最弱の怪物   作:肩たたき

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エピローグ『鳥と空』

 

「きゃー! あははははははっ!」

 

 豪速球のジェットコースターに揺られ、亜冴は全力で爆笑しながら、短い白髪をたなびかせていた。その隣席の伏黒は、計九回目となる乗車に、真顔で同じく髪をたなびかせている。ジェットコースターから降車しても目の輝きは変わらず、丸いサングラスを掛けなおした亜冴は伏黒の袖口を引っ張って、晴天に際立って反り立つ山のような傾斜を指差した。

 

「もういっ……!」

「もう一回とか言ったら帰んぞ」

「…………」

「他に言うことねえのかよ」

「……おねがい?」

「駄目だ」

 

 素気無く断られた亜冴は、ジッと顔を見上げてくるも目が合わせられることはない。仕方ないと諦めも早いので、手を離して次は何を楽しもうかと、亜冴は施設内の地図を広げた。ここだけでも、まだまだ知らない場所は沢山ある。

 何を隠そう、三月の春うららかな平日にて、遊園地を満喫しているのだ。

 

「可愛い子の言うこと聞いてやりなさいよ、このムッツリ」

「そうだよ、伏黒。俺らがいる前で押し倒しちゃうくらい可愛くって大好きなんだろー?」

 

 そう、四人で。

 話は亜冴が目覚めた日に遡る。

 

「卒業しないで、二年生からがいいの?」

 

 五条の確認の言葉に、亜冴はコクリと頷いた。虎杖の足集利の封印が解かれたのが、卒業に間に合って良かったね、という発言に亜冴は否を唱えた。

 

「この四月に二年生から学んでいきたいです」

「えっ、足集利だけ二年生なの?」

「そうよ。私たちは四年だし今年で卒業するのよ?」

「うん。残念だけど、呪術の勉学をもっと深めたいし」

「いやいや、亜冴ならぶっちゃけ高専行かなくても、速攻で身に付けるし覚えちゃうでしょ」

 

 五条に対して、本当にその評価でいいのかと思いつつも触れないで、亜冴は二年生になりたいと頷いた。今更であるが、亜冴の術式は呪術界全体より、高専では浮いている存在だ。戦闘特化の術式や肉体強化された生徒たちが多く、亜冴や家入のように非戦闘員は、呪術師としては進級はしないものの重宝される。反転術式に長けた家入が高専にいるのは、戦闘特化の若い呪術師たちを修行や任務で傷付いた時、次の世代を担う彼らを損失しない為である。しかし亜冴は敵地に赴いての諜報や隠密、護送に適した術式であり、高専の教科科目からは逸脱している。確かに術式などの基礎を学び、戦闘員との連携や適応力を経験と共に鍛える必要があるが、それらを独学で超越した結果が五条悟の封印阻止である。運の要素も多大にあったものの、単なる生徒の功績と語るには無理がある。現に呪霊を祓えない術師という、呪術師の階級制度では数値化できない存在に輝いた。

 最弱、しかし、怪物。呪いのような評価で、亜冴は一生徒として首を横に振り続けた。

 

「はっきり言って、私には後ろ盾が少ない」

 

 落ち着いた声色で断言した亜冴は、それだけで空気を掌握してしまう。人垂らしの面をカリスマへと変貌させるべく、亜冴は練習と意識して言葉を選んだ。

 

「何か問題が起こった際、呪術界組織は必ず私の精神面について攻めてくるでしょう。一番の攻撃要素となり得る実父の殺害は、呪術界ではままあるそうですが、教員の指示から逸脱した独自の判断と捉えられかねません」

 

 これまで、結果として正しい判断を亜冴は選び続けることができていたが、それがいつまで続くかは分からない。経験が人一倍浅いのに、独断で判断しては怪我を負うことが殆どだ。そうでなくとも、現場の指揮を乱す行為であるのに変わりなく、場合によっては対応できない仲間を危険に晒す行為でもあった。

 

「高専は一般家庭出身の呪術師が多い部類に入ります。呪術師として活動し、生存する為の知識と経験をある程度の加護下で学ぶ為、と私は捉えています。呪術師の家系出身の場合、特別を等級の前に与えられます。特別呪術師は、呪術師としての知識と経験は、家系による影響で得るとされていますよね。経緯や意図がどうであれ、この言葉の違いは私にとって痛手になる。私の家庭環境は、幼児期から十五歳までの軟禁と幽閉です。もはや周知の事実として、このことは上層部にも知られているでしょう。つまり──」

 

 無茶な行動に目を瞑ってもらっていたのは、高専という教育機関に生徒として属していたことと五条悟の管轄であるからだ。上層部に忌み嫌われている五条悟に似た亜冴に、上層部が良い顔をする訳はなく、また、十月三十一日の亜冴による諜報活動は亜冴の独断によるものだ。五条という防波堤がなければ、今頃は一発で上層部に絞られていただろう。

 

「家庭での基礎教育無し、教育機関での卒業経験無し。排他主義な保守派である上層部の良いマトです」

 

 故に、だからこそ必要だと主張した亜冴は、伏黒たちの前での猫を一つ破いた気分だ。知識や経験を積むのではなく、肩書きを取りに行く。自身の一族に対して、行なった離反スレスレの行為は何れ上層部に知られることだろう。五条が亜冴を引き上げるならば、そこを突かれるのも明白。今はわざわざ話題に上げることを避けた亜冴は、その為にも必要であると五条を見つめた。現状、足集利亜冴の後ろ盾は高専に在学していることと、目の前の五条悟のみだ。高専の生徒らも後ろ盾に成り得るが、問題児である亜冴を支えるにしては少し弱い。また、後ろ盾ではなく、前提としての肩書きは確保しておきたい。

 亜冴の言葉と意図に、四人はそれぞれ想像と考えを巡らしていくのが分かる。五条や大人たちの前にしか見せなかった、本来知られている大人しく物静かな性格に近いもの。いや、元々自分というモノはこちら側なのだろう。他者の凡ゆる行動を予見し、最も強固な橋を渡る。そんな愛する子は、嫌な子供だったでしょう。理屈を捏ねて四人を説得した亜冴は、頷く彼らに向けて心根を変わらず晒した。

 

「あと、後輩ほしい! 入学式やりたい!」

「……本命ソッチだろ」

 

 ジト目の伏黒に亜冴はヘラっと笑い、こうして今年の四月に二年生として、亜冴の進学が決まったのだった。

 

 そんなこんなで、ホクホク顔で数ヶ月前まで封印されたとは思えないほど、元気溌溂な亜冴は遊園地を堪能していた。獄門疆内では時間の経過と隔絶されている為、亜冴の肉体も成熟しておらず、身分証だけが三年間ズレている。若く見られるという範疇に収まる亜冴は、成人間近の同級生に囲まれて、遊園地内のレストランでの食事を楽しんだ。

 

「にしても、頭変わったわねー」

「んへへ……」

「ぱっと見、五条先生と似てるよな」

「それは不服」

 

 五条からの快気祝いで貰った、常人では目を凝らさないと見えない丸いサングラスは、髪と目の色も相まって、本当に五条悟の妹かと思わせるほどだ。あまりに目が良すぎると、目が合ったのを条件に呪霊を引き寄せてしまうから、と亜冴に遅すぎるプレゼントをした五条に対し、だから出先での呪霊との遭遇率が高かったのか、と全員が呻いたのは記憶に新しい。五条のサングラスよりは見えやすいサングラス、おそらく高額なのだろう。

 

 似た要素を抱えて不満顔になった亜冴は、あぐ、とハンバーガーを頬張ってモグモグ口を動かしていく。ファストフード店よりもおいしいと笑う口の端には、赤いソースが付いてしまっていた。伏黒は気になりつつも、今はと手元のハンバーガーに口を付ける。肉厚なハンバーグの肉汁が滲み、ソースと瑞々しい野菜に絡まっていく。バンズの香ばしい匂いですら、安さが売りのチェーン店と比べるのも烏滸がましい。

 

「出し惜しみなしなら、これくらいはしないとね」

 

 考えなしの馬鹿ではなく、天才の思い切りにやはり五条を彷彿とさせてしまう。伏黒は白くなった同級生の老化した髪を眺めた。縛りの足し引きとして、毛根にあるメラノサイトとメラニンを消失させ、代わりに呪力の拡張を行なったという。また、対象との差異が少なければ少ないほど、化けやすいと語った亜冴は、五条悟との視覚的差異を埋め、他者に化ける差を広めた。

 術師本人の部分的な死と黒髪文化の日本における反対色である白髪。これによって、亜冴はあの土壇場で特級と名が付くものたちを騙くらかし、駅周辺と構内を丸ごとでっち上げて、夏油傑の身体を借りた羂索打倒の大きな一手を放った。

 

──考えなしでも、計算尽くでも。

 

足集利亜冴ならあり得るのが、五条悟に似てる理由の一つかもしれない。

 

「髪は女の命っていうでしょ? だから」

「だから?」

「だから、髪は女の命」

「……だけ?」

「だけー」

 

 遊園地への外出前、伏黒は入院中の亜冴にどうして髪を利用した縛りを設けることに拘るのかを尋ねていた。伏黒の問いに亜冴は薄ら笑いを浮かべて、それだけを言った。術師の認識としても、髪は呪術において古来より意味を設けられてはいた。まぐれかと判断しかけた伏黒に、亜冴はしれっと追加で話し始める。

 

「本当は妊娠に関する縛りを設けようとしたんだけど、五条先生から事前に忠告されてたからね。代わりの命を差し出した」

 

 まるで余談を話すかのような口ぶりでありながら、とんでもないことを話す。伏黒が目を剥いていれば、亜冴は小首を傾げて曖昧に微笑んだ。命の重さを分かっていると言いたげな亜冴は、指と指を組ませた手元へ顔を俯かせた。

 

「一時的なものであれ、子を作る可能性を一度でも消せば、一生後悔するか、外道に踏み切る。もしくは両方って遠回しに言われた。指示ではなくて忠告だったから、ギリギリまで迷ってたんだけど……」

 

 亜冴は伏黒と顔を合わせ、穏やかに大人びた笑みを浮かべる。全てを受け入れるかのような表情は、慈愛に満ちているものだった。

 

「私には自分の子供は殺せないって、確信した」

 

 万が一の可能性としても、産まれ落ちてくることを受け入れた亜冴は、恐らく足集利慈に想いを馳せている。最弱ながらも敵に回したくない相手だろう。伏黒にとっては仲間から揺らぐことはないが、亜冴がこちら側に付いたことを多いに喜んだ。慕っている父を裏切ることになった亜冴に、そんな喜びを口にするのは惨い。しかし口にはしないでも、亜冴の目にはお見通しなんだろうな。

 

「コレ、美味しいねぇ」

 

 んへへ、と遊園地でハンバーガーを指差してソースを付けっぱなしの亜冴が、伏黒には能天気なのか気を遣わせたのか、さっぱり分からない。ただ以前よりも食事に嫌悪感を示さなくなった姿に、伏黒は紙ナプキンを口元に押し付けた。傷まない程度にグリグリと赤いソースを拭ってやる。驚いた瞳が細まり、口元が見えないのに笑っているのが分かる間抜け面。慈愛に満ちた顔に、伏黒は亜冴から手を離した。

 他二人から冷たい目線が送られるが、この際無視だ。大体、彼らはオマケのようなものである。これも遡ること、亜冴の入院中の出来事から来ている。

 

「あーあ。亜冴だけが二年生なら、卒業旅行は亜冴抜きだね」

 

 無粋なことを張った声で放った五条は、大袈裟に頭を振って落ち込んでみせた。亜冴はそれに顔をハッとさせる。卒業旅行を知らなかったようだが、卒業と旅行が繋がっていることから大凡の話は理解できたようだ。五条の煽りに意気揚々と釘崎と虎杖が乗っかって、これまた大袈裟に溜め息を吐きはじめた。

 

「京都とか行く予定だったのに、足集利だけ来れないわねぇ」

「そうそう。ちょー楽しいんだけどなぁー」

「お菓子とか、美味しいものいっぱいあるよ?」

 

 悪ノリした虎杖と釘崎に囲まれ、ニタニタと五条は亜冴が知らないであろう観光地や食事の名前を上げていく。亜冴の顔が見る見る悔しそうに歪んでいくのを、伏黒は口を開いて止めた。

 

「おい、イジめんなよ」

「伏黒は京都観光、足集利としたくねーのかよ」

「一番はしゃぎ回るのはゼッタイ足集利よ」

「大阪近辺だから、向こうの大型遊園地に行く予定だよー? 日本の二大遊園地の片一方! なかなか行けないよね? 亜冴も行きたいよね?」

「ぐぅ……!」

 

 仲裁に入った伏黒が防ぎ切れず、擦り抜けた五条の誘惑は亜冴にダイレクトダメージを負わせていく。将来のためにも、と呻く亜冴が不憫で、伏黒は巡らせた頭で金銭面などの考慮を吹っ飛ばした。

 

「帰還祝いで、もう一個の遊園地に連れてってやる」

「えっ、いいの?!」

「いい。俺は特級呪術師だ、金の心配はすんな」

「やったぁ!」

 

 喜んで紙吹雪を舞わす亜冴に、伏黒はふん、と満足げにしたが、その両肩を同級生たちは引っ掴んだ。

 

「なにしれっと二人っきりで行こうとしてんのよ」

「えー、僕も行きたぁい」

「人多い方が楽しいぜ!」

「手の平返しすんじゃねぇ!」

 

 こうして、五人で行くことになったのだった。幸運なことに五条は急遽任務が入ったらしく、恨み言を言いながら現場へ配送されていった。伏黒は東京近辺にある遊園地で、亜冴のチケットやら食事代やらを奢り、他二人の同級生たちは、時折り冷やかし半分のおふざけをかましている。「二回も遊園地行ったら飽きるだろ」という伏黒の抵抗に、仕方ないから卒業旅行にも亜冴を連れて行こうと提案をしたのは、どこのどいつだ。目の前のコイツらだ。

 

「……ふふ」

 

 締まりなく笑みを零しっぱなしの亜冴は、機嫌よく食事に勤しむ。作業のようだった食事ではなく、自主的なそれに伏黒は安堵半分でつい眺めた。少しは娯楽として受け止めているなら万々歳だ。ゆっくり観察していると、冷やかしが煩いので打ち切ろうとしたところ、目が合った黄緑色が細まって笑顔が深まった。

 

「……んだよ」

「人との食事が一番おいしいなぁって」

 

 恥ずかしげもない清々しい、人によっちゃあ口説き文句のようなことを平気でコイツは言ってのける。質が悪いことに意図していないし、こういう時に限ってこちらの変化にあまり気が付かない。ご都合主義な主人公を相手にしている気分だ。冷やかし二人組に頭を撫でられる亜冴は、不思議そうにしながらもされるがままでいる。子供扱いされていることに気が付いているんだろうか。気が付いた上で放置とか、あり得るな。

 伏黒の考えなど悟っていない風の亜冴を交えた四人は食事を終えると、施設内のアトラクションを満喫することを再開した。長い待ち時間も退屈はしないようで、高専にいなかった期間について質問攻めしてくる亜冴は時折、遊園地のモデルとなった映画作品や記念撮影に心を割いている。「売れた作品を公式として、平面から立体物、体験できるとは。いい商売していますね……」などと言いつつ、キャラクター物のカチューシャは最後まで頭に刺さっていた。

 

 散々歩き回った後、お土産の物色中、長いことぬいぐるみを吟味する亜冴に、お菓子を選び終わった伏黒が近付こうとしたところ、終始冷やかしでしかなかった虎杖と釘崎に伏黒は肩を組まれた。今度はなんだと身構えてしまうのは仕方がないことだろう。何せ、あの一件以来、伏黒は揶揄われ続けている。

 

「よーう、ムッツリ。ナンパしに行くつもり?」

「あ?」

「伏黒って意外とヘタレだよなー」

「殴るぞ」

 

 ムッツリヘタレという不名誉なあだ名を付けられた伏黒は、思い出した失態に頭を掻いてしまう。

 あだ名の発端は、五条たちの前で亜冴をベッドに押し倒してしまった時のこと。

 伏黒は嫌がっているそぶりどころか、初めて見る赤面に顔を近付けた。しかし、完治しているとはいえ、三年間も封印された病み上がり扱いの同級生の女子、そして自分の気持ちも伝えていない状況で、果たして足集利亜冴という温室育ちの野生児に唇を奪うだけで伝わるものか。感情を伝えもせず人前でいきなり唇を奪うのは、伏黒の倫理観にも背いている行為だ。コンマ数秒で悩んだ結果、伏黒は鼻の下にある唇ではなく、額に目標地点を変更したのだった。

 直後は非難轟々のブーイングで、見せ物にされる前に気が付いて良かったと安堵したのだが、観客たちからは未だにヘタレだのムッツリだのと卵を投げ付けられている。あそこで唇を奪って気持ちを伝えることができたら、虎杖たちは乱入しようなどと考えることはなかったのだろう。

 

「足集利って今はオトボケだけど、これからモテると思うわよー」

「うんうん。あーいう女子って人気あるよなー」

「わかる。俺だけはアイツの良さを分かってる系にモテるのよ」

「ソレなんて伏黒?」

「覚えてろよ、お前ら……」

 

 地を這うような声で言っても、怯まない彼らはきゃーっと笑ってからかってくるだけだ。歯軋りするほど苛立ったものの、日和ったのは否めない。しかし残念ながら告白の前に、あのかぐや姫と謳われた足集利亜冴には、まずは恋人関係について学んでもらわなければ。難攻不落どころか、概念がないのだから攻めようがない。

 

「あ、気になってたんだけどさ。足集利のどこが好きなの?」

「教えるワケねぇだろ……!」

 

 確信したのは三年前のことで、数分後には悲恋したと思っていた。

それまでは倫理も常識なしはあり得ないと自分の感情を否定していた。三年前の渋谷駅構内で変わってしまったのだ。

 慕っている父親を裏切った理由は、明らかな愛情から来ていた。少ない人としての善意を、同じように亜冴は尊重して大事に扱ってきた。何もかもを壊し、覆させた慈を許した上で亜冴は止めようとした。人間性の何ものでもない。

 あの時、揺るがない人間性を持つ亜冴を見てしまった瞬間、世界が翻ったほどの衝撃を伏黒は感じていた。単純な天秤などで伏黒が選ばれた訳ではない。最初から、亜冴は高専を去った時から、実の父親を刺し違えても止める気だったのだ。そして、抜け殻になることもなく、最善を尽くした。仲間が続く為の道を切り開き、止まらないで走り切った。あそこまで見せられて、否定などできようもない。

 

──アイツの強かな人間性が、好きだ。

 

「捨て犬みたいな顔すんじゃないわよ」

「俺たち、応援してんだからさ」

「……ウルセェ」

 

 そんなこんなで日も暮れた帰り際、ぬいぐるみを抱いて名残惜しそうにする亜冴を連れ、四人は運よく帰りの電車に座ることができた。伏黒、亜冴、釘崎、虎杖の並びで、四人は電車に揺られる。肩に当たる熱をつい意識してしまいながら、伏黒は亜冴の様子を見て口を開いていった。しかしながら、楽しかった、疲れた、と言葉を交わす中、亜冴だけが無言を貫く。どうかしたのかと伏黒が様子を伺うも、亜冴は値札が付いたぬいぐるみを膝に乗せたまま、俯いて動かない。具合が悪いのかと声をかけようとしたところ、やっと亜冴が口を開いた。僅かに顔を上げた亜冴は、いつになく自信なさげにしている。昔の癖である自身の顔を背けながら、亜冴は開けっ放しの口から声を絞り出した。

 

「その……、みなさん卒業しても、仲良くしてくれます……?」

 

 答えが決まりきった質問をしてくる亜冴に、三人は顔を見合わせると、目鯨を立てたり笑ったり溜め息を吐いたりして、三者三様の反応をしていく。返答がないことに、いつになく怯える亜冴に対し、三人は一斉に口を開いたのだった。

 

 

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