最弱の怪物   作:肩たたき

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第七話『向こう岸』-8

 

 伏黒が目覚めぬままの今朝方、亜冴が五条に連れられた部屋は、客人用のもののようだった。質の良いソファーに座らされた亜冴は、目の前に座る五条になんとなく顔を伏せる。いつも通り高専に通った亜冴を呼び出した五条は、虎杖たちに午前は自習と言い渡していた。これから、長い話になるのだろう。

 

「で、亜冴。なんで呼び出されたかは分かるね?」

「……事実の確認ですか?」

「うん。返答によっては、僕も対応しなくちゃいけないから。でも嘘は吐かないでね」

 

 言ってから黒い目隠しを外した五条は、水色の輝く美しい瞳を晒した。亜冴、と名前を呼ぶので、意図を汲んで視線を合わせる。亜冴は真顔で返して、しばらく二人は見つめ合った。

 

「亜冴、何がみえる?」

「……五条悟です」

「僕を見て、他には?」

「……蔑みと傾聴。疑心」

 

 目の前の人物から汲み取った感情を答えた亜冴に、五条はニンマリと満足そうに笑うと、目隠しを戻して笑い直した。隠すには遅すぎた特性に、亜冴は内心歯噛みしつつ、五条の言葉を待った。

 

「六眼ほどじゃないけど、かなり目が良い。僕は人の感情なんて、ちっとも見えないけどね。残穢も最初から視えていたんだって?」

「……」

「覚えたてだと、普通は視ようと思わないと視えないのに」

「いけませんか?」

「ううん、むしろ誇ることだよ。呪力未満の呪いも視えてるんじゃない?」

「……どれのことですか」

「ほら、この漂ってるモヤモヤとか」

 

 空間が歪まないほどの闇と表すのが近いそれを指差して、スゥッと動くのに従って五条が指をさす。亜冴はこれが全員に見えている訳ではないのかと、軽く驚きつつも理解して頷いた。更に気を良くした五条は、亜冴の頭をわしゃわしゃと撫でた。相変わらず、忙しない大人だ。

 

「さて本題なんだけど……」

 

 突然、部屋の空気が変わる。冷たいものに亜冴は浸された気分になりながらも、頭を上げて背筋を伸ばした。五条相手に萎縮しても仕方ないだろう。

 

「足集利家で離反したね、亜冴」

 

 ぐ、と喉奥に力を入れる。亜冴は目隠しの下で何色に変化したのか、見たい顔に対して真顔のみを返すことに徹した。ついに知られてしまった。せめて信用を得てからにしたかった亜冴は、(こうべ)を垂らして唇を薄く開ける。

 

「……はい。私は足集利家に対し、秘密裏に復讐を行いました」

「それは数々の縁談を蹴るとか、そういう生易しいものじゃないね?」

 

 訳一年前の過去を確認する五条に、亜冴は潔く頷いた。私はちゃんと理解して、アイツらの喉元に噛み付いた。誰にも気付かれないよう、麻酔を打った身体の肉を喰い千切ったのだ。善も悪も倫理観も差し置いて、怒りが(いざな)う方へと怪物の子供らしく暴れた。

 

「亜冴、何があったか話して」

「……長くなります」

「いいよ。全部を話して」

 

 話が終わった頃に、殺されるのだろうか。あの生活に戻されるくらいなら、そちらの方がマシだと強く感じる。話し出すのを待っている五条が、痺れを切らして聞かなくなる前に、亜冴は気乗りしない心に鞭を打って、口を開かせた。だってもう、どうしたって復讐は済んでしまっている。

 

「どこからお話ししましょうか」

 

 話に聞いていたであろう、物静かで大人しい足集利家のかぐや姫。亜冴は内心で無能で無知であった自身を嘲りながら、剣呑な顔付きで目の前の大人を見定める。素直に関心が引き出された五条に、亜冴は瞼の裏の情景を侍らせた。

 

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