に言えば、世界観の切り替えは処理の変更により引数の数を増減させ、出力を改変できるのである。

 現在最も有用な省略はショウシャクヨモギの物体コピーである。ショウシャクヨモギは生成魔法だが、設計図が思い浮かべられないものは作れない。しかし、それはこっちの話。世界観を切り替えて、計算式を減らし結論に至る。【俺はショウシャクヨモギでそれをコピーした】。どんなに複雑な構造でも、どんなに不条理な物体でも、その引数を飛ばせばそれはコピー可能だ。

「ああ、仕組みは分かった。やはり君にはできるはずだ」

 そっか。神様が言うならそうなんだろうな。でもまだ、パーツが揃ってない。対象が分からないと使えないな。うん、仕方ない。

 俺がそういうと、俺が一枚の紙を手渡した。和紙だった。開いてみると、ロックダウンで範囲攻撃と書いてある。何だこれは。

 大丈夫だ。皆の総意だ。信用していい。

 いやそうじゃなくて――。

 じゃ、よろしく。

 俺は帰って行った。ひき逃げにあった気分だ。

「物凄く気持ち悪い顔色の変え方だね。何かあったのかい?」

 ああ、たった今パーツが着払いで届いたんだ。はじめるから、少し下がっててくれ。そう、もう少し後ろに。そうそう。

 俺は酷い頭痛を無視して詠唱した。

 瞬く間の永遠を。

 蒼い風が逆巻く。風は渦となって俺を囲った。渦は段々と小さくなる。目、耳、口、毛穴から風が入り込む。痛い。クーラーを浴びすぎた時みたいに頭がくらくらする。

 俺は耐異常アビリティを取っていないから魔法の対象にはできる。問題は異常の方だ。何が起きるのかさっぱりだ。こればっかりは運になるが──。

 君に。

 ウィンドウが開く。プロンプトの項目は全て文字化けしていた。ああ、そう来たか。だが対策は既に思い付いている。ここで世界観歪視。一瞬世界観を切り替えて直ぐに元に戻すことで辻褄を歪んだ形で形成し、結果を呼び寄せる。

 【俺は増えた人格に関する全てを選択した。】

 実行。

 頭が冷える。なんか脳の一部が機能を停止したような気がする。……これで人格がヤジを飛ばさないってことは成功か。反応が死んでいることを確認した俺は、外側にある人格を一つ潰した。復活は、ない。勝ちである。俺は瞑想に入って全ての人格を壊した。

 目を開いて立ち上がると、大分距離を取っていた神様がよく分からない現代アートを見るような目でこっちを見てきた。

「おお、正直勘だったけど本当にできたのか」

 神様?

「成功したんだしいいじゃないか」

 成功。成功かこれ? 脳が破壊された気がしたんだが。まいっか。

「NTRかな?」

 異常アビリティってそういうのも防げるのかな。

「発狂ガチャの多重人格が化学反応起こして一生自分同士で寝取り合ってそう」

 うわ。やめてね。

 それはともかく。思惑通り、ロックダウンによる蘇生機能の凍結は上手くいった。こんな使い方ができると言うことは戦闘においてもコスト以上のアドバンテージを取れるのではないか?

「それよりも先にやるべきことがあると思うのだけれど」

 なんだろう。そうか、症状か。じゃあもう一度。世界観歪視。

「まあそれ凍結したら自動的に記憶も凍結されるから考えてからやった方が良いね」

 やっぱりやめとこう。

「おっと、珍しく賢明だね」

 ずっと賢明だが?

 さて、発狂問題がどうしようもないことが分かった。凍結が思ったより優秀だった。異常は異常だった。

 ということで、寝ますか。

「寝ようか」

 夜の十一時であった。

 

 七時、起床。

 今日も今日とてダンジョンに潜る。

「あ、そうだ。今日はダンジョンじゃなくてバベルに行ってほしいんだけれど」

 潜れない。何故バベル?

 神様はため息を吐いて言った。

「君さあ。あからさまに左手無いのはダメなんだよ。嘗められるし、外食に行った時店員さんやりにくそうだし、左手がない分弱いし」

 否定はしない。で、察するに、義手を買えってことか。

「そう言うことだね」

 自分で作った方がいいんじゃないか? 材料費ゼロ円だし。

 神様はやれやれと肩をすくめた。

「じゃあ、君は義手の構造を知っているのかい?」

 返す言葉もなかった。

「ついでに言うと、君がショウシャクヨモギをバンバン使う所為でスキルの補正のほとんどは造血にいってるから」

 乗りが悪いと思ったらそう言う事か。

「とにかく、義手を作ってもらう。或いは設計図を買うことが目標だ。行ってらっしゃい」

 ちょ、ちょっと待て。金は?

「どうせ商談が成立してもその場で払うことにはならない」

 確かに。一瞬要求に納得しそうになるが、別の問題を思い出して玄関へ向かう神様を追いかけた。

 否、そうじゃなくて。宛がない。初対面で義手を作って貰えるほどのコミュ力は無いぜ?

 神様はローブを纏い、靴を履いた。

「宛ならあるじゃないか」

 そう言って、神様はさっさと靴を履いてバイト先へと旅立った。

 

 宛なんかねえよ。うるせえよ。バベルにやってきた俺は、暇そうな鍛冶師に話しかけようとして別の客に先手を取られるというのを十回ほど繰り返していた。どうしようもないコミュ障である。話しかけることが出来ても要望が通るとは限らないのに。そして、相変わらず神様が言っていた宛に皆目見当もつかない。

 そうして一時間ほど低層を彷徨い、いよいよ毒でも飲んで補正でIQを上げようかと真剣に考え始めたころ。唐突に天秤が傾き、俺は反射的に背負っていた鶴嘴取ってを足元に向けた。瞬間、がちっという何かが衝突する音と共に手に小さな衝撃が伝わる。敵か。振り向くと同時に鶴嘴を振り抜き――。

「すみません。ついやってしまいましたわ」

 その先にいたのは、金槌を片手に持った少女だった。鶴嘴をぴたりと止め、少女を見つめる。なんだこいつ。瞼の砂嵐が蠢いた。カラカラ。俺の目線は彼女の左耳に向かった。

「ふむ。やはり、私の作る剣とは雲泥万里。異次元の高密度ですわね」

 なにやら鶴嘴を摩り出した女子。やべー奴だ。それを退けてそそくさと別の階層へ行こうとすると、むんずと裾を掴まれた。

「先程の醜態については再度謝罪いたしますわ。その気韻生動たる鶴嘴を見かけたからには、一つ試さずにはいられなかったのです。ところで、貴方の名はアナタではありませんか」

 何とも奇妙な文章だが、その通りだった。

 そうですけど。

 俺の言葉に女子はにやりと笑った。

「噂はかねがね。英俊豪傑なる人と姉からは聞き及んでいますわ。見るに、義手をお探しで」

 姉、というのは。

「アナタさんとは肝胆相照の中にあるエリナベラ・ソルベルにあります」

 なるほど。合点がいった。神様の言っていた宛とはこれか。

 つまり、君はエリナベラ・ソルベル(義妹)という訳か。

「左様ですわ」

 彼女はさっと周囲を見て言った。

「立ち話もなんですし、どうぞこちらに」

 彼女は微笑んでそう言った。

 俺は手を引かれ、エレベーターに乗せられた。エリナベラが操作盤を弄り、俺は上座の方に移動する。ちらりとこちらを見た彼女は三階上のボタンを押して、閉まるボタンを押すと同時に素早くエレベーターから降りた。

 は?

 ニコニコとした彼女と俺の間に柵が展開される。そして、俺は上昇を開始した。柵の間から見える彼女が下に流れていく。何してんだあいつ。じっと見ていると、やがて彼女は見えなくなった。本当に何してんだあいつ。瞬間。爆発音が頭上で響き、エレベーターを衝撃が襲う。天秤が傾き、鎖の音と共に補正が変動した。対象は思考と魔法。俺に数枚の手札が配られ、エレベーターは落下を開始した。

 エレベーターは頑丈、鶴嘴を振る余裕はない。魔法。ロック・ダウン。

 瞬く間の永遠を。

 蒼い風が吹き上げる。俺はそれに合わせて飛び上がった。

 君に。

 選択したのは俺の手から半径1メートル内の天井。手が触れると同時にそこは円形の氷へ変化した。代償で脚の感覚が消える。暗赤色の結晶よ。続いて右手から噴き出した血液が氷を外に押し出し、勢いのまま壁に突き刺さって固化する。次の瞬間、エレベーターは穴を抜けた俺を置いて落ちて行った。俺は額の汗をぬぐった。

 何してんだあいつ!?

 まさかの罠だった。シンプル罠だった。え、なんで? 補正の切れた俺の思考は罠となんでを繰り返し、やがて一先ずここを出ようという結論をひねり出した。

 少し下にエレベーターの扉がある。俺は「解けろ」でショウシャクヨモギを解除し、直ぐ壁に鶴嘴を突き立てることで目的の高度で静止した。鉄柵を蹴り開ける。件の女子は目の前にいた。

 殺すぞーーー! いや待て。公衆の面前でやったら再逮捕だ。ここはひっ捕まえるだけにして後で殺そう。俺は計算のできる冒険者。女子の首を掴んで路地裏に直行した。

 

 前回よく分からん犯罪者を殺したところで下ろしてみた。

「サプライズですわ」

 よしやっぱ殺そうこいつ殺そう。

「まあまあ、今のは確認ですわ。姉の言うアナタは常在戦場な方であった為、それを確認させていただきましたわ」

 殺す。殺そう。

「それに、例えあのまま落ちたとしても死ななかったでしょう」

 それは、確かに。よく考えたら天秤もそこまで傾いていなかった。殺すのは早計か。神様が言っていた宛は明らかにこれだし、代わりもいない。加えて、殺したらエリナベラの好感度が下がりそうだ。クソ、殺人衝動に侵されてやがる。俺は冷静、冷静。

 冷静な俺は交換条件を出した。

 許してもいいが、義手の設計図を書いてもらう。これが条件だ。俺はさっきの爆破を許すし、通報もしない。その代わり、絶対に書いてもらうからな。もちろん無料で。

「構わないですわ。それくらいの事はしていますし」

 義手は金属ベースがいい。機械義手ほどの物は求めていないが、ある程度の可動性は求めたい。外見は銀に輝くプレートで構成されるガントレットみたいな感じで繋ぎは鎖。特定の形状で強度を増す構造にしたい。手入れが簡単な方が良い。取り外し可能。指の固定機能も欲しい。ついでにギミックも欲しい。そもそもの構造が耐久性の高いものである必要があるな。いくら魔術でコピーすると言っても材料費は安い方が良い。

「えぇ……注文が多いですわね」

 そっちが承認したんだ。それに口止め代も含んでいるならこれくらいの要求は呑んで当然だろ? こっちは純粋な関係を築きたいんだよ。誰に対してもそうだ。特に一期一会でない相手にはな。一度だけならその関係性に何かあっても影響は小さいが、複数回会う相手は積み重なって大きくなる。この時、大きくなるっていうのがマイナス方向なのかプラス方向なのかは関係性に依存する。純粋な関係性は決してマイナス方向には大きくならない。理論値だが実現可能だ。それに、微妙な関係は管理が面倒なんだよ。友達とかマジでそう。その一言でくくるには範囲が広すぎる。命名者を読んでほしいね。現代の性別くらい緻密に分類して欲しい。

「ええと。ああもう。脱線しすぎでしてよ。一先ず、設計図はすぐに着手いたしますわ。完成は早い方が良いでしょう。あと」

 エリナベラは振り返って俺の顔を見た。俺は咄嗟に身をかがめる。何も来ない。フェイクか。

「それですわ。それくらい警戒しませんと。あなた、有名人ですわよ?」

 聞きたくなかった。まあそうだよな。ベル・クラネルに次ぐ高速ランクアップ。人間は複数から法則を見つけ出そうとする。一人ならまだしも、二人だと何かしらのメソッドを疑うだろう。議論は活発になり、俺とベルの名前が出る頻度が上がる。有名になるのも時間の問題だったか。

「有名になったのは裏社会でしてよ?」

 もっと聞きたくなかった。ギルドが掴んでいる情報が出回っていないはずがない。当たり前だよなあ。

 で、どのくらい知られてる?

「その首に懸賞金が掛けられてますわ」

 思ったよりヤバかった。でもこっちには切り札があるからな。被害をベル・クラネルに寄せてやる。自分で出来ない事は人にやって貰えばいい。

「嫌な予感がしますけれど、取り敢えず私の鍛冶場に来てくださる? そこで設計図を描きますわ。あなたは横から改善点を挙げてくださいまし」

 こうして、俺はのこのこ彼女についていった。

 

 イン鍛冶場。クソ熱い。

「早速描くからそこに座っておいてくださいまし」

 そう言って彼女が指さしたのは壁に立てかけてあるパイプ椅子。パイプ椅子? 何でここにあるんですか? 椅子を展開したり畳んだりしてみるが、クッションがない以外はほとんど地球のパイプ椅子と同じだ。重さまでマジのパイプ椅子だ。

 あのーエリナベラさん。これなんです?

「ああ、それは折り畳める椅子ですわ」

 彼女は作業台から顔を上げて言った。

 製作者は?

「私ですけれど」

 あーどんどん問題が積み重なってくる。何でパイプ椅子をこの状態まで仕上げられるんだ? 折り畳みというだけで革新的なのに何でパイプ製なんだ? 普通もっと段階を踏むだろう。一年もあればたどり着けると言えばそこまでだが、そもそもアイデアがこの世界に無い。大規模遠征でもなければダンジョンに椅子を持ち込むことはないし、小さくして収納するという文化は服以外ない。鍛冶が出来る子供が思いつくものではないのだ。それに、このパイプである。普通木製にしようと考えるだろう。それでも金属を使う理由は何だ? 何故耐久性を求めたんだ?

 彼女と早期に専属契約を交わして独占しよう。俺は固く決意した。技術もスキルも独占するに限る。俺は特許級の発明を安易にばら撒くなろう系主人公は頭が悪いと思っている人間だった。

「何故か先程から各方面にケンカを売っているような気が」

 気のせい気のせい。ところで、俺の専属になってくれよ。

「その接続詞一つで切り替えられると本気で考えていらっしゃる? ……答えはNOですわ。今はそういうの、受け付けてないんですの」

 想定外だ。俺は焦り始めた。この技術を公にしてはいけない。接触の機会が減ってしまう。彼女の価値は計り知れない。どうすれば。そうだ、神様に相談しよう。彼女はこっち側だ。

 二つの意味で空気が悪いので、片方をどうにかしよう。

 お前は知ってるか? エリナベラの罪状。

 俺はなんとなく、そんな事を訊いた。

「貴方は御存知だと認識しておりましたわ」

 ギルドの奴らが話してくれなかったのさ。

「そうですの。口裏を合わせさせない為でしょうね」

 それで、なんなんだ?

「麻薬所持ですわ」

 ガチのやつじゃん。

 麻薬か。考えてみればこの街に無いわけがないな。しかし、何故エリナベラが。

 そうか、ファミリアか。あのファミリアの宗教体制が崩壊しなかった理由はこれか。確か、エリナベラは金庫を掻っ払っていた。金塊でも入っているのかと思ったが、麻薬の可能性も十分にある。あれ、これ住所教えた俺の所為じゃね。

 気にしないようにしよう。それより、神殺しに問われてないって事は死刑は免れたという事だ。それを喜ぼう。

「描けましたわ」

 早っ。やはり天才か。

「ざっとこんなもんですわ」

 手渡された紙を見てみると、ガントレットのような簡潔な図と見たこともない単語がたくさん。読めません。こいつまた文字に負けてるな。

「どうですの?」

 読めません。しかしそれを言ってしまうと拙いので、神様と相談すると言って誤魔化した。共通語のせいでこの設計図に改善点は見出せない。もっと勉強しよ。そして、鍛冶場にいる目的である指摘と修正は行えないことが判明したので、ここにいる意味はない。俺は徐に席を立った。

「もう、お帰りになられますの?」

 そうだけど。

「もう少し此処に居ませんか?」

 いや、それはちょっと。そも「もう少し」を待つだけの会話は最悪だ。今日はここまでにしたい。

「では、近日中に来てくださいまし」

 ああ、分かった。俺は部屋から退散した。鉄扉を後ろ手に閉める。さて、どうしよう。

 判明した問題は三つ。俺の懸賞金。義手の設計図。エリナベラの存在。前二つは神様と何とかするとして、やばいのは最後だ。彼女は明らかにストーリーの中心人物だ。この世界はゲームだが、シミュレーションゲームではない。どこかにストーリーが存在しているのだ。エリナベラもその一つと考えている。エリナベラ(義妹)を軸に展開されるストーリーも存在する筈だ。俺は彼女の技術力と人間関係、そして耳にあった切れ込みを想起した。あれはこれから起きる事の暗示だ。そうに違いない。

 エレベーターは爆破されたので、階段に向かいながら計算する。彼女に施す対策。シナリオの難易度。エリナベラとの合流。根本の破滅。やる事は多い。暗赤色の結晶よ。俺は生成した長ドスで擦れ違った男の首を刎ねた。瞬く間の永遠を、君に。続けざまに蒼い風が抜けて、即座に噴き出す血ごと断面を凍結させた。素早く周囲を見渡す。気付いたものはいない。幸いなことに、断面がくっついたまま凍っていて、目を開いたまま気絶しているようにも見えなくなかった。

 俺はゆっくりと被害者を壁に立てかけた。うん。バレない。俺は足早に現場から離れた。

 あれはやってる人間だ。俺は片目を瞑って瞼の裏を見た。うん、そうだ。間違いない。俺と同じだ。クロを確認した俺は階段を下りてそのままダンジョンに直行した。

 皿の上の心臓は徐々に存在感を薄めていった。




 異常気象が過ぎる。

 小中高校生の自殺者は増加傾向にあり、急増したのは令和二年から。

 モチベーション等の理由より、感想や評価を募集しています。

752b3330366120752b33303862

  • 736f756b61
  • 736f756b61
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。