ダンジョンに潜る上で名前は必要ない(旧)   作:イクラ系鮭

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 あー投稿が遅れてる。死にそう。


第二十話

 協議の末、義手は耐久性を犠牲に可動域を広げる形になった。俺はようやく作れると設計図(完成).pdfを前にショウシャクヨモギを発動したが、設計図から完成品を想像出来なかったので結局エリナベラ(義妹)に鍛造してもらうこととなった。俺の頭が悪過ぎる。

 という訳でダンジョンである。懸賞金掛かってるのに一人で行くのかって? 一日くらい、行ってもバレへんやろ。

 それに、今日は日銭を稼ぐ以上の目的がある。ステイタスの上昇だ。ずっとやってきたことだが、今回は事情が違う。経験値集めである。色々について対策を考えたが、取り敢えず強くなれば何とかなるでしょというゴミカス脳筋理論に辿り着いた。これ以外のフレキシブルな対策が思いつかないのだ。

 さて、効率よく敵を倒すためにも、狩場である14階層に出現するモンスターの特徴と攻略法をおさらいしよう。

 先ずは、ヘルハウンド。通称クソ犬。火を吐くとかいう避ける以外の対象法が無く、掠っただけで大ダメージが確定するクソ技の使い手。サラマンダーウールを持っていれば対処が楽なのだが、何故か未だに金欠なので買えていない。攻略法は、シンプルに投擲で殺す。複数いる場合はとてつもなく面倒なのでスルーする。

 次にアルミラージ。通称ウサギ。かわいい。トマホークで殴ってくる。偶に投げてくる。一撃必殺を意識すると対処が楽。

 ダンジョンでのソロアタックは囲まれないように側面から奇襲をかけて短期決着を狙うのが基本だ。駄目そうだとわかったらすぐに諦めて次に行くのも重要。体力を温存し、コスパのいい戦闘を心掛けるのがソロ探索の常套だ。

 しかし、ここでオリチャー発動。戦闘出来そうなら片っ端から殺して行く。体力を温存するのは重要だが、俺の場合体力の減少によって発動する瀕死バフの方がギリギリ勝るので経験値をより多く得られる脳死全戦闘の方がいい。但しクソ犬が多すぎる場合は時間と経験値の効率が悪いのでスルーする。もう階層からクソ犬消してくれねえかな。

 レベルの暴力でサクサクと敵を倒して前に進む。しかし、もう入って十分経つというのに俺はまだ七階層にいた。ダンジョンアタックで面倒なのはこれだ。行き帰りが長すぎる。移動距離が長いだけでなく入り組んでいる為、ルートをミスれば大幅なタイムロスとなる。加えてモンスターの妨害まで飛んで来るのだから、クソマップも良い所である。切実にワープ機能を実装してほしい。

 俺は遠心力で蟻の頭を粉砕した。仲間が来る前にさっさと行こう。そうして七階層から八階層へ、八階層から九階層へ下りていく。この辺りは何処にいても若干草は生えているものの景色が同じでとてもつまらない。

 だが、十階層に下りると景色は一変する。一面の荒野に霧である。この霧は方向感覚を鈍らせ、敵の発見が遅れる効果があるらしいが、俺は基本的にマップと瞼の天秤しか見ていない為ほぼ影響がない。それどころか霧の効果を上げる為に壁が少なくなっている為、最短ルートを進みやすくてとても助かる。そして、実験に使いやすいのが居るのも高得点だ。ほら来た。オークだ。

 ステップを踏みつつ距離を詰める。振り下ろされる棍棒をバックステップで避けると鼻先を風が撫でた。俺は地に叩きつけられた棍棒から肩へ登って鶴嘴を頭に突き立てる。そして息絶えて前のめりになったその胸を鶴嘴で穿った。オークは瞬間的に塵になり、俺は空中の魔石を鶴嘴の頭で弾いてリュックに入れた。未だ洗練されておらず処理の時間が長くなってしまった。先を急ごう。

 

 ようやく十三階層に到着した。目標地点は目前である。俺は水筒のスポーツドリンクを一口飲んだ。実は、十三階層は死線と言われていたりする。ここから先は、例えLV2でもソロは自殺行為だということらしい。だから何だという話であるが。

 俺はくるりと鶴嘴を回した。格上であるほど経験値はうまあじだ。まだ試していないが秘策もあるし、負ける気はしない。俺はナイフホルダーのスナップボタンを外し、右手に鶴嘴を持って奥へと進んで行った。

 一分もしない内にクソ犬と鉢合わせた。幸い一匹なので、仲間が来る前に手早く殺そう。そうだ、余力がある内に秘策の効力も確認しておかなければ。そんなことを考えている内にクソ犬がこちらに気付いた。クソ犬の咽頭が紅く光り、口の端から炎が漏れる。俺は手早く詠唱した。

 瞬く間の永遠を。

 蒼い風が吹き荒ぶ。クソ犬が火柱を吐く。これこそ秘策。氷属性なら炎に対抗できるだろうという理論である。

 指向性を与えられた蒼い風は秒速20mで炎へ流れ、ぶつかる。そして、普通に押し負けた。俺はすかさず横に跳んで炎を避ける。炎は数十cm隣を通り過ぎた。あっぶねえ!

 勢いでは勝てないことが分かったので、仕方なく散らばった風を集めて後ろから仕掛ける。だが、風が集まらない。何で? 感覚を研ぎ澄ませて蒼い風を探すが、何処にもない。そんな筈は無いだろうと炎を避けつつもう一度探してみると、あった。隅の方にほんの僅かにあったけれども少なすぎて操っても意味がない。

 俺は一つの最悪な事態に思い当たった。

 もしかして、ロックダウンって炎で消えるのか? しかも超高火力とかじゃなくてふつうの炎で。

 考えれば考えるほどそんな気がしてくる。

 だとしたら本当に弱くない? いや、待て。まだだ。まだ分からんよ。俺はクソ犬の口が赤熱したのを見て、もう一度唱えた。

 瞬く間の永遠を。

 蒼い風が吹き荒れる。さっきは密度が足らなかったんだ。密度を上げれば打ち勝てるはずだ。指向性を与えられた高密度の風は槍のように炎へ飛んだ。そして、炎に巻かれてスッと消えた。うせやろ。

 全力でナイフを投げてクソ犬の頭をかち割る。死んだことを確認して、俺は蒼い風を探した。良かった、ある。しかし、初回より多いというだけでこちらもこのままでは使えない量である。なるほどね。

 俺は頭を抱えた。弱い。まさかライターで対処できるタイプの魔法とは思わなんだ。氷に変えて即死させる効果の代償か? いや、どちらかと言えば仕様っぽい挙動だ。という事はこの弱点は消せないのか。弱い。

 待てよ。頭の中で火花が散る。俺はこれを知っている。なんだ? 何を知っている? 壁に鶴嘴を叩きつける。大きめの石片がいくつか剥がれ落ちる。これでダンジョンは壁の修復にリソースを使うからしばらくはモンスターは湧かない。

 何がそうなんだ? だが、頭が痛くなるほど考えても答えは出ない。俺はしびれを切らして硬く目を閉じた。思い出せないなら、こっちが迎えに行ってやればいい。俺は記憶空間に、あのコルクボードの海に意識を投げた。脳の深くに意識が沈み、しかし俺はどこにも行けなかった。通行止め? どうして、よりにもよってこんな時に。いや、違う。俺はその原因を思い出した。扉を閉ざしたのは俺自身だ。僕という寄生虫が、あの手形を持った中継役がいなくなったからだ。ああ、クソ。思わぬ弊害だ。記憶の操作が出来ないという事は精神面での小細工が出来なくなったという事。それに気付くと同時に、今まで誤魔化してきた感情の不整合が、思考の錯綜が、攪拌した領域が背後から迫ってくる。頭の中で玉虫色の音と韻が――。

 po■x5=>su■c■ss

 背筋が冷める。思考が明晰になり、感情が抑制された。

 危なかった。ダンジョンでのパニックは死に直結する。特にソロは。

 システムの割り込みは解決じゃない。単にそれから遠ざけただけだ。何れ追いつかれる。その前に解決しないと。こうして問題がまた一つ増えた。

 じゃあ、うん。ロックダウンに関するまだ分かっていない情報を整理しながら狩りをするか。俺は薄暗い迷宮を歩き出した。

 簡単なところからだ。魔法名はロック・ダウン。英語なら、lock down或いはrock down。lockの意味は錠、鍵をかける、固定する。rockは岩、頼りになるもの、ダイヤ、動揺させる、氷塊を入れた酒。downは下、機能停止、落ち込む、落ち着く、撃墜する。lockdownなら閉鎖だ。

 lockdownを除いて、全て凍結に関連する意味を含んでいる。間に中点が入っているのはlockdownの意味にしない為とも考えられるが、何処か不自然だ。lockdownにも何か意味がある気がする。

 ウサギが四匹いたので俊敏バフを頼りに高速で近付いて、手始めに下から掬い上げるような一撃で一匹を葬る。煌めく魔石はくるくると回転して口を開けたリュックに落ちた。残り三匹は散開するが、ここでナイフを投擲。一匹の脚に刺さり機動性を奪った。二匹がトマホークを構えて駆け出す。俺は位置を変えて攻撃のタイミングをずらし、振り下ろされる二つの石斧を鶴嘴の頭でそれぞれ逸らした。そして、隙だらけの胴に得物をフルスイングして貫き、返す刀でもう一匹の頭蓋を砕いた。時間差で落ちてくる魔石を鶴嘴で弾いてカバンに入れる。脚を負傷したウサギが遅れて攻撃を仕掛けるが、最早脅威ではない。刃を鶴嘴で弾き、怯んだところを刈り取った。そして、やはり魔石はリュックに落ちた。

 ロック・ダウンで不明な点と言えば蒼い風とその浸食作用だ。 密度があるという事は蒼い風の本体は多分粒子なんだろう。そして、浸食は恐らく氷食――氷河が地形を侵食する事――だ。

 クソ犬が炎を吹く前にナイフで弾幕を張って誘導し、その経路に鶴嘴を投げた。先端は頭蓋骨を食い破った。 地面に落ちた魔石、ナイフ、鶴嘴を回収する。

 神様は魔法について、0と1と。確かそう言っていた。その二つと言えば二進数で、機械言語などが連想できる。実行の時に出てくるウィンドウやdownにも通ずる。無機質なマシンと死の極地。魔法名が岩に張り付いて固定された氷と下がり続ける気温を意味すると考えれば、この説が有力だろう。だが、甘い。この説では"蒼い風"を説明できない。

 補正込みの本気で鶴嘴を投擲する。その先端は回転して空を裂き、クソ犬の腹を地面に縫い留めた。近付いてとどめを刺す。

 魔法名と言えばショウシャクヨモギだ。ショウシャクヨモギは焼灼と蓬で、どちらも止血の手段だ。では魔法のどこに止血要素があるのかと言えば、それは魔法の発動後だ。左腕かどこかの傷から出血するのだから、止血はその後の対処として必要不可欠だ。出血多量でもバフ乗るから俺はやってないけど。

 であればだ。ロック・ダウン――lockdownも魔法が発動した後の対処として必要な処置という可能性がある。いや、封鎖が必要な魔法ってなんだよ。

 記憶の引き出しが開く。

 covid-19:武漢で発見されたウィルス感染症。通称コロナ。

     ロックダウンのおかげで春休みが馬鹿みたいに長くなった

      

 最近影の薄かった記憶さんがここに来て迫真の活躍を見せる。碌な情報落さなかったけど偶には良い事書くじゃん。

 お蔭で分かったぜ。魔法の正体はウィルスだ。そして、多分コンピューターウィルスの性質も持ち合わせている。

 風は風邪、浸食ではなく感染と汚染だ。温度の低下による免疫力の低下の逆因果を行う。そして、恐らく進捗ゲージが無いのはこれが対複数戦に特化した魔法だからだ。ウィルスの特性を引き継いでいるなら他細胞を使って自己複製して感染者から更に拡散する。つまり、この魔法は感染が広まるようなそこそこの長期戦を想定したつくりだ。態々一人一人にゲージを用意する必要は無いと判断したのだろう。或いは、リアルタイムでゲージを表示するには小さなウィルスではリソース不足なのかもしれない。まあいいや。

 これでこの魔法が対人魔法ってことが確定したな。しかし、何故ウイルスなんだ? 魔法は生体的なもので統一されるのか? 何か意味がありそうだ。

 ぶらぶら歩いていると、いつの間にかクソ犬に囲まれていた。天秤が傾く。鎖の音と共に補正が変動した。警戒すべきはその炎。三方向からの放射は流石に避けられない。ならば。

 瞬く間の永遠を。

 蒼い風が吹き荒れる。それと同時に一匹の口から火が迸り、俺は別のクソ犬に射線が被るように避けた。風は上に昇って天井付近に留まった。削れる魔力を横目に、炎で視界の塞がれたクソ犬に鶴嘴を振り下ろす。確かな手応えと共に魔石に変わるが、足を止めた所為で炎に焼かれそうになる。

 暗赤色の結晶よ。

 左腕から血が噴き出して即席の盾に凝固する。俺はそれを身代わりに射程外まで一足で移動した。あっという間に焼け落ちる盾に冷や汗が出る。割と頑丈目に作ったんだけどな。

 だが、今ので息が切れたのか炎が止んだ。チャンスだ。炎を吐いていた個体に速攻を仕掛ける。そのとき、もう一匹がカバーするように経路を瞬間火で塞いだ。直ぐに火は消えたが、起点を潰された。拙いな。最初の一匹が回復した。咄嗟に距離を取ろうとするが、クソ犬は素早く距離を詰めて俺を火炎放射の射程内に入れる。そして、二匹が同時に炎を吐いた。俺を直接狙うのではなく、退路を断って挟み込むように炎の波が押し寄せる。こいつら賢過ぎない? 見る限り逃げ場はない。地上には。

 君に。

 ■■■x5=>su■c■s■

 その為の布石。【氷結】。ウィンドウが開き、十数項目に次々とチェックマークが付く。魔力がガクッと減って、天井から雹のように氷が落ちた。脱出口は、上だ。

 俺は部分的に氷へ置換したことで穴だらけになった天井に、さながらボルダリングのようにぶら下がった。身体を揺らし、遠心力で一匹の真上から背中側に向けて着地する。首の可動域的にこいつの炎は届かない。クソ犬が振り向くのに合わせて鶴嘴で顎を打ち抜く。先端が貫通して脳を抉った。身体が塵になる前に口に陽炎を立ち昇らせているもう一匹に向かってそれを蹴り飛ばし、盾にする。文字通りのフレンドリーファイアを避けるため、こいつらの体毛は炎を弾くようになっている。一瞬だが、これで炎を吐かれても問題ない。俺は蹴った死体を追うように最短距離で前に詰め、大振りのスイングを頭に食らわせる。脳漿が弾けて散った。

 ポーションを飲んで魔力を回復する。さて、そろそろ十四階にも行くか。

 

「バカなのか?」

 返す言葉もないです。

 俺は上裸で正座させられていた。

 結局、家に帰ったのは夜の0時になった。そして、今日は俺が料理当番だった。神様はずっと俺を待っていたらしいが、一向に帰ってこないので仕方なく、一人寂しく塩気の無い硬いパンを齧ったらしい。

 本当に申し訳ないです。

「今までで一番遅い帰りだ。何かあったのかい」

 ちょっとステータスを伸ばそうと思っただけで、他意はありません。

 神様は大きなため息を吐いた。

「こんな時間まで潜っても、効率が落ちるだけだぞ。それに明日はパーティーを組んで潜る日じゃないか」

 おっしゃる通りで。

 俺は瞼が急激に重くなるのを感じる。思わずふらついて、ソファに倒れ込みそうになるが。神様にビンタされて目が覚める。

「待て。まだ寝るんじゃない。何故ステータスを伸ばそうと思ったのか聞いていないぞ」

 他意はないと。

「嘘だ」

 ああ、そういえば神はウソを見抜けるんだった。はい俺はバカです。

 神様は俺が寝られないように先んじてソファに寝転がった。

「エリナベラ関係。違うか?」

 一発で当てて来た。何でバレてるんですかねえ。

 そうだよ。ちょっとストーリーが絡みそうだったから早急に対策しようと――。

「ストーリー?」

 そういえば、話していなかった。ストーリーっていうかシナリオなんだけどね。その特性が厄介というか、面倒で対策のしようがない物なんだけれど。

「特性とは何だい? 君にかかれば何とでもなりそうなものだけれど」

 それは過大評価だ。俺のあれは別のシステムを介入させているだけに過ぎないし、シナリオはその別システムで動いているからどうしようもない。特性というのはエンディングだ。シナリオには大抵四つのエンディングがある。バッド、ノーマル、ハッピー、トゥルーだ。シナリオはその四つに収束する特性を持つ。

「特に面倒な要素は見当たらないが、否、そういうことか」

 気付いたらしい。そう。大抵四つのエンディングだ。バッドかノーマルしかないみたいなシナリオもある。それに因果が収束するのだから、もう最悪だ。

「しかし、まだエリナベラのシナリオが悪趣味なものだと決まったわけではないだろう」

 そう。シナリオが既に始まっているのかすら分からない。だが、始まっていると気付いたときにはもう遅いんだ。今鍛える必要があるんだ。

「鍛えて、強くなっただけで運命に抗えるのか?」

 それは分からない。少なくとも、純粋な難易度の上昇には対抗しうると思う。何れにしろ、エリナベラ(義妹)のシナリオが始まってしまう前に出来るだけ力をつけておく必要があるのだ。エリナベラの時はひどい目にあった。普通に殺されかけるし左手消えるし危うく犯されかけるし精神の形変わるし正気度削れるし左手消えるし。次は右腕――いや、首が飛びそうだ。そう思わないか?

「君なら飛んだ首をショウシャクヨモギで新しい鶴嘴にしそうだ」

 そんなわけねえだろ。俺を何だと思ってんだこいつ。

 はあ、と神様はため息をつく。

「こういうのは番外戦術が基本だ。宛がある」

 あるの!?

「今言ってしまえばお前の世界に引きずられるから言わないがな」

 そうか、期待してるぜ。

「そうだ、期待したまえ」

 さて、神様はそういって、ステイタスの書かれた紙を凝視した。

「魔法の正体を掴んだな?」

 だからなんでわかるんだよ。

 

「ウィルスと来たか。ならば発動中に魔力補給が出来るかもしれない」

 神様はそういってポーションを差し出して来た。

 どうしてそう思うんだ?

「トグル式――発動している間に継続的に魔力を消費する切り替え式――の魔法は発動中の魔力補給が出来ないのが常だが、この魔法はトグル式ではない。ウィルスと君の間にラインがあって、ウィルスが使う魔力を君が肩代わりしているだけだからだ」

 ほう?

「次に感染についてだが、可能だ。魔法は権利だ。この魔法が持っているのは特殊なウィルスの指揮権という訳だ。ウィルスの遺伝子にはマーカーが埋め込まれている。君がウィルスの位置を感知できるのもこれのおかげだ。そして、増殖するときにマーカーもコピーされるだろう」

 とりま、やってみればいいと神様は笑った。俺はポーションを取って蓋を開けた。

 瞬く間の永遠を。

 蒼い風が囁く。風はコップの水に纏わりついて溶け込んだ。俺はそれを見届けてポーションを少し飲んだ。すると、減っていく魔力が一瞬回復した。マジじゃん。

 君に。

 po■■■=>s■■c■ss

 コップの底に氷が出現し、からんと音を立てた。

「成功らしいね」

 おお、じゃあもう寝ていいすか。

「好きにしたらいいじゃないか」

 神様ソファから起き上がって寝室に向かった。俺は毛布を被ってソファに転がった。パチンと天井の電灯が、テーブルのロウソクの火がひとりでに消えて煙が立ち上る。

 そういえば、これ誰が消してるんだろう。

 

「生前の様子」に関する噂のまとめ

 生前の様子は、彼の死に方に比べたら知っている人の方が(当然ながら)断然多かったため、内容が集まりやすかった。やはり生前の彼と同じクラスでない生徒のほうが事情を話してくれやすい。そして、他の噂と同様に「後に起こった出来事によって以前の行動が強く印象付けられる」傾向にある。

 簡単に言うと、「今にして思うと」「振り返って見たら」のような前置きとともに語られる噂が多いということだ。つまり、以前から不思議に思っていたことに対して、ある出来事によって「やっぱりそうだったんだ」と納得するのではなく、不可解な出来事が起こった後に「その直前、当事者に変わった傾向はなかったか」とエピソードを探し、手ごろな情報を生前の彼の行動に紐付けるのだ。少し前からこんな特異な傾向があったから、今にして思うとおかしいことではなかったのかもしれない、という具合に。

 

 その証拠に、もう彼は飛行機の事故ではなく空港で自らの髪の一部を嚥下していたことになっている。




 東大の医学部に行くと死ぬ直前まで恨み言を吐く男の焼身自殺ビデオ(本物)を見させられる、かもしれない。

 モチベーション等の理由より、感想や評価を募集しています。

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