最弱の怪物   作:肩たたき

39 / 96
第六話『行動皆無』-2

 

 見学で通された部屋で亜冴は、冥冥(めいめい)(いおり)歌姫(うたひめ)、京都校の学長に挨拶をして、隅の方に立とうとした。

 

「どうしてそんな隅にいんの? 隣来なよ」

「ここを中退して幼稚園で基礎を学ぶので、呪術に関して学ぶことはもうありません」

「なにそれウケる」

 

 首根っこを掴まれた上、引き摺られて前に座らされた亜冴は、ズゥンと拗ねたまま、モニターを見る。わぁ、綺麗な場所だな。自然がいっぱい。

 

「ちょっとその子、大丈夫なの? 体調が悪いんじゃ……」

「たぶんイジけてるだけ。そんなに合同戦に出たかった感じ?」

「……出すつもりない癖に」

「おっ、分かってんじゃん」

 

 伏していた頭を遂に机に擡げた。胸がムカムカして仕方ない。今までも今もそうであったから受け入れていたが、今回のあれはなんだ。心外とまでは行かないが、失礼すぎるものではないか。

 

「私って考える脳みそが無いと思われてるみたいです……」

「能無しってこと? 上手いね」

「のうなし……?」

「取り柄のない人のことだよ」

「ははっ、本当だぁ……上手いなぁ……」

 

 無慈悲にも五条に死体蹴りをされた亜冴は、三角座り同様に机上で腕の中に頭を囲った。自分なりに役に立とうと考えた結果がこれでは、流石に心が痛む。能無しに色々教え込んで、待機させているのは五条だろう。能無しなら能無しで、別のところで何かさせてくれ。この時、五条と反対方面の歌姫が同情的な目で見つつ、馬鹿筆頭を睨んでいたのだが、その優しさは亜冴には届かない。

 

「能無しが観戦する必要あります?」

「相手校の術式とか戦い方とかを見れる。予想当てゲームをしよう」

「……げーむ?」

「遊びだよ。相手校の術式を当てることが出来たら、ご褒美あげる」

「……能無しを育てるより、伏黒さん育てて下さい。頭良いそうなんで」

「あ、恵に何か言われた感じなんだ」

 

 きっかけはそうであるので、否定はしない。亜冴は全員敵の気分で臍を曲げて待った。確かに皆によく迷惑をかけてまで基礎知識を教わってきたが、それであそこまで言われるだなんて。考えるからこそ、知りたくなるというのを理解していない。

 不貞腐れていても時間は経過していき、五条と歌姫の宣言で試合が開始された。

 開始早々、蜘蛛型の呪霊を直前にして、割って入る巨漢と立ち向かう虎杖の姿を見て、亜冴は眉間に皺を寄せた。例の東堂葵という男だ。陣形を崩しに来たにしては、猪突猛進すぎる。仲間である京都校の生徒も駆け付けていない。自身の力に相当の自信があるようだ。モニターでは東堂の猛攻を東京校の全員が避け、虎杖だけがその場に残った。こちらの読み通りの進みである。伏黒が東堂と乱闘をした際、彼は残穢を残していなかったそうだ。真希と虎杖同様の身体的アドバンテージのゴリ押しが通常の戦闘スタイルなのだろうか。ならば、あの二人は未だに呪力消費はしていない。

 

「あ」

 

 良いところで途絶えたモニターに、声を上げてしまった亜冴は、夢中になって見ていた己を少し恥じた。口元を手で隠して、他のモニターを見る。夢中になった理由を見つけた亜冴は、内心で首を傾げた。京都校の人員が誰も映っていない。東京校は虎杖を除いて二手に分かれ、林を突き進んでいくが、何の妨害もない。ここで導き出される可能性は三つだろうか。

 

 一、東堂が個人行動をした。

 二、京都校の全員が虎杖悠仁狙い。

 三、京都校に不測の事態。

 

 三はまず可能性として一番低い。部外者の介入か仲間割れをしているなら、ここの教員陣が既に察知するだろう。二は虎杖が身を一定期間隠していた理由にも繋がってくる。五条の話では、呪術界上層部の、特に京都側は保守派であり、両面宿儺及び虎杖悠仁の抹殺を目論んでいた。今再び現れた虎杖を、この場で消すのは感情も乗っていてあり得る。

 いや、可能性は四つだ。四つ目が一番予想できない。一と二、どちらもの可能性である。東堂葵の動きと性格上からして個人行動で突撃し、残った相手との戦闘。それに便乗しての他生徒による暗殺。奇しくも虎杖は孤立する作戦となっているのが仇となった。

 

「……五条先生」

「ん? なに?」

「虎杖さんは……」

「あぁ、たぶん大丈夫だよ」

 

 ちゃんと意図は伝わっているのだろうか。亜冴は不安を覚えつつも、京都校の学長がいる手前、下手なことは口にせずにモニターを眺めた。

 少し経ってから映り流れていく映像の変化に、亜冴はまたしても裏で何かが動いたことを察知する。虎杖側の映像が故意に避けられているようだ。どちらにしろ、東堂の映像はなく、しばらく経ってからの東京校と京都校の交戦が始まったことから、四が有力だ。好戦的で戦闘狂な東堂ならば、あり得ること。最初に突っ込み、残った自信のある者から戦っていく。しかし、横槍が入って仲間割れ寸前からの、東堂に始末を任せるという流れで分散していった。というところだろうか。

 

「僕、喉乾いてきちゃった」

 

 五条の気の抜ける声と身体を伸ばす音に、気が僅かに削がれる。だったら何さ。

 

「亜冴、飲み物買ってきて」

「えっ」

「はい、お金」

 

 机に置かれた財布と五条を見比べた亜冴の意図は伝わらない。観戦して術式を見破れという話はどうなった。というか、参加も駄目、観戦も妨害するとは何事か。

 

「コーラね、よろしく」

「自分の生徒をパシリに使うな!」

「えーいいじゃん。ね、暇でしょ亜冴」

 

 援護する歌姫の声虚しく、亜冴は財布に目を落としてそれを手に持つ。ちょうど伏黒が戦い出したのでいいか。勇士を見てやらないという、小さな仕返しのために立ち上がった亜冴は、返事も文句も言わずに部屋から出て行った。しばらく歩いてから、わざと外にある遠くの自販機を目指す。喉が渇いて干からびればいい。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。