ダンジョンに潜る上で名前は必要ない(旧)   作:イクラ系鮭

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頭を空っぽにして読んで下さい。後、割とオリジナル設定が入ってます。ご了承ください。
視点が変わります。


第六話

 外の天気がどうだろうと、ダンジョンはいつも薄暗い。その暗然たる空間をせっせと歩く二人組がここに。俺とエリナベラは今日も今日とてダンジョン探索である。しかし、ニードルラビットの角にピンポイントで鶴嘴を当てへし折ろうと試みて空振るという愚行を繰り返す俺は、既に集中力が死にかけていて、会話の方に意識を裂き始めていた。

 そういえば、『パープル・モス』が撒き散らす鱗粉を浴びすぎると毒になるんだったか。

「そうだね。もしかして具合悪い?」

 いいや、なんとなく気になっただけだ。だがそうか、毒か。毒で死亡率が変動したならば何処に補正がかかるのだろうか。

「そういえば君、冒険者になって二週間だっけ」

 そんなこと言ったか?

「そっちの神様が」

 随分と口が軽い。

 ああ、それがどうかしたのか。

「……それにしては何か強くない?」

 おっ何だ? お世辞か?

「思ったことを言っただけだよ」

 クソスキルでステータスと経験値ブーストしてるからね。なんて事は流石に言えないので、ここに来る前は狩人をしていたと嘘をついた。

「へえ。で、本当のところは?」

 クッソ駄目だ誤魔化せてねぇ。知らないよ。

「ほんとにー?」

 彼女は俺に囁いた。

「こっそり教えてよ」

 教えねえよ。

「因みにこの後空いてる?」

 空いてる。こいつ、もしかして俺を絆そうとしてるのか。多分契約を切られると困るから、最初の内はこうして好感度を稼ぐのがセオリーなのだろう。まあ、そう簡単には靡かないがな。

「ご飯、奢ってあげるよ。■■■■とか」

 マジかよエリナベルさん一生ついて行きます。

 

「攻めの反対は何だと思う?」

 受け。

「守りだよ」

 受けも正解だろうが殺すぞ。

「唐突な殺意。ともかく、戦闘において攻めだけというのは良くない。守りの姿勢も当然必要だ。待ちの姿勢とも言うね」

 やっぱり受けじゃねえか。

「あーもうそれでいいから。それで、例えばそれはこういう事なんだ」

 彼女はキラーアントの前に立ち、攻撃を誘発した。獲物を前に、キラーアントが下した決断は前脚での横振り。彼女は刀の背を盾にして受けた。

 へー、そうやって防ぐんだ。そう思って眺めていたら、彼女は食らった衝撃に身を任せてz軸で一回転し、その勢いを利用してキラーアントを輪切りにした。どうなってんだそれ。

「戦闘には自分の攻撃ターンと相手の攻撃ターンがある。そして、ダメージ効率を求めるならば、相手のターンにも攻撃をする必要がある。『ずっと俺のターン』が強い訳」

 それ言ってないセリフだぞ。

「それを実現するのがパリィや受け流し。いずれも相手の攻撃に差し込んで自分の攻撃を通すことが出来る。確かに防御、回避からも攻撃につなげられるけど、防御は遅すぎるし、回避は自分の攻撃を見積もって回避する必要がある+攻撃が見え見えになるっていうリスクがあるから、前者二つが安定かな」

 へー。俺どっちも出来ねえわ。

「で、受け流しはなんとなく分かるけど、パリィはどうすればいいのかっていう話になる。正直、分からない」

 じゃあなんで言ったんだよ。

「原理は知ってる。獲物を弾くことで隙を作り出すんだけど、ただ弾くだけじゃ直ぐに立て直される。有識者曰く『体幹ごと弾く』らしいけど、刀だと強度的に無理だった(一敗)」

 え、折ったの? 

「防御という手段もあるけれど、回避できない時だけ使うかな。リスクが大きすぎるし。あとは、仕切り直す時や思考が間に合わない時にする。格上の場合でも同じ。防御が多くなるイメージだけど、それはさっき言った通り、避けるという選択のリスクが大きくなるから」

 で、結局何が言いたいの?

「今日は攻撃避けるの禁止。受け流しかパリィで対応してね」

 くたばれ。

 

 そんな感じで、俺たちは十五時くらいにダンジョンから引き上げた。いつもならば後三時間は探索するが、俺がボロボロになったので敢え無く撤収する事になった。当然ながら稼ぎはいつもより少ない。ここから授業料が天引きされるのだから、残る金額は雀の涙だ。

「それじゃあ、六時に店の前で」

 そう彼女は言い残して去って行った。俺はパンが尽きそうだった事を思い出し、買い物をしてから家に帰った。

 何時もの迷路を抜けて玄関を開けると、奥からバタンと大きな音が聞こえた。何があったか見に行くと、倒れた本棚と散乱した本、倒れた椅子と倒れた神様がいた。慌てて駆け寄って安否を確認する。

「あー別に何ともないよ。ちょっと本を仕舞おうとしたら、思ったより手が届かなくてね。椅子に本を積んでどうにかしようとしたのだよ」

 到底神とは思えない様なミスだった。もしかして人生初心者?

「そうだよ」

 そうだったわ。受肉してからまだ一か月も経っていないらしい。それにしても酷い失敗である。何年生きてるんだっけ。

「レディにそんな質問をするなんて最低だな。見損なったぞ」

 あ、女性だったのか。

「あっさり最低を更新するな」

 だって小説内で明言されてなかったし。

「性別の誤認なんて最悪のミスだからな」

 ごめんなさい。お詫びと言っては難ですが、この後■■■■にでも行きませんか。奢りなので。

「やっぱり君最高だな」

 ちょろい。

 

 定刻、確かに店の前にエリナベルはいた。近寄って声を掛ける。来たよー。

「お、じゃあ入ろうか」

 カランとドアベルが鳴った。彼女に続いて入ると、籠った熱気と料理の美味しそうな香りが広がった。店は大変繁盛していたが、辛うじて三人分の席は確保することはできた。コートを脱いでメニューを開く。高いコース料理しかない。前菜と主菜を選ぶ必要があるらしいので、目についた料理を取り敢えず頼むことにした。二人は暫し悩んで、それぞれの好きなものを選んだらしい。店員を呼び止めて、注文を開始する。

「シーザーサラダと舌平目のムニエル、後エール」

「タコのマリネとサーロインのグリルと適当なワイン」

 玉ねぎのポタージュとフレッシュパスタコンキリエ、トマトソース。俺もワインで。

 上からエリナベル、神様、俺である。未成年? 知らないねえ。

 カシコマリマシタと言って店員は下がり、直ぐに酒類が運ばれて来た。俺たちは、乾杯と言ってグラスを鳴らし、グラスを傾けるのと同時に俺は気絶した。 

 

三人称視点

 

 此処に居る者は誰も、それ程までに酒に弱いと知らなかった。家では飲まないし、酒場で飲んだとしてもそれを報告しなかったからだ。だから、グラスに口をつけた途端に顔面から机に伏したのを見て、二人は一瞬反応が遅れた。え、死んだ? 毒か? 遠距離から弓矢で? 神は慌てて助けを呼ぼうとしたが、その前にアナタはむくりと起き上がった。その顔は朱かった。ぶつけたのを抜きにしても非常に朱かった。それを見た瞬間に二人は察した。それがたった一口で酔っていて、これから面倒なことになるという事に。

 口を開いた。

「これ美味いな。美味過ぎて馬になったわ」

 それは体の構造を無理やり変化させて馬に扮した。二人は目を覆った。日々の労働でストレスが溜まり、それをろくに発散する機会もなくここまで生きていたそれは、ついに爆発した。

「あー黒マトリクスのエタノール。エスト瓶ですわ」

 キチゲ解放である。

「都内では突如として出現した■■■が路上で愛を確かめ合いながら互いの身体を求めあい、やがて合体して1つの巨大なフローチャートとなった」

「フヌラチア山脈」

「魔石を油にポーンwww!!」

 料理が来るまでずっとこんな感じだった。最悪の迷惑客である。もう誰か介錯してやれよ。

「こ、こちら玉葱のポタージュです」

 店員は明らかに困惑した様子で盆の上の料理を手に取った。誰の前に置けばいいか分からないという事態に、頭がトんでいる客という現実が追い打ちをかけていた。

「あ、僕です」

 料理は然るべき場所に置かれ、店員は逃げるように去って行った。正気に戻った。そう思って二人は胸を撫で下ろした。

「そうだ。一つ話をしていいかい?」

 だるいなコイツとは思ったものの、これ以上やらかすと困るので彼女らは大人しく話を聞くことにした。

「何時も、何処にいても誰かに見られている気がする。それは曇りでも晴天の日でも同じだ。視線は常に僕の目に向いている。多分顔を覗き込まれているんだと思う。瞼の裏の幻影もあって、目を開けていても瞑っていても苦痛なんだ。さて、僕は自分に関する記憶の一切を思い出せない。そう、きっと忘れたのではなく思い出せないだけなんだ。ここでさっきの話に繋がる誰かが僕の記憶を隠して、僕がどう動くかをずっと見ている。だから補正がかかる。死亡率に客観性は無い。『然るべき箇所』も主観でしかない。誰かが決めているんだ。あのスキ――」

「アアああ嗚呼あああーーーー!!!」

 神はスキルの情報が漏れることを恐れてその口を塞ぎ、叫換で誤魔化した。暫くの間酸素を絶たれたそれは気絶した。事情をしらないエリナベルはそれに恐怖し、距離を取る。

「大丈夫だから。大丈夫。うるさかったから黙らせただけだから」

 こいつやべえ。エリナベルはドン引きして更に距離を取った。

「あ、ほら料理来てるからそっちに集中しようじゃないか」

 神はいつの間にか置かれていた前菜を指して捲し立てた。苦笑いをして、エリナベルはぎこちなくフォークを持つ。神様は仕切り直すように言った。

「じゃあ、そうだな。授業料についての話でもしよう」

 その後、一行は店を出禁になった。

 ――気絶して泡吹いてるやつの料理はスタッフが美味しくいただきました。

 

 目を覚ます。ハッと息を吸い、一秒遅れてここが家であることを認識した。僕は、俺は確かレストランに居て、注文をして。それから? 俺は何をした? 憶えていない。またこれか。今回は雲を見ていない筈だが。

 ゆっくりと起き上がると下の方が涼しい。布団を捲った。俺は下に何も履いていなかった。嘘だろ。俺が部屋を見渡すと、隅の方で神様が小さくなっているのを見つけた。俺はその背中に声をかけた。

 何があった?

「……ごめんなさい」

 もしかして、見た?

「……すみませんでした」

 マジ?

「その、アナタって綺麗な顔してるじゃないか。それで、その。付いてるのかなと疑問に思って」

 いや――。

「でもまさか、そういうのだとは思ってなかったから。……本当にごめんなさい」

 謝るな。俺が惨めになるだけだから。あの本当にやめてくださいお願いします。

「この本あげる。頑張れ」

 ありがとう。最近物で釣るの流行ってんの?

「多分私たちが現金なせいだと思う」

 そうか。見られたことに関して、俺は何とも思ってない。だからこの話はこれで終わりにしよう。

 そこらに落ちていたズボンとパンツを履いてから、俺は貰った本を改めて見た。ハードカバーの普通の本だ。タイトルは「これ一冊でわかる!魔法学:応用編」。基礎編をくれよ。いや、貰い物にケチをつけるのは良くないな。恐らく、魔法系の本はこれしか売っていなかったのだろう。面倒だからと適当に目に付いた一冊を持って来た訳ではない筈だ。そう信じよう。

 俺は早速それを読んでみた。目次を飛ばして一章を開く。目に飛び込んだのは見慣れない単語の数々。神様に言語は教えてもらっているが、流石に専門用語は知らない。固有名詞のようで読み解くのが難しいそれらを脳の棚に並べ、繰り返し使われる個所に注意して読む。そして数分後、努力虚しく俺は眠りに落ちた。

 

 俺は、地平線上まで続く無数のコルク板の前に居た。それは掲示板だった。何処までも果て無く続き、貼り付けられる紙は止め処なく増える掲示板。其処は、それ以外には何もない空間だった。夢にしては妙な感じだ。それこそ、何時か見たクソジョークの様な雰囲気を感じる。

 張り付けてある紙を見る。

 

 エメラルド:別名翠玉。世界四大宝石に数えられる歴史ある宝石。古代エジプトからその価値は認められている。

     暗示は目。幸運を司る。

 

 なるほど。この膨大な数の紙は記憶か。ならばここは「僕」の記憶の中という事になる。

 俺は掲示板を見ながら歩いた。アメジスト、ガーネット、アクアマリン、ダイヤモンド、サファイア。俺が居るのは宝石のゾーンのようだ。

 もしかしたら、「僕」に関する記憶も何処かにあるかもしれないという希望が浮かび、それと同時に紙の群に一筋の空白が見えた。多分記憶の区間の切れ目だろう。その向こうを覗けば、今度は数学に関する知識だった。頭が痛くなるのであまり見ないように歩く。画鋲で留められた記憶の数々は先ほどと比べると薄く、興味に差が出ている事を直感した。しばらく歩いていると数学を超え、ゲームの区間に入った。ここじゃない。更に進む、電気工学。更に進む、怪談。更に進む。あった。

 一目で分かった。その区画には一切の紙、記憶が無かった。所々に残された画鋲やそれに挟まる紙片だけが、そこに何かがあった事を物語る。記憶が存在しない。それはつまり、思い出すことが困難なのではなく、不可能であるという事だった。俺はその空虚の前で呆然とした。目指していたゴールは端から存在しなかったという訳だ。スッと脳から熱が引き、左手の薬指が痙攣する。潰えた。気力が失せた。救いを求めて周囲を見渡す。何か、誰か無いか。頼む。

「じゃあ、始めよう」

 空虚に声が響いた。聞き覚えはないが、やけに懐かしい声だった。居るのはこの掲示板の向こう側か。一体誰だろうか。

「僕にとって魔法って何?」

 僕? なるほど僕か。多分俺の事だ。だとするとこいつは。まあいい。俺にとっての魔法は神秘だ。無から有を生み出す奇跡だ。

「僕にとって魔法はどんなもの?」

 今更出張って来たか。スマホのパスワードくらい教えろ。十七文字とか長すぎるんだよ。

 代償を望む物。それと引き換えに絶大な効果を及ぼす切り札。

「魔法に何を求めるの?」

 もういいか。存在が確認出来ただけで。

 希望。決して砕けない芯。

「それだけ?」

 叶うならば、俺に道を――いや、違う。道は自分で探す。誰かの影を追うのは止めよう。考えてみれば、馬鹿らしい。記憶を見つけたとて、俺がお前みたいに振る舞う訳がない。というか、今の俺とお前では違い過ぎて、記憶が戻っても混乱するだけだ。俺は俺だ。そう、だから、自分の道を歩めるだけの力が欲しい。誰にも邪魔されないような強い力が。

 視界を光が埋め尽くす。これあれだ。転送されるときの奴だ。いよいよ前が全く見えなくなった時。

まあ、頑張れよ。パスワードは――

 そんな声が聞こえた気がした。

 

 ガバっと勢い良く起き上がると、朝日が差し込んでいるのが見えた。もう朝か。そして、パスワード聞こえなかった。

 あのさぁ。こういうのって普通ちゃんと聞こえるじゃん。なんでこうも現実的なんだ? アニメとかでおじいちゃんの最後の言葉を聞き返す展開とかないだろ? その時にはもうくたばってるんだよ。だからどんなに活舌悪くても理解できてるだろ? こっちでもそうしろよ。これだから「現実はクソゲー」とか言われるんだぞ。この世界は多分ゲームだけど。

 俺がイライラしていると、神様が入って来た。おはよう。

「何だか温まっているようだね。起きて早々だが、ステイタスを更新しないか?」

 そうだな。そういえば昨日はやっていなかったし。

 俺は背中を向けた。神様が服をまくって背中に触れ、謎の光が辺りに満ちる。それが収まれば、直ぐに彼女はデータを紙に書き写した。

「あ、おめでとう。魔法が発現してる」

 絶対あの本の所為じゃん。あれ何なの?

「魔導書」

 は?

「魔導書(3400万ヴァリス)」

 終わったわ。




■で埋めてある所は意味があって埋めてます。別に店名が思いつかなかったとかではないです。多分。

有耶無耶。
語源を調べると面白い。

 モチベーション等の理由より、感想や評価を募集しています。
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