最弱の怪物   作:肩たたき

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第十一話『逢瀬』-1

 

 五条悟の誤算は足集利亜冴が天才だったことである。根が腐るように育てられたというのに、成長度合いも去ることながら、頭の回転の速さに途中から慄いてしまった。その隙に、亜冴は五条悟の周囲の姿をほぼ全て取得した状態で、監視の目を掻い潜って姿を消した。惜しい仲間候補を失ったものだ。

 

「足集利はまだ見つからないんですか」

 

 不安と心配を滲ませる伏黒に廊下で捕まった五条は、目隠しで隠れた額を親指で掻いた。一番気にかけていたのも、時間を共にしたのも伏黒だ。

 

「個人的にも探してるんだけどねぇ。誰かと行動を共にしているとは睨んでるけど、その誰かも分からないし」

「……五条先生は足集利が裏切ったと思っているんですか?」

「可能性の一つとして追ってるだけだよ」

 

 納得がいっていない様子の伏黒に五条は嘘を重ねていく。高専の防犯対策は並々ならない。呪術界の組織の一つとして大きなものだ。わざわざ高専内にいる生徒を拐ったりなどしないだろう。操られていたとしても、亜冴が高専を出たのは彼女自身の足だ。しかし現場には残穢は無かったことから、その可能性も低い。行動を共にしている相手の候補もきちんと存在しているし、ソイツに唆されたなら亜冴もそちら側に付く。

 

──足集利(あしゅり)(いつく)。亜冴の実の父親だ。

 

 数年前の事件、被害者二名は亜冴の両親だが、同時に失踪した亜冴の実兄は未だ行方不明だ。戦闘向きでない術式ながらも数々の戦歴を残す一方、血の繋がりのある親族を恐怖に陥れ、手球に取るほど頭の切れる男が、娘一人殺すのに縛りを設けたこと事態が怪しい。使用人の姿を借りて簡単に殺せた筈だ。わざわざ年齢を指定して、口頭に出した真意は一つ。使用人に縛りを設けた事を聞かせ、妻子を殺させる為である。非術師である妻は本気で亜冴を愛するが故に、子を成す道具にされる前に亜冴を殺めようとした。夫がその愛を利用しているとは知らず、三人は縛りを交わしてしまった。

 縛りは強みにも弱みにもなる。家で好き勝手暴れていた化け物が見せた唯一の弱み。術式を継ぐ娘と、血を引く息子がいる。一族は慈とその妻の暗殺に踏み切った。

 

 しかし、慈が実の息子と入れ替わっていたとしたら。

 姿を取らずとも半分の血を持つ長男に妹の為だと丸め込んだのだろう。妻と息子には術式を持つ自分が死ねば、娘は、妹は助からない。だから、自分はここから娘を連れて逃げる。お前たちは注意を引き付けてくれないか。仲間を外に待機させているから、隙を見て治療してやるとも言ったかもしれない。非術師の妻と長男は夫であり父を信じた。自分の姿を息子に投影し、亜冴に気付かれたとしても発言力は全くないことも見越して、火葬されて識別が付かなくなるまで自分として息子を葬ったのだ。結果、慈は誰も救うことも手を汚すこともなく、全てを掌の上で転がして、一人逃げ仰せた。

 

 この仮説には何一つ証拠はない完全犯罪である。今になって亜冴を連れて行ったのは、利用する為か殺す為かは分からない。しかし、足集利亜冴に手を上げないという縛りがある以上、利用することを選んだ可能性が高い。問題は亜冴がどこまで考え、行動しているかだ。

 

「亜冴は天才だからなぁ……」

「……だったら、なんなんです」

「恵って、僕の考えを読めたことある?」

「……あまり。分かりやすい時は死ぬほど分かりやすいですけど」

「その気持ち、今ならちょーっとだけ分かるよ」

 

 むしろ死んでいてくれた方が楽かもな。口が裂けても生徒たちには言えない裏事情を五条は内心でボヤく。この数日後、五条は伏黒が倒れたことで手を(こまね)くこととなった。

 

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