最弱の怪物   作:肩たたき

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第十一話『逢瀬』-4

 

 最初、夏油は娘を連れてくるのを渋っていたが、慈の説得により、意図も簡単に手元に下った。亜冴は真相に混乱を見せていたものの、父である慈が迎えに来たことに気が取られたのか、すぐさま昔と同じような感情を持って抱き着いてきた。幼かったころよりも、成長した亜冴はよく見れば、傷跡だらけで掌は固くなっていた。呪術師の家系の娘ではあり得ないことだ。力強いが自分よりも非力な存在の亜冴の頭を撫で、早く離れてはくれないかと願ってしまう。父がいるというだけで、簡単に高専を裏切った哀れで薄情な娘。

 

「五条悟の封印をする為、獄門疆(ごくもんきょう)を使う」

 

 ビックキューブサイズの立方体を手にした夏油は、呪霊どもたちを交えて作戦の説明をしていく。サイコロのように一辺に割り振られた目玉を眺めながら、特級呪物であり生きた結界・源信の成れの果てとされるものに目を細めた。所有者が“開門”と唱えた後、対象を一分間、獄門疆から半径四メートル以内に留めることで、相手の動きを封じることができる。その時点で呪力も断たれてしまう為、これを最強の男相手に使わない手はない。そして、所有者の“閉門”という言葉で、封印が完了する。

 問題はどうやって一分間、最強をその場に留まらせるかだ。当然、反発する呪霊たちは、それが自分たちの仕事と告げられた瞬間、更に憤ってしまう。

 

「五条悟の脳内時間で一分だ」

 

 重要なのはそこであると夏油は宣言する。

 

「渋谷駅を中心に一般人を巻き込んだテロを起こし、五条悟を誘き寄せる」

 

 人質となる一般人で周囲を堅め、個人戦が強みである五条の動きを極力封じ、その中で特級呪霊数体による隠密での迎撃を最深部にあるホームで行う。一般人は戦闘において、呪術師にとって守る対象であるが、同時に邪魔の何者でもなく、五条は選択を迫られるだろう。究極の選択に悩ませ、その隙に夏油が獄門疆を使用するという。

 

──……嘘だな。

 

 薄ら笑いを浮かべたままの夏油に、真顔で見破った慈は一年ほど前の大規模なテロを思い出していた。夏油傑は五条悟に殺害されたと広まっている。五条が否定せずに肯定していたので、そこに偽りはないだろう。己が殺めた筈の、旧友であり親友が目の前に躍り出る。最も揺るがす出来事というのは、目の前で死んだ筈の人間が現れることだ。

 あの足集利亜冴でさえ、驚愕して感情が濁流していた。滅多に乱れることなく、常に冷静という感情を飼いならす女でさえも、本気で混乱して動けなくなった。

 おそらくこのままでは作戦は失敗する。しかしながら、夏油の意図を汲んで、慈は口を挟まないでおく。捨て駒として呪霊どもを消費するつもりなのだろう。よくよく考えれば、夏油の術式から呪霊を喰わない方が可笑しいのだ。それもこれも、自身の生存を隠したい他ならない。

 

「ところで、足集利亜冴の方はどうなってる?」

「今のところ、こちらに百パーセント付いているように見える」

「尋問はしないの?」

「実の父親が尋問しちゃあ駄目だろう」

「妻と息子は?」

「彼らとは円滑に交渉しただけさ」

 

 平然と言ってのける慈に、ヒヒ、と真人は笑う。話し合いで簡単に妻と息子は幼気な小娘を救おうと慈に託した。見破れない彼らに掛ける言葉も情もない。ただ無知で無力だったから、善人のまま騙されただけのことだ。呪術界で弱者は罪だ。知っていた筈なのに、目を逸らした奴らが悪い。

 

「納得がいかないなら、試験でもするか」

「試験?」

「高専に悟られた、次の両面宿儺の指。あれを私と娘に任せてくれないか?」

「いいけど。何するつもり?」

 

 慈は夏油の許可を得ると、穏やかに息を吐いた。

 

「おめでたい連中にお披露目するだけだ」

 

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