最弱の怪物   作:肩たたき

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第六話『行動皆無』-6

 

「で、交流会出てないアンタがなんで一番怪我してんのよ」

 

 ズタボロの亜冴に手厳しい言葉を浴びせかけた釘崎は、コツンと包帯ぐるぐる巻きの頭を小突いていく。「いてっ」と反応しつつ、亜冴はツギハギの人型呪霊の話は伏せることにした。仮説含め、一連の流れを話したところで、どうしようもなければ、虎杖の心をかき乱すだけだ。

 

「襲われちゃったぁ」

 

 これくらいは言っていいだろうと、間延びした声で亜冴は答えた。途端、元々伏黒の見舞いに来ていた二人が、伏黒ともども血相を変える。

 

「どんなやつだ?!」

「呪霊? それとも呪詛師?! それともロリコン?!」

「ソイツどこ行きやがった!」

 

 呪霊と普段戦う彼らがそんなに心配することなのかと驚きつつ、亜冴は簡単に説明をしていく。高専内で死人が出たことは、彼らも知っていた筈だ。

 

「えぇと、高専内で五条先生の飲み物買いに行った途中に呪霊を見かけて……」

「で?!」

「五条先生呼んで、追い払ってもらった」

「大怪我してたら意味ないじゃない! あの役立たず!」

 

 自分以外に役立たずという言葉が使われるところを初めて見た亜冴は、釘崎の劈くような声に肩を跳ねさせた。そんなに怒るのかと見ていれば、更に詳しく教えろと凄んでくる。彼らの目の色を眺め、亜冴は釣りあげていた目尻を下げた。

 

──あぁ、心配されたんだ。

 

「これは呪霊とかじゃなくて、逃げてるうちに負ったものだから大丈夫だよっ」

「原因は呪霊じゃねえか!」

「釘崎、怪我人だぞ! やめろ!」

 

 釘崎に亜冴が肩を揺さぶられるのを虎杖が止めに入る。亜冴はユサユサと動かされながら、ピザなるものを箱ごと寄越してくる伏黒から一切れ受け取った。

 

「ふ、んふ……っ」

「なにわろとんねん……」

「釘崎! 落ち着けって!」

「んー? んふふふ」

 

 ピザに微笑んでニコニコとする亜冴に、釘崎はドス黒いものを背負うが怖くなどない。眉間に少し皺を作って、亜冴はふふふ、と口元に手を当てた。

 

「この感じ、久しぶりだなぁって」

 

 四人で噛み付いて戯れあって、不仲に見えてしまうだろうけど、お互いに絆を感じている。亜冴は新鮮な関係性が、失っても戻ってきたことに素直に喜び、身体が痛むのを無視して笑い続けた。

 

──嬉しい、な。

 

 しばらく亜冴は、叱られても擽ったい優しさに、幸せそうに笑みを浮かべていた。

 

 

  *  *  *

 

 

「クサヤキュウ…って、なんですか?」

 

 五条が策略したくじ引きにより、二日目の個人戦が取り止められた交流会にて、亜冴は一人小首を傾げた。反転術式と適切な治療を施され、すでに動けるようになった伏黒は、渋々説明をしていく。疑問が湧くばかりで、伏黒では手に負えなくなったところ、東京校全員が亜冴を取り囲んで説明していった。全ての話を聞いた亜冴は、遊戯という発想に驚く。棒状の物を振るって飛んでくる球を打つだなんて。

 

「……そういった娯楽もあるのですね……」

 

 感嘆の言葉を漏らし、目を輝かせた亜冴は包帯ぐるぐる巻きの身体で拳を作った。

 

「やりた……!」

「亜冴はダメー!」

 

 ブスくれた顔でベンチに座らされる格好は、お情けでユニホームを着せてもらっている子供のようである。審判を買って出た五条は嬉々としてハキハキと判定をし、ただ専用の服を着て座らされている亜冴は、包帯だらけの足で地面を軽く蹴った。京都校の加茂も同じような格好なのに、どうして私は駄目なんだ。

 

「みなさん、ズルい」

「おかか!」

「いいえ、ズルくなくないです」

「仕方ないだろ、こっちの方が人数多いんだから」

「それと、私が体力ないからですよね」

「俺はどうせなら足集利も混ぜたいけど、釘崎がガチだからなぁ……」

「どうせ私はマンネンホケツのベンチ女です」

「お前、ずっと拗ねっぱなしだな」

 

 弱いからって無知だからって、とやかく言ってきたのはそちらだろう。それぞれ去っていく伏黒たちの言葉を無視して、亜冴は始まった試合の様子を眺めた。一人きりのベンチはいたくつまらない。打って変わって、専用スペースが設けられたグランドではそれぞれが持ち場に付き、ピッチャーは真希、キャッチャーを虎杖が務めている。京都校のベンチはこちら側のベンチから離れているものの、歌姫が白熱して応援しているのが見えた。見たところ、試合の観戦が好きなようだ。ああいう分かりやすい大人の方が、嘘吐き五条の数倍は好ましい。

 全員が草野球はほぼ初めてと聞いていたのに、動きに迷いがない。筋力もあるのだろうが、身体の動かし方を熟知しているのもあるだろう。いつか私もあんな風に動けるようになるのだろうか。そうなったとしても、術式から前線での仕事を任されることはない。

 

──いいなぁ、楽しそう。

 

 亜冴はやる事もなく、何やら会話をしている東堂の口元を観察する。虎杖と会話しているようだが、虎杖の方はヘルメットで顔が覆われていて、動きが見えない。いつか口の動きだけで会話を読めと言っていた五条を思い出し、正解が分からないのにどう確信を持つのだと、亜冴は内心でボヤいた。そんな東堂がピッチャーから目を顔ごと逸らした瞬間、真希が豪速球を投げた。あっと言う間に、無慈悲な球が筋骨隆々の巨漢の横っ面へとめり込んでいく。

 亜冴は思わず目を瞬かせた。ズシャリ、ズシン、と倒れた東堂が虎杖に抱き起こされ、しっかりしろ、と声が掛けられる。しかし、周囲はある言葉を口々に言っていく。素知らぬ用語に亜冴は困惑した。全員が言う言葉に、亜冴は押さえ付けてきた欲が湧くまま、真希に向かって口に手を添えた。

 

「ナイッピーっ!」

 

 人一倍大きくて明るい声に、東京校の数名が吹き出す。そうすると真希は亜冴に手を振ってきたので、亜冴もそれに振り返して、またも大きな声で叫ぶ。本人は応援か歓声のつもりである、無垢な悪意が響く中、虎杖に「足集利にまで嫌われるとか、何したんだよお前……」と引かれつつ、そもそも亜冴と面識のない東堂は、そのまま気を失ったのだった。

 

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