最弱の怪物   作:肩たたき

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第三話『優れる者たち』-2

 

 青年の名前は虎杖(いたどり)悠仁(ゆうじ)

 病床に伏せる祖父を持つそうだ。

 調査によって得た情報を基に、伏黒と共に虎杖の祖父が入院する病院へと夕方ごろ、二人は訪れた。人も少ない病院でも虎杖のことを調べていたのだが、彼の祖父が先程亡くなったという。亜冴は亡くなるという言葉の意味を尋ねることはせず、周囲の様子から意味を悟った。病院すら初めて知った。

 伏黒はそれを聞いた際、少しは時間を置くべきだと判断したらしく、日が暮れ始めた頃に病院の並べられた椅子の一つに座る虎杖を二人は眺めた。痛いほどの悲しみと混乱、喪失感が彼の全身から発せられている。

 

「宿儺の指はいち早く回収するべきだ。俺が話してくるから、足集利はここにいろ」

「……わかりました。あの、伏黒さん」

「なんだ?」

「……お気を付けて」

 

 亜冴の言葉に返事をせず、虎杖へと伏黒は近付いていく。亜冴は静かに何やら話す彼らの口元を眺めた。彼にとって祖父は、大事な人だったのだろう。概念も存在も知らない亜冴には、祖父というものが分からない。単なる役割の名称として捕らえていた。でも、彼にとってかけがえのないものだったと、見ていれば分かる。親代わりだったのだろう。

 

──死なんて、無ければいいのに。

 

 土台無理な願望を浮かばせた亜冴の元に戻ってきた伏黒は、焦った様子で背中に虎杖を控えさせた状態で話しかけてきた。どうしたのかと見ていれば、校舎で擦れ違った虎杖から発せられる負のものは薄まっていた。

 

「宿儺の指は学校にある。解放される前に戻るぞ……!」

「でも、指は呪符で封印されているんじゃ……」

「オカ研の部長たちが指に巻き付けられてたお札、今日の夜、部室で剥がすんだよ!」

「とにかく、急いで止めに行くぞ!」

「は、はい!」

 

 駆り立てられるように走り出す青年二人の後を、亜冴は必死に足を動かして元来た道を走った。すっかり日も暮れて、空には深い藍色しか浮かばないようになった頃、亜冴は一人置いてきぼりを食らわされていた。

 

「足集利、お前はここで待ってろ」

「え」

「戦闘になったら危ねぇから」

「ですけど……」

「自分の身、守れねぇだろ」

「……はい」

 

 さぁ、学校の裏手から乗り込むぞ、という時、伏黒から待てを命じられた亜冴は、青年二人を見送った。確かに姿を消して少しばかり見た目を変化させるだけじゃ、身も守れなければ役にも立たない。伏黒に遠回しに無能宣言された亜冴は、しおしおと落ち込んでいく。けれど律儀に待つのは、やはり応えたいからだ。

 

「アレ? 亜冴、こんなところで何してんの?」

「五条先生……」

 

 そうこうするうちに、伏黒が連絡を入れておいた五条がやって来た。彼は紙袋片手に繁々と亜冴から校舎へと目をやる。

 

「うわぁ、大変なことになってるね」

「そうなんですか?」

「亜冴には見えないか」

「背中を向けていたので、何も見ていません」

 

 五条は恵まれた体躯を活かして、屋上付近を眺めている。亜冴も同じように眺めようとした瞬間、視界は紙袋で塞がれてしまった。

 

「コレ、お土産」

「……なんですか?」

「仙台の喜久福! ちょー美味しいんだぁ」

「センダイノキクフク……」

「持ってて。じゃ、ちょちょいと助けてくるね」

「はい、分かりました」

 

 私は行ってはまだ駄目なんだ。五条の判断に、亜冴は手元のお土産に視線を落とす。このぐらいの重さなら、もう平気なのになんだか今は一層重い。乱雑にぐしゃ、と亜冴の頭を撫でていった五条が校舎へと去り、その後すぐに争う音がした後、虎杖を小脇に抱える五条と、怪我を負った伏黒が迎えに来た。

 

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