最弱の怪物   作:肩たたき

49 / 96
第七話『向こう岸』-5

 

 橋下を降りる途中の茂みで、とっ捕まえられた伏黒は、渋々といった様子で白状を始めていく。亜冴は的中した予感に特に驚きもせず、耳を傾け続けた。

 

「津美紀はずっと寝たきりで……今回の件が切っ掛けとは分からない。けど、次のターゲットかも分からない……それで……」

 

──焦ってしまったんだろう。

 

 一刻も早く祓わなければと思い、しかし勝算が低い戦いにみんなを巻き込みたくはない。見えた理由に亜冴は大人しく受け止める。仲の良い姉弟だったのだろうか。いや、仲はともかく、大事に思い合っていたのだろう。そんな気がする。

 

「そういうことは早く言いなさいよね」

「ホントそう! 水臭いんだよ、伏黒は」

「オラ、さっさと行くわよ」

「お前ら……なんで……」

「友達だからに決まってるでしょ?」

 

──あ、笑った。

 

 伏黒の変化に目を瞬かせた亜冴は、心底嬉しそうな様子に魅入ってしまう。虎杖たちが先に進み、後に続いて伏黒が向かう。それに対して、亜冴は足を止めてしまった。不思議そうに振り返る三人に、言葉を探すが頭では疑問が先に出る。伏黒が喜ぶ理由が、私には分からない。三人は今、どうして笑い合ったの。

 

「……トモダチって、なに?」

 

 思ったよりも小さく出た声に、明確な疎外感を拾う。関係性を指す用語なのは分かる。しかし、その概念は亜冴には無いものだ。また一つ育った環境を恨んだ亜冴は、質問に固まる三人に笑顔で誤魔化した。私だけ、違う生き物みたいな。

 

「忘れてください。今は早く祓わないと!」

「あ、ああ……」

 

 気を付けないといけないかもしれない。内心で思いながら、気を取り直して向かう一同に、亜冴は続いた。

 微かな水が流れる顔を跨ぐのが、どうやら条件らしい。取り憑かれる条件の仮説を語った補助監督の言葉を思い出しつつ、一歩踏み出せば跨げられる川に向かって、四人が横並ぶ。確かに川からは黒いモヤが立ち上り、空間の歪みのようなものが亜冴の目には見えた。不完全な領域の入り口とやらだろうか。早速、踏み出そうとした亜冴は、両脇に肩を掴まれ、回れ右をさせられてしまう。何事かと見るが、三人が否を唱える顔をしていた。

 

「足集利は留守番だ」

「なんでですか!」

「危ないからよ。弱っちくて戦えないし」

「相手強いんだろ? 足集利を守りながらは大変だろうからさ」

「隠れてます!」

「だとしても、流れ弾が当たるかもしれねぇ。逆に見えなくて守れねぇし」

「ナガレダマってなんですか!」

 

 嫌だ、私も行きたい。駄々を捏ねても三人がかりで説得され、亜冴は渋々待てを了承した。不憫に思ったのか念の為か、伏黒は亜冴に玉犬を付けようとするが、亜冴は首を横に振るう。

 

「いいです。連れて行ってください」

「拗ねるなよ、めんどくせぇな」

「違います。強敵なのでしょう? 立派な戦力になるんですから、尚更連れて行かないと。私は茂みに姿を消して隠れているので、大丈夫です」

 

 ピシャリと拒否する亜冴に、三人は驚いた様子を見せるが、納得をして頷いた。なんなのだろう。気にはなったが、深追いする気は起きず、川へ向き直る背中を眺める。あぁ、嫌だな。亜冴は離れから出ていく二人の姿を、またしても三人の後ろ姿に重ねた。少年院の時となんら変わらない。置いて行かれるのは嫌だ。

 

「……いってらっしゃい」

「おう! いってきます!」

「勝手に来るんじゃないわよ」

「行ってくる」

 

 一歩を一斉に踏み出し、消えた三人に亜冴はしばらくぼんやりと眺めてしまう。早く隠れなきゃいけないのに、どうにもその気にはすぐになれない。亜冴はへなへなとその場にしゃがみ込み、弱気な声を小さく漏らした。

 

「いつになったら、同じ場所に立てるのかな……」

 

 加護下なのは変わらずの現状に、不満は募るばかりだ。少しして亜冴は宣言通り、茂みへと向かうと、その中に三角座りで蹲って、自身の姿を消した。籠から出てきても、見送るばかりでつまらない。あれはダメ、これもダメ。呪術師になる為の準備期間は、誰よりも長い。自分が戦えないのは分かるし、皆の判断は正しい。亜冴に戦闘は不向きだ。準備期間と称した五条は、はなから亜冴に戦わせる気などない。私にはお見通しだ。

 

「……“何故なら、僕は子供だからです”」

 

 虎杖の自責を表す言葉を復唱した亜冴は、大きな溜め息を吐くと、誰か出てくるまでジッと身を隠した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。