最弱の怪物   作:肩たたき

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第六話『行動皆無』-1

 

「その節は申し訳ありませんでした……」

 

 九月中旬、加茂(かも)家嫡子の親戚一同に対し、亜冴は謝罪と共に頭を下げた。

 加茂憲紀(のりとし)に深々と青い顔を下げ、彼は「んん、まぁ……私の親戚のことだから」と言葉をかけた。いそいそと京都校の生徒側から、数歩の距離にいる伏黒たちの元へ戻り、亜冴は深く息を吐く。まさか御三家の一つである加茂家と鉢合わせるなんて、思わないじゃないか。事前に聞いておけば、心の準備とやらができたものを。心の準備の経験がない亜冴は、半分機会を逃したことに落ち込みつつ、顔合わせとなる京都校の面々を眺めた。

 どちらも六人ずつの生徒に、見学になる未来が見える。他校との名前だけの自己紹介の際、釘崎から耳打ちされた「東堂(とうどう)(あおい)は変態」という頭の情報を名前横に書いておいたのを思い出し、亜冴はコソッと伏黒に耳打ちした。

 

「東堂さんは、どうしてヘンタイというものなんですか?」

「……釘崎」

「どう見てもアイツは足集利に悪影響でしょ?」

「真希先輩、ヘンタイとはどういう意味か教えてください」

「あ? 東堂のことだ」

「真希さんッ!」

 

 ともかく、亜冴がいない間に伏黒と釘崎は、東堂と何かあったようだ。見るからに筋骨隆々のガタイの良い男である彼は、こちらのやり取りを特に気にした様子はない。

 

「半裸で好きな女のタイプを男に聞いて、つまらなかったら半殺しにするっていう不審者だから、絶対に近付くなよ」

「…………もしかして、この間、伏黒さんが大怪我してたのって」

「“揺るがない人間性”で不合格とかで、いきなり殺しにきたのよ」

「え。伏黒さん、素直にお答えしたんですね」

「……別にいいだろ」

「ちなみにアイツは、ケツとタッパがデカい女よ」

「ケツとタッパ……?」

「覚えなくていい」

 

 揺るがない人間性ってなにかしら。人間性って、人を思い遣る心のことだった筈だ。揺るぎようのない信念として、善意を持っている人は早々いないと思ってしまうのだが、伏黒は理想が高いようだ。

 深く考えるよりも前に、遅れてやってきた五条と巨大な箱に亜冴はスンッと真顔になった。全員の前にキャスターで運ばれてきた箱が、勢いよく開かれてしまう。

 

「故人の虎杖悠仁くんでーす!」

 

 交流戦開催時、亜冴は箱から出ていくと聞いて止まなかった二人を前に、もぬけの殻になる伏黒と釘崎に静かに目を瞑る。箱から勢いよく飛び出した虎杖は不可思議な格好で止まり、文献で見た見世物小屋を彷彿とさせた。私でも笑えない。そんな状況で、五条は早々に虎杖を見捨てて、京都校の面々に海外のお土産である謎の人形を手渡している。やっぱり碌な人じゃない。白けた空気に固まる虎杖はというと、亜冴に助けを求めるように見てきたが、敢えて遠くを見ることで無視をした。

 私は止めた。七海と共に。

 

「……おい、待て。なんでテメェは無反応なんだコラ」

「そうだ、お前が反応ないのはおかしい」

「えっ」

 

 突然、伏黒と釘崎に白羽の矢を立てられた亜冴は、慌てて逃げようとしたが、二人に腕を掴まれて動きを封じられる。そのままズルズルと虎杖の前に連れていかれたかと思えば、謎のポーズの青年と向き合わされた。

 

「なんか言うことあんだろ」

「ひっ……生きてること黙ってて、ス、スミマセンでした……」

「既に知ってて、ごめんなさい……」

 

 萎れた亜冴はすぐに解放されたが、虎杖はなかなか許されはしなかった。

 作戦を立て直すために設けられた部屋は、個室のようで離れの倉庫を彷彿とさせる作りとなっている。それぞれが少しバラけて寛ぐ中、亜冴はなんとなく隅に寄った。それに何故か虎杖たちも付いてくる。

 

「作戦立て直しかぁ」

「ま、いいんじゃね? 足集利は元々数合わせだった訳だし、代わりに虎杖を入れれば」

「あってか、アンタ。虎杖来るの分かってて訓練やる気なかったでしょ」

「やる気はあったよ! 力がないの!」

「誇るように言うことか?」

 

 常日頃からトレーニングを行なっている者たちと比べられても困る。というか本当に非戦闘員なのだから、数合わせに使われたらたまったもんじゃない。そりゃあ、交流戦という名の団体戦も個人戦も、参加できるならしたい。しかし残念ながら分不相応という言葉を最近知ったのだ。

 

「それに、そうなるだろうなーって思っていただけで、五条先生から聞いてないよ」

 

 どう考えても、前線向きの戦いは虎杖が向いている。いや、この場の誰よりも向いているのが彼だ。まだあまり知り得ていないが、少なくとも亜冴には虎杖が出ることに意味があると感じた。対立気味にある京都校と仲を深めることが、五条の意図であり、虎杖の為でもある。

 

「お前……考える頭とかあったんだな」

「たった今、伏黒さんが私のことを、本当に、馬鹿にしていることも分かったよ」

 

 言い返し虚しく、伏黒の言葉にそれはそうだと各々が頷いていく。事実、馬鹿だとしても、馬鹿にされるのはいただけない。ニュアンスというものがいけない。

 ムッとしつつも分が悪いので、亜冴は五条がやっていた作戦にうち出た。

 

「伏黒さんの役割を虎杖さんにするとかどう?」

 

 話を逸らすために作戦を立て始める亜冴を、お前が仕切るなと釘崎が小突いてくる。しかし、本題に真希も遅れてやってきたので、上手くいったようだ。小突かれて深傷を負いつつ、話を聞きながらそこを摩る。思い付きで言っただけだったが、亜冴が立案した作戦を後押しした伏黒により、かくして交流戦の初手の動きが決まったのだった。

 

「お前を活かせそうだったのに残念だ」

 

 各々が準備をする中、暇そうに一人だけ隅に残っていた亜冴に真希が話しかけてきた。釘崎が真希さんと慕う彼女は堂々としていて、亜冴が見てきた女性には無い人種である。カッコいい、憧れと釘崎は称していた。

 

「例えばどんな風にですか?」

「撹乱専門だな。向こうの偵察は一人だけだ。混乱させるには充分だろ?」

「……それでもやはり、虎杖さんと関係なく、私は参加しない方が良かったと思います」

「なんでだ?」

「向こうは戦闘特化です。偵察が当てにならなくても、相手の強さは変わりません」

「まあ、そうだな。なんだ、マジで考えることできんじゃん」

 

 ぽんぽんと軽く叩かれた頭を上げ、真希の眼鏡越しの瞳を見る。この人の動きと虎杖の動きはどことなく似ているのだが、理由は何処だろうか。小馬鹿にされて、またもや亜冴がなんとも言えない顔をしたのは言うまでもない。明らかに試されたな、今。

 

「……中退して幼稚園、入ろうかな……」

 

 人生で初めてイジけた亜冴は、三角座りをして頭を下げた。

 

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