ダンジョンに潜る上で名前は必要ない(旧)   作:イクラ系鮭

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 いつか直します。
 今回は普通です。


第七話

 俺は一体誰なのか。今までこれについてあまり考えていなかった。正確には目を逸らしていた。しかし、それを整理しようと思い立った。

 この世界は何らかの創作物であるということを前提に、俺は二つの説を提唱する。

 先ず一つ。俺は転生したという説。この場合、この体はダンジョン内で生成されたという事になる。また、生えたスキルは転生の特典とも解釈できる。記憶の欠如に関しては転生の代償、又は原作知識の剝奪だと考えられる。前者の場合、普通に生きていくのが最適解。後者の場合、張り付けられた記憶に穴が開いていたのはその知識の跡であって、記憶の元の持主である僕についての知識は埋もれているだけという事になる。こちらなら、思い出せないだけのはずなので頑張れば行けるかもしれない。

 次にゲームのプレイアブルキャラ説。何かの拍子に異世界の僕に俺の記憶が流れ込み僕の記憶が消え、エラーで俺の記憶も消えた。あるいは、僕がダンジョンで記憶を失い、それを埋めるように記憶が流れ込んだ。後者の方があり得るな。この場合、求めるのは僕の記憶ではなく、俺の記憶となる。そうすると、出生や街の出入りの記録を洗う事で何か見つかるかもしれない。

 さて、大体把握できただろうか。ではここで、今回発現した魔法の紹介をしよう。

 

【ショウシャクヨモギ】

・生成魔法

・生成物は詠唱時のイメージに依存

・詠唱式【暗赤色の結晶よ】

・解呪式【解けろ】

 

 名称から既に不穏な空気が漂っている。一見なろう主人公が持ち合わせる何でも生成チート魔法だが、その本質は違う。

 詠唱を終えると、外傷がある場合はそこから、無ければ左腕に裂傷が走り、血が迸る。血液は重力を無視して浮かび、想像した場所に流れ込む。そして、異音を鳴らしながら想像したものを象り、固体となる。この時点で血は肉へと変わり、表面を自然な形に骨が覆う。更に、ランダムな位置に目が複数個固まって生える。尚、この血と骨、目はどんなものを想像しても必ず生える。魔法を解除すると、生成物は血溜まりに戻る。

 それから、極めつけ。複数回使用すると、俺がおかしくなる。今まで確認できたのは健忘症、多弁症、偏食症、幻聴、幻覚、失声、自傷、殺人癖、偏執症であるが、まだ引き当てていない症状があるかもしれない。これは、恐らく俺が魔法をリクエストするときに言った「代償」だと考えられる。二時間から二日半で収まるが、これほど重いものだとは思わなかった。

 何故俺が急に魔法の話をしたかと言うと――。

 

 

「えぇ……気持ち悪っ」

 俺が鶴嘴を魔法で生成すると、エリナベラはそんなことを言いながら一歩引いた。そんなにか。

「そんなにだよ。多分魔法だよね、それ。何時発現したの?」

 数日前。俺はそう答えながら鶴嘴を撫でた。柄の目がこちらを見つめた。

「へえ。よかったじゃん。武器を持っていく手間が省けるし」

 しかし、魔力消費が半端ないんだ。三回使ったらマインドダウンしてしまう。そんなに頻繁に使うような魔法でないのが救いか。

「あ、来てるよ」

 そうだな。俺は鶴嘴を横に薙ぎ、インプの膝を砕いた。動きが止まったところで跳び、頭を砕く。後二匹。

「えーと、うん。そうだ。次はちゃんと目を狙ってね」

 もう十分なほど器用値は伸びてるんですけど。

「あって困らないからね」

 器用値信者め。

 

 エリナベラは刀をメインに扱うLV2の冒険者だ。器用値が高く、どういう原理か分からないが斬撃を飛ばせる。これは他の冒険者には見られない能力だ。斬撃は透明で目に見えない。モンスターが気付くことはない為、大抵これで片が付く。非常に強力な攻撃手段だ。一度教えてもらおうとしたところ、「出来ない」と言って断られたので、恐らくはスキルだと思われる。ギルドで情報から考えるに、その実績からLV2の中でも実力は上位に入るだろう。

 

「魔法はどうやって発現したの」

 彼女は唐突にそう尋ねた。どうやってというのはどういう意味で。

「例えば、たくさん本を読んだからとか。何か凄い経験をしたからだとか。そういう感じの」

 参考にはならないと思うが、俺の場合は魔導書を読んだ。

「魔導書って、あの滅茶苦茶高いやつ?」

 そうだ。何を思ったか神様が買って来た。有難いが、とてつもない借金が出来た。

「魔導書は私には無理かな」

 彼女は頬を掻いてそう言った。そんなに魔法が欲しいのか。

「魔法に憧れるのは普通のことでしょ」

 俺は鶴嘴を近付けた。彼女は後ろに跳び退った。おい。魔法だぞ。

「それはどちらかと言えば呪術でしょ」

 クソ。否定材料がない。俺は遠くのインプに向かって鶴嘴を投げた。回転して飛んだそれは胴に深々と突き刺さる。それを確認して鶴嘴を再生成する。俺はマインドダウンで倒れた。

 魔法はいいぞ。遠距離攻撃が出来る。

「はぁ。次からは金払ってね」

 彼女はそう言って俺にポーションを飲ませた。俺はすくっと立ち上がって礼を言った。ありがと。

「何処見てんの?」

 あれ。違ったか。じゃあこの人は。

「何言ってんの。そこには誰もいないよ」

 いいや、いるね。可愛い誰かがいる。背は3Mくらいで、親がやっている食堂の看板娘として有名で、有名な歌手の誰かがいる。

「……今日は引き上げない?」

 この調子で行こう。

 

 前方20mにインプ5とオーク1。無手の状態で駆け、接近する。一番近いインプが気付きその拳を振り上げるが、俺のほうが速い。

 暗赤色の結晶よ。

 即座に鶴嘴を生成してその顎をかちあげた。持ち方を変えて同じ場所に先端を置き、勢いのままに半円を描いてインプの頭を地面に叩きつける。

 それを見た別の個体が拳を振るうが、俺はそれを半身引いて躱し、伸び切った腕を掴んで引き倒して止めを刺した。残り三匹は、クソ、接近された。鶴嘴には戦いにくい距離なので長めのナイフを生成し、擦違様に二匹首を飛ばす。残りの一匹にナイフを投げるが、躱された。

 瞼の裏で天秤が揺れた。危険信号だ。割って入った横薙ぎの棍棒を、咄嗟に鶴嘴の優雅な曲線で往なした。オークだ。すっかり存在を忘れていた。

 殺しきれなかった衝撃に身を任せて後ろに跳び、地面に足が付いた瞬間に力を入れて前に飛び上がる。その先には一本の枯れ木。枝を踏んでさらに高く跳び、オークの頭部に体重を乗せた一撃を叩き込んだ。そして、その硬直を狙って飛来したバッドバットを叩き落し、潰す。骨の感覚が無い。バットは幻覚だった。

 天秤が揺れる。振り返りつつ、その遠心力で鶴嘴を薙ぐ。運良くインプの胴体を貫通したのを手応えで確信した。戦闘終了だ。

「上出来じゃない?」

 エリナベラは少し考えたふりをしてからそう言った。俺もそう思う。大分強くなった。俺は徐に魔石を拾った。しかし、これだけ時間がかかるとなあ。

「後強化する場所があるとすれば、装備かな」

 俺は鶴嘴をくるりと回した。

「武器じゃなくて、防具の方。今、ちょっと厚いコートくらいしか着てないでしょ。多分必要ないとか思ってるんだろうけど、即死を避けるためには必須だから」

 へえ、なら買うか。

「やはりヘファイストスファミリアか……いつ出発する?私も同行する」

 エリナベラ院。語感が悪い。

「目は効くから、アドバイスくらいならできるよ」

 OK。一週間以内には行こう。じゃあもう時間だし帰ろうか。

 

 ダンジョンを出て、ギルドまでの道を辿る。路を行く人は皆、頭が水晶だった。何時からこの街は天国になったんだ?

「君には何が見えてるんだ?」

 エリナベラは頭がそのままだった。少し残念だ。

「本当に何が見えてるの?」

 

 ギルド。俺は行きたくないのだが、中に換金所があるので仕方なく通っている。担当に見つかると、それはもう面倒くさいのだ。

 今日も入り口から換金所へ最短距離で行き、魔石を袋ごとカウンターに乗せて金に変わるのを待つ。この時間が一番嫌いだ。

 まだか。報酬でもめるソーマファミリアを尻目に人差し指で木製のカウンターをトントンと叩く。まだか。どう誤魔化したとしてもこの時間は消えない。まだか。右手の指五本で木製のカウンターをトトトトトンと叩く。まだか。俺の後ろにいる、可愛いピンクトルマリンの髪が首筋を撫でた。くすぐったさに首を動かす。しかしそこに髪は無く、ただ汗が伝っただけであったことを理解した。まだか。まだか。まだか。いよいよ両手の指全てを使って木製のカウンターを――。

「ステイステイ。何をそんなに焦ってるの」

 今日は不味いんだよ。早くしないと来る。

「来るって、誰が」

 俺の担当。

 ようやく換金が終わった。俺は授業料の入った袋をエリナベラに押し付けて、さっさとその場を後にした。が、出口付近で肩を掴まれる。その腕を握る。すり抜けない。つまり幻覚ではない。捕まった。

「ちょっとあっちで話そうか」

 指したのはソファ。担当の頭はサファイアだった。あれ何カラットだろう。牛歩戦術で行こうとゆっくりと足を上げると、尻を蹴られた。ダメージは無いが衝撃で転びそうになる。

 ちょっとセクハラですよ。近年多くのハラスメントが生まれリーガルハラスメントとかいう意味不明なものまで存在するがセクハラはその中でも特に重大な問題としてとらえられている。よって多分あなたが話そうとしていることと相殺できるので俺はこれで失礼します。げふ。襟をつかまれた。

「逃がさん」

 彼女はそう言って、俺を放り投げた。頑張って受け身を取り、着いたのはソファ。俺は仕方なくそれに座った。彼女もドカッと座った。

「さて、何人かからの目撃証言がある」

 何の事かな。俺はすっとぼけてみた。きっと鎌をかけているだけだ。

「いつの間にそんなに下に潜れるようになったんだろうなあ」

 担当の頭の宝石が伸びた。それどうなってんの。

 多分言っているのは、冒険者歴一か月の俺が十階層で探索していることについてだろう。その点については問題ない。LV2とパーティー組んでるからな。

「それはこちらも把握している。今日もそうだったんだろう。私が言っているのはそっちじゃない」

 では何の事を言っているんだ。俺は特にこれと言って悪事は働いていないし、他の冒険者から目を付けられるようなマナー無い行為もしていない。

「お前、一人で13階層に潜ったな?」

 サファイアの色がピンクを通り越して赤になった。ルビーになった。

 潜っていない。俺は立ちどころに否定した。知っているか? 俺はLV1だぜ? そんなところに言ったら瞬殺よ。

「本来ならそうだ。情報提供者曰く、お前は血塗れになって、武器を振るどころか真っ直ぐ歩くことすら困難だったらしい。しかし、それでも一応は戦えてはいたと言っていた」

 別人ですよ、きっと。俺はそう言って立ち上がった。

「ロングコートに口を覆う黒布、鶴嘴。この格好はお前しかない」

 俺のファンですよ。コスプレですよ。

「絶望的に自意識過剰だな」

 うるさいな。俺じゃないですよ。俺じゃない。

 そう言って、俺はギルドを出た。引き止めなかったという事は、証拠がないか、それが非現実的だと言う事を理解しているかのどちらかだろう。まあ、実際俺なんだけど。

 別に俺はマゾヒストではないので、意味もなく13階層でボコボコにされていたわけではない。あそこくらいまで降りると死亡率が七割くらいに達して、クソスキルの補正がかなり強くかかる。それによって、死にかけながらも戦うことができ、そこのモンスターの上質な経験値でステイタスが伸びるのだ。

 態々ポーションを大量に消費してまでそれをする意味はあるのかと言われれば、無い。やっぱり俺はマゾヒストかもしれない。いやしかし、ステイタスの数値が跳ね上がるのを見るのは少し楽しい。そうだ。ゲーマーである以上あの数値の伸びを経験したらもう止められない。俺はその為にあんな事をしているんだ。それで正しい。

 その通り。君はそれでいい。エナメル線の様な髪の彼女は言った。

 嗚呼、やっぱりそうだよな。その髪を指の間に通す。髪は溶けた。

 きっとそれが正解だよ。青の電燈が回る。眩く。はは。はははははは。

 明滅。

 ガツンと頭に衝撃が走り、脳が揺れる。痛い。とても痛い。痛ぇ。多分割れた。舌打ちをして振り向くと、エリナベラが居た。あれ、帰ってなかったんだ。

「ずっと様子がおかしかったから、ちょっと心配でね」

 大丈夫。もう大丈夫。俺は目頭を押しながらそう言った。今回は少し長かったな。

「二時間半くらいだね」

 街の人の頭が普通だ。じゃあ、帰るわ。ありがと。

 帰路についた俺は幻覚について無駄な思考を走らせた。あれは幻覚だったのか。しかし、何故宝石なんだ? 前の俺の趣味か?

 まあ、どうでもいいか。

 

 青黒い色に浮かぶ鱗雲の隙間から、星が漏れていた。




 主人公の正体は、分かる人には分かると思って書いてましたが普通に分からないですねこれ。分かったら天才です。情報は言われたらそう……かもしれない、くらいしか出してません。
 マグロ節の血合い抜き美味しい。マジで。
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