オスカー・ドロホフと宿命の杖   作:ピューリタン

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第十章 飛行訓練

 

 

 毎日話しかけてくる女の子をうざったく感じるなんて、オスカーは思ってもみなかった。なぜならずっと家族以外で話す人が欲しかったからだ。でもそれはクラーナ・ムーディと出会うまでの話だ。スリザリンに入った方がどれだけ良かっただろうか? 

 

 オスカーとムーディは同じ寮だ。だからどの授業でも顔を合わせることになる。毎日、毎日、会うたびに闇の魔法使い、死喰い人、アズカバン、ヌルメンガード、オスカーはうんざりだった。よくもこんなに思いつくものだ。

 どうもムーディは最初の一週間の授業の後、オスカーに完全にターゲットを絞ったのかずっと続けてくるのだ。もう一月以上だ。

 

 それにオスカーをほとんど無視してくるグリフィンドール生も嫌いだった。特にオスカーが魔法史でシラと喋っていると時々視線を飛ばしてくるウィーズリーだ。前なんてムーディと一緒にハグリッドの所に動物を見に行かないかとシラを誘っていた。

 そして今はちょうどグリフィンドールの談話室の『お知らせ』の前で集まって興奮気味に話しているグループの中心にいる。『お知らせ』はこうだ。

 

『飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとレイブンクローの合同授業です』

 

 どうもそれを読んでウィーズリー達は騒いでいるらしい。

 

「やっとだよ。一年生は箒を持てないなんていったい誰が決めた校則なんだと思ったよ」

 

 オスカーはレイブンクローと一緒の授業だというのに面白くなかった。オスカーはどうにもあの箒の足が付かないという感覚が苦手なのだ。

 ウィーズリーが朝食の時に喋っているのを漏れ聞くと相当ウィーズリーは箒で飛ぶのが上手いらしい。他の代々魔法族の家の人間はみんなそんな感じの自慢話をする。田舎を飛んでいただとか、マグルの飛行船にぶつかりかけただとかそんな話だ。

 

 加えて、クィディッチの話もみんなするのだ。オスカーはクィディッチの試合なんて見たことは無かったからあんまり興味が湧かなかった。外になんて出してもらった事が無かったし、箒で飛んでもいいと言われたのはここ一、二年の話なのだ。だから箒なんて何が楽しいのか分からなかったし、人が集まって試合を見るというのもシラと一緒にテレビを見て初めて知った娯楽だった。でも同じクィディッチの話で盛り上がって楽しそうにしている同級生を見るとオスカーは羨ましかった。

 

 そして、オスカーは他の授業でムーディ以外に負けたことが無かったので、今度という今度はウィーズリーやムーディ相手に悔しい思いをするかもしれないと思ったのだが、どうもムーディの様子がおかしかった。

 飛行訓練の週になるとやたらとピリピリしだして、当日の朝一の授業前には本を読みながらうわの空でオスカー相手におはようなんて言ってくる始末なのだ。本はいつも読んでいる闇の魔術に対する防衛術や変身術の本では無く、『クィディッチ今昔』だったり、『トロールでも飛べる流れ星の乗り方』なんて本ばかりでどう見ても飛行訓練に緊張しているようだ。

 

 その日の午後三時半、他の授業と違ってオスカーは最後の方に着けるようにゆっくり校庭に行った。正面階段から降りていくともうレイブンクロー生とグリフィンドール生はほとんど揃っているようだ。あんまり天気は良く無く、雨が降りそうな少し湿った空気だった。

 二、三十本の箒が地面に整然と並べられている。学校の箒なのであんまりピカピカでは無い、オスカーはそれが不思議だった。ドロホフ邸のモノはなんでもピカピカだったし、ホグワーツにも屋敷しもべがいるらしいのにどうしてピカピカでは無いのだろうか?

 向こうからマダム・フーチがやって来る。短い白髪で鷹の様な黄色い眼だ。オスカーは黄色い目を見たのは初めてだった。

 

「何をボヤボヤしてるんですか。みんな箒のそばに立って。さあ、早く」

 

 オスカーはちょっとムカついた。なぜならまだ授業開始の時間では無い。そもそもこの先生は今から何をやるか何も説明していないではないか。

 ちょっとむかむかしながらオスカーも箒のそばに立った。箒はさっきも思った通り、自分の家やダイアゴン横丁にあるものと違ってボロボロだ。変な方向に小枝が飛び出している。

 

「右手を箒の上に突き出して。そして、『上がれ!!』と言う」

 

 フーチの声に続いてみんなが『上がれ』と叫んだ。

 

 オスカーの箒は普通に飛び上がりオスカーの手に収まった。他のみんなを見る感じ飛び上がった箒は少なかった。オスカーはここまではいいんだと分かっていた。箒を操るのが不得意なのでは無くて、自分は足がついていないのが嫌なのだ。人間は歩く生き物なのだ。地面に足をついていないなんて気持ち悪いでは無いか。

 

 案の定、ウィーズリーは手に箒を持っていて早く飛びたいのかうずうずしているように見える。シラももう箒を持っている。もちろん魔法の範囲の外側に行くほど高くは飛ばなかったが、ドロホフ邸で遊んでいた時に彼女はオスカーよりよっぽど飛ぶのが上手かったのだ。そしてムーディの箒は地面をコロリと転がっただけだ。多分だが箒は杖と一緒で持ち主の不安が分かるのだ。オスカーは地面に足をついていないのが気持ち悪いが飛ぶこと自体は怖くなかった。

 

 次にマダム・フーチは、箒の端から滑り落ちないように箒にまたがる方法をやって見せ、箒を置いたとおりに並んでいる生徒たち一人一人の握り方、跨り方を直した。オスカーはちょっと先生を見直した。少なくともやっていることはまともだ。

 

「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴って下さい。箒は手と足でしっかり挟み、ぐらつかないようにするんです。二メートルくらい浮上して、二メートルです。私の頭より少し高いくらいです。二メートル浮いたら、それから少し前屈みになってすぐに降りて来て下さい。いいですか。笛を吹いたらですよ。一、二の……」

 

 二まで先生が言いかけた所で、ムーディは緊張していたのか、飛べなくて注目を集めたくないのか、先生が笛を吹く前に思いっきり地面を蹴っていた。

 

「こら!! まだ吹いていませんよ!! 戻ってきなさい!!」

 

 オスカーがテレビで見た映画のみさいるみたいにムーディはホグワーツの校舎に向かって飛んで行った。全くコントロールできていない。そのまま城の窓に突っ込んでいき、ガッシャン!! という音をたててぶつかって手すりに辛うじて引っかかった。

 

「まあ!! ムーディ!? どうしたと言う……」

 

 どうもマクゴナガル先生の部屋だったらしいがムーディは数十メートル下の地上まで聞こえる先生の大声に反応することも無く、手すりに引っかかった箒からずりずり滑り始めた。フーチ先生は突っ立ったままだしマクゴナガル先生は部屋の中から見ているだけで状況を読み込めていないようだ。オスカーは校舎の方へ走った。

 ムーディが落ちてくる。オスカーは小さなグリフィンドールのローブ目掛けて呪文を唱えた。

 

「モリアーレ 緩め!!」

 

 地面ぎりぎりで柔らかなクッションに包まれたみたいにムーディが落ちるスピードが遅くなってゆっくり芝生の上に転がった。ムーディはどうもマクゴナガル先生の部屋に激突した時に気を失ったのか動かないし、額にはこぶが出来ているように見える。

 青い顔をしたフーチ先生がやっとやって来て、他の生徒たちもこっちにやってくる。

 

「落ちる前に頭をぶつけましたね」

 

 マダム・フーチはムーディを注意深く杖と手で調べており最後に呪文をかけた。

 

「リベナイト 蘇生せよ」

 

 彼女の胸に向けてそう唱えるとムーディはぼんやりした顔で目を覚ました。フーチ先生はムーディを立たせるとさっきまでと違って優しく言った。

 

「さあさあ、クラーナ、大丈夫。立って」

 

 そこまで言うと今度はさっきと同じ厳しい顔で生徒たちの方に向き直った。

 

「私がこの子を医務室に連れていきますから、その間、誰も動いてはいけません。箒もそのままにして置いておくように。少しでも触ったら、あなた達は来年のクィディッチチームの選抜を受ける前に、学校からいなくなって貰いますよ。さあ、行きましょう。クラーナ」

 

 ムーディは恥ずかしいのか、それともさっきの体験がまだ怖いのか、赤いのか、青いのか分からない顔をしていた。ほとんど先生に抱きかかえられるように校舎に消えていく。

 二人が見えないところまで行くとちょっとした笑い声みたいなのが聞こえた。それもレイブンクローだけでは無く、グリフィンドールからもだ。

 

「オスカー、君が呪文をかけていなかったら危なかったよね。あとできっとフーチ先生が加点してくれるんじゃないかな」

 

 オスカーはシラが話しかけて来たのも聞こえないくらい怒っていた。あのフーチとかいう先生も、レイブンクロー生もグリフィンドール生も気に入らない。ムーディは頭から落ちていたのだ。下手をすれば死んでいた。レイブンクロー生とグリフィンドール生の声が聞こえてくる。

 

「ムーディがあんな顔してるの初めて見たね。ビビっちゃって」

「いっつも私は出来ますみたいな顔してるわよね」

「あれも出しゃばろうとしたんだろ。グリフィンドールらしい」

 

 レイブンクロー生はムーディに言えないくらい授業では出しゃばりがちだ。グリフィンドール生は正義とか騎士道とか言ってるくせにこれだ。だいたいさっきのフーチは何なのか? 先生とは、大人とはあんな風に突っ立っているものなのか?

 

「オスカー? 聞いてるの……」

「お前らなんでムーディを笑うんだよ!!」

 

 オスカーが大声でそう言うと隣のシラがびくっとしたのが分かった。レイブンクロー生とグリフィンドール生のほとんどもそうだ。何のことか分からないとばかりにこっちを見ている。

 

「お前ら、全員どの授業でもムーディの奴より出来ないじゃないか。なのになんで出来なかっただけで笑うんだ? ムーディが他の授業でお前らの事笑ってたのか?」

「オスカー、ちょ、ちょっと」

「笑ってたのかって聞いてるんだ。今、笑ってたやつが他の授業で僕より出来なかったら笑ってやるよ。僕は一日中笑い転げることになるから、一週間で聖マンゴ行きだろうな。そもそも笑うよりやることあるだろ。ムーディの奴があんなになったのはフーチとかいう先生が悪い」

「オスカー、マクゴナガル先生が……」

 

 同級生なんて大したことが無いとオスカーは思った。どいつもこいつも自分より勉強も魔法も出来ないでは無いか。そのくせ肝心の本人の見えないところや、自分が有利になったと思ったらこうなのだ。なにがグリフィンドールなのか。少し自分が大声を出したら言い返してこないではないか。何よりフーチが何もしなかった事より、ムーディが間抜けに見える事の方が大事というのがオスカーには許せなかった。

 

「あのフーチとかいうやつがちゃんと教えられてたらあんなにならないし、落ちてる時も見ているだけじゃないか。大人で先生のくせに。その上偉そうだ。お前らムカつかないのかよ。ムーディが落ちて泣きそうなのがそんなに面白いのか?」

「ドロホフ、ご高説大変結構です。こちらにおいでなさい。他の生徒はフーチ先生の言われた通りにするように。見ていない間に箒で飛べば二度とホグワーツの門をくぐらせません」

 

 ポン、とオスカーの肩にしわしわの手が置かれた。振り返るとオスカーの顔のすぐ上に厳格なマクゴナガル先生の顔があった。隣のシラはあちゃあとばかりの顔をしていたが、オスカーはまだ怒りが収まらなかった。マクゴナガルが何だというのだ。

 まだ茫然としているクラスメイト達をしり目にマクゴナガル先生は大股で校舎へと動き出した。オスカーはどうせ減点されるのだろうと思った。そしてやっぱりあの先生と他人の失敗をみんなで笑うやつらが嫌いだった。

 

「まだ怒っているのですか?」

「僕がいつ何に怒っていても先生に関係ありません」

 

 正面階段を上がって、大理石の階段の踊り場でマクゴナガル先生とそう話したがマクゴナガル先生は気にもしていないようだった。オスカーはこれが賢くない行動だと分かっていた。さっきもそうだ。キングズリーならもっと笑いながら違う言い方で伝えたいことを伝えられるだろう。先生に怒られることも減点されることも無く。

 そのあとはマクゴナガル先生は何も喋らず、いくつか階段と廊下を通って医務室までオスカーを連れて来た。オスカーが医務室にくるのは初めてだった。消毒液の匂いがする。

 

「たんこぶが出来ただけです。フーチ先生、しっかり生徒は見て頂かないと困りますよ。貴方を校長先生が雇っている意味がありません」

「申し訳ない」

 

 二人が医務室に入るとなんと校医のマダム・ポンフリーがフーチ先生に叱っている。オスカーはちょっと溜飲が下がった。大人が大人を怒るところをほとんど見たことが無かったからだ。裁判以外では。

 

「ロランダ。ミスター・ドロホフを連れてきました。貴方とミス・ムーディはミスター・ドロホフに礼を言う必要があるはずです」

「おっと。そうでした。ミスター・ドロホフ。助かりました。あなたがクッション呪文を唱えなければミス・ムーディは頭から落ちていたかもしれなかった。グリフィンドールに三十点加点しましょう」

「ではドロホフ、私からは五点減点します。あなたが怒っていたとしても、ホグワーツの教員の悪口を言ってよい理由にはなりません」

 

 オスカーはこれをするためにマクゴナガル先生が連れて来たのだと分かった。なんだか大人にはめられたみたいで納得いかなかった。いったいなんなのだ。なんだか分かっていますとばかりのマダム・フーチ、マダム・ポンフリー、マクゴナガル先生がキングズリーや母親と同じく、子供のやることなど全部お見通しだと思っている気がしたのだ。

 

「貴方が私にクッション呪文をかけたんですか?」

「そこの先生が青い顔して何もしないからだ」

「ドロホフ、そこの先生ではありません。フーチ先生、もしくはマダム・フーチですよ」

 

 なんだか嫌な感じだとオスカーは思った。ムーディもここにいる三人の大人の女性も気が強い人ばかりで自分の味方がいない気がするのだ。ムーディは驚いた顔をしているがどうせまた死喰い人ガーとか闇の魔法使いガーとか言ってくるだろう。オスカーはムーディが嫌いだった。だいたいオスカーはムーディがあんなドジをしなければ自分が怒りを感じる必要は無かったし、みんなの前でさらにつまはじきに遭うような事を言わないでも良かったのだと思った。

 

「とりあえずありがと……」

「お前が箒でちゃんと飛べないのが悪いんだ。お前の大好きなお姉さんに箒は教えて貰わなかったのか?」

「はあ? なんですかそれ。お礼を言おうと……」

「一緒なのは杖だけじゃないか。箒はお姉さんと一緒じゃないから上手くできないんだな」

「ドロホフ、また喧嘩売ってるんですか? 先生の目の前だと出来ないと思っているんですか? いくらでも買ってやりますよ。死喰い人の子供は礼を受け取ることもできないんですね」

 

 ムーディが杖を持ってベッドから立ち上がろうとしたところでオスカーとムーディは何も言えなくなった。マクゴナガル先生がこっちを呆れた顔で見ている。恐らく無言で黙らせ呪文をかけられたのだ。マダム・ポンフリーはもう別の生徒の方へ行っていて、マダム・フーチは何か面白そうなものを見る顔で見ている。

 

「あなた達は…… ムーディ、ドロホフ、グリフィンドールはそれぞれ五点減点です。いいですか。ムーディ、お礼を言いなさい。ドロホフ、お礼を聞くまで何も言ってはいけません。私の寮の生徒同士でそんな不義理なことは許しませんよ」

 

 敵意しか感じない目でムーディがこっちを見ている。もう口と喉は動くようになっていた。オスカーはこういうのも嫌いだった。なんで大人は無理やりこんなことをさせるのだろうか? 気持ちのこもっていない礼などオスカーは要らなかった。

 

「ありがとうございました」

「それでいいのです。ではロランダ、二人と授業を続けて貰えますか? もし、この二人がまた問題を起こすようでしたら私に言っていただくか、次は罰則を与えてください」

 

 罰則、罰則がどうしたというのだ。オスカーはそんなもの全く怖くなかった。何が問題だというのか、そもそも罰則なんてやらして生徒に何を思い知らせたいのかオスカーは全く意味が分からなかった。意味の無いことなどやっても無駄なのだ。

 

「では二人とも訓練場に戻りますよ」

 

 マダム・フーチに従ってオスカーとムーディは訓練場に戻った。オスカーはその日ずっとイライラが収まらなかった。

 

 

 しばらくしてからオスカーは飛行訓練で怒鳴ってしまったことに後悔した。

 そもそもムーディをかばう意味は無いし、オスカーがマダム・フーチに怒っていたとしてそれを同級生に見せる意味は無かった。

 一か月以上たって、やっとコッパーはオスカーが猛獣でないと気づいたのか、オスカーがベッドルームで起きていてもすぐいなくなることが無くなったのに、それが復活したのだ。

 あいつは自分の事をバジリスクかヌンドゥか何かだと思っているに違いないとオスカーは思っていた。

 

 他の同級生も元に戻ってしまった。もともと猛獣か何かだと彼らはオスカーの事を思っていたみたいだったが余計そう見えるらしい。

 だから相も変わらず、授業でだけ喧嘩を売ってくるムーディと、魔法史の時に話せるシラ、そしてふくろうのローガンだけがオスカーの話し相手だ。ホグワーツで卒業するまでずっとこうなのだろうか?

 

 グリフィンドールのテーブルで他のみんなより早く朝食を食べているとローガンとこのはずく三匹がこっちにやって来た。ローガンは母親からの手紙を、相変わらずこのはずくは大量のお菓子だ。あの屋敷しもべたちはオスカーが一度、カスタードが入ったドーナツが美味しいと言ったら、カスタードが入ったお菓子ばかり送ってくるのだ。

 

 母親からの手紙にはキングズリーから聞いたという話が書いてあった。オスカーはキングズリーの名前だけは読めないようにする呪いがかかった羊皮紙とかを作りたい気分だった。

 しかも何故か手紙にはムーディの名前が出てきていた。どうもキングズリーが闇祓い局でムーディの姉と喋ってその中でオスカーの名前が出て来たらしい。ムーディの姉が誰かに感謝するなど驚天動地の出来事なのだがオスカーにお礼を言って欲しいと言っていたという。多分、マクゴナガル先生あたりがムーディの保護者相手に飛行訓練の話でも手紙で送ったのだろうとオスカーは思った。

 オスカーは母親からの手紙にキングズリーとか、ムーディとかいう名前が出てくるのにうんざりだった。

 

「おい。ドロホフ」

 

 声変わりしたあとの低い声が聞こえてオスカーはそっちを向いた。オスカーと同じ色のローブを来た大柄な男子ともうちょっと身長が低い男子が二人目の前にいた。

 三人は多分五年生だ。オスカーも何度か大柄な男子が王様のように談話室の暖炉そばのソファーに座っているのを見たことがある。

 三人はどこかニヤニヤしている。オスカーはこの顔を見たことがあった。誰かが自分より下だと思っている相手にする顔だ。

 

「お前いろいろ困ってそうじゃないか?」

 

 たしか名前はファッジだ。あのコーネリウスの親戚らしく、それをオスカーが漏れ聞くくらいには鼻にかけている男子だった。取り巻きの二人はニヤニヤしながら時々教員のテーブルを見ている。恐らく、マクゴナガル先生やスネイプ辺りが嗅ぎつけないかが心配なのだろう。

 

「困っているとはどういう意味ですか?」

「困ってないのか? お前、ホグワーツに通えてるだけで感謝しないといけない人間なんだから色々苦労してると思ったんだが?」

 

 年上なのに集団じゃないと動けない。先生の顔色は窺う。自分では無く身内の力をかさにする。オスカーが嫌いなもののオンパレードだった。キングズリーとムーディの名前がせっかくの母親の手紙から出てきてオスカーの機嫌は朝から下がりっぱなしなのだ。いつ前の飛行訓練みたいに爆発してもおかしくなかった。

 

「そもそもお前、なんでドロホフなんて名前を名乗ってるんだ?」

「どういう意味ですか?」

 

 何かファッジはオスカーが知らないことを知っていると言いたげだった。大人の相手をするのと一緒だ。オスカーは自分に言い聞かせた。大人は言いたい事を言わせると気持ちいいらしく、何でも喋るようになる。彼らは相手が知らないことを相手に教えることが楽しいのだ。なぜって相手より自分が有利に立っていると実感できるし、ある意味で相手の行動を縛れるからだ。オスカーは大人がそう感じているのだと思っていた。

 

「お前、もしかして知らないのか? おめでたいやつだな」

 

 取り巻きの二人も何か笑っている。やっぱり何か彼らはオスカーに関することを知ってここに来たのだろう。それに色んな意味でオスカーは一年生としては有名だったし、ムーディみたいに前の戦争で敵側だった奴らからすればオスカーなんて憂さ晴らしするには絶好の相手なのだ。

 

「お前の母親はドロホフの家と離縁したんだろ。冷たい人だな。当たり前か。夫はアズカバン送りだしな。それなのになんでドロホフって名乗ってるんだ? パパが恋しいのか? シャックルボルトって名乗ればいい。その方が通りもいい。古い家の名前は色んな所で通用する」

 

 オスカーは耳を疑った。そんな話はオスカーは聞いていなかった。オスカーも母親もホグワーツに来るまでペンスのいるドロホフ邸で過ごしている。そんなはずはない。

 

「俺の叔父さんは知ってるな? コーネリウス・ファッジ。事故惨事部の次官だ。次の魔法大臣か高級次官は間違いない。叔父さんは前のシャックルボルトの当主にはお世話になったらしい。だからお前の家の事も魔法省にいろいろ話を通してる。叔父さんに言わせれば偉大な偉大なシャックルボルトらしい」

 

 もちろんコーネリウスはオスカーも知っている。いい人だ。間違いなくオスカーや母親の味方だった。でもそれはこの前にいる上級生と何の関係も無い。オスカーは自分に関係する大人の事で悪く見られるのもよく見られるのもどちらも嫌いだった。

 

「それで叔父さんがお前は次のシャックルボルトの当主は間違いない。なんでって今の当主は結婚してないからな。だから仲良くしてやれって言うわけだ。お前は俺と同じグリフィンドールだ。それにお前、色々困ってそうじゃ無いか。談話室でも朝食でも毎日一人、友達はあのムーディさんの妹だけだろ? それともガールフレンドだったか?」

 

 ムーディは友達では無い。けれどオスカーはそんなことどうでも良かった。離縁? ペンスとはもう会えないのだろうか? もう家には帰れないのだろうか? 名前もシャックルボルトに変わってしまうのだろうか? あの目が痛いくらい白い家でまた暮らさないといけないのだろうか?

 

「だから今日から俺たちと一緒に動けばいい。お前に文句を言う奴はいなくなる。それに名前も変えればすぐ友達も出来る。そもそもプルウェットの一族がほとんど残って無くて良かったな。そんな名前してたら殺されても文句言えないぞ」

 

 確かめないといけないだろう。オスカーはこんなところでこんな奴らと話している意味は無いと思った。手紙? それでは遅すぎる。姿くらましは学校では出来ない。そもそもオスカーはまだ使えない。だとしたら暖炉飛行? でもどこで暖炉飛行が出来るのだろうか?

 

「おい。ドロホフ。聞いてるのか? とりあえず……」

「うるさいな。向こうに行け」

「お、どうした? 怒ったのか? シャックルボルトのお坊ちゃん」

 

 オスカーはこいつが何をしたいのか理解した。つまり、彼は人がいる場所で彼の方が上だと認めさせたいのだ。そしてさっきまで頭が真っ白だったが、オスカーはこいつがさっきから何を言っていたのかを思い出した。次にこいつが一番嫌がる目にあわせてやりたいと思った。

 

「意地を張るな。俺の後ろをついていれば大丈夫だ」

「うるさいって言ってるのが聞こえないのか? 体と一緒で頭までうすのろなのか?」

「まあ落ち着け。ショックだったんだな。シャックルボルト」

 

 親玉のファッジを怒らせるのは難しいようだ。どうすればいい? こいつが余裕だと思っているのは理由がある。上級生で杖でも素手でもオスカーに勝てると思っている。複数いるから余計にそう思っている。叔父が高官なので何かあっても大丈夫だと思っている。このあたりだろう。

 まだ職員のテーブルには人がいない。オスカーが他の人が来る前に朝ごはんを食べるために早く来ているからだ。ファッジたちはそれを分かってこの時間に話しかけてきたのだ。オスカーは立ち上がっていたが今度は座り直した。

 

「どうしろって? 僕に?」

「お、話す気になったか? 一年坊主なんだから俺の言う事を聞いてれば大丈夫だ」

「あげるよ。このドーナツ」

「気が利くじゃ無いか。流石にお坊ちゃまだな? 屋敷しもべに作って貰ってるのか?」

 

 ファッジと二人はまたニヤニヤしながらテーブルについた。オスカーは三人の杖のありかを確認していた。みんなポケットだ。つまり、手を動かなく出来れば彼らは杖を使えない。そして流石に失神させるのはやりすぎだ。やらないといけないのは彼らに恥をかかせることだ。彼らはメンツが大事なのだ。

 

「それでどうだ? 相談に乗ってやろう。ムーディが好きなの……」

「オッ!?」

「ウェ!?」

「あぐっ!?」

 

 グリフィンドールのテーブルに誰もいなかったのでオスカーはテーブルを呪文で動かした。テーブルは向こう側に座っている彼ら三人の方へすっ飛んで行き、彼らの胸を思いっきり打って止まった。三人がテーブルに手をついて動けなくなったところで粘着呪文で彼らの手をテーブルに縛り付けた。ダメ押しにお尻と足も椅子と床にくっつけてやった。

 これで彼らは一歩も動けない。ファッジは何が起こったのか分かっていないらしく、オスカーの方を困惑した顔でみていた。

 

「おい。二度と僕の事をシャックルボルトって呼ぶな」

「な、これ、離し……」

 

 オスカーはそのまま三人の口もくっつけてやった。でもまだ足らないとオスカーは思った。こいつはオスカーでは無くて父親以外の家族の事を言ったのだ。

 羊皮紙に『僕には魔法省の偉い叔父がいます。だから僕を見て下さい』と書いて、オスカーはファッジの顔に張り付けそのまま広間を出た。

 

 授業などどうでも良かった。まずは誰かに本当なのか聞かないといけない。でも誰に聞けばよいのだろうか? 母親? ペンス? キングズリー? ミリベス? オスカーは母親に直接聞いて、そうだと言われたらどうすればいいのか分からなかった。そもそもオスカーは母親にどうして欲しいのかも分からなかった。

 

 とりあえず空き教室でオスカーは考えようとしたが何も思いつかない。だいたいファッジのいう事は最もかもしれない。オスカーが何もしなくてもみんなが冷たいのは父親のせいなのだ。だから名字を母親のシャックルボルトに変えて父親の事を隠せば友達だって出来るかもしれない。

 ファッジはどう見たって嫌なやつだがオスカーを攻撃しに来たわけでは無い。いいとこ子分にしようとしたとかそのくらいしか考えていないだろう。

 

「ペンスに……」

「オスカーお坊ちゃま。お呼びですか?」

 

 バチッと音がして目の前にペンスがいた。オスカーは自分の目を疑った。ここはホグワーツだ。姿現しは出来ない。でも目の前にいるのはペンスだ。

 

「ペンス?」

「はい。オスカーお坊ちゃま。お久しぶりです。ペンスめをお呼びですか?」

「え。ああ…… 母さんは家にいるのか?」

「いえ。奥様はシャックルボルトのお屋敷か魔法省にいらっしゃるかと」

 

 家には母親はいない。オスカーはもしかしてオスカーがホグワーツに行ってから母親はずっと家にはいなかったのでは? と思ってしまった。母親からすれば自分の家だと思うのはシャックルボルト邸の方だろう。あっちの方がずっと住んでいた時間が長いのだから。

 

「じゃあペンスだけか」

「いえ。本日はキングズリー様がいらっしゃります」

「キングズリーが?」

 

 オスカーにはどうしてキングズリーがオスカーの家にいるのか分からなかった。だって彼の家こそシャックルボルト邸ではないか。でも、オスカーは母親に直接聞かずにキングズリーに聞くチャンスだと思った。今ならキングズリーだけに聞けるのではないかと思うのだ。そしてペンスが姿現しできるという事はオスカーだって連れていけそうだ。

 

「ペンス。僕を家に連れて行けるのか?」

「はい。オスカーお坊ちゃまのご命令が屋敷しもべであるペンスめの最高法規でございます」

「じゃあ連れて行ってくれ」

「かしこまりました」

 

 姿くらましの感覚、一瞬の闇と体があらゆる場所からがんじがらめにされる感覚があって、気づくとオスカーはドロホフ邸の暖炉の前に立っていた。

 

「オスカー? どうしたんだ?」

 

 広間のテーブルではキングズリーが大量の書類を並べて、仕分けしたり、サインしていたところのように見える。何をしているのだろうか?

 

「えっと……」

「授業は…… 私の時と一緒ならあと一時間くらいかな? エティはいない。色々と役所で手続きをしているはずだ。連絡したいなら私から守護霊を送ろう。そうすればすぐに戻ってくるだろう」

 

 またこの顔だ。なんでも分かっています。お前のやることなどお見通し。そういう顔をキングズリーはする。普通の大人ならホグワーツにいる子供がいきなり家に現れたらもっと困惑するのではないだろうか? 

 

「キングズリーは何しているんだ?」

「これかい? いやあ。休みを使えと局長に言われてしまって、家にいたら暇をしているとエティに捕まってしまったんだ。これはこの家の名義であるものの一覧だよ。見てみるかい?」

 

 オスカーがテーブルの上の書類を見てみると、難しい内容は良く分からなかったが、家や建物、農場、牧場、魚の養殖場なんかの権利証、何かの株券、何かの販売権、何かの特許、とにかく何かの権益を示す書類ばかりのようだ。そして名義は少し父親のモノがあるものの。ほとんどがオスカーは家系図でしか知らない父方の祖父のものばかりだ。

 

「でもこんなの見て何を……」

「今の間に全て君の名前にしておくそうだ。すでにドロホフという家に関わるもののうち、グリンゴッツの金庫とこの屋敷は君のものだが他のモノも君がホグワーツにいる間に全て君の名義に変えなさいとのことでね」

 

 何が何だか分からなかった。オスカーはさっきファッジが言っていた事と整合性が取れないと思っていた。母親が離縁するうんぬんとこれはどうかかわるのだろうか?

 

「何のために?」

「そうだね。魔法と所有権には微妙な関係がある。もし、誰かが君の所有するものにちょっかいをかけようとした時、こういったものがちゃんとできていないと、そこから魔法を破られる可能性があるんだ。エティは…… というより、シャックルボルトの人間はかなり完璧主義なところがある。なので今の間に穴を潰そうという訳だ。君も宿題は先に終わらせるタイプじゃないか? 彼女もそうだ」

 

 オスカーはキングズリーがぼかしているが言いたい事が分かった。もし仮に例のあの人が蘇り、戦争になって父親が出てきたらややこしいことになるだろう。この父親名義のものは魔法で保護されていても、例外としてたどり着けるかもしれないと言っているのだ。

 

「母さんがシャックルボルトの姓に戻ったっていうのはそれに関わってるのか?」

「おっと…… 耳が早いな。イライザの妹さんから聞いたのかい?」

「なんでもいいよ。それで?」

 

 ムーディはこれを知っていたのだろうか? なぜ? と言いたいところだが、ムーディの姉は闇祓いでキングズリーの同僚だから知っていてもおかしくないかもしれなかった。

 それよりオスカーはキングズリーが否定しなかったことが衝撃だった。彼は少なくとも嘘はつかない。ごまかしたりぼかしたりすることはあってもだ。

 

「色々と魔法の効果は面倒でね。特に相続に関する魔法はかなり複雑だ。なのでエティは確実な方法を選んだ。まず相続する人間を一人にすることにした。寡婦がおらず、君一人が相続するという状態で全ての権利の魔法を調べて相続させるつもりなんだ。ちょっと言い方が難しいか? とにかく確実に君の名前に全てのものを書き換えるためという事だ」

 

 やっぱり嘘はついていないとオスカーは思った。でも嘘はつかなくても伝えたくないことを言わないでおくという方法をとれるとオスカーは知っていた。

 

「それが終わったら母さんは名字を戻すのか?」

「うーん。オスカー、君は賢いな。エティに聞いて欲しいと言いたいところだが、私は彼女は戻すつもりがないと思っているよ」

 

 なんとなくオスカーが予想していた通りの回答で、オスカーの期待を裏切る回答だった。母親はそういう人間なのだ。

 

「なら僕の名字も変わる?」

「それもエティに聞いてもらいたいところなんだが…… オスカー、彼女は多分、いや、確実に君に決めろと言ってくるだろう。これも君は聞く前から分かっているんじゃないか?」

 

 これもキングズリーの言う通り、母親が言いそうなことは分かっていた。母親ならそう言うだろう。だから母親に聞きたくなかったのだ。オスカーはどうすればいいのかと思った。そして何をしたとしても大人はまたあの分かってましたよ。という顔をするのだろう。

 

「分かった。ありがとう。ホグワーツに戻るよ」

「ほんとにエティに会って行かなくていいのかい?」

「いいよ。母さんもキングズリーも忙しいみたいだし、そもそもホグワーツの生徒は長期休暇以外は家に戻っちゃいけないんだ。ペンス。僕をさっきの場所に戻してくれ」

 

 ペンスに空き教室に戻してもらってもオスカーは上の空だった。

 その日の授業をどうやって受けて過ごしたのかオスカーはあんまり覚えていなかった。何かムーディがファッジがどうとか言っていた気がした。

 オスカーはクリスマスの休暇になればまた自分の家に帰ることになると知っていたし、その時、母親と喋るだろうことは分かっていた。手紙で聞いてもいいが、母親の性格からしてちゃんと口で言えと言ってくるのは明白だった。

 

 キングズリーと話したことで頭が一杯でオスカーは忘れていたのだが、ファッジと取り巻きの二人、ピースグッドとアーカートの方は忘れていなかった。

 彼らはどうもその後、グリフィンドール生の誰にも助けて貰えず、大広間を屋敷しもべが片付ける時に発見され、先生に助けて貰ったらしい。オスカーはなぜか何のお咎めも受けなかったがそれがさらに三人の癪に障ったらしい。

 

「ドロホフ、気を付けた方がいいですよ。ファッジは貴方を捕まえて裸にして天文台の塔から吊ってやるって息巻いてました」

「余計なお世話だ」

 

 授業の初めに悪態では無く、ムーディがそういうくらいだからかなり三人は怒っているようだ。でもオスカーはそれより自分の名前だとかの方が重要だった。あんなやつらどうでもいいと思っていたのだ。だからオスカーは出来るだけ先生の見える場所を通り、これまでゴーストに聞いて覚えた道を使って出来るだけ一人の空間にいないようにした。そうすれば中々、三人は直接手だしが出来なかった。

 

「あれ? 無い……」

 

 オスカーが授業中に気づくと羽ペンがいくつか無くなっている。一つは昔ペンスから貰ったお気に入りのモノだ。アクシオを唱えても羽ペンは出てこない。やられたと思った。オスカーはどこかで落とすなんて簡単なミスは自分がしないと分かっていた。

 

「おいドロホフ……」

 

 談話室を通ると案の定、ファッジが話しかけて来たがオスカーは無視した。こんな手合いは相手にしてはいけないのだ。オスカーは自分の持ち物を全て魔法のトランクに入れて魔法で鍵をかけた。対策すればいい。オスカーはそう思っていた。

 

 元々、オスカーは自分の家の事を相談する相手なんていなかったし、シラにそんなこと言う訳にいかない。魔法史の日以外は未だに悪口ばかり言うムーディしか話しかけてこない。その上、ファッジたちの嫌がらせだ。嫌がらせはどんどんエスカレートしていた。

 

 まず、明らかにローガンが狙われた。シラに手紙を送った日、いつもならローガンかユーリアが次の日、返信を持ってくるのだがどちらのふくろうも現れず、オスカーが書いた手紙がオスカーとシラの名前だけ消されてグリフィンドールの談話室の掲示板に貼られていた。

 ローガンは次の日にかなりしょぼくれてオスカーの元にやって来た。いつもは撫でろとばかりに鳴くのにその日は静かだったのだ。こころなしか毛並みも元気が無い。どうもローガンは手紙を奪われた事でオスカーに頼まれた仕事を出来ず、しょげているように見えた。

 オスカーはローガンがちゃんと帰って来ただけでも良かったと思った。そして自分の考えが甘かったのだろうと思った。恐らく、グリフィンドール塔を出るところで三人に襲われたのだろう。手紙には邪魔除け呪文などかけていないし、アクシオでも使えば簡単に奪うことが出来る。ふくろうが魔法族から手紙を取り戻すなど不可能だ。

 

「ローガン、しばらく家に帰っててくれ。そのうち呼ぶから。大丈夫だ」

 

 そう言ってオスカーは窓からローガンを外に放った。ローガンがけがをする前に家に戻したかったのだ。ところがこれは良くなかった。ローガンがいないと夜話す相手がいないし、シラと手紙で話せない。オスカーは余計一人になった気分になった。

 

 でもオスカーは三人に謝るなんてあり得ないと思っていた。ファッジは母親をバカにしたのだ。その上で一年生にやられて恥をかいただけだ。

 先生にも相談できなかった。どうもファッジたちはマクゴナガル先生にオスカーにやられたと言った様だったが、無視されているみたいだし、オスカーが言ってもマクゴナガル先生は無視するのではないだろうか? それに大人に助けを求めるなんてオスカーは嫌だった。

 

 他にも色んな事をファッジたちはやってきた。オスカーの名前で落書きをする。一年生の女の子にオスカーの名前でラブレターを書く。マグル生まれの一年生相手に脅迫めいた手紙を同じ手口で送る。自分達で彫像や扉、階段なんかを壊して、フィルチにオスカーがやっていたと報告する。よくもこんなレパートリーがあるものなのだとオスカーは思った。

 もともとオスカー自身は評判が良くないし、友達もいないのだからそれを否定する人はいない。だからあっという間に噂は広がっていった。

 

 そしてオスカーはこの一か月半、ずっと一人だったのだから嫌がらせなんて大したこと無いと思っていたが、ムーディの悪口、シラとは魔法史の時間くらいしか話せない。ローガンがいない。なにより母親はシャックルボルトの姓にしてもう戻さないという。これが重なるとオスカーはだんだん自分が我慢できなくなってきていると分かった。

 

 それにこうなってくると今まで無視されてきたグリフィンドール生にもムカついて来たし、グリフィンドールの寮監なのにファッジたちを止められないマクゴナガル先生にもオスカーは怒りを覚えるようになってきた。

 

 グリフィンドール生たちはいくら何でもオスカーが別に父親みたいに狂暴でマグル生まれを拷問して殺しまわらないと気づいていたはずだ。それにファッジたちが以前からオスカー以外にも気に入らない奴にこんな事をしていると知っていただろうし、何より今回も同じようなことをしていると知っているはずだ。なのにこれなのだ。

 マクゴナガル先生だって、頭が悪いわけじゃ無いのだから、三人がどういう人間か知っているはずだ。もう三週間もこの状態なのだ。もうすぐハロウィーンになってしまう。

 

 オスカーは助けを求めないと誰も助けてくれないのだろうかと思った。自分はムーディは嫌いだったが助けたではないか。少なくともオスカーは誰かが自分と同じ目に遭っていたら助けるだろう。

 それともオスカーには勇気とかそういうのが足りないのだろうか? 半分、彼らを不意打ちしたから当然の仕打ちだとみんなは思っているのだろうか? 

 

 最後はシラが話していたことが引き金だった。

 

「ねえオスカー大丈夫かい? なんか上級生と喧嘩しているって聞いたよ」

「大丈夫だよ」

「でも、君、全然手紙を返してくれないじゃないか。それに…… 昨日、ユーリアがケガして帰って来たんだ。今はハグリッドって森番の人が診てくれているんだけど」

「ケガした?」

「そうなんだ。ハグリッドが言うにはセストラルって動物くらいしか鳥を襲う動物はホグワーツにいないんだけど。よくしつけられているから多分、人間じゃないかって」

 

 オスカーはそこで自分がぷっつんと来たことが分かった。オスカーだけならいいのだ。確かにファッジは気に入らない奴だが、最初はオスカーに敵意があったわけでは無いし、オスカーが怒って彼に恥をかかせたのは事実だ。でも、シラのふくろうは違うでは無いか。

 そもそも彼らは明らかにラインを超えたことばかりしていた。オスカーが喋ったことの無い一年生の女の子やマグル生まれの子は変な手紙が来て嫌だろう。そういう関係の無い人間まで嫌な目に合わせる奴らなのだ。

 そしてローガンが危ない目に遭ったのだからユーリアだって危ない目に遭う事位自分なら予想できたはずだ。これは自分のせいなのだ。 

 

「オスカー? 聞いてる?」

「聞いてるよ」

「とにかく、オスカーはそんなことしないと思うけど。なんか変な噂をレイブンクローの同級生もするんだ。先生に相談した方がいいよ」

「分かったよ」

 

 オスカーはまず考えた。グリフィンドール生がそんなに勇気とか度胸とかそんなのを重視しているなら見せてやろうと思った。それにファッジたち三人がそんなにオスカーに杖を向けたいというなら向けさせてやろうと思ったのだ。

 そしてマクゴナガル先生がそんなに生徒の好きにさせるというなら、先生にもみせつけてやろうと思った。

 だからきっちり計画した。グリフィンドール生とマクゴナガル先生の前で、正々堂々きっちり三人の面子という面子を粉々にしてやるのだ。

 

 オスカーは知っていた。大人はそういう事をするのだ。自分が偉いという理由があれば誰かに杖を向けてもいい。誰かの記憶を奪ってもいいし、屋敷しもべなんて踏みつけていい。思い出のある物だって勝手に持って帰っていいのだ。

 終わった後、正々堂々した理由があれば裁判で裁かれるのは悪い方だ。杖を向けた方では無い。オスカーはちゃんと知っていた。ちゃんと勉強していた。他の子供よりずっと大人のやり方くらい知っているし、グリフィンドールのやり方だって知っている。なら望んだようにやってやろうと思った。

 

「ドロホフ、最近静かですね。しょぼい嫌がらせにブチ切れてあいつらをヌルメンガードにぶち込む計画でも立ててるんですか?」

「そうだ」

「へーえ…… はあ? ちょ、ちょっと本気ですか?」

「冗談だ」

 

 ムーディの相手なんてしてる暇は無かった。今日もヌルメンガードとか言っている。オスカーはこいつが嫌いだったが口で言ってくる以外に害は無かった。彼女はオスカーとオスカーの父親は馬鹿にするが、それ以外は馬鹿にしなかったし他の人に危害を加えることも無かった。でもそれは別に褒めることでは無かった。

 

「で、でももうハロウィーンですし、ドロホフもいい加減他の寮生と……」

「もう先生が来てるぞ」

 

 オスカーはちゃんと計画した。今日はハロウィーンだ。今日じゃ無いといけない。ハロウィーンの日はみんな夕飯の時に大広間でごちそうを食べるのだ。食べた後、たいていの寮生は談話室でもお祭り騒ぎをする。そこに先生が寝るように言いに来るのだ。これがおあつらえ向きだとオスカーは思った。何より他の寮生と先生には迷惑がかからないのだ。

 

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