最弱の怪物   作:肩たたき

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第五話『見届け人』-10

 

「制服でいいんですね、喪服」

 

 五条の隣で呟いた亜冴は、葬式中騒がしくなることを予想して、虎杖とすれ違いで会場から出た。今頃、どういうことだと七海に詰め寄っている最中だろう。

 

「喪服は知ってるんだ」

「両親の葬式の際、乳母が教えてきました」

「へぇ、そっか」

 

 興味なさげな五条は、亜冴からではなく、遠い位置に感じる微弱の呪力に関心を割かれていった。術師ではなく、対象から溢れる呪力は敵の撹乱に持ってこいかもしれない。周囲の認識を変えるだけであるからこそ、呪力消費は少ない。つまり、使いようによっては亜冴自身に残穢は付かないようだ。

 

「対象を見てなくても操作できるんだね」

「対象が大きく変質しない限りは定着できるみたいです。……私の一部となり、繋がっているんでしょうか」

 

 暗い顔をした亜冴はそれ以上話す気はないらしく、五条は返事の代わりに褒めようとした手を止めて、やってきた虎杖に目を向けた。走ってきたため、亜冴は逃げ遅れてしまい、小さな手が大きな手に覆われる。

 

「い、虎杖さん……」

「ありがとう!」

「……え?」

「足集利がやったんだろ?!」

 

 バラしたな、と言いたげに亜冴は、背後に控える七海を見たが、虎杖は手の力を強めて自分の方へ視線を戻す。虎杖の涙ぐむ顔に亜冴は更に戸惑いを見せた。喜んでいるのになぜ泣く。

 

「順平の身体を戻してくれて、ありがとう……!」

「……戻してない。認識を変えてるだけで、本当は……」

「でも、あのままじゃ浮かばれねぇよ! 葬式ってさ、遺された側のためのものでもあるんだ。順平の母ちゃんも喜んでるって!」

 

──あぁ、どう紐付けたかは知らないんだ。

 

 陽射しを反射させて煌めく瞳の優しさに、亜冴は熱弁を受け入れて、横に振りそうになった首を止めた。そりゃあそうだろう。親しい相手を食した相手を、人はそう受け入れがたい。だって私なら、元の姿にされても喜ばない。誰にも姿を取られたくない。

 私は、誰にも食べられたくない。

 

『来ないでぇッ!』

 

「……そうだと、いいな」

 

 凄いと褒め称える言葉に微笑みつつも、亜冴は虎杖の手を解いて自分の方へ引き寄せた。気恥ずかしさで下がる溜飲にホッと胸を撫で下ろす。倫理観が両親のものであったことが今は嬉しい。嬉しいはずなんだ。気にするな。

 

「葬式に戻ろう」

 

 促された虎杖は無邪気に頷き、亜冴はそれに続いた。花に囲まれた生前姿には、大きめの棺桶に入れられた吉野親子、それぞれに花をたむける。

 彼らからすれば、顔も知らない相手である。亜冴は何も声をかけることはなく、一輪ずつ置いていった。火葬場の立ち登る煙は他にもあり、複数人同時の術式展開に不備はなく、一番最後に順平は火を灯される。徐々に消えていく対象の最期の瞬間を、亜冴は身体の芯から力が戻っていく感覚に慣れず、自然と顔から穏やかな姿が削げ落ちていった。燃え朽ちて灰となれば、もう人ではないと否定されているようだ。

 

「……ごめんなさい」

 

 吉野凪と吉野順平の姿が手の内から消えた瞬間、亜冴は苦々しげにくすんだ黄緑色の目を閉じた。二度とあなた達の姿は借りまい。小さな宣言は確固たるものとして、胸の内に仕舞った。

 

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