最弱の怪物   作:肩たたき

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第四話『教育』-2

 

 結局、釘崎の買い物に付き合わされた三人は、夕方に解放された。亜冴が手にする買い物袋の内、釘崎が選んだ靴とワンピース以外は釘崎が購入したものだ。伏黒たちが持ちきれなかった嵩張(かさばる)るものを手にしている。

 伏黒と虎杖の気遣いもあって、亜冴は比較的軽いものを持たされていた。しかし、重いものは重いのだ。震える腕も隠せないで、抱え直した荷物を釘崎の部屋に亜冴は置いていった。

 

「……マジで箸より重いもん持ったことないのね」

「コイツ、全身筋肉痛で三日も休んだことあるぞ」

「お恥ずかしながら……」

「筋力赤ちゃんじゃん」

「……アカチャンってなんです?」

「嘘だろオイマジか」

 

 険しい顔をする釘崎は、色眼鏡で見ていたのをようやく止めて、ジロジロとあり得ないものを見る目で亜冴を観察する。釘崎の髪は女人にしては短いけれど、整った顔立ちをしているのに勿体ない。口には出さずに亜冴は説明を待った。虎杖も釘崎と同じように亜冴を眺めている。そんな三人の様子に伏黒は痺れを切らし、亜冴に向けて口を開いた。

 

「赤ちゃんってのは、赤ん坊とか赤子のことだ」

「あぁ、なるほど」

 

 共通する赤を抜き取り、敬称に当たる“ちゃん”を付けたのか。説明に納得して頷く亜冴を目にした虎杖と釘崎は顔を合わせると、二人の会話に割り込むように一歩踏み出してきた。

 

「もしかして、マジで宇宙人とかそういうオチ?」

「んなわけないでしょ。私は遠い過去から来た説を推すわ」

「えー、だったら宇宙人の方が現実的じゃない?」

「……伏黒さん、彼らは一体なんの話を?」

「知るか」

 

 目の前で繰り広げられる口論が、自分のことを指すのは分かる。しかし、分からないなりにもウチュウジンでなければ、時間を飛び越えた覚えもない。

 

「これまでどんな生活送ってきたのよ」

 

 聞き飽きた台詞をかけられ、亜冴は真顔を返した。聞かれるたびに過去のことを思い出させる言葉だ。その言葉が大嫌い。こんなにも私を惨めな思いにさせる。なんと答えたら、円滑にこの場を収めることができるんだろう。話せば暗い顔をしてくるのも嫌だ。

 

──けれどもやはり。

 

「──秘密です」

「教えなさいよ!」

「嫌です」

 

 隣の伏黒は穏やかに拒絶する亜冴の様子に、驚きを混ぜ合わせた顔で見つめてくる。全てではないにしろ、数口で話した時とは違うと察したようだ。学んできたと気が付いてしまったかしら。

 

「なんでよ!」

「言いたくないこともあるんじゃねえの? 無理に聞くのはよくないって!」

「だって気になるじゃない! どうやったらこんな世間知らずが生まれんのよ!」

 

 ギャイギャイと騒ぐ釘崎は、ビシッと亜冴を指さす。愛想笑いを作って嫋やかに対応する亜冴は、きっと大人の前でしていた顔と同じだ。警戒心を出した相手に対する態度。伏黒は気付いたのか、複雑そうな顔をすると、亜冴の袖口を引っ張って耳打ちをした。屈まれた背丈の違いを、亜冴は横目で見た。

 

「仲良く、なりたいんだろ?」

「……まぁ。はい」

 

 なら言うべきだとまでは言わない伏黒は、元の位置に戻すように姿勢を正した。

 

「軟禁生活を生まれた頃から強いられてきました。家から縁切りをされて、今年の春からここにいます」

 

 ほら見ろ、心が曇った。亜冴は予期していた虎杖と釘崎の反応に、同情的なものを感じ取っていく。苦手な手合いであろうと、仲良くなりたい相手にそんな顔をさせたくはない。苦虫を噛み潰したような顔をした亜冴は、いつか五条がやっていたように、パン、と手と手を合わせて音を出した。

 

「はい、この話はここまで! ここから先はユウリョウカイイン限定です!」

「どこで覚えたんだ、そんな言葉」

 

 思わず口を挟んだ伏黒は溜め息混じりだが、どうせ五条辺りだと目星は付いているらしい。使い方は若干合っている亜冴にこれ以上何か言うつもりはないらしく、伏黒は携帯を取り出して弄り始めた。夕飯の場所を探しているようだ。

 

「……私は別に、謝りも同情もしないわよ」

 

 不機嫌そうに話し出した釘崎に、亜冴は目から鱗を落とした。胸の内に広がる温かなものを釘崎が発していく。彼女は腕を組んで拒絶の姿勢を見せるが、あべこべとなっている顔色が可笑しい。どう見ても貴女は反省しているのにね。

 内側から滲むように口元を歪めた亜冴は、それが頬を押し上げていくのを感じ取った。

 

「はい、しないでください。それよりも沢山知りたいことがあるので、沢山教えてほしいです」

 

 またしても顔を見合わせた虎杖と釘崎は、意思疎通ができたのか元気よく頷き、亜冴のいくつもある質問に答えていく。この数日の間に溜まりに溜まった疑問を解消できた亜冴は、その後の四人での食事でも笑顔を絶やさなかった。

 

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