「少年院……? 病院みたいなところですか?」
教室までやってきた伊地知の説明と任務内容に、亜冴は小首を傾げて尋ねた。虎杖の説明に頷いててっきり自分も行くものだと思っていたところ、伊地知からストップがかかる。
「足集利さんは留守番です」
「分かりました」
「妙に素直ね」
「時間のかかる宿題があるからね。あ、でも、コレお願い」
小瓶を取り出した亜冴は三人に渡して微笑んだ。札でグルグル巻きにされたそれは禍々しい。
「五条先生からの頼みで、呪霊の血液を取って欲しいんだって。可能ならでいいから」
用途をすぐに悟った伏黒は嫌な顔をしたが、朗らかな亜冴の圧に押し負けて、他の一同と同じように頷いた。教員も生徒もいない状況で手が空いた亜冴は、駐車場まで三人を見送るべく付いて行く。曇り空はもう見慣れつつあるので、特に反応せずに廊下を歩いた。そんな変化に誰も気付かず、辿り着いた駐車場で三人は車に乗り込んでいく。
「いってらっしゃい」
嬉しげに笑う亜冴を別離するように閉じた車のドアは分厚く重い。危ないので一歩離れていれば、数拍後に発車していく。どことなく嫌な予感がして口を開き掛けたが、車はもう駐車場を出ていくところだった。
──良い人から死んでいくのをとっくに知っていたのに。
「よかったぁ……本当によかったぁ……」
負傷したと聞きつけ、急いでシアタールームから治療室へと駆け付けた亜冴は、眠っている二人を前に涙した。今は安静にということで静かに見舞うのが、家入が提示した条件だったのだが、あまりの泣きっぷりに早々に退室させられそうになったところだ。
「ムッチャ泣くじゃん」
「だって……おかえりなさい出来るぅ……」
「そこ?」
ちゃんと帰ってきてくれて嬉しいを伝えるのにこれ以上の言葉はないだろう。亜冴は泣きじゃくりながらも、一人足りなかった姿へキョロリと視線を泳がせた。虎杖の姿だけが見当たらない。話し相手となってくれる家入へと顔を上げ、ぼやけた視界を拭ってから亜冴は尋ねた。
「あの、虎杖さんはどちらに?」
家入の目鼻の動きが固まり、肩を僅かに怒らせた彼女の仕草は、いつかの乳母のそれである。あ。やめて。言わないで。
「……死んだよ」
冷たくも事実を告げた彼女から目が離せなかった亜冴は、泣くのではなく、ただ静かに静止しようとした口を閉ざした。
* * *
七月凡日。
呪術高専一年生である虎杖悠仁が死亡。
伏黒恵の証言により、両面宿儺の暴走を止めるべく、自死したとされる。
本来の除伐対象であった特級呪霊により、玉犬の白他数体の式神が破壊され、黒が玉犬の渾として白の力を継いだ。
いずれも、任務報告書にあった階級に適さない配属であり、五条悟が高専から離れた出張中の出来事であった。