最弱の怪物   作:肩たたき

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第九話『懺悔』-1

 

 投げ飛ばされた先の木の枝。亜冴は逆さまになった視界で、木に絡まる四肢を放置して木漏れ日から除く空を見た。そこにはやはり青などなく、水色を背景にする水蒸気の綿しか浮かんではいない。

 

「足集利ー! ごめん、大丈夫?!」

 

 面白半分でやらされた虎杖との試合にて、亜冴の軽い身体は簡単に高く舞い上がり、弧を描いて桜の木に落ちた。葉が生い茂っていたこともあり、特に外傷や痛みはない。虎杖と伏黒の二人がかりで降ろされた亜冴は、浮遊感を忘れぬうちに手の内で架空の花弁を浮かせる。それを竜巻にしたところで、手のひらを閉じて封じ込めた。よし、覚えた。

 

「ムキムキゴリラの虎杖さんに敵わないなら、ゴリゴリのゴリラの七海さんにも敵わないね……」

「そもそもゴリラに勝とうとするな」

「ちょっと! ゴリラじゃないんですけど!」

「アンタがゴリラじゃないなら、誰がゴリラやんのよ」

「ゴリラっていないといけないの?!」

 

 怒り出す虎杖と揶揄う釘崎の言い合いはいつものことだ。亜冴はボサボサ頭のままにしているのを、伏黒が手を伸ばすので動きを止めた。撫でられることもなく退いた手は、葉っぱを摘み上げており、パッと外方に放たれる。風に揺蕩い遠退くそれに手を伸ばし、クルリと葉っぱが一回転して亜冴の手元に戻ってきた。あり得ない動きに伏黒が目を瞬かせるのに、亜冴はニンマリと笑みを作って顔横に葉っぱを持つと、パッと葉っぱを消した。本来の葉っぱはとっくに風に流されてどこか地面に落ちており、亜冴は本体の姿を消しながら虚像を動かして捕まえたフリをしたのだ。見事に引っかかった伏黒は、ム、と口をへの字に曲げて、ポン、と亜冴の額を軽く叩いた。

 

「アンタ、かなり器用なこともできるようになったのね」

「成長しないと、五条先生に捨てられるからね!」

「急に怖いこと言うじゃん……」

「捨てられたら伏黒が拾うわよ」

「なんで俺が……」

「骨くらいは拾ってやるってやつ?」

「さっきから物騒だな」

 

 修行の一環で映画を毎週何本か観ているが、ここ最近はスプラッター映画というジャンルのものが多いので、物騒なのはその影響もある。五条から課せられたノルマ消費の為にも、昼食時に激辛カップ麺を食しながら観ていたのは昨日のことだ。それらの映画が大抵若者向けなのは若者が憎いのか、そういったセリフが散りばめられては、登場人物の肉体も散りばめられていた。途中、様子を見にきた五条に人間踊り食いの場面で、ズゾゾ、と真っ赤な麺を啜っていた時は、彼は珍しく顔を引き攣られていた。亜冴は特に気にせず、まさかスプラッターが苦手な訳がないと切り捨てて、内臓がアップにされたシーンで一時停止ボタンを押した。

 そんな昨日のやり取りを思い出したものの、最強の名を持つ五条を引かせた貴重な出来事は、同級生たちも引かせるものとなるだろう。なので、話題には出さずに思い出すだけに留めておこう。

 

「てか、そろそろ時間じゃねえの?」

 

 虎杖の言葉に校舎側にある大時計へと目をやる。確かに駐車場に向かってもいい頃合いだ。伏黒は携帯で時間を確認すると頷いた。

 

「じゃ、行ってくる」

「いってらー」

「頑張ってきなさいよ」

「いってきます!」

 

 何を隠そう今日この日の亜冴は、伏黒の単独任務に同行を許されたのだった。

 

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